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1 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:48:26 ID:LLlVcX6E0
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(;^ω^)フゥフゥ
僕が家族構成調査のためにその家を訪れたのは9月の残暑厳しい頃だった。
長く、急な坂を息継ぎながら登っていくと、目的の家の屋根がようやく見えてくる。
家のドアの前に立ち額に流れる汗を手の甲で拭って
インターホンを探すも見つからないので、木製のドアを拳で叩いて家主を呼ぶ。
( ^ω^)「失礼します、荒巻さんいらっしゃいますかお?」コンコン
(;^ω^)「いてっ」
叩いた拳に鋭い痛みを感じ、見ると手の甲にトゲが刺さっていた。
ドアがボロボロすぎてささくれだっているのだ。
トゲを抜きながら、なぜこのような辺鄙な所を尋ねる羽目になったのかを、
忌々しく思い返す。
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2 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:49:42 ID:LLlVcX6E0
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この家に住んでいるとされる荒巻氏は現在齢72の老人で、
かつて新薬開発で財を成し、そして今は隠居し悠々自適な生活を送っているという
マンガのようなサクセスストーリーを持つ人物だ。
彼は家庭を持たない、ということに役所の方ではなっていたのだが、
近隣住民のタレ込みにより、彼の家から若い男性や子供の声が四六時中聞こえたり、
数人の人物が彼の家へ出入りをしているところを目撃されているので
その事実を本人に確かめなければならない。
孤独死や児童虐待が社会問題となっている昨今、
定期的に住民や家族構成の確認を行うことが義務づけられるようになったため、
我々がこんな足労を負う羽目になったというわけだ。
( ^ω^)「荒巻さん、いらっしゃいますか?」コンコン
今度は拳をハンカチで包んだ状態で、もう一度ドアを叩く。
するとドアが軋んだ音をたてて開き、白髪の老人が顔を見せた。
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3 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:51:52 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「なんでしょうか」ガチャリ
彼が荒巻老人だ。
柔和そうないかにもな好々爺といった顔で、
あまりこちらを警戒してないようなので僕の方も単刀直入に切り出すことにした。
( ^ω^)「私、VIP市調査課の内藤と申します。
貴方は現在、このお宅にお一人で住まわれているのでしょうか?
近隣の方からこのお宅に荒巻さん以外の方も住まわれているというのを
聞いたものですから」
/ ,' 3 「んん……」
どう説明したものか、という迷いの表情で彼は口を噤んだ。
なにか、特別な事情というか、ややこしいものが潜んでいるらしい。
/ ,' 3 「どう申し上げたものか……ま、とりあえずお上がりくださいな」
( ^ω^)「すみません、失礼いたします」
荒巻氏に案内されて僕は敷居をまたいだ。
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4 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:53:12 ID:LLlVcX6E0
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なるほど家の中は、外観のボロっぷりとは裏腹になかなか小綺麗だった。
奥にテレビが設置してあり、その手前に長テーブルが置いてあるが、
そこに並べられた座布団の数は4個である。
荒巻氏と、その他の住人の3人分という訳だろうか。
/ ,' 3 「どうぞ脚を楽にして……」
( ^ω^)「お気遣いありがとうございます、では失礼して……」
長テーブルに向かい合わせで座り、僕は家の中を見回した。
一人暮らしの部屋かそうでないかは、長年の経験である程度分かってくるものだ。
僕の勘では、間違いなく荒巻氏のほかにも住んでいる人が居るはずだ。
/ ,' 3 「私一人で暮らしてはいないというのは、もうお気づきようですね」
( ^ω^)「え、えぇまぁ」
荒巻氏の方からカミングアウトしたので僕は面食らって変な声を出してしまった。
しかし、自分から打ち明けるのに何故こうまでも苦い表情を
彼は浮かべるのだろうか。
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5 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:54:28 ID:LLlVcX6E0
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( ^ω^)「あの、別に同居されてる方の関係さえ教えていただけば充分ですので、
別に同居が悪いという訳ではないので」
/ ,' 3 「実を言うとその関係が問題でしてね……
まぁ、ここに今から呼びましょうかね」
( ^ω^)「え?」
荒巻氏は立ち上がり、廊下に通じているらしい居間のドアを開けると、
外に向かって叫んだ。
/ ,' 3 「みんな、ちょっと来なさい!」
ドアの向こうから足音が響いたかと思うと、
まもなく複数人の男がぞろぞろ居間へと入ってきた。
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6 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:55:10 ID:LLlVcX6E0
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(´・ω・`)(`・ω・´)( ФωФ)
小学生ぐらいの男の子、高校生ぐらいの男の子、20代半ばの青年の3人だ。
全員、どこか荒巻氏と同じ面影がある。
( ^ω^)「この方たちは一体……?」
問いに対して荒巻氏が答えた言葉に僕は耳を疑った。
/ ,' 3 「実は……、彼らは全員、"わたし"なのです」
( ^ω^)「は?」
わたし?聞き間違いでなければ彼らは全員荒巻氏だということか?
