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39 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:56:37 ID:.5wg0tsI0
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄
――そして、たどり着いたのが、この毒の大地である。
竜もヒトも魔物もいない北の大地。
黒の領域と海に四方を囲まれ、孤立した半島。
水と大地は毒で汚され、大気は瘴気に満ち植物すらも根付かない。
('A`)「そうだ、ここに巣を作ろう」
生き物の姿はどこにも見えない。
灰竜は建物の残骸――廃墟で数日体を横たえた。そして、全身の傷を癒やした彼は、決心した。
天敵のいないこの場所を、己の安住の地にしようと。
('A`)「陰気だけど、敵がいないのが一番だ」
竜は頑丈さが取り柄の種族である。
普通ならば即座に死に至る毒や瘴気でも、さしてダメージを受けない。
毒は手足に少し染みる程度、病をもたらす瘴気は不味い空気程度にしかならない。
('A`)「魔力だけはアホみたいにあるから、取り込んどけばメシ食わなくてもいけるだろ。
ダメでも掘り返せば、食えそうな鉱物もあるし」
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40 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:58:21 ID:.5wg0tsI0
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環境は悪いが、住む場所としては申し分ない。
それに何より、目の前にある巨大な建築物の廃墟が気に入った。
地上部分は残骸にしか見えなかったが、地下は頑丈である。
キラキラとした宝石や宝物が転がっており、直せばまだ使えそうだ。
触ると炎を出す岩なんていう、トラップを作るのにも丁度よさそうなものが大量にあるのもいい。
(*'A`)「すげぇ。これなら何だって作れるぞ」
彼はさっそく巣を作りはじめた。
それからの暮らしは、これまでの旅路に比べると遥かに快適だった。
何より敵に怯える必要も、食べ物に困る心配もない。
瘴気と毒という問題はあったが、慣れてさえしまえばそれも問題なかった。
はじめは簡単な寝床と、万が一に備えて敵の侵入を防ぐ仕掛けを作る程度のつもりだった。
しかし、それだけでは彼は満足しなかった。
('A`)「中は当然、迷路にするとして……どうせなら謎を解いたら進める仕組みとか作りたいよな」
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41 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:59:47 ID:.5wg0tsI0
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(*'A`)┘「せっかくだから、あの石を配置して火の出るトラップとかも作って。
あ、落とし穴。それからキレイな石がいっぱいあるからその置き場も作ろう」
('∀`)「ここに石像置いて、それをここに置けば火が止まる仕組みにして……
休憩用の場所を作って……それから、移動用の魔法陣も」
もともと、巣を広げることに興味があった彼だ。
安全で自由にできる場所があり、他にやらなければいけないこともないとなると、巣作りに熱中するのは道理であった。
休む時間どころか、寝る時間さえも取らずに彼は働き続けた。
はじめは廃墟を改良し、それがある程度済んでしまったら、今度は己の爪で岩盤を掘り進める。
落とし穴、罠、宝物庫、謎解き……思いつくものを彼は片っ端から作った。
(*'∀`)「あと試してないの何だ? どうせなら、できるだけ作ろう……」
――そして、彼は作り続け……満足する頃、彼の巣は地下50階にも届く大迷宮と化していた。
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42 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:01:25 ID:.5wg0tsI0
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(*'A`)「いやー、働いた働いた」
複雑に入り組んだ巨大な迷宮を進んだ、最下層。
水晶の柱が乱立する大空洞を、彼は寝床に選んだ。
天井は高く、魔力を大量に含んだ水晶が、青い光を放っている。
彼が寝起きに使っている小高い場所以外はごく浅い水で覆われ、静かな水面は大空洞の中を映し出している。
そこで彼は、満足そうに息をついた。
(*'A`)「いやー、できたできた」
('A`)「魔力うめーし、狩りしないでいいとかすばらしすぎる」
('A`)「俺、ずっとここで引きこもって暮らすわ」
彼はとうとう自分の巣を手に入れた。
しかし、そうなるとやることがなくなるのも事実である。
はじめのうちはひたすら寝て過ごした彼であるが、やがてそれにも飽きてきた。
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43 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:02:57 ID:.5wg0tsI0
