('A`)百物語、のようです

宇宙人あらわる!

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480 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:09:46 ID:4Pykjo5k0

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息をついた瞬間、世界に音が戻ったような気がした。
夢から覚めたときのように、頭が少しぼんやりとしている。
汗をかいたのか、濡れたシャツはさらにベタベタになっていた。


(;'A`)「……ふぅ」


いまいち自覚がないが、俺の話はちゃんと終わったみたいだ。
話さなきゃならないことはまだあるかもしれないが、今は思いつかない。

部屋の中は静かだ。
目を凝らして、反応を探る。
とりあえず、一番文句を言いそうなツン。アイツの反応さえよければ俺の話は完全に終了できる。

481 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:10:46 ID:4Pykjo5k0


ξiii   )ξ「ムリ。なんかもうムリ。きもちわるい……
       うじゃうじゃしたのって、ほんとダメ」


しばらく耳をこらしていると、やっと女の声が聞こえた。
たぶん、ツンの声。
妙に大人しい感じだが、怒ってるわけではなさそうなので、ほっと息をつく。


川   )「そうか? 私は面白いと思うんだが。
     こういう奇妙な生態の生物の話を聞くと心が踊らないか? 虫とか動物とか微生物とか」

ξii )ξ「あわわわわ、やめ、やめてぇ」

川* - )「ほれほれ、よいではないかよいではないか。
      個人的に寄生虫とか、すごぉく心が踊るぞ。あれも宿主を操るやつがいるとか」


いや、ちょっと待て。
なんか妙に楽しそうだ。クーの美しい声がツンをからかっている。

482 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:12:20 ID:4Pykjo5k0


ξii )ξ「やめてぇぇぇ」

川* - )「体の中で増えて、卵がうじゃうじゃびちびち、うごうご、ぞわぞわ」

ξii )ξ「ひぃぃぃ……」


2人のやりとりが、ものすごく気になる。
というか、この流れなら、ツンにこれまでの文句の仕返しができそうな気がする。
……だが、ここでツンを怒らせたら最後、困るのは俺だ。


('A`)(とりあえず、ツンは大丈夫っと)


とりあえず今は、キリン星人に対するクレームがなければそれでいい。
このまま話を聞いていると余計なことを言いそうなので、顔を別の方向に向ける。
ミルナと、あとはショボンとかそのあたりの反応はどうだろう。

483 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:13:04 ID:4Pykjo5k0


(    )「東某の佐久車緑地もかな?」

(    )「なんだお、それ?」


暗闇に目を向けると、全然関係のない話が始まっていた。
とうぼう? さくしゃりょくち?
……こいつらが何を言っているのか、全然わからない。
目を細めてみても、人影っぽいものが見えるだけで、その表情もよくわからなかった。


(    )「知らない? 佐久車緑地の首吊りの木って言ったら、そこそこ有名な怪談スポットだよ」

('A`)「なんだ。首吊りつながりだったのか。
    てっきり別の話がはじまったんだと」

(    )「ごめんごめん。首吊りで有名な場所って言ったら、思い浮かんでさ」


ショボンらしき声が、一人盛り上がっている。
その声を聞いた感じでは、こちらも俺の話に対する文句とかはなさそうだ。
できれば、キリン星人についての話が聞きたかったんだが、それは贅沢だろうか?

484 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:14:09 ID:4Pykjo5k0


(    )「トーボー?」

川   )「東某といえば、ショッピングモールで有名だったところか」

(    )「そうそう。ほら、僕たちが中学くらいのとき、結構テレビに出てた」

ξ   )ξ「今、どうなってるのかしら。あんまり聞かないわよね」


途中からツンたちの声も混じって、楽しそうに話が進む。
地元の話って盛り上がるよな……。俺も、普通に宇宙人じゃなくて怪談スポットの話をしておけばよかった。
そうだったら、あんな必死に考えなくても話がすんだろうに。


(    )「それは、あれじゃない?
      ……東某連続変死事件。相次ぐ謎の変死に陰謀だ殺人だなんて噂も。
      ちょうど首吊りの木のある辺りで起こったって、ネットではちょっとした騒ぎだったよ」

(    )「それ、キリン星人がやったのかお!?
      ほんとーにいたのかお、キリン星人!!」

ξ   )ξ「ううっ……もうその話やめて」

485 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:14:57 ID:4Pykjo5k0


自殺の名所に、変死事件。
事実って言うのは作り話よりも怖いもんだと思いながら、汗を拭う。
「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」――自然と口から出たあの言葉は、案外間違っていなかったのかもしれない。


