- 1 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:06:21 ID:fQuF7wm60
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昨日、近くのプールで誰かが溺れ死んだ。
夜更けの出来事だったそうだ。
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- 2 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:07:33 ID:fQuF7wm60
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わたしは、それを誰よりも早く知っていた。
なぜなら、死んだ人の名前は、モナーと云う男であるが、
彼は、私の夢枕に立っていたのだ。
彼は、私の耳許で、何かを囁いていた。
しかし、それを忘れてしまった。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:08:35 ID:fQuF7wm60
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ところで、円く歪んだ 鳥の巣が
私と死者をトンネルで結んでくれている。
これは私の物語であり、生きている衆にとっては、癒しとなりうるのでは無いだろうか。
そんな、話である。
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- 4 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:09:58 ID:fQuF7wm60
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- 5 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:10:45 ID:fQuF7wm60
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私が目覚めると、辺り一面には、桃色の草が生えていた。
空は群青色であり、およそ現実の世界とは思えぬ様相を呈していた。
私は、12時の方向真っ直ぐ、桃色と群青との境界線に、細長い、何かが立っているのを見つけた。
案山子とも、煙突とも見受けられるそれは、
私の方へ口を伸ばしてきた。
真っ赤な紅色の塗られた口は、その白い歯を見せ付るように、笑っている。
口は、私の鼻先程にまで近付いた。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:11:25 ID:fQuF7wm60
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「俺には音が聞こえない。感じる事の出来る世界は、たった一つだけだ」
「俺と話をしたいか?」
口は、そう私に言った。
「私は、」
そこまで言いかけると、口は舌を鳴らし、私の言葉を遮った。
「目を閉じろ。耳を塞げ。皮膚を脱げ。そうしなきゃ、俺とは話が出来ないだろ」
「……出来ないなら、馬鹿にしてやる」
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:12:29 ID:fQuF7wm60
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突然、生暖かい風が、強く、辺りに吹き付けた。
私は、吹き飛ばされ、草の上を転がった。
回転する視界の中で、口が、私の事を嘲っていた。
身体が硬直する。
風は、私の心をも、激しく揺さぶってしまったのだ。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:14:45 ID:fQuF7wm60
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私は、風の行先に向かって、歩く。
あの後、私には音が、聞こえなくなっていた。
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- 9 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:15:34 ID:fQuF7wm60
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マトリクス変換によって、死者が現実に現れることができると、論文には書いてあった。
だから、私は、その通りの事を、物資を集めて行った。
それだけなのに、私は偉大な賞を受賞してしまった。
あの実験で、現れた死者は、一人、一人だけであった。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:16:35 ID:fQuF7wm60
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大きな試験管の中に、深緑の穴が開いて、そこから出てきた。
若い、銀の髪をした女だ。
服はぼろぼろで、やせ細っていた。
娼婦か何かだろうと思ったが、ぼろぼろの服は、地獄の装束なのかもしれない。
身体がやせ細っているのは、地獄で悶え苦しんでいるからか。
从 ゚∀从
彼女が、私の事を虚ろな瞳で見た。
それは紛うことなく、死者の目だった。
私の祖父が死んだ時も、同じ、眼差しをしていたから、断言できる。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:17:56 ID:fQuF7wm60
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私が指示を出すと、若い男の助手が、彼女に触れようと、試験管の中に入っていった。
彼は女の細い腕に手を触れると、ぼそりと、
( ^Д^)「……冷たいな」
と言った。
当たり前の事を言うな。と思った。
女の方は、暫く彼の事を見ていたが、
突然、叫び声を上げ出した。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:19:08 ID:fQuF7wm60
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从; ゚∀从「た、助けてくれ!!!!」
女は、私に振り向いた。
その瞳には、生の色が戻っていた。
―――まさか、
私は助手の方へ目をやった。
( ^Д^)「………」
彼の目は死んでいた。
私は、驚きのあまり、どうする事も出来ないでいた。
ただ、その場に立ち尽くしていた。
そうしている内に、彼の身体の輪郭は薄れていき、
遂には、消えてしまった。
この実験の後、
奇妙な事に、プギャーという男の存在は、世界の記録から消え去ってしまったのだった。
研究チームの名簿には、何処にも彼の名前は残っておらず、代わりに、「ハイン」という女性が登録されていた。
この事は誰にも話せていない。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:19:59 ID:fQuF7wm60
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桃色の平野を歩いていると、大きな湖に出会った。
