('A`)遠い記憶の遊び場のようです

1 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/03(日) 23:54:25 ID:Mb6c7leE0

恋愛は、言葉でもなければ、雰囲気でもない。


ただ、すきだ、ということの一つなのだろう。





── 坂口安吾




.

2 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 23:55:14 ID:Mb6c7leE0

ξ*゚听)ξ「私は、好きよドクオ!」

そう言っていつもホッペをつねってきたツンの姿が今でも目を瞑ればそこに浮かぶ気がする。

('A`)y-〜

実家の近所にある公園のベンチに腰掛け、煙草をふかしながら目の前のブランコをボンヤリと眺めていた。

あの頃はいつだって希望に溢れていた。
いつだって、何をするにしたって明日があった。

「じゃあね、また明日ね」

別れの言葉はあの頃の僕らにとっては最早当たり前の挨拶であって、
過ぎる日々は僕たちに無条件に日々与えられる遊びの時間だった。

3 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/03(日) 23:58:20 ID:Mb6c7leE0
………
……


ξ*゚听)ξ「おはよードクオ!」

(*'A`)「ア、オハ」

(*^ω^)「おっおっ、ツンちゃん一緒に遊ぶお!」
  _
( ゚∀゚)「ツンちゃんは俺と遊ぶのー」

ホッペを赤く染めていたあの頃から、僕は酷く口下手で。
周りの男の子達のような誘い言葉を掛けられずに砂場の隅っこで、真ん中で多くの友達と遊ぶ憧れの女の子を眺めているような男の子だった。

4 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/03(日) 23:58:55 ID:Mb6c7leE0
('A`)「よ〜し」

そんな僕は気持ちをなんとか伝えようと手紙をしたため始めた。
その場では上手く脳みそを回せず言葉に出来ない僕でも、ゆっくりじっくりと書くことのできる文章ならばしっかりとした文章が書けるはずだ。

そう思って家で白紙の自由帳に向かい、クレヨンを片手に書いた文章は今でも覚えている。

「  つんちゃんへ 

   とってもぼくは

   つんちゃんがすきです  」

つたない文字で必死に書いたその手紙を精一杯シールで飾った封筒に入れてツンちゃんに渡して走り去った。

ξ*゚听)ξ「ドクオくん! お返事あげるね!」

その日のうちにツンちゃんからお返事がやってきた。
僕とは違い、白い紙のフチにカラフルなキャラクターや線が書かれたその手紙に書いてあった返事もよく覚えている。

5 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/03(日) 23:59:48 ID:Mb6c7leE0
「  どくおくんへ

   わたしもどくおくんがすきです

   おてがみうれしかったです

   またください      」

僕は舞い上がった。

今まで会話で返事をもらえなかった相手と、文章ではしっかりとやりとりできたことがとても嬉しかった。
高揚した気持ちの中、おあそびの時間に逸る気持ちを抑えきれなかった僕は早速返事の作成に取り掛かった。

(*'A`)「えっと、えっと」

そんな僕が必死に文章を考えると言う行為を始めて楽しいと思った瞬間が、この時だったと思う。

6 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:00:24 ID:zeCDIJ920
………
……


('A`)「おっと」

手に持ったままだった煙草の灰がポロリとスラックスパンツの上に落ちた。
僕は慌ててその灰を手で払う。そしてほとんど燃えカスになった吸殻を携帯灰皿に入れた。

('A`)「ふぅ」

普段着ないスーツにはどうも慣れない。
ネクタイもいやに首を絞めつけられてる気がするし、加えてシャツまで首を覆っているのは本当に息苦しさしか感じない。

川 ゚ -゚)「ハイ」

後ろから急にティッシュを差し出されて思わず振り向く。
ドレスを着た女性がいつの間にか俺の立っていた。綺麗に肩まで伸ばした黒髪が日に照らされて輝く。

('A`)「クー」

この光景に僕は若干のデジャヴを感じた。

川 ゚ -゚)「ん」

返事を必死で考え、幼稚園児ながらに推敲している最中急に僕の後ろから手紙を取り上げ、チェックを始めた人物。

それが彼女、クーである。

7 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:00:59 ID:zeCDIJ920
川*゚ -゚)「ん〜?」