川   )「あれは感染症だろう? 一時期は、なにかと騒ぎになったが」

( ゚д゚ )「数年前の話だな」

(    )「クーは夢がないねぇ。
      きっちゃん先輩とか、旭とかこういう話大好きだよ」

(    )「ニュースに白い服の人いっぱい出てたやつかお? あれ、こわかったおね〜」


ショボンたちの話は続いている。
キリン星人が本当にいたら、こんな感じで話題になったんだろうなと、ふと思った。

.

486 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:15:52 ID:4Pykjo5k0

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東某市の佐久車緑地、建逃平和公園、没根多倉庫――。
自殺の名所の名前をいくつか上げて、ショボンたちの話は止まった。


('A`)「……蝋燭、5本くらい消してもいいんじゃね?」

(    )「ほら、話したのはドクオだけだし」

川   )「その後、ショボンがひたすら語り倒していたがな」

(    )「消すロウソクは1本だからな!」


ショボンの話はひたすらに豊富だった。
このあたりにこんなに自殺スポットがあるなんて知識、正直欲しくなった。
ついでにいうなら、その全部がいわくつきなんて話も知りたくなかった。

というか、いわくがありすぎて、本当にキリン星人っているんじゃねえか?
……なんて、一瞬思いかけた。
だが、今作ったばかりの宇宙人が存在するはずなんてないので、即座に脳内で却下する。

487 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:16:55 ID:4Pykjo5k0


とはいえ全部が全部、適当だった俺の話も、「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」の一点だけは本当にあっていたらしい。
それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。
ただ自殺の名所にだけは今後絶対に行かないと、心に決めた。


(    )「僕、平和公園にもう行けないお……キリン星人が出るお」

ξ   )ξ「……うぅ。キリン星人はもうやめて……」

( ゚д゚ )「大丈夫か?」

ξ   )ξ「なんとか……」


まだ話している声は聞こえるが、このあたりで俺の番もようやく終了というとこだろう。
キリン星人の名前がまだ聞こえるのが、なんとなく嬉しい。苦労したかいがあるってもんだ。
……そう思いながら、俺は畳に手をつく。
ザラリとした感触を感じながら、腰を上げて立ち上がる。


('A`)「蝋燭消してくる。とりあえず、1本で」

(    )「あったりまえだろ!」

(    )「いってらっしゃいだお〜!」

488 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:17:47 ID:4Pykjo5k0


部屋を軽く見回す。
蝋燭は二間先。開けっ放しにしてある襖の向こうだ。


(;'A`)「よっ、と」


少しだけ明るい方向を目指し、おそるおそる足元を探る。
かろうじてぼんやりと見える形を避けつつ、なんとか転ばないように進む。
近くに何かがあるはずなのに、よく見えないというのは、怖いもんだと改めて思う。

1歩、2歩と進んで、腕を伸ばして襖を探る。
何度も通ったはずなのに歩きにくいのは、きっと最初よりも暗くなっているせいだろう。


川   )「やっぱり寄生虫か……」

( ゚д゚ )「土地の穢れ、呪いのあたりも近いと思うが」

(    )「僕はやっぱり、エイリアンを推したいなぁ」


クーたちの声を背に、襖を越えて次の部屋へと入る。

……あの話は、俺の話の続きだったんだろうか。
気にはなるが、これまで蝋燭を消しに行く途中で戻って来たやつはいない。
というか、やったら間違いなく弱虫認定される。いくらなんでもそれはゴメンだ。

後ろ髪を引かれる思いをぐっとこらえて、俺は足を進める。

489 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:19:18 ID:4Pykjo5k0
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隣の和室は、四方を襖で区切られただだっ広い部屋だった。
そこには、家具どころか荷物1つ置いていない。
ついさっき入ってきた側の襖と、蝋燭が並べてある部屋へと続く襖だけが開け放たれている。


('A`)「……」


俺達がいた場所よりも、少しだけ明るい部屋。
そこには、当たり前だが誰も――いや、


いいや、――


.