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('A`)「……こんな巣作れる俺ってスゲーすごくね。ね?」
何をしゃべっても、応える声は無い。
――竜は本来ならば、群れで暮らす生き物だ。
知性がある彼らは、群れの中では常に会話を交わすのが常だ。
それが、今ではひとりぼっち。孤独に耐えられなくなってもおかしくない。
('A`)「だれかこねーかな。嫁さんになってくれるメスとか……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)
(;'A`)「……やっぱ、メスはやめとこう。竜こわい竜」
脳裏に浮かんだ想像を、彼はあわてて打ち消した。
群れにいる竜――特に女王の怖さは嫌というほど味わった。
とはいえ、群れを持たない竜がどこに居るのかもわからない。
となると、竜はダメだ。
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44 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:04:42 ID:.5wg0tsI0
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ξ゚听)ξ
(*'A`)「そういえば、あの人間かわいいし、いい匂いだったなぁ」
考えこんだ彼の脳裏に、一人の人間の姿が浮かぶ。
東の大国の城にいた少女。目があっただけだが、彼女は可愛らしかった。
そして、彼女は人間。群れてさえいなければ、恐ろしい種族ではない。
(*'∀`)「そうだ! 人間をさらってお嫁さんにすればいいんだ!」
そして辿り着いた考えは、名案そのものだった。
灰竜の産まれた群れにいた、父竜の一匹は先祖に人間がいたらしい。
彼自身は他の血が混ざらない純粋な竜だが、竜と人間が結ばれるのはおかしな話ではない。
(*'A`)「どうして、今まで思いつかなかったんだ!」
喜びのあまり、彼は地面を転げまわる。
どうしてこれまで思いつかなかったのか。
もっと早く思いついていれば、今頃こんな虚しさを味あわなくてもよかったのに、と。
(*'∀`)「こうなったら、さっさと攫って来ないと!」
興奮がひとしきり収まると、彼は決心した。
自分がこうして巣を作ったのは、この安全な巣で人間と結婚するために違いない。
そうとなったら今すぐ行動だ。と、攫われる人間にとってはまったくありがたくない決意を彼はした。
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45 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:06:27 ID:.5wg0tsI0
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┌(*'A`)」「よーし待ってろ、俺のお嫁さん!!」
( )「……竜?」
――そして、羽ばたこうとした彼の体は、ぴたりと止まった。
誰も居ないはずの彼の巣に、何かがいる。
完璧に作り上げたはずの巣にどうして、侵入者が?
慌てて探してみれば、ねぐらの入り口に、二本足の生き物が立っていた。
( ・∀・)
その姿は、東や西の国に多くいた人間と呼ばれる種族に似ている。
しかし、その姿はいささか妙だった。
(;'A`)「……ニンゲン? いや、魔物……?」
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46 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:08:19 ID:.5wg0tsI0
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鉄のような血の匂いが鼻を突く。
距離があるので傷口までは見えないが、衣服はいたるところで引き裂かれ血で染まっていた。
口元を吊り上げた、笑っているかのような表情。
これがメスであったらまだ喜ばしかったが、竜にとっては残念なことに、性別はオス――男だった。
( ・∀・)「何でこんなところに竜が? ……まあ、いいや」
大空洞に声が響いた。
その体からぽたりぽたりと落ちる雫が、大空洞に貯まる水面に落ちる。
並の生き物ならば死ぬほどの量の血に濡れて、それは動く。
魔物の中には生ける屍といったたぐいもいる。
もしかして、これもそのたぐいだろうか? そう思ってしまう程、それは異様な光景だった。
(;'A`)「嘘だろ!? あれだけ罠を仕掛けたのに」
あまりにも場違いな男の姿に止まっていた彼の思考が、一気に動き始める。
最下層までたどり着く者がいるということを、彼は全く考えていなかった。
それほどまでに彼は自分の巣に愛着と自信を持っていた。
しかし、それもあっさりと破られた。
――地下50階の迷宮を乗り越え、侵入者がここにいる。
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47 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:10:11 ID:.5wg0tsI0
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( ・∀・)「竜なら、お前の心臓貰うわ」