(;^ω^)「ど、どういうことですか」
/ ,' 3 「彼らはそれぞれ過去の私ということです」
(;^ω^)「ごめんなさい、説明をお願いします」
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7 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:56:04 ID:LLlVcX6E0
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荒巻氏はゆっくりと語り始める。
/ ,' 3 「老年となり隠居生活を送っていた私は、
趣味が高じたつまらぬ発明遊びで日々暇をつぶしておりました」
/ ,' 3 「そんなある日、偶然にもなんとタイムマシンを発明してしまったのです」
(;^ω^)「タイムマシン!?」
突拍子もないことに驚嘆の声をあげる僕だったが、彼は続けた。
/ ,' 3 「そう、過去や未来に移動できる装置、タイムマシンです」
(;^ω^)「はー……」
/ ,' 3 「我ながらとんでもない物を発明しましたが、
私はこのタイムマシンの活用方法をひとつ思いついたのです」
( ^ω^)「活用方法?」
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8 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 21:58:07 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「内藤さんでしたよね、貴方には辛い過去はありますか?」
( ^ω^)「ええ、まぁあるっちゃありますが……」
中学の時、漫画に影響されて痛い行動ばかり取っていた、
第一志望の大学に落ちた、そういった苦い過去が僕の脳裏に浮かぶ。
/ ,' 3 「誰だって思い出したくもないような、そんな過去を持っているものです」
/ ,' 3 「そういった過去のトラウマなどは時間が解決してくれると言いますでしょう?
実際、生きてさえいればそのようなことも忘れてしまいます、
現在の私は、自慢じゃないですが何一つ不自由しておりませんから
過去を恨むようなこともありません」
/ ,' 3 「しかし、そうやって過去を切り離してしまうと、過去の自分が哀れじゃないですか」
( ^ω^)「哀れとは?」
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9 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:00:49 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「時間の流れは一定に、そして休むことなく動き続けています。
従ってトラウマもすぐに過ぎ去ってしまい、平気になります。
しかし過去の自分は今も確かに、過去の世界で苦しんでいるのです」
/ ,' 3 「現在を生きているこの私自身は恵まれていても、
その当時の自分は苦しみから抜け出せずにもがいているのです、
決して救われることもなく」
( ^ω^)「はぁ……」
/ ,' 3 「そう考えた私は、そんな過去の自分をこのタイムマシンで
救助するということを思いつきました」
( ^ω^)「救助?」
救助という言葉の僕は意味が分からず、荒巻氏の顔を見つめる。
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10 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:01:59 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「彼は」
そういって荒巻氏は、一番若い小学生の男の子を指さした。
男の子はかすかに頷いた。
(´・ω・`)コクリ
/ ,' 3 「小学4年生の頃のわたしですが、些細なことがきっかけで
クラスメイトから酷いいじめを受けていました、
心配をかけさせたくないと両親や教師にもそれを告げず、
一人で悩みを抱えていたのです」
/ ,' 3 「私はタイムマシンで当時に戻り、彼に事情を伝えて現代まで連れてきました」
荒巻氏が男の子の肩に手をかけ引き寄せる。
/ ,' 3 「今は幸せそうですよ、現代には昔じゃ考えられないような娯楽もありますし、
勉強だって通信教育で習わせてます、もういじめに苦しむこともありません」
/ ,' 3 「なぁ?」
(´・ω・`)「はい、つらかったけど今はたのしいです」
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11 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:02:49 ID:LLlVcX6E0