490 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:20:30 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


そこに、動く気配があった。
蝋燭のある奥の部屋からぬっと現れた影は、俺よりも遥かに小さい。
というか、小さすぎた。人というよりは、もっと小さい。


(=゚д゚)

(;'A`)「ぬこ?!」


なぁお゙ぉう、と鳴く声が響く。
猫だ。たしかに、猫がいる。
模様まではわからないが、結構大きな猫のような気がする。
ミルナの爺さんの、猫なんだろうか?

.

491 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:22:02 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


その猫は俺の方へと寄ってくると、口から何か落とした。
何かを咥えていたのだろう。
プレゼントかなにかのつもりか? そう思って、視線を足元へ落とし――


(;゚A゚)「な、なぁぁっ!?」


――声を上げていた。
全力で叫んだつもりだったけど、出たのは間抜けな声だった。
ろくに言葉が出てこない。体は動かなくて、ただ馬鹿みたいにそれを見つめるだけ。

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492 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:22:50 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「な、な、なん」


視線の先にあるのは、毛玉みたいな何かだった。
和室に転がっているにはあまりにも不自然なそれは、ピクリとも動かない。
黒くって、猫よりももっと小さくて――ヒモのようなもののついたそれは、なにかの生き物。


その、死体。らしき、もの。


.

493 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:24:21 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「しんで、る?」


たぶん、それはネズミなんだろう。
見慣れない毛玉のようにしか見えない、生き物だったもの。
猫よりも小さなその体が、頭の部分が不自然な角度で曲がっている。
曲がっている。いや、曲がっているというよりは――、首が、のびて、いるような。


(;゚A゚)「……あ」


同じだ。
あの宇宙人と同じだ。
ひとに取り付く宇宙人。俺が作った、キリン星人。


.

494 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:25:08 ID:4Pykjo5k0


キリン星人にとりつかれた、犠牲者の死体。
首の伸びたその死体に触れたものは、キリン星人に体をのっとられる。


だったら、あのネズミに触ったら俺も。キリン星人に乗っ取られる?


.

495 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:26:13 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……ちがう」


大丈夫。大丈夫のはず、だ。
これが本当にキリン星人の仕業だとしても、動物に取りついているだけなら何の害もないはずだ。
その死体を食うなんて、馬鹿なことをしない限りは。


(;'A`)彡「大丈夫。こいつはただのネズミ。なんともない」


頭をおもいっきり、振る。
混乱しかけた頭は、その動きで少しだけ冷静さを取り戻す。

496 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:27:44 ID:4Pykjo5k0



俺は馬鹿か。
キリン星人なんてものいるはずがない。そんなの、話をでっち上げた俺が一番わかってるだろう。
それが実現するなんて――、


.

497 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:28:54 ID:4Pykjo5k0





生暖かい感触。



.

498 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:29:36 ID:4Pykjo5k0




生暖かい何かの感触が、俺の思考を完全に止めた。






                      それが、もう一度――。




(;゚A゚)「ひっ」




はっきりとした感触。
暖かい何かが確かに動いて――、


.

499 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:30:38 ID:4Pykjo5k0





――なぁお゙ぉう。



.

500 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:32:01 ID:4Pykjo5k0


弾かれたように、足元を見る。
俺の足。
ちょうど何かが当たって、動いたそのあたり――。


(=゚д゚)

(; A )


そこにはあの猫がいた。
ああ、そうだ。この部屋には猫がいた。そんなことも頭から消えていた。


(=゚д゚)


生暖かい体が、足に擦り付けられている。
褒めろというのか。それとも「どうだ。驚いたか」とでも言うように、金の目がこちらを見上げている。

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501 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:33:17 ID:4Pykjo5k0


猫だ。なんてことはない、ただの猫。
宇宙人がとりついているわけでもない、ごく普通の。普通のはずの猫。


(;゚A゚)

(=゚д゚)


その体を振り払いたいのに、俺の体は指の一本も動かせない。
なぁお゙ぉう、とまた猫が鳴く。
俺は猫と、ネズミの姿を見下ろして――、



.

502 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:35:06 ID:4Pykjo5k0





( ゚д゚ )「ラギ。駄目だろう」



.