そして、それは口を開いた。
手には、光を放つ剣が一振り。
その姿は男が灰竜の敵であることを告げていた。
(;゚A゚)「どうしてこうなったぁぁぁぁぁっ!!!!」
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48 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:12:33 ID:.5wg0tsI0
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視界から、人間の姿が消える。
そう思った瞬間には、もうその生き物は灰竜のすぐ眼前にいた。
(;゚A゚)「――っ!!」
慌てて尾を、鞭のように振るう。
風を切る音が鋭く響くが、何かに当たったという感触はない。
(;'A`)「空振りか」
( ・∀・)「そんな簡単にはいかないか」
尾の攻撃範囲より少し遠い位置から声が上がる。
返す尾で再び人間を狙うが、最初の一撃で攻撃範囲を読みきられたのか当たる気配がない。
それどころか、動きが止まった瞬間を狙って、接近される。
(;'A`)「――チィッ!」
背の翼を大きく振るう。
大して威力があるわけではないが、効果範囲だけは広い。
翼に当たらなくても、そこから生じた風が少しでも足止めになれば、しめたものだ。
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49 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:14:16 ID:.5wg0tsI0
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( ∀ )「――っ」
(*'A`)「よしっ! 当たった!」
バシャバシャと、断続的に水が跳ね上がる音が響き大きな水しぶきが上がる。
見れば、灰竜からかなり離れた位置に倒れこむ人間の姿が見えた。
そこらの魔物ならびくともしないのだが……、人間という生き物はそこまで頑丈ではないのだろう。
(*'A`)(こいつ、もしかして弱い?)
( つ∀・)「――っう」
かすかな期待を込めて様子をみると、やがて人間は血の代わりに水を滴らせて立ち上がる。
さして怪我をした様子はないが、それでもその体は大きくふらついている。
(*'A`)(いける。勝てるっ――!)
これまで一方的に襲われた竜や魔物のような強さはない。
東や西のヒトたちは強かったが、あの時のように群れているわけではない。
ちょこまかとすばしっこいが、所詮は人間。一度潰してしまえば、それで終わる。
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50 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:16:24 ID:.5wg0tsI0
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(#'A`)「くらえっ!!」
息を吸い、エサとして体に貯めこんだ魔力をかき集める。
それを口の中へと集中させて、放つ。
轟々と音を立て、炎が燃え上る。
灰竜の吹いたそれが、大空洞を青から赤へと照らす。
向かう先は、未だにダメージの抜け切った様子のない人間の姿。
( ・∀・)「っ!」
灼熱の輝きが、男へと迫る。
それを見た男は、何を思ったか炎へと向かって突進を始めた。
走りながら男は首元へと手を伸ばす。
一体、何を――と、竜が思った時には、その姿は炎の輝きに巻き込まれて見えなくなった。
パシャリと、音が上る。
それから炎が大きく揺れ、何かが燃える気配がする。
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51 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:18:19 ID:.5wg0tsI0
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('A`)「やったか」
炎が弱まり、消える。
燃え尽きたのか、その跡には何もない。
何とか倒せた。ほっと息をついた竜は休養を取るべく目を瞑ろうとして、
(;'A`)「――っ!」
その瞬間、背筋を走る寒気に目を見開いた。
慌てて翼を自分の身へと引き寄せる。
なぜそうしたかはわからない。しかし、彼の本能がそうしろと囁いていた。
それと同時に、衝撃が走った。
(;'A`)「なっ!」
( ・∀・)「……しくじったか」
竜の体を守るように覆われた翼。その飛膜に激痛が走る。
彼にはどうしてそうなったのか、理解ができない。
ただわかるのは、行動が遅れていたのならば傷を受けるのは胴体だったということだけだ。
その事実が、彼の思考に火をつけた。
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52 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:20:05 ID:.5wg0tsI0
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(#゚A゚)「――るぁぁぁぁ、っぁぁぁぁぁぁ!!!」
怒りが、彼の体を駆け巡る。これほどひどい傷を、彼は受けたことがなかった。
