- 119 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:14:25 ID:gxMKKYGw0
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この前から、世界は不平等だといったブーンの言葉が、頭の中をグルグルまわって離れてくれない。
不平等、世界は不平等。
たしか彼女もそんなことを言っていた気がする。
( ФωФ)『世界は不平等よね。善人でありながら不幸な目にあう人がいれば、悪人でありながら幸福な人生を送る人がいるみたいに』
从 ゚∀从『そうだね』
僕みたいな人生に対して無気力な奴がのうのうと生きているのに、君みたいな人生かけてやりたいことがある子が病院で緩やかに寿命がくるのを待っている。
なんて、世界は不平等なんだろうか。
- 120 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:15:17 ID:gxMKKYGw0
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( ФωФ)『全知全能の神様がいれば、どうして神様は公平で、そして平等でいてくれなかったのかしら』
体が弱っていくにつれ、彼女は最善世界説を唱えることを止めた。当たり前だ、こんな世界が最善であってたまるか。
( ФωФ)『神様がいれば、神様がいれば…』
从 ゚∀从『…』
彼女はあの時、泣いていたのかもしれない。今は猫の被り物で隠れて見えないけれど。
( ФωФ)『…あぁ、そっか』
从 ゚∀从『どうしたんだい?』
( ФωФ)『神様がいると思うから、この世界に期待してしまうのよね。どうしてこんなことに気付かなかったのかしら』
そうだ、思い出した。彼女が最善世界説を捨て、その次に語ったのは…
- 121 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:16:47 ID:gxMKKYGw0
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『もうずっと前に、神様は死んだのよね』
世界のありとあらゆるものの中で一番の価値を持つであろう、“神の死”だったではないか。
- 122 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:18:43 ID:gxMKKYGw0
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哲学科生のルサンチマンのようです
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- 123 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:19:28 ID:gxMKKYGw0
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約束の金曜日の五限後、僕は盛岡教授のオフィスの前にいた。扉にかけられているホワイトボードには、外出中と書かれている。まぁ、すぐに来るだろう。
从 ゚∀从「…それにしても、神は死んだ、か」
思い出の中の彼女が言った言葉、それはフリードリヒ・ニーチェの有名な台詞であった。ニーチェといえば、この箇所ばかり引用されるが、この後に続く台詞も中々過激だ。
从 ゚∀从「俺たちが神を殺したのだ…だったけかな、確か」
よくニーチェを無神論者という人が多いが、殺したとか、死んだ、など言っているということは、元々神は生きていたということになるから、ニーチェを無神論者と言っていいものなのかと僕は前から疑問に思っている。そもそも、ニーチェは牧師の子供なんだし。
- 124 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:21:43 ID:gxMKKYGw0
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从 ゚∀从「もしかして、僕が真理を求めるために学ぶべき哲学者って、ニーチェのことなのかなぁ…」
(´・_ゝ・`)「それが君の答えかい、高岡君」
いつのまに背後にいたのだろう。本当に盛岡教授は神出鬼没だ。
从 ゚∀从「今までを振り返ってみたら、そうなのかなぁと。彼女は最後の方、ニーチェを気に入っていたので」
(´・_ゝ・`)「だとしたら、それは彼女の学びたい哲学であって、君の学びたい哲学ではないだろう」
確かにそうではあるが、彼女のために入学した哲学科だ。彼女が学びたかったものを学ぶべきなのではないだろうか。
(´・_ゝ・`)「まぁ、いいや。とりあえず入ってよ、珈琲くらいは入れてあげるから」
从 ゚∀从「はい、失礼します」
- 125 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:23:07 ID:gxMKKYGw0
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盛岡教授のオフィスは、必要最低限の物だけが置いてあり、綺麗に整理整頓されていた。天井まで届いている大きな本棚には、様々な哲学書が原著で敷き詰められている。
(´・_ゝ・`)「まぁ、狭いけど。どうぞ座ってよ」
从 ゚∀从「ありがとうございます」
(´・_ゝ・`)「それにしても、自分に合う哲学なんて、この大学に入学してから今までを振り返ってわからないものかなぁ」
从; ゚∀从「全くわかりませんよ」
(´・_ゝ・`)「高岡君、君を実践哲学講義で指名したら君はどんな哲学者、思想、または哲学的問題として取り上げたい事柄を実践する?」
从; ゚∀从「それは、その…」
(´・_ゝ・`)「出来ないだろうね、君には」
从; ゚∀从「すみません…」