503 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:36:23 ID:4Pykjo5k0


静かな声がして、俺はようやく動きを取り戻した。


( ゚д゚ )「驚かせた」

(;'A`)「みる、な? なんで、」


和室の中に、見慣れた姿が立っている。
ほとんど表情の変わらない顔に、暗闇の中でも妙に目立つ白い肌。
――隣の部屋に居るはずのミルナが、いつの間にかそこに立っていた。


( ゚д゚ )「声が聞こえた」

(;'A`)「それで、か」


俺が毛玉に気を取られている間に、ミルナは隣の部屋から飛び出してきたのだろう。
考えてみれば、ここはミルナの爺さんの家だ。
ミルナが真っ先に動くのは、全然おかしなことじゃない。

504 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:38:08 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「すまなかったな。ラギはいつもこうなんだ」

('A`)「ラギって、」

( ゚д゚ )「こいつだ」


(=゚д゚)

( ゚д゚ )「獲物を取るたびに、ラギは見せに来るんだ」


白いミルナの手が猫を抱き上げ、そのついでのようにあのネズミのような毛玉を拾う。
そうするのが当然というような、仕草だった。
死体なのかもしれないのに、ためらう様子すらなかった。


――宿主の死体に接触したモノに、キリン星人は取り付く。

.

505 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:39:10 ID:4Pykjo5k0


さっきまで話していた宇宙人の姿が一瞬、浮かぶ。
それから、首の伸びたネズミと、猫を抱えたミルナが重なる。

あのネズミが、キリン星人に取り憑かれていたとしたら。
宇宙人は、あの猫にいるのだろうか。
それとも、素手で死体を触った……ミルナに?


違う。動物に取りついている宇宙人は無害だって、さっきも考えたはずだ。
たしか、その死体を食ったりしないかぎりは大丈夫。
ミルナは猫や蛇なんかじゃない。まっとうな人間なんだから、そのへんで死んでるネズミなんか食わない。

だから、大丈夫。
いや、……本当に?


('A`)(馬鹿馬鹿しい)

506 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:40:34 ID:4Pykjo5k0


あんなのは、俺が作った作り話だ。
キリン星人なんてものは、この世のどこにも存在しない。
そう頭では何度も否定しているのに、気づけば頭の片隅にはキリン星人のことが浮かんでいる。

もう忘れろ。
俺の順番は終わったんだから、今度こそ完全に忘れてしまえ。
俺には関係ない。

キリン星人も。東某の佐久車緑地も、建逃平和公園も、没根多倉庫も。
首吊りの木も、死が連続する土地も。
あの首が伸びたように見えたネズミだって、全部俺とは関係ない。


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507 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:41:53 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「片付けてから戻る。
     悪いが、死骸の件はしばらく内密にしてほしい」


その声で、我に返った。
ミルナを意識から消すくらいに、俺は考え込んでいたらしい。


( ゚д゚ )「ドクオ?」


ミルナは今、死骸と言った。
死骸ということは、やっぱりさっきのネズミは死んでいたらしい。
それなのに、ミルナは顔色一つ変えもしないで、死体を握り続けている。……それを黙っていろと言うのだろうか。

宇宙人の存在を隠蔽。
一瞬浮かんだ言葉を、俺は即座に否定する。


('A`)「……あ、ああ」

508 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:43:42 ID:4Pykjo5k0


そうだ。考えてみれば、変な話じゃない。
百物語中に本当の死体なんて、宇宙人云々を差し引いても、洒落にならない。
猫がいるだけでも驚いたのに、そこにネズミの死体まであったなんて言ったら、この部屋を通るのも嫌になるだろう。
最悪ツンなんかは、百物語を中止にするなんて言い出してもおかしくない。


('A`)「わかった」


これまで散々、怖い話をしてきた。
人が死ぬ話はいくつもあった。
それでも、本物の死を見たのは、これがはじめてということに気づく。

作り話じゃない、本物の死。
その事実に、背筋がぞくりとする。
それが、ただのネズミであったとしても、ミルナのようにその死体に触れたくはなかった。


( ゚д゚ )「すまないな」


ミルナの表情は変わらない。
生きている猫と、死んだネズミを抱いて、その姿はいつも以上に普通だった。
そう。いつものミルナだ。

509 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:45:04 ID:4Pykjo5k0



いつものミルナのはずなのに、その瞳だけが猫の目のように光っている。



( ゚д゚ )


ゆっくりまばたきをして、目をこする。
止まりそうになる息で、無理矢理呼吸をする。
一回、二回。目を閉じて、息を吸って吐く。


( ゚д゚ )「ドクオは先に行ってくれ」


……もう一度見直したミルナの瞳は、もう光ってはいなかった。
なにもない。いつもと変わらない。
いつか見たような気がする、金に光る瞳も、白い鱗も――どこにもありはしない。