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( ^ω^)「……」
それでいいのだろうか、と疑問に思ったが,
そもそもタイムマシンの存在自体が眉唾物ではないか。
答えあぐねて僕が黙っていると、
次に荒巻氏は高校生ぐらいの男の子を指さした。
/ ,' 3 「彼も」
(`・ω・´)「はい」
/ ,' 3 「高校生のときの私ですが、やはりいじめを受けてましてね。
どうやら一旦染み着いたいじめられっこ気質というのは抜けきらないようです、
なので彼もここへ連れてきました」
(`・ω・´)「未来の自分には感謝しております、
ここなら謂われない迫害を受けることもありませんし」
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12 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:05:11 ID:LLlVcX6E0
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次に青年を指さす荒巻氏。
/ ,' 3 「そして彼は」
( ФωФ)「はい」
/ ,' 3 「26歳の頃の私ですが、ひどい失恋をしましてね」
( ФωФ)「あまり話しすぎないでくださいよ」
/ ,' 3 「まぁまぁ、君は私でもあるんだし……
彼はね、会社で出会ったとある女性に相当入れ込んでいまして、
確かに相思相愛だと思っていたのですが、結婚直前という段階で
他の男に取られてしまったのです」
/ ,' 3 「それが可哀想で可哀想で……
自暴自棄になるほど苦しんでいたので、救ってあげました」
( ФωФ)「いやあお恥ずかしい」ポリポリ
青年荒巻氏は顔を赤く染めて頭をかいた。
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13 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:06:59 ID:LLlVcX6E0
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(´・ω・`)(`・ω・´)( ФωФ)
ずらりと並んだよく似た顔を見渡して荒巻氏は笑みを浮かべた。
/ ,' 3「こうやって、不幸な私は次々と救われていったのです。
過去が救われたおかげで、今の私も晴れ晴れとした気持ちですよ」
余りに幸福そうな顔なので少しためらったが、僕は当然の疑問を口にした。
(;^ω^)「しかし、そんなことをしては歴史が変わってしまうのでは?」
しかし荒巻氏は胸を張って答える。
/ ,' 3 「心配いりません。過去を変えれば未来も変わる、なんてのは迷信ですよ。
たとえ過去を変えても、他のあり得たかもしれない分岐、
つまりは平行世界が変えた過去を補ってくれるので、未来に影響はないんです」
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14 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:08:57 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「平行世界というのは、たとえば食後につまようじを使ったあるいは使わなかった、
その程度でも分岐して生まれるのです。
そのような平行世界が数え切れないほど存在するのですから、
一つの世界が変わったところで問題はありません」
( ^ω^)「それじゃあ荒巻さんの、その過去の自分を救う行為自体に
意味がなくなるんじゃ」
/ ,' 3 「まぁそうでしょうね。言ってみれば自己満足ですが、
少なくとも救われた自分は存在しています」
/ ,' 3 「誰も救われないなんて結果よりはよっぽど、ましですよ」
/ ,' 3 「みんなに不自由ない暮らしをさせてあげられるくらいには私も余裕がありますし」
ここまで聞いたが、やはりそもそもタイムマシン自体が存在するのかが疑わしい。
暇な老人の戯れ言の可能性が高いのだ。
その、過去の自分と言っている連中も金にあかせて連れてきた人物か、
あるいは親戚かそんなところか。
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15 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:10:03 ID:LLlVcX6E0
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そう疑う僕の心を感じとってか、荒巻氏は言った。
/ ,' 3 「信じていないようですね、まぁ無理もないでしょう」
/ ,' 3 「一応、小さい頃にテーブルにぶつけたときの傷が全員の額に残ってはいますが
……これも信じる材料としては、ねぇ」