(;'A`)「んん〜」

彼女は僕の書いた数行の文章をじっくりと眺めていた。
いくら幼稚園児といえど、たかだか数行の文章を読むのにそれほど時間はかかる訳では無いだろうに、彼女は熟読していた。

目線は何往復も折り返し、文章を延々と見つめていた。

川*゚ -゚)「……」

(;'A`)「……」

僕は耐えた。彼女の添削をひたすらに耐えた。
今思うと、これが初めて僕の文章が精査された瞬間だったのかもしれない。

そしてしばらくすると彼女はズイっと持っていた手紙を僕の目の前に突き出しこう告げたのだった。

川*゚ -゚)「クオリティーが低い、やりなおし」

8 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:01:38 ID:zeCDIJ920
('A`)y-〜「あれは本当にこたえたなあ」

川;゚ -゚)「やめてくれよ、小さい頃の話だろ」

僕は二本目の煙草に火を点ける。
クーはそんな僕を見て隣に腰かけた。

ヒラヒラとした裾にキラキラとした生地のドレスを着こんだ彼女は、しきりに首周りを気にしていた。
普段アクセサリー類をつけないといっていた彼女だから、身に着けていたネックレスが気になって仕方ないのかもしれない。

('A`)「でも、クーには本当に感謝してるんだぜ」

その一件以降、僕がツンに提出する手紙は必ずクーの添削を受ける事になった。
どう考えても唐突に手紙を読まれた身としては理不尽極まりない要求だったのだが、逆らうような度胸も無かった僕は毎回大人しく差し出すのだった。

9 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:02:13 ID:zeCDIJ920
川*゚ -゚)「ときめき? がないからやりなおし」

川*゚ -゚)「おんなのこにカッコいいなんてダメだ! かわいいになおして! やりなおし」

こんな感じで毎回提出前に修正は当たり前だった。
お陰様でこの頃から他人によくみられる文章を意識する癖がついたのはいい事だった。のかもしれない。

何故か僕とツン、そしてクーは小・中・高校と同じ学校だった。
別にストーカーじみた執念で狙っていた訳では無く、本当にただ偶然、彼女らと一緒に青春を過ごしたのだ。

そして僕とツンの手紙のやりとりは半ば当然のように続いた。
その度のクーのチェックも、もちろん当然のように続いた。

川 ゚ -゚)「漢字間違ってる、やり直し」
  _,
川 ゚ -゚)「もうちょっと書きようがあるだろ、やり直し」
  _,
川 ゚ -゚)「中二病みたいな歯の浮く文章書くな、やり直し」

下手な編集者よりキツイ言葉を時折投げかけてはダメ出しされる手紙はブラッシュアップされていく。
年齢を重ねるとともに積まれる行数も増えていったが、それと比例するようにクーのダメ出しも増えた。

10 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:02:48 ID:zeCDIJ920
僕はこの頃には他人の数倍は文章を書いていたと自負している。
多分、クーも認めてくれると思う。

川 ゚ -゚)「この本、良かった」

川 ゚ -゚)「こういう言い回しを出来たらいいな」

ダメ出しと同時に、彼女はおススメの本を持ってきてくれた。
種類は多岐に渡り、ファンタジーから現代文学まで、本当に様々だった。

文章を書くだけではネタ切れ、もといアイデアが枯渇していた僕はその本を貪るように読み漁った。

('A`)「この心情表現がめっちゃ良くてさー」

('A`)「起承転結ほんとうしっかりしてる」

与えられるだけでは申し訳なくなった僕は、彼女に添削される時に同じようにおススメの本を持って行った。
いつしか、文章添削より本の感想交換が楽しみになっていた。

11 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:03:24 ID:zeCDIJ920
('A`)「君がなんでそこまでやってくれるのか不思議でならなかったよ」