510 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:45:49 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……あ、ああ」


死体を見て、混乱していたんだろう。

やっとそれだけ口にすると、足を動かしはじめた。
気のせいだ。気のせいに違いない。
そう言い聞かせたのに、ミルナの顔をもう一度みる勇気はない。


(;'A`)「……」


心臓の音が止まらない。
クーやツンのやつ。よくこんなとこを歩いたよな。なんて、どうでもいいことを考えて、なんとか気をそらす。


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511 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:46:58 ID:4Pykjo5k0
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そして、蝋燭はそこにあった。


部屋は、これまで通ったどの部屋よりも明るかった。
ゆらゆらと揺れる、橙色の列が火鉢の中に並んでいる。

かぎなれない匂いは、遠くにある婆ちゃんの家を思い出す。


('A`)「1本、消せばいいんだよな」


ぽつんと、一つ離れて残っている蝋燭を手に取る。
敷かれた灰色の粉に模様が残って、蝋燭はあっさりと持ち上がる。


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512 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:47:47 ID:4Pykjo5k0


ゆらゆらと揺れる火に、青白い蝋燭。
下の方を持っているはずなのに、手が焼かれているように熱い。
ジジジ、と聞こえないはずの音が聞こえた気がする。


少し強く吹けば、火は歪み消える。
焦げたような。だけど、それとは少し違うような匂いが強くする。


('A`)「これで終わり、と」


役目を終えた蝋燭を、火鉢の中に放り込む。

ゆらめく蝋燭はたくさん残っている。
火の消えているもの、倒れているものもあったが、全体に比べればそう多くない。
百話はまだ遠い。
この蝋燭が全部消えるまでに、どれだけの時間がかかるんだろう。


.

513 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:49:12 ID:4Pykjo5k0


百物語をした。
蛇の話だった。たわいのないおまじないの話だった。
廃村へ行く話もあったし、たんなる偶然の話も、どこかわからない国の馬の話もあった。


蝋燭が、ゆらゆらゆれる。


暗い部屋の中で蝋燭だけが揺れる光景は、異世界のようだ。
テレビでも見たことのない、風景。

ここは……どこなんだろう。
ミルナの爺様の家なのは、わかっている。
そう。だけど、思ってしまうのだ。


――この家はおかしいんじゃないか。
さっきのネズミも、誰のものかわからないカップも、泣きたくなるほど悲しい誰かの声も、ミルナの肌に見えたウロコも。
全部、ビビりまくっている俺の気のせいじゃないとしたら……。



この暗闇の中にいるのは、誰なんだろう?


.

514 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:50:00 ID:4Pykjo5k0


蝋燭の部屋を抜け、猫とネズミがいた部屋を抜け、暗闇の中へと進む――。
闇が、一番深い部屋。
俺達がずっといる、百物語の会場。


(    )「ドクオ」


暗闇の中から、待っていたとでもいうように声が上がる。
ツンやクーじゃない。
ブーンじゃない。たぶん、ショボンでもない。


(    )

川   )

(    )

ξ   )ξ


暗い部屋の中には、誰がいるのかわからない。
相手が男なのか、女なのか。知っている相手なのか、知らない相手なのか。
ここにいるのは何人なんだろう。そもそも、ここにいるのは――

.

515 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:51:36 ID:4Pykjo5k0


(    )「続きをはじめよう」

(;'A`)「……」

(    )「嫌だなんて言わないよな。
      だって、ドクオは怖い話が大好きなんだから」


蝋燭はまだ大量に残っていた。
百物語は半分も超えていないし、きっとこれからも続く。
夜明けはきっと、まだ遠い。


ξ   )ξ「早く入ってきなさいよ」

(    )「おつかれさまだおー」

川   )「ミルナはまだなのか?」

(    )「どうする、続きはじめちゃう?」


.

516 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:52:41 ID:4Pykjo5k0



足を進めれば、進めるほど灯りは遠ざかっていく。
元の位置だと思うところに腰を下ろせば、相手のシルエットくらいしかわかるものがない。
そんななかで、声が聞こえる。


(    )「さあ、続きを始めようか――」


じぃじぃと、夜の虫の声が響く。
目の前の誰かの笑う顔が、見えたような気がした。


.

517 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2017/09/23(土) 23:53:29 ID:4Pykjo5k0




              ('A`)百物語、のようです


               宇宙人あらわる!  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


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