一斉に彼らが前髪をかきあげると、なるほど確かに額に横向きの傷が走っていた。
これも特殊メイクの可能性もあるので疑いは晴れない。
/ ,' 3 「そうだ!」
/ ,' 3 「もう一人救いたい私がいるので、今から行ってきましょう」
( ^ω^)「えっ?」
/ ,' 3「実際にあなたの目の前でタイムマシンで過去に行って、
もう一人私を連れてくるんですよ」
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16 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:12:24 ID:LLlVcX6E0
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荒巻氏は懐から名刺サイズのメカを取り出すと、
その表面に並べられた数字盤で8桁の数字を打ち込んだ。
/ ,' 3 「こいつがタイムマシンですよ。
西暦と月日を打ち込めばどの時代にも行けます、便利でしょ?
ユーザーユーティリティってやつですね。
私一人しか使わないんで意味ないですけど」ピッピッ
打ち終わると服に付いた埃をはたき、荒巻氏は立ち上がる。
/ ,' 3「それじゃ、行ってきます。留守を頼みますよ。1分もかからないでしょうがね」
( ^ω^)「えっ、ちょ」
――シュン!
荒巻氏がタイムマシンの上部にある赤いボタンを押すと、
彼の存在は一瞬で跡形なく消え去った。
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17 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:14:44 ID:LLlVcX6E0
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荒巻氏の居た所には何も痕跡が残っていない。
完全に消滅したようだった。
(;^ω^)「消えているお……手品、じゃなさそうだお」
(`・ω・´)「タイムスリップしたんですよ、
僕にとっては未来の、未来の僕にとっては過去の自分の元へ」
(;^ω^)「まさか本当に……」
僕の側に立つ少年荒巻氏の顔を改めて眺める。
確かに、荒巻氏そのものと同じ雰囲気を感じる。
――シュン!
/ ,' 3 (丶ФωФ)
それから30秒ほど経ったか経たないか、
荒巻氏と、荒巻氏によく似た中年の男性の2人の姿が突如現れた。
/ ,' 3「ただいま戻りました」
( ^ω^)「な……」
/ ,' 3「ね?1分もかからなかったでしょ」
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18 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:15:59 ID:LLlVcX6E0
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中年の男を座らせて荒巻氏は言った。
/ ,' 3「彼は43歳の私です。
その当時、私は会社の金を横領して、その罪悪感に苛まれてました」
(;^ω^)「ちょ、横領って」
いきなりの犯罪告白に面食らう僕だが荒巻氏は飄々としている。
/ ,' 3「心配いりません、その当時の彼は今は現代にいるので、とっくに時効です」
(;^ω^)「そういう問題なんでしょうか……」
確かに横領をした本人は時効成立後の未来にいるので時効は成立しているが、
本人の体感時間で言えばまだ時効は来ていないし……。
混乱でどうにかなりそうだった。
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19 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:17:53 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3「ともかく、これでタイムマシンは信じていただけたでしょうか」
( ^ω^)「う、うん……まぁ」
ありえない現象を目の当たりにし、パンク寸前の僕は煮えきらない返事をした。
/ ,' 3「もう辛い過去というのも無いですし、
これ以上私が増えることはないでしょう。
親戚を4人預かっていて、計5人家族という形で報告してください」
( ^ω^)「はぁ……」
/ ,' 3「くれぐれもタイムマシンのことは口外しないで欲しいです。
まあ誰も信じないでしょうが」
――そして、半ば追い出されるように僕は荒巻宅を出た。
その後もしばらく僕は、ふわふわと現実を生きているような気分がしなかった。
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20 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:19:06 ID:LLlVcX6E0