翼を翻し、体を振るう。尾を地に叩きつける。
何だ。何が自分をこうした。痛い。何が自分を傷めつけた。
そして、振り回した腕が、手の鋭い爪が何か柔らかいものを捉える。
( ∀ )「――っ!! ぁぁぁっ!」
何かが落ちる音。
かすかに聞こえた声。
そして、鼻を突く鮮やかな鉄の――血の匂いに、竜は我を取り戻した。
(#'A`)「るぁぁぁぁっ!」
音がした方に、首を思いっきり伸ばす。
そして、鋭い歯でそこにいる何かを噛み砕く――が、すでにそこにはもう何もいない。
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53 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:22:36 ID:.5wg0tsI0
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(#'A`)「お前……」
( ・∀・)「……上手くいったと思ったんだけど」
首を起こして見据えた先、血の匂いのする場所。そこに燃え尽きたはずの男が居る。
全身を真っ赤に染めた、人間。
口元を吊り上げた顔は、最初に見た時と変わらない何を考えているのかわからない表情。
そして、手には血で濡れた剣。
――ただ、最初に見た時には確かに存在したはずのもう片方の腕が、そこにはなかった。
( ・∀・)「持って行かれちゃったか。やっぱり竜は、何度戦ってもダメだな」
(#゚A゚)「お前、なんで……」
( ・∀・)「なんでって聞いて、答えると思う?」
目の前の相手が自分の翼を傷つけたのだと、竜ははっきりと理解した。
ヒトという種族は弱い。しかし、その弱さを補うために道具を使う。
武器、道具、何に使うのかよくわからないもの。目に見えるものもあれば、見えないものもある。
きっとそれで炎を避けて、見えないところから自分を襲ったに違いない。
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54 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:24:12 ID:.5wg0tsI0
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(#'A`)「……くそっ」
翼を動かす。
動かすには問題ないが、飛ぶのは難しいかもしれない。
しばらくすれば傷も治るだろうが、それまでは痛むだろう。
( ・∀・)「……」
(#'A`)「……」
灰竜は男を睨みつける。
残されたもう片方の腕に、剣を握っている。
あれがあの人間の牙であり、爪であり、炎だ。
華やかな装飾がなされた、輝きを持つ刀身。
柄頭には魔力の込められた魔石と、魔術的な守りのなされた鞘。
('A`)(……あの剣は嫌な感じがする)
その輝きに、竜は息を呑む。
これまで見たどの魔法や武器よりも、嫌な感じがする。
竜殺しの武器よりも遥かに強い――竜の本能に警告をもたらす何か。
あれはダメだ。あれは竜の守りよりも強く、危険なものだ。
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55 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:26:04 ID:.5wg0tsI0
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('A`)「……」
後ろ足に力を込め人間の接近に備える。
炎はすぐに吐けるように、尾はすぐに振るえるように。接近されれば牙を。
……それ以上、近づかれてしまえば相手の間合いだ。それだけは絶対に避けなければならない。
(#'A`)「……るぁ、」
( ・∀・)「へぇ。もう話す気はないの? ようやく話せるヤツが見つかったっていうのに残念だ」
たとえ強い牙をもっていようと、人間という種族は絶望的に弱い。
ましてや群れを作ってもいない、たった一匹。
牙は当たらなければ意味が無い、ならば絶対者である竜に敵うはずがないがないではないか。
(#'A`)「――ぅるがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
灰色のウロコを鈍く輝かせ、竜は絶対の自信を持って人間へ立ち向かった。
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56 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:28:06 ID:.5wg0tsI0
-
(#'A`)「るあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
牙を繰り出し相手が怯んだところで、尾を振るいながら回転すれば、人間との距離が一気に離れる。
そこで炎を吐けば、近づく手段を失った人間は逃げるしかない。
( ・∀・)「くっ」
('A`)(いける)
炎が切れると同時に距離を詰めようと近づいてくる相手に、翼を振るう。
風を起こして牽制をすると同時に、翼の力を頼りに後方に向けて地を蹴って距離をとる。
翼は激しく痛むが、どうせすぐに治るのだ。多少は無理が効く。
('A`)(攻撃できなきゃ、コイツはたいしたことない)
( ・∀・)「たかが人間相手に逃げまわるなんて正気?」
男は完全に攻めあぐねている。