(´・_ゝ・`)「謝ることじゃないさ。だって、君の学ぶべき哲学は、そういうものなんだもの」
从; ゚∀从「ど、どういうことですか?」
- 126 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:23:57 ID:gxMKKYGw0
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(´・_ゝ・`)「他の学生が実践する時、みんなは自分の信じる哲学者や思想が正しいと思って実践しているはずだ。もしくは、これこそが真理であって欲しいと思いながらね」
从; ゚∀从「まぁ、ほとんどの学生はそうかもしれませんね」
(´・_ゝ・`)「もちろん、否定的だからこそ実践して、みんなに誤っていることを認めさせたいというのも、自分の中に確固たるものがあるからだろう」
从 ゚∀从「そうでしょうね」
(´・_ゝ・`)「でも、君は違う。君には、これこそ真理だと思えるような哲学者や思想はない」
その通りだ。
- 127 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:24:29 ID:gxMKKYGw0
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从 ゚∀从「だからこそ、僕は…」
(´・_ゝ・`)「そう、だからこそ、君は今年の哲学科生の中で一番優秀なんだ」
从; ゚∀从「え?」
- 128 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:27:03 ID:gxMKKYGw0
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(´・_ゝ・`)「率直に答えてくれて構わない。既存の哲学者や思想の中に、真理なんてあると思うか?高岡君」
从; ゚∀从「それは…その…」
(´・_ゝ・`)「あったら大発見だよね。まぁ、研究していけばもしかしたら既存の哲学者や思想こそ、真理だったとなるかもしれないけど」
从; ゚∀从「はぁ…」
(´・_ゝ・`)「つまりだね、高岡君。そのことを他の学生は分かっていないのだよ、盲目的に自分の信じる哲学者や思想を信じているんだ。でも、君だけが分かっている」
从; ゚∀从「僕だけが分かっている…?そんな、僕は何も…」
(´・_ゝ・`)「そう。君は何も知らない。これぞ真理だと、特定の哲学や思想についていうことができない」
(´・_ゝ・`)「…だって、君は知っているから。自分が何も知らないことを」
从; ゚∀从「!!」
- 129 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:27:54 ID:gxMKKYGw0
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そうか、そうだったのか。
だから、盛岡教授は僕が一番賢いと言ってくれたのか。
僕は知っていたんだ、みんなが知らなかったことを
从 ゚∀从「僕は、自分が真理を知らないことを知っている。そう、つまり、“無知“を自覚していた…」
从 ゚∀从「これぞまさしく、ソクラテスの『無知の知』」
(´・_ゝ・`)「…よくできました、正解だよ、高岡君」
- 143 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 02:49:33 ID:gxMKKYGw0
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从 ゚∀从「知を愛し求めたソクラテスか…。確かに、真理を求めるには学ぶのに相応しい哲学者ですね」
(´・_ゝ・`)「そうだね。さて、答え合せも終わったし、これでめでたしめでたしだね」
从 ゚∀从「ちょっと待ってください」
(´・_ゝ・`)「何?」
从 ゚∀从「まだ、思い出の中の彼女がどうして猫の被り物をしているのかについて、教えてもらってないのですが」
- 130 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:30:51 ID:gxMKKYGw0
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(´・_ゝ・`)「知らなくてもいいんじゃないかなぁ。君はそれでなくても、辛い思いで哲学をやっているんだからさ」
从; ゚∀从「別に僕は辛いだなんて…」
(´・_ゝ・`)「…ソクラテスは、無罪で処刑にかかることになったのに、逃げずに自ら毒杯を飲み、死んだ。自分の信じる正義を貫くために」
从 ゚∀从「ソクラテスの話は今関係ないでしょう」
(´・_ゝ・`)「いや、君はソクラテスにそっくりだ。好きでもない哲学を学ぶことによって、彼女への罪を忘れないように、毎日毒杯を少しずつ飲んでいるのさ」
从; ゚∀从「そんなこと」
- 131 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:31:56 ID:gxMKKYGw0
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(´・_ゝ・`)「なぁ、高岡君。どうして思い出の中の彼女が猫の被り物をしているか、本当にわからないのか?」
猫、ネコ、ねこ。
わからない、なんでだろう。彼女は猫より犬の方が好きだったはずなのに。
从; ゚∀从「わかりません」
(´・_ゝ・`)「高岡君、君は入院した彼女と連絡すらとっていないんだろう」
从 ゚∀从「…とってません」
(´・_ゝ・`)「彼女、結構重い病だったんじゃないの?」
彼女の病は、確かに重かった。
でも、それよりも、僕が最後に会った時、彼女は、果物ナイフを、果物ナイフを。
- 132 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:35:19 ID:gxMKKYGw0