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それから数ヶ月後。
あの奇妙な連中がどうなっているか気になった僕は、
仕事とは関係なく荒巻邸を訪ねることにした。
相変わらず長い長い坂を上りきって見えてきた荒巻邸は、
外から見る分には異様なほど静かだった。
以前訪ねたときと同じように僕はささくれだったドアをノックする。
( ^ω^)「荒巻さーん、いらっしゃいますか」コンコン
返事がない。
どこかに出かけているのだろうかと思い、また訪ねてみようと踵を返したその瞬間。
「……ん……!……む……!」
家の中の方向からくぐもった悲鳴のような声が聞こえて、僕は振り返る。
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21 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:19:54 ID:LLlVcX6E0
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(;^ω^)「まさか……!?」
トゲが刺さるのも構わずドアに耳を押しつけると、
確かに数人の悲鳴が、家の中から聞こえている。
その中には小学生らしき子供の声もあり、嫌な予感が頭を埋め尽くす。
(;^ω^)「荒巻さん!?荒巻さん!?いらっしゃいますか!?」ドンドン
拳でドアを叩くが、相変わらず何の返事もない。
これは事件だと確信し、僕はドアノブをガチャガチャと何度も回すも
当然カギが掛かっているので開かない。
(#^ω^)「ええい!こうなれば!」
強行突破だ、僕は大学時代のアメフトで堅く鍛え上げられた体を
ドアに思いきりぶつけると微かに歪んだので、
更に続けて何度もタックルを繰り返すうちに、けたたましい音を立てドアがついに破れた。
(;^ω^)「よし!」
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22 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:20:45 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3「ちぇっ、来たか」
(;`・ω・´)「んー!んー!」
(;´・ω・`)「むむ!むー!」
(;ФωФ)「ふぐっ、ふぐぐぐ!」
(ヽФωФ)「もがっ!もがっ!」
部屋の中央、荒巻氏が包丁を片手に立っており、
その足下にはガムテープで口と身体を固く縛られた4人の男が転がっていた。
間違いない、彼らは過去の荒巻氏だ。
(;^ω^)「な、何をしているんですか荒巻さん!!」
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23 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:21:58 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「何って……始末ですよ」
冷ややかな声で荒巻氏は返した。
以前訪ねた時とは違う、殺意に満ちた刺々しい声だ。
(;^ω^)「し、始末……?」
/ ,' 3 「えぇ、邪魔な障害は始末するに限ります」
(;^ω^)「邪魔な障害って……その人たちはあんた自身でしょうが!」
/ ,' 3「事情が変わったんですよ」
荒巻氏は冷たく言い放つ。
/ ,' 3 「26歳の頃に失恋したって言ったでしょう、
その時の彼女と、この前偶然再会しましてね。
思ってもないぐらい二人意気投合して、付き合うことになったのです」
/ ,' 3 「そうなると私の暮らしもクリーンにしなきゃいけない、
彼女を迎えるためにね」
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24 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:23:12 ID:LLlVcX6E0
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荒巻氏はうめき声を上げる過去の自身を指さして吐き捨てる。
/ ,' 3「と、するとこいつらが邪魔でねぇ……ちょっと始末することにしたんですよ」
(;^ω^)「自分が何をしてるか分かってるんですか!?」
/ ,' 3 「自分が自分を殺すことの何がいけないんですか?
こいつらが居なくなったところで別の平行世界が代替するので、
歴史が変わることはない」
/ ,' 3 「過去の自分を集めて共同生活をしていた変人じじいが、
恋を知った只のじじいに戻るだけだ!何の問題もない!」
(;^ω^)「でも!」
/ ,' 3「さぁ、邪魔をしないでくれ!
これは自殺でも他殺でもない!