遠距離からの攻撃手段はもっていないのだろう。
竜の攻撃の隙を見て接近を企てるのだが、そのたびに翼や牙の攻撃を受け、何もできないまま距離を取る。
それを何度も繰り返している。
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57 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:30:06 ID:.5wg0tsI0
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( ・∀・)「竜は最強の種族だったんじゃないの? 情けないよ」
('A`) (ほざけ)
( ・∀・)「お前本当は、トカゲなんじゃない?」
('A`) (この下等種族が)
( ・∀・)つ「そんな翼でいつまで戦うつもりさ」
変わらない状況にじれたのか、人間の口数が多くなっている。
挑発のつもりなのだろう。
その言葉の合間に、剣を振るう動きを見せたが。竜は、距離を取ることに集中する。
―― 一撃。一撃でも当ててしまえば、この戦いは決着する。
(*'A`) (どうせお前は、俺には勝てない)
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58 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:32:19 ID:.5wg0tsI0
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・
・
・
どれだけの間、撃ちあっただろう。
人間からの攻撃は届かず、竜からの攻撃は回避される。
距離をとれば接近され、引き剥がすための攻撃は凌がれる。
(;'A`)(――っ、しぶとい)
吐いた炎が、天井から伸びる水晶に直撃する。
水晶がいくつもの破片とともに、水面へと降り注ぐ。
砕けた水晶の放つ光が、辺りを青く染めていく。
ようやく作り上げた竜の巣が無残にも破壊されていく。
静かだった水面は轟き荒れ狂い、何の姿も映し出さない。
(;'A`)(あいつどれだけ粘るんだよ)
男の動きは一向に変わらない。
避けるだけの変化のない戦いが、かなりの時間続いているのに、疲労する様子も見えない。
腕を失った傷からはかなりの血が流れているのに、それさえも目の前の人間はものともしない。
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59 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:34:06 ID:.5wg0tsI0
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( ・∀・)「……」
いや、むしろ有利になっていると言ってもいいだろう。
砕けた水晶の群れは、人間が身を潜める絶好の場所となり。
荒れた水面は、人間の居場所を映しださず。足音さえもかき消す。
(;'A`)「ちょこまかと」
どれだけやっても終りが見えない。
有利な状況は変わらず。それでも、決定的な瞬間が訪れないまま疲労だけが重なっていく。
翼の傷も、相変わらず痛かった。
――もういっそ、逃げるか? と、いう考えが竜の頭によぎる。
いままでのように逃げ出して、新たな地で暮らす。
巣はまた新しく作ればいい。
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60 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:36:07 ID:.5wg0tsI0
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('A`)「……できるかよ」
ここは散々やられた末に、やっとたどり着いた安住の地だ。
毒や瘴気まみれで環境は悪い。
それでもここは、彼が自らの力ではじめて作った巣なのだ。
ならば、絶対に守らなければならない。
大きく息を吸い、体中の魔力と熱を炎へと変えていく。
これまではすぐ吐いていた炎を口元に貯め、燃やし、より強い炎に変化させる。
(#'A`)「……ここは俺の巣だ!!!」
( ・∀・)「っ!」
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61 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:38:34 ID:.5wg0tsI0
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口内に溜めきれず、口元からから上る炎が、色を変えていく。
赤から橙、白。そして、その色がさらに変わり、青へ。
(#'A`)「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
完全に青へと変わった炎を吐き出すべく、竜は大きく背をそらす。
そして、首を大きく振り下ろす
その、瞬間。
(#゚A゚)「がっ」
――どうしようもないほどの、熱と、痛みが尾へと走った。
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62 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:40:43 ID:.5wg0tsI0
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(#゚A゚)「なっ、」
炎が維持できず、掻き消える。
不発に終わった炎が体内を焼くが、あまりに些細な痛みだった。
尾が焼けるように熱い。
(#゚A゚)「――ぐっ」
尾をめちゃめちゃに振るうが、痛みは止まらない。
何かが刺さっている。きっとそれは、あの剣だ。
灰竜は痛みで知る。人間は自分の背後に――尾の、上にいる。
なにかが、尾をつたい動く。
翼に、腕がかかる。
見えないところで、何かが起きている。その状況は、竜に恐怖を呼び起こした。
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63 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:42:25 ID:.5wg0tsI0
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灰竜は、気づかなかった。
水晶の群れに紛れた人間が、己の背後へと回ったことに。
最大の攻撃がくると悟った男が、剣を鞘ごと竜の尾へと突き刺したことに。
( ・∀・)つ「……」
突き刺した鞘を、足場替わりにして男は跳躍する。
背を走る棘に足をかけ、そして翼に手をかけて体を引き上げる。
その向こうに見えたのは、無防備な竜の背。
その無防備な急所に向けて、男は剣を振るう。
( ∀ )「……っ」
腕は一本。
片腕は翼を掴んだまま。だとしたら、剣は振るえない。
だけど、それでも攻撃をしようと思うのならば。
――口を使えばいいのだ。
柄を荒々しく噛みしめ、男は渾身の力で竜へぶつかった――。
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64 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:44:16 ID:.5wg0tsI0
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(# A )「――ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
ほとんどの敵に無敵の強度を誇っていたウロコが、硬い音をたてて砕ける。
その先の皮を、肉を、剣は貫いていく。
( ∀ )「これは効いただろ」
男の渾身の一撃は、確実に竜の急所を討った。
吹き出した血が、男の体を赤く染めていく。
男はトドメをさすべく、剣を更に押しこむ。
( ・∀・)「死ねっ!!!」
(# A )「……」
竜の体勢が崩れる。
しかし、その程度で倒れるようならば竜は最強とは言われてはいない。
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65 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:46:31 ID:.5wg0tsI0
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竜の特徴は頑健なことだ。
毒や瘴気をものともしないだけではない。
そのウロコはほとんどの攻撃を防ぎ、その肉体は傷を受けても癒やしてしまう。
力のある竜であるならば、致命傷を受けてもすぐに癒やすこともあるという。
(#゚A゚)「ぐ、るぅ、る、るぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
灰竜の体が大きく跳ね上がる。
その背と尾の異物を振り払おうと、無茶苦茶に体を振る。
翼を何度も振り回し、攻撃を受けていない腕までもが無軌道に動き、全力で暴れ回る。
( ・∀・)「っ!」
――それに、人間が耐えられるはずがない。
どんなに強くても、ヒトは弱い種族である。
その中でも、最弱と呼ばれる人間は単純な力比べでは竜には勝てない。
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66 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:47:55 ID:.5wg0tsI0
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(; ・∀・)「――ぅ」
男は剣を離さなかった。
それでも剣が竜から抜けてしまえば、あとは振り落とされるだけだ。
腕は翼からほどけ、竜の背にぶつかりながらも、無様に転げ落ちていく。
(; ・∀・)「っ」
受けた衝撃に息をつまらせながら、男は立とうとした。
そして、――
(#゚A゚)「あ゙あ゙あ゙あぁぁぁぁぁっ!!! る゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁあ゙」
避けようもない距離にある、竜の尾を見た。
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67 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 20:49:35 ID:.5wg0tsI0
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