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思い出の中で、果物ナイフを持った彼女が、僕に最後の言葉を告げる。それは、僕にとってはまるで、死刑宣告のようだった。
( ФωФ)『ハイン君。私、ニーチェのようにニヒリズムを受け入れて、乗り越えられるような超人にはなれなかった、ただの凡人だったの。だけど、貴方は才能がある、まだ気付いていないけれど』
( ФωФ)『…どうしてかしらね、私の方が哲学が好きなのに。どうして、貴方が哲学科へ入学して、私は病院で命を終えなきゃいけないのかしら』
( ФωФ)『そう、だから私は…』
- 133 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:36:01 ID:gxMKKYGw0
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川д川『哲学科生のあなたへ、ルサンチマンを抱きながら死んでいくのよ』
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- 134 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:36:52 ID:gxMKKYGw0
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あぁ、思い出してしまった。彼女の素顔も、最後に会った時、彼女が僕に向けて言ったあの台詞も、全て。
そう、彼女は果物ナイフを自分の首に当て、それで僕はナースコールを押して。
僕は血塗れの彼女が怖くて、いや、それよりも、彼女が僕のせいで自殺を図ってしまったのを信じたくなくて。
だから、僕は泣きながら、逃げて、それで。
- 135 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:38:34 ID:gxMKKYGw0
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从 ゚∀从「…そうか、だから、思い出の彼女は、ずっと猫の被り物を」
(´・_ゝ・`)「…」
从 ゚∀从「会わなければ、連絡を取らなければ、彼女が今現在、生きているか死んでいるかわからないままでいられる。僕の中では、彼女は生きていて、かつ、死んでいる状態として存在し続けられる」
こんなことも、わからなかったなんて。
从 ゚∀从「…毒ガスが入った箱の中に、猫を入れたとして、箱を開けなければ猫が死んでいるか生きているか分からない。その状態では、猫は生きていて、かつ、死んでいると言える…」
そう、彼女も一緒。確かめなければ、生きているか死んでいるかわからない。
从 ゚∀从「彼女は僕にとって、『シュレディンガーの猫』だったのか」
こうして、僕の謎は、全て解けたのだった。
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- 136 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:40:00 ID:gxMKKYGw0
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('A`;)「うわ、なんだよ、この大量の哲学書」
( ;^ω^)「ハイン、せっかく自分が学ぶべき哲学者がわかったっていうのに、まだ他の知識も得ようっていうのかお」
从 ゚∀从「分かったとしても、色んな哲学者について知りたいことに変わりはないからね」
('A`)「お前のどこが哲学好きじゃないのか教えてもらいたいな」
从 ゚∀从「前は好きじゃなかったよ、彼女のために学んでいただけだったし」
( ^ω^)「今は違うのかお?」
从 ゚∀从「…あぁ」
- 137 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:42:33 ID:gxMKKYGw0
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盛岡教授は、君は悪くないのだから哲学から逃げていいと言ってくれたけれど、ソクラテスが正義のために処刑にかかったように、僕は僕自身のために、彼女に対して犯した罪の罰として、哲学を学び続けることにした。
哲学をし続ける限り、僕は彼女から逃れることはできない。
でも、それでも、彼女から与えられたルサンチマンを背負いながら、僕は緩やかな処刑をもたらす毒杯を、これからも飲み続けるのだ。
だって、僕が処刑を受け続けている間は
彼女は永遠に、僕の中で生きていられるのだから。
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- 138 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:43:44 ID:gxMKKYGw0
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从 ゚∀从哲学科生のルサンチマンのようです
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- 139 名前:名無しさん[◆3S9DdnK6O] 投稿日:2016/03/31(木) 01:46:28 ID:gxMKKYGw0
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第四講義、おわり。
これにて、講義は全て終了。
というわけで、
哲学科生のルサンチマンのようです
おわり。
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