カサブタを剥がすようなこととなんら変わりないんだ!」
(;´;ω;`)「あぁーーー!」
(;^ω^)「あっ!」
包丁を持った手を大きく振りあげ、荒巻氏は足下の少年荒巻氏へと降り降ろす。
とっさのことに僕も反応できず、もうダメだと覚悟したその瞬間だった。
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25 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:26:41 ID:LLlVcX6E0
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――シュン!
誰かが部屋の中に現れたかと思うと、荒巻氏の腕を掴み、
間一髪、少年荒巻氏はあと数センチのところで助かった。
(;´;ω;`)「んー!」
/ ,' 3 「誰だ!?」
白昼の惨劇から救ってくれたその男の顔を見て、僕は仰天した。
/ ,' 3 「……」
荒巻氏と、全く同じ顔だったからだ。
その男は荒巻氏の腕を固く掴んだまま言った。
/ ,' 3 「私は……お前の半年後だ」
(;^ω^) / ,' 3 「「えぇっ!?」」
その半年後の荒巻氏と名乗る人物は、さらに続けた。
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26 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:28:14 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「お前がこれから付き合う、その彼女だが……
付き合って1ヶ月で別のじじいに惹かれて出ていくぞ」
/ ,' 3 「……えっ?」
ショックのあまりか、呆気にとられた顔で荒巻氏は硬直する。
/ ,' 3 「お前はそんな、尻軽ババアとの一時の虚しい恋のために、
自分を4人も犠牲にするのか!?」
/ ,' 3「そ、そんな」
/ ,' 3 「その後お前は後悔することになるぞ、
自分のわがままのために自分を殺してしまったのだからな」
/ ,' 3 「あ、ああぁ……」
カランという音がしたので見ると、荒巻氏は包丁を床に落としていた。
体が小刻みに震えている。
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27 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:30:31 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「……だが心配いらない、そんなお前を私は救いにきたのだ」
/ ,' 3 「いや、お前だけではない、お前が手に掛けようとしている、
その私たちもだ」
(;´・ω・`)(;`・ω・´)(;ФωФ)(ヽФωФ)「「「「!!」」」」
縛られている過去荒巻氏たちが驚きの表情を浮かべる。
/ ,' 3 「自分を殺してしまうというトラウマ、
そして自分に殺されてしまうというトラウマ、
そんなトラウマから解放してやる」
未来荒巻氏は過去荒巻氏たちを縛っていたガムテープを剥がし、
現在荒巻氏たちと一緒に抱き寄せた。
/ ,' 3 「さぁ、半年後の未来の世界で一緒に暮らそうじゃないか」
/ ,' 3 「人が増えた分、家もちょっと狭くなるが住心地は悪くないだろう」
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28 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:31:54 ID:LLlVcX6E0
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/ ,' 3 「内藤さん、ご迷惑をおかけしました。では、半年後に会いましょう」
( ^ω^)「え、あ、はい?」
/ ,' 3 「それじゃあ、また」
僕の方を見て軽く会釈すると、
未来荒巻氏は懐からあのタイムマシンを取り出して、
上部の赤いボタンを押した。
――シュン!
そして荒巻氏たちは、一瞬でその場から消え去った。
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29 名前:【最後の女神は白髪のわたし】[] 投稿日:2014/10/26(日) 22:33:22 ID:LLlVcX6E0
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後には空き家だけがぽつんと残され、物音ひとつしなくなった。
部屋の真ん中に落ちている包丁が窓を遮るカーテンの僅かな隙間から
差し込んだ光に照らされて光っている。
破れた玄関ドアから外に出ると、騒ぎを聞きつけた近隣住民が
大勢家の前に集まっていた。
彼らの視線を浴びながら、僕は呟いた。
( ^ω^)「アホらし……」
半年後どころか一生会ってなんかやるものか、と心に銘じ
僕はその場を後にしたのだった。
〜おわり〜