口の中に溜め込んだ煙を吐き出す。
澄んだ空気にタールとニコチンで汚れた空気を吐き出す行為に背徳感を覚えだしたのはいつからだったか。

川 ゚ -゚)「最初は気まぐれさ」

川 ゚ ー゚)「でも、やっていくうちに自分がハマっていったんだ、添削するのもそうだけど、君の文章を読むことにね」

('A`)y-〜「……うん」

なんだか気恥ずかしくなってポリポリと僕は頭を掻いた。

ある日、そう、彼女の言い分では……僕の文章にハマった彼女は、僕に小説を執筆するように勧めてきた。

(;'A`)「無理無理」

もちろん僕は固辞した。
手紙を書くだけでも必死に頭を回さなければいけない僕が、数万字という文章を破綻なく書けるとは到底思えなかった。

12 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:04:02 ID:zeCDIJ920
(;'A`)「しょ、小説なんて……絶対破綻する」

川 ゚ ー゚)「何を言ってる、そうさせないために私がいるんじゃないか」

そう言ってニッと笑った彼女に逆らえるような僕では無かった。
大人しく僕は彼女の要求を受け入れ、小説をしたため始めた。

幸い互いに小説を読み漁り、感想のやり取りをしていた事もあって、ネタは十分にあった。

川 ゚ -゚)「言い回しがおかしい、やり直し」

川#゚ -゚)「この設定ナメとんのかワレェ! やり直しじゃボケェ!」

(;'A`)「ヒィィィィ」

僕は必死に食らいついた。今思えば過剰でもあったような彼女の修正や訂正に僕は逆らう事は無かった。
だって、彼女は僕のいい所を潰すような事は今までしてこなかった。

13 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:04:38 ID:zeCDIJ920
むしろ、いいところを伸ばそう伸ばそうと必死に文章を読んでくれているのは、知っていたからだ。
僕と彼女は殆ど二人三脚で小説の土台を踏み固め、組み立て、仕上げた。

そして僕の小説は某出版社の新人賞で入賞という結果を得ることが出来た。
加えて、あれだけ執心していた僕の心は切り替わっていった。

あの時から4年、僕らは変わりなく過ごしてきた。
共に青春時代を過ごしてきた3人はそれぞれ違う道を歩んだが。

相変わらず僕とクーは同じ大学に通い、一緒に小説をかき上げる日々を過ごしている。

ツンは専門学校へ進学し、彼氏を見つけて幸せに過ごした。
そして今日は彼女の結婚式である。

手首につけた細い革のバンドの腕時計に視線を落としていたクーがハッと顔を上げた。

川 ゚ -゚)「ドクオ、そろそろ時間だ」

('A`)y-〜「あぁ、もうそんなに経ったか」

14 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:05:13 ID:zeCDIJ920
川 ゚ -゚)「そろそろ出発しなきゃいけないな」

('A`)「早いもんだな」

僕は中途半端に吸った煙草を携帯灰皿にギュッと押し付けた。
そして胸ポケットにしまうと同時に、そこにしまっていたもう一つのモノを取り出した。

('A`)「なぁクー」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

('A`)「ちょっと見て欲しいんだけど」

その言葉を聞いてクーは苦笑いとも、微笑みとも取れるような笑みを浮かべながら僕の顔を見つめた。

川 ゚ ー゚)「友人代表の挨拶だろ? あれだけチェックしたんだから大丈夫だよ、安心しな」

15 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:06:57 ID:zeCDIJ920
('A`)「いや、違うんだよ違うんだ」

川 ゚ -゚)「? じゃあ一体何だい?」

('A`)「手紙さ」

川 ゚ -゚)「手紙?」

('A`)「そう、君宛の、ね」

川 ゚ ー゚)「……添削は必要かい?」

('A`)「君が思う通りにしてくれたらいい」

僕とクーは、互いに顔を見合わせてニヤリと笑った。

16 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:07:32 ID:zeCDIJ920





「  クーへ 

   僕は

   君の事を愛しています  」




.

17 名前: ◆oV3cL.9Fhw 投稿日:2016/04/04(月) 00:08:07 ID:zeCDIJ920
【テーマ曲】
EGO-WRAPPIN' 『GO ACTION』
https://www.youtube.com/watch?v=VgG6xtXJesM



('A`)遠い記憶の遊び場のようです

──終

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