湖は空の色を映すように、群青であった。
岸には、フラミンゴの群れが留まっている。
私が近付くと、群れは一斉に飛び立ち、遥か彼方へと消えてしまった。
群れが居た場所には、奇妙な事に、沢山の足跡が残っていた。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:20:59 ID:fQuF7wm60
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……ところで、私は、大分疲れていた。
水だ。水を飲まなければならない。
私は、水を手で掬おうと、湖面に顔を近付けた。
从 ゚∀从
そこには、彼女の顔があった。
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- 15 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:22:33 ID:fQuF7wm60
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私は現在、死んでいる途中だと、思っている。
私は下りエスカレーターに乗っていた。
すると、突然、背中を押され、身体が宙を舞った。
私は、時空を乗り越え、闇と光の明滅に飛び込んだ。
全身を覆う浮遊感は未だ続いているから、私はこの、明滅の中を落ち続けているのだろう。
全くの無音だった。静けさは、深海のそれと似ていた。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:23:18 ID:fQuF7wm60
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目を瞑ってみる。
母親の胎内とは、もしかすると、こんな感じだったか。
何処までも、心地良かった。
時が経つのも忘れて、私は、そうしていた。
不意に、何かに、触れられた。
それで、私は目を開いた。
………遠く、下の方に、明滅する傘が見える。
青空のプリントが施された、美しい傘だ。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:24:35 ID:fQuF7wm60
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傘は、ひらひらと、華麗に舞いながら、空間を落ち続けている。
私の方が早いから、私と、傘との距離は徐々に近づいていった。
私は、布地の下まで落ちて来ると、傘の柄を片手に握った。
すると速度は弱まり、私の身体は、ふわふわと、穏やかに落ち始めた。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:26:47 ID:fQuF7wm60
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布地の青空は、気付くと、満天の星空に変わっていた。
柄を握る私の手を、誰かの手が握っている。
白く、可憐な手だ。
私は、そこから伸びる先に目を向けた。
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- 19 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:27:46 ID:fQuF7wm60
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从 ∀从
息を飲んだ。
一瞬、それが彼女であると、気付かなかった。
精気を失っていた彼女の顔は、人間らしい艶を取り戻し、赤みを帯びている。
その口端には微笑みをたたえ、慈愛に満ちた目で持って私を見つめていた。
明滅に合わせて、彼女の姿も消えたり、現れたりしている。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:29:05 ID:fQuF7wm60
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「君は、私の助手だった人かい?」
そう問おうとしたが、声は出なかった。
宇宙空間で会話が出来ないのと同じ事だと、思った。
けれど、彼女には伝わった様だった。
彼女は首を横に振った。
彼女は、もう一方の手を私に寄せ、私の顔の、輪郭をなぞるように触れた。
そして、彼女は、ゆっくりと、口を動かした。
「ア、リ、ガ、ト、ウ、」
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- 21 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:30:28 ID:fQuF7wm60
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瞬間、明滅が収まり、辺りが閃光に包まれた。
凄まじい力に引き寄せられる様にして、私の身体は浮かび上がっていった。
聴覚が、元に戻って来た。
ゴボゴボと、水の中の様な音がして、次第に、息苦しさが増して来た。
身体は、尚も上へ、上へ、と引き寄せられていく。
私は、プールサイドで倒れていた。
息切れが激しい。まるで、窒息死から蘇ったように、身体は衰弱しきっていた。
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:31:11 ID:fQuF7wm60
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救急車のサイレンが、近付いている。
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- 23 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:32:26 ID:fQuF7wm60
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朦朧とした意識の中で、私は思い出していた。
モナーが私に囁いた言葉を。
私の精神は、いずれ全てに内包されて、全てに普遍して行くであろう。
私は、湖面に映る自分の姿を見た。
そこには、彼女の影はもう無く、あるべき顔があった。
そう、私は、全てに気付いたのだ。
群青色の空を見上げる。
私は立ち上がり、力いっぱいに跳ねた。
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- 24 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:33:27 ID:fQuF7wm60
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私の身体はどんどん空へと舞い上がっていく。
彼の言葉を、私は思い出した。
見下ろしてみると、フラミンゴの無数の足跡は、
「お前はとにかく恋をしろ」と、力強いメッセージを描いていたのだった。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/01(金) 19:34:12 ID:fQuF7wm60
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End: