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1 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:33:12 ID:.5wg0tsI0
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空は暗くよどみ、大気に満ちた瘴気は重く体にまとわりつく。
毒に汚染された大地は草さえも生えず、荒れてひび割れている。
そんな大地から湧く水が清いはずもなく、川や池は常にどろりとした黒い水を湛えていた。
――毒の大地。と、人々はその地を呼ぶ。
三方を荒れた海に、残る一方を魔物たちが住む大山脈に阻まれた北の半島。
ありとあらゆる生き物が死に絶え、――それでも魔力だけは豊かな大地に、彼はいた。
('A`)
鈍い灰色のウロコに、どっしりとした体。背には翼と、長い尾。
短い腕には鋭い爪と、小ぶりだが形の整った角。
竜――ドラゴンと呼ばれる種族。その成人を迎えたばかりの、若いオスだった。
('A`)「……」
目の前には、古い時代の名残である巨大な建築物。その残骸を見て、彼は決意した。
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2 名前:◇xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:35:14 ID:.5wg0tsI0
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('A`)「そうだ、ここに巣を作ろう」
――と、
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3 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:35:54 ID:.5wg0tsI0
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('A`)巣作りドックンのようです
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4 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:36:45 ID:.5wg0tsI0
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄
竜という種族がいる。
頑丈な体と長い寿命を持ち、知性に優れ、神に最も近いともいわれる種族。
彼らには、様々な特徴を持つ者たちがいる。
天空を飛ぶもの、水を治め天候を操るもの、
毒を制するもの、炎を吐くもの……
(*'A`)「よしっ、できた!
どうせなら落とし穴をつけて、脱出不能のトラップとかも……」
灰色のウロコを持つ彼も、そんな竜族の一匹であった。
彼はもともと、魔物の住む大山脈――黒の領域で、母竜や父竜たちと暮らしていた。
J( 'ー`)し「あら、一番下の。こんなところにいたの?」
(*'A`)「カーチャン! 見ろよ、この完璧な隠し通路を。
こんな感じでどんどん改造してけば、もっとすごい巣が……」
J(*'ー`)し「あらあら、すごいわねぇ。ところでカーチャン、大事な話があるんだけど」
(*'∀`)「どうした、カーチャン?」
J( 'ー`)し「悪いんだけどね。
アンタには群れから出て行ってほしいの」
('A`)
――しかし、そんな平穏な毎日はそう長くは続かなかった。
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5 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:38:17 ID:.5wg0tsI0
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J( 'ー`)し「一番下のも、もう大きいだろ?
カーチャンそろそろ次の卵を産む頃だし、巣立ちにはちょうどいい頃合いだと思うんだよ」
('A`)「……そ、そんな」
竜は「女王」と呼ばれるメスを中心とした群れで生活する習性がある。
成人を迎えた竜は群れを巣立つ。
そして、別の群れに入るか、女王となるメスを迎えて新たな群れを作る。
群れからあふれたオスは野垂れ死にするか、群れを作らずに生涯を過ごす。
J( 'ー`)し「アンタの巣立ちは今日だよ」
('A`)「……」
J( 'ー`)し「わかったわね」
('A`)「……わかった」
竜にとって、群れの女王は絶対だ。
それが自分の母であっても、どんなに納得出来ないことでも、逆らうことは許されない。
本能がそれを拒絶するし、もし仮に逆らったなら食われても文句は言えない。
それを知っていたから、彼はぐっと息を呑む。そして、母竜の言葉を受け入れた。
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6 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:40:13 ID:.5wg0tsI0
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爪'ー`)y‐「なんだ、一番下。まだ巣立ってなかったのか」
( "ゞ)「これ以上、居座るようなら食っちまうところだったな」
( ノAヽ)「もう会うことはねーが、達者で暮らすノーネ」
広間に入ると、赤や緑に輝く様々なウロコの竜たちが灰竜を出迎える。
彼らは群れの一員であり、灰竜の「父親」である。
もちろん血のつながった親もいるが、大抵は女王に従うオスたちだ。
見知った顔、見知らぬ顔。
どの顔も今は笑っているが、巣から出たらもう容赦はしないだろうことを、彼は知っている。
これまで巣立った彼の兄弟たちが、そうだった。
戻ってこようとした三番目の兄が、群れの父竜たちに襲われことがあった。
同じ巣で暮らした子にも彼らは容赦しなかった。
その時に彼は、ここはいつか自分の巣ではなくなるのだと悟った。
そして、今日。とうとう自分の番が回ってきた。
('A`)「トーチャン増えたの?」
J( 'ー`)し「火山に落ちて死んだ馬鹿もいるけどね」
('A`)「うへぇー、何してんの?」
もう最後になる軽口を交わしながら、彼は長年慣れ親しんだ巣穴から外へと向かう。
岩肌を繰り抜いた洞窟を出れば、そこから先は彼一人で生きていくことになる。
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7 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:41:09 ID:.5wg0tsI0
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J( 'ー`)し「ここまでね」
('A`)「……そう、だな」
外から差し込む光が、暗い巣を照らす。
その向こうには青い空と、どこまでも続くような岩山の群れ。
荒れた大地に立つひときわ大きな木は、灰竜が兄弟たちと遊び場にしたものだ。
それももう見られないのだと思うと、唸りを上げて転がりたくなる。その衝動を、彼はただひたすらにこらえた。
J( 'ー`)し「とりあえずは、生きなさい。
生きてさえいれば、ここよりももっとすごい巣が作れるわ。
もちろん落とし穴もトラップもついた、ね」
それが、彼が母竜と交わした最後の会話だった。
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8 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:42:18 ID:.5wg0tsI0
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大きく鳴き声をあげて飛び続けた。
生まれ育った巣は遠ざかり、あの大きな木ももう見えない。
('A`)「けっこう遠くまで来たな」
飛行と休憩を繰り返した灰竜が、まず必要としたのは巣だった。
これから自分が生きていくには、ねぐらが必要だ。
落とし穴やトラップがついているなんて贅沢は言わない。
体を休め、狩りの拠点となるものが必要だった。
('A`)「どっかの群れに入れねーかな」
ねぐらを手に入れる。
そのためには、どこかの群れに入るのが一番確実だ。
('A`)「竜を探さないと」
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9 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:44:13 ID:.5wg0tsI0
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方針は決まった。
彼は同族を見つけるために、岩山にそって飛び続ける。
やがて、大きな湖が見え、木々が増えはじめた。
('A`)「どこにもいねぇな」
同族は見つからない。
今日のところは諦めようと思い始めた頃、聞き覚えのある声に彼は気づいた。
竜の鳴き声が複数。中には若い竜もいるようにも思える。
彼は慌てて速度を早め、そして巣立ってから初めて同族の姿を見つけた。
(*'A`)「おーい! 聞こえるか」
( ´_ゝ`)(´<_` )
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「珍しい。迷い竜じゃないか」
喜び勇んで声をあげる。
見つけたのは三匹。
まだ子竜ともいえる若い竜が二匹と、老年に差し掛かった竜だ。
若い二匹は白銀ウロコの瓜二つの姿をした竜だった。
( ´_ゝ`)「竜だ」
(´<_` )「ああ。竜だな、兄者」
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10 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:45:11 ID:.5wg0tsI0
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(*'A`)「よかった。お前らの群れに入れてくれねぇか?
俺、巣を追い出されたばかりで」
その言葉を聞いた途端、竜たちが唸り声をあげはじめる。
特に若い二匹は今にも飛びかかんばかりだ。
(;'A`)「あ……れ……?」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「ウチの群れはもういっぱいなんだ。諦めてくれ」
若い二匹を抑えながら、年かさの竜が言う。
言葉だけは穏やかだが、いつでも攻撃をとれるように体勢を整えている。
しかし、巣立ったばかりの竜はそれに気づかない。
(;'A`)「あの……少しの間だけでもいいんで……」
彼がそういった瞬間、年かさの竜の背後から若い二匹が飛び出した。
口から吐き出された炎を灰竜がかわすと、もう一匹が死角から炎をあびせかける。
それも彼が何とか避けると、群れの竜たちは代わる代わる声を上げた。
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11 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:46:01 ID:.5wg0tsI0
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(#´_ゝ`)「帰れ! これ以上、家族が増えたら俺らが追い出されるだろうが」
(´<_` )「去れ! まぁ、追い出されるなら父者も道連れだろうがな。弱いし」
(#´_ゝ`)「俺らはかわいい妹者たんが、巣立つまで群れに居座らねばならんのだ。
ぽっと出は帰れ! 母者と姉者が黙ってないぞ」
彡⌒ミ
::( ´_ゝ`)::「わ、ワシだって愛しいハニーや娘たちから見捨てられたくないわい」
これ以上話を聞く必要はないとばかりに、怒りの声が上る。
彼らは全力で拒絶している。それでも、群れに入りたいというのならば戦いは避けられないだろう。
(;'A`)(……戦うか? それとも、ここは諦めて、戦わなくても入れそうな群れを探すか?)
灰竜の頭に迷いが浮かぶ。
相手は三匹。戦うには厳しい。が、今から諦めると言っても、逃がしてもらえるどうかわからない。
どうすればいいのかわからない。答えが思い浮かばないまま、時間だけが過ぎていく。
(;'A`)「俺は……」
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12 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:47:25 ID:.5wg0tsI0
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彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「ワシとしてはこのまま帰ってもらえるのが一番嬉しいが、どうする?」
( ´_ゝ`)「俺らは戦っても構わんぞ」
(´<_` )「戦わなかったら母者が何と言うか、わからんしな」
きっとこれが最後の警告だ。
群れに入れろと言っても、このまま黙っていても攻撃を受けることは避けられないだろう。
(;'A`)「俺、やっぱり」
灰竜が答えかけた――その瞬間、強烈な甘い匂いが若い竜の頭をとらえた。
獲物を誘い込む食人植物にも似た、ありとあらゆる花を集めて濃縮したような匂い。
甘いという言葉では表しきれない香りの暴力が、竜の頭を揺らす。
::(; A )::「……」
そして、彼の目の前に四匹目の竜が現れた。
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13 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:48:44 ID:.5wg0tsI0
-
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「……」
その姿はここにいるどの竜よりもはるかに大きく、強い。
睨みつけただけで、動けなくなってしまいそうな迫力がそこにはある。
それは、彼がこれまでの生涯で見たどの竜よりも巨大で力強かった。
竜は「女王」と呼ばれるメスを中心とした群れを築く。
女王に竜が従うのは、彼女たちメスが子をなすからだけではない。
もっと単純に、メスのほうがオスよりも強いからだ。
::(; A )::「……あ」
彼は悟る。――あれが、女王竜だ。
群れをたばねる女王が、ここに来たのだ。
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14 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:49:25 ID:.5wg0tsI0
-
竜としての本能が逆らってはならないと警告している。
あれに逆らったら、食い殺される。それも最も無残で残酷な方法で。
あれは自分の仲間ではないものに決して容赦はしない。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「アンタたち何してんだい!!!
こんなチビにやられるようなら食い殺すよ!!!」
(; ´_ゝ`)「ひぃぃぃ、待て時にもちつけ」
(´<_` ;)「兄者がまず落ち着け」
しかし、幸いなことに女王は、まだ灰竜には注目していない。
爪先一つでどうとでもできる獲物だと、知っているのだろう。
なら、まだどうにかなる。
(; A )「……っ」
翼を広げ全力で羽ばたく。
オスたちならまだいい。でも、あれはダメだ。
今ならまだ間に合う。逃げろ。そうでなければ確実に死ぬ。
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15 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:50:10 ID:.5wg0tsI0
-
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「よしっ。かかって……あ、どうやら行ったみたいだね」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「みたいだねじゃないよ。アンタも行きな!」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「ひぃぃぃ」
群れの竜は縄張りからはなかなか出ない。
しかし、その縄張りはとにかく広い。
山をいくつか超えるだけでは油断はできない。
(;'A`)「なんだよあれ。よそのメスがあんなに怖いなんて聞いてない」
竜は逃げていた。
はっきりとした姿は見えないが、いくつもの強力な気配がする。
自分を追っているだろう。
(;'A`)「群れはいい。とにかく逃げないと……」
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16 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:51:36 ID:.5wg0tsI0
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( _ゝ )「待て!」
( <_ )「逃げるな!」
(;゚A゚)「誰が待つかっ!!!」
渓谷をくぐり、木々の群れを超えてひたすら飛ぶ。
何度も追いつかれそうになりながら、それでも必死で逃げて、逃げ続けた。
(;'A`)「っ……は、しつこいっ!」
飛び交う炎をくぐり、前を目指す。
追手の羽音が聞こえなくなっても、彼は飛び続けた。
そして、周囲が静かになった頃。
――気づけば彼は、まったく見覚えのない平らな場所いた。
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17 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:53:17 ID:.5wg0tsI0
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(;'A`)「なんだ、ここ……」
そこは竜や魔物が暮らす黒の領域と根本的に違っていた。
険しい山も谷もない妙な地形。
開けた大地は畑や牧草地となり、いくつもの人影が歩いている。
建物ばかりが固まった村や街がいくつも並び、それを石畳の道がつなげている。
その初めて見る光景に、竜は衝撃を受けた。
('A`;)「ヒトが多いんだな……」
生き物ひとつとっても違う。
目につくのは家畜だと思われる動物か、ヒト――人間や獣人だ。
たまにドワーフや、エルフの姿も見える。
そこに魔物の姿はほとんど見えない。
<_プー゚)フ 「おい、竜だぞ」
(‘_L’)「あっちは、王都のほうですよ」
ハハ;ロ -ロ)ハ「これ以上アッチはまずいデス」
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18 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:54:24 ID:.5wg0tsI0
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地上からざわめく声があがる。
弓や魔法が放たれ、時折彼に当たる。
当たっても大して痛くない。とはいえ、それが度重なると面白くはない。
避けようにも、ヒトという生き物はとにかく数が多い。
(;'A`)「うーん。アイツらどこにでもいるな。
巣にちょうどよさそうなとこもないし」
見渡す限り、ほぼ平地。
エサには困らなさそうだが、巣にする洞窟を掘るのにはあまり向いていない。
たまに見える山は、やたらヒトが多いか、切り開かれているか、土が柔らかくて頑丈さに欠ける。
('A`)「いい場所を見つけたと思ったんだけどな」
なかなかこれと思う場所が見つからない。
フラフラと人の街の上を飛び回っているうちに、気づけば彼は不思議な物を見つけた。
('A`)「なんだ。石の……山?」
そこにあるのは巨大な城だった。
中央にある城と、それを取り囲むように作られた城壁。
そして、その周りの街をさらに囲むように、櫓を備えた石の壁がめぐらされている。
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19 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:55:58 ID:.5wg0tsI0
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灰竜の住む大陸。
その東側を治める、ヒトたちの王国・ケーイブン。
彼が石の山だと思ったのは、大陸で最も栄える大国の王城だった。
ξ゚听)ξ「……竜」
その石の山――王城の上に、少女がいる。
金の髪に青い瞳。身につけられたのは豪奢なドレス。
果物のような甘い匂いを滴らせた、人間の少女だった。
彼女の姿に、灰竜の目は惹きつけられた。
(*'A`)「いい匂いがするなぁ、あの子。
人間みたいだけど俺のお嫁さんになってくれねぇかな」
ξ゚听)ξ「報告にあったのと同じ……まだ、若いみたい」
距離があるせいか、少女には竜の声が届いていない。
しかし、彼女はじっと竜を見つめ続けている。それが、ますます彼の興味を誘った。
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20 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:56:39 ID:.5wg0tsI0
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(; ^ω^)「姫様っ、危ないから下がるお!!!」
川 ゚ -゚)「こちらへ」
ξ;゚听)ξ「え、ちょっとまだ」
どうにか話せないかと、彼が少女に近づこうとした瞬間、彼女の姿が建物の中に消える。
(;'A`)「あ゙っ!?」
/ ,' 3 「今だ。第一陣。攻撃、かかれっ!」
――それと同時に、竜の灰色のウロコに魔法が降り注いた。
雷、風、炎、氷の魔法の数々に、大量の石の塊が混ざる。
見れば、城壁や街を取り囲む壁にいつの間にか集められていた大量の兵士たちが攻撃を放っていた。
/ ,' 3 「竜を城に近づけるでない!」
-
21 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:57:41 ID:.5wg0tsI0
-
lw´‐ _‐ノv「ほーい。魔法兵団第一部隊は雷魔法の準備いっくよー」
_
( ゚∀゚)「投石兵放て! 弓兵は位置について待機」
これまで受けたヒトの攻撃よりも一撃が重い。
おそらくは彼が国中を飛び回っていた時から、準備がされていたのだろう。
兵士たちの動きは統率され、彼が咆哮を上げてもひるまなかった。
/ ,' 3 「攻撃の手を休めるな。
弓兵は投石が止まりしだい、放て!」
指揮官らしき人間の命により、休むまもなく続けられる攻撃の手。
その一撃一撃はたいしたことないが、ここまでの数が積み重なると重く響く。
幾度も打ち据えられた体は、鈍い痛みを訴える。
攻撃に耐え切れず、傷つくウロコもではじめている。
(;'A`)「ひぃぃぃ、何だあれ。全然、近づけねーし」
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22 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:59:17 ID:.5wg0tsI0
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攻撃の手は止まらない。
このままでは、次に大きな攻撃が来た時に耐えられない。
そんな彼に、追い打ちをかけるような声が上る。
lw´‐ _‐ノv「そーてん準備かんりょー。
特大威力の神聖攻撃魔法いっくよー」
/ ,' 3 「やりすぎるな。下手に、手負いにしては厄介だ」
lw´‐ _‐ノv「はいはい、りょーかいですよー、っと」
城壁の上。
そこに強大な魔力の持ち主が立っていた。
杖を手に立つエルフの女はすでに詠唱を終え、あとは最後の言葉を発するだけ。
この周囲の山ならば容易にはじけ飛ぶほどの力の気配に彼は息を呑む。
('A`;)「おいおい。正気かよ!!」
城壁の女ほどではないが、強力な魔力の流れをいくつか感じる。
その矛先は全て、自分。
これまでの攻撃とは桁が違う。当たれば、ただではすまないだろう。
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23 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 18:59:50 ID:.5wg0tsI0
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(#'A`)「ああ、もう畜生っ!」
――逃げ道は、残されている。
はじめから彼を逃がすために用意されていた、攻撃の手の薄い場所。そこに彼は飛び込む。
どうせこの場所は巣に向いていない。それならばここにいる意味などない。
/ ,' 3 「深追いはするな! このまま黒の領域へヤツを!」
(#'A`)「覚えてろよー!!」
痛む体を引きずって飛び続ける。
彼が生まれ育った大山脈――黒の領域は、すぐそこだ。
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24 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:02:04 ID:.5wg0tsI0
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彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「お前またハニーのところに!」
とはいえ、逃げ去った先も安住の地ではなかった。
竜の縄張りは広い。
彼が逃げ込んだのが、もともと追われていた竜たちの縄張りの一部だったのは大きな不幸だった。
(;'A`)「ご、ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
群れに入ることのできる竜はそう多くない。
縄張りに足を踏み入れた邪魔者が、二度と来ないように傷めつけるのは当然なのだと、その頃には彼も理解していた。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「アンタたち狩りの練習の時間だよ。やんな!」
(´<_` )「把握した。今日のメシはこれで決まりだな」
(*´_ゝ`)「うっひょーぃ! 妹者たんに美味しいモン食わせるぞ」
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25 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:02:43 ID:.5wg0tsI0
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限界を超えて、翼を駆る。
集団の狩りの獲物となってしまえば、ひとたまりもない。
同族であるからこそ、彼らは容赦をしない。
('A`;)「縄張りから……出ちまえば」
彼はひたすら逃げる。
ここまでで、すでに体の何箇所かが噛みつかれている。
しかし、ここで休んだら最期ということを彼は知っていた。
( ´_ゝ`)「弟者、行った」
(´<_` )「把握」
飛んでくる炎をかわす。
縄張りから外れるように、蛇行しながら飛び続ける。
同じ体格をした白銀の二匹はとにかくしつこい。
大きな湖を西へ、西へと飛ぶ。
岩肌から生える木々が増え、岩山が深い森へと徐々に変化していく。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「お前たちそこまででいい」
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26 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:03:50 ID:.5wg0tsI0
-
(´<_` )「――っ」
( ´_ゝ`)「こっからが、いいところなのに」
――遠くで声が聞こえるが、彼には振り返る余裕はない。
岩と木々の間ギリギリを、体を低くして灰色の体が飛んでいく。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「周りも見れないのかいアンタたちは。そんなんじゃすぐ野垂れ死ぬよ」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「ああ、あっちは……」
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27 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:04:52 ID:.5wg0tsI0
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・
・
(;'A`)「逃げきれた、のか……」
気づいた時には声も、翼の音も聞こえなくなっていた。
鳴き声と気配が遠ざかったことを感じ取って、灰竜は息をついた。
岩陰に身を潜めて、体を休める。
(;'A`)「縄張りを通ろうとしただけでこれかよ……」
竜の縄張りは広い。
しかし、その中でも竜が立ち入らない場所も存在する。
地形が悪い、エサが乏しい……様々な理由があるが、最も多い理由はそこに天敵がいるからである。
(*'A`)「前ほどしつこくなくてよかった」
竜は最強の種族とも呼ばれている。
しかし、生物である以上相性の悪い生き物も当然ながら存在する。
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28 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:05:28 ID:.5wg0tsI0
-
( ∵)
( ∴)
('A`)「ん? お前ら何だ?」
竜は個体一つ一つの能力が高い。
一対一の戦いでは、ほぼ敵うものはいないだろう。
しかし、攻撃が当たらない者や、ヒトのように数に任せて襲ってくる者が相手となると多少分が悪くなる。
('A`)「ちっちぇなぁ。魔物か?」
だから、群れを持たない竜はどんな状況でも気を抜いてはならない。
警戒を怠った若い竜が命を落とすことは、そう珍しいことではなかった。
( ∵)(;'A`)「おいおい、くっつくんじゃねーよ。食っちまうぞ」
(*'A`)「おとなしいなぁこいつ」
そう、例えば弱く大人しいふりをした魔物もこの世にはいるのだ。
それが今、目の前にいるものではないとは限らない。
-
29 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:06:28 ID:.5wg0tsI0
-
( ∵) !
( ∴) !
灰色のウロコにまとわりついていた小さな白い体。
その顔がぱかりと割れ、鋭い歯が現れる。
そこからあふれる唾液は、じゅうと灰竜のウロコを溶かす。
ぼとり、と唾液が落ちる
――気づいた時には、もう遅かった。
-
30 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:07:15 ID:.5wg0tsI0
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( ∴)( ∴)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
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( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∵)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)
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31 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:07:59 ID:.5wg0tsI0
-
気づけば、無数の小さな魔物たちが灰竜の体に群がっていた。
くすんだ灰色を覆い尽くす白い顔、顔、顔。
哀れな獲物に向けていくつもの歯が一気につきたてられる。
(#゚A゚)「――――っ!!!」
大陸を南北に縦断する大山脈――黒の領域。
そこに踏み込むヒトはめったにいない。
山は竜と魔物の領域である。
そこに住む魔物は、人里で見られるような物とは格が違う。
一歩でも踏み込めばたちまち、死が訪れる。
そして、それはそこに暮らす魔物や竜にとても同じ。
他者の縄張りに迂闊に入れば、食うか食われるかのどちらかなのである。
(#゚A゚)「……ぜ、は」
高く飛び上がり、すぐに急降下。
それを何度も繰り返しながら、ひたすらに飛ぶ。
自分が今どこを飛んでいるのかもわからない。
ただ、その場所から離れなければならないという本能だけで彼は飛び続ける。
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32 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:08:48 ID:.5wg0tsI0
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( ∵)
群れを作るのは、単体では弱い生物であることが多い。
数が減ってしまえばそう脅威ではない。
急降下するたびに、小さな体が一つ、二つと振り落とされていく。
灰色の体を覆い尽くしていた白い体が一つ減り、二つ減り……
それが全てなくなる頃には、彼は再び巨大な山脈を超えていた。
(;'A`)「は、……あ」
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33 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:50:04 ID:.5wg0tsI0
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気づけば、彼の目の前には平らな大地が広がっていた。
大陸の西側。ケーイブン王国に似ているが、空気の匂いが違う。
広がる森はより深く、その合間にぽつりぽつりと狭い川や低い山々、木造の集落が見える。
('A`)「……こっちは西側か?」
山脈と太陽の向きからして、大陸の西側に来てしまったらしい。
彼は周囲を見渡して、休めそうな場所を探す。
寒さと暑さが適度にしのげて、天敵が来ない場所。エサが豊富ならばなおいい。
そんな場所で休めれば。さらに巣を構えられれば、当面の間は安泰だ。
('A`)「竜も魔物の気配もないし……よさそうだなぁ」
(#゚;;-゚)「……竜?」
(*゚∀゚)「ほんとだ。めずらしいこともあるもんだなぁ」
飛び交う鳥の中に、竜や魔物の姿はない。
時折、彼の視界に入る獣は大人しい獣ばかり。
ヒトの姿も時折見えるが、こちらに攻撃をしようとしてくる者もいない。
('∀`)「ヒトも多くないし、こっちに住むか」
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34 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:50:40 ID:.5wg0tsI0
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彼は完全に油断していた。
新たな住処を見つけるということは、そもそも先に住んでいた者たちを追い出すことでもある。
追い出される側が黙って出て行くのならいいが、大抵の場合はそう上手くいかない。
なぜなら、居場所を守るために戦う者の方が圧倒的に多いからだ。
――そんな当然のことを、巣立ったばかりの彼はまだ学んでいなかった。
相手がヒトや獣だから意識をしていなかっただけかもしれない。
しかし、どちらにしてもそれは彼にとっての致命的なミスであった。
('∀`)「こっちは岩山多いし、住み心地はよさそうだなぁ」
彼は飛び回り、やがて目についた山の岩棚に横たわった。
ここで傷を治し、それから巣を作る……つもりであった。
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35 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:51:53 ID:.5wg0tsI0
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(-A-).。oO
(´・ω・`)「……よく寝ています。
この時期と大きさからして、群れを持たないはぐれ竜かと」
( ´∀`)「それは好都合モナ。群れだったら厄介だった」
月のないその夜。
竜の休む岩棚に、幾つものヒトの姿があった。
声を潜めたヒト――獣人たちは、その手にいくつも武器を持っていた。
( ´∀`)「竜を捕らえよ! 血の一滴、ウロコ一枚も逃すんじゃない。
ウロコは防具。血は長寿の妙薬。心臓は無限の力と魔力を生むモナ。余すところ無く素材になると思え!」
ミ,,゚Д゚彡「っしゃー! 一番槍はフサだから!」
<ヽ`∀´>「ウェーハハハハ。高そうな部位はウリのものニダ!」
(=゚ω゚)ノ「魔術と鎖で拘束したら一気にかかるんだょぅ!」
それは竜殺しの一団であった。
竜を殺し、その体を素材として手に入れる狩人たちの部隊。
飛ぶ竜を見たと情報を得た彼らは、危険の排除と獲物を求めてここまで来た。
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36 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:52:26 ID:.5wg0tsI0
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東の国の兵士とは違い、竜殺したちの数はそれほど多くない。
しかし、その一人ひとりがかなりの練度をもった強者である。
手にした武器も、一つ一つが竜を狩るためだけに生みだされ、洗練されている。
(;゚A゚)「な、なんだ!?」
――そして、鎖で拘束される瞬間、竜は目を覚ました。
彼の体はすでに魔力で拘束されている。
しかし、かろうじて物理的な拘束はまだされていなかった。
(#'A`)「はずれろっ!!!」
ミ,,゚Д゚彡「暴れるぞ! 鎖早くっ!」
(;=゚ω゚)ノ「ちょ、間に合わな」
それが彼にとって幸いした。
灰竜が大きく吠えると、魔力による拘束はあっさりとほどける。
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37 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:53:34 ID:.5wg0tsI0
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(;´・ω・`)「……眠り薬が効いてない?」
(#´∀`)「体勢を立て直せ。攻撃が来るモナ!」
体を二度、三度大きく震わせ、彼は自分が自由になったことを確認する。
自分にまとわりつく獣人たちを、尾で打ち払う。
それでも、獣人達は武器を手に飛びかかってくる。
(;'A`)「くそっ、なんだよこれ!!」
爪と尾で蹂躙していくが、攻撃は止まない。
彼らは攻撃を切らしたら最期だと思っているのか、倒してもすぐに立ち上がってくる。
<ヽ`∀´>「ウリの斧はこんなモンじゃないニダ!」
(#´∀`)「負傷者は後方へ、回復薬と強化薬は惜しまず使うモナ」
ミ,,#゚Д゚彡「ありったけの拘束具もってこいだからっっ!!」
一撃、二撃……ヒトたちの武器が、竜の体に襲いかかる。
硬いウロコはほとんどの攻撃を防ぐが、治りきっていない傷口をいくつもの槍や剣がかすめ、傷つけていく。
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38 名前: ◆xfSBMT78.A[] 投稿日:2016/03/29(火) 19:54:34 ID:.5wg0tsI0
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(#'A`)「くっ、ここもダメか」
ヒトを振り払い、彼は大きく飛び上がる。
向けられる弓や魔力弾に撃たれながら、彼はよろよろと飛び立っていく。
(;'A`)「どこに行けば、いいんだよ」
ヒトの領域に留まっていたら、殺される。
とは言え、黒の領域はもっとダメだ。
あの竜の群れたちに今度鉢合わせたら生きてはいけないし、凶悪な魔物に襲われたことだって忘れられない。
長年過ごした巣にも、もう戻れない。
(;'A`)「……海」
彼にはもう居場所はない。――となれば、海を渡り安住の地を探すしか道はなかった。