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22 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:55:20 ID:yYm6uZjQ0
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何故?
きっと貴方は。
貴方はそう問いかけるでしょうか?
とても困ったような顔で、まるで、母さんや父さんのような表情で。
本当に、そっくり、何もかも。
理解できない。なんて顔で、私に問いかけるのでしょうか。
<(' _'<人ノ「でも、私にも分からないんです」
<(' _'<人ノ「私には、結局」
<(' _'<人ノ「分からないんです」
あらゆるモノには、存在には、言葉には、行動には。
すべて理由があるべきなのでしょうか?
もし、そうだと言うならば私はどうやって貴方や、私自身に説明するべきなのでしょうか?
寂しいから?
悲しいから?
気持ちいいから?
気持ち悪いから?
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23 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:56:03 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「本当に、本当に」
<(' _'<人ノ「本当に、分からないんです」
逃げたいから?
追いたいから?
縋りたいから?
離れたいから?
生きたいから?
逝きたいから?
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24 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:56:36 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「ごめんなさい」
<(' _'<人ノ「ごめん、なさい。本当に、馬鹿だと思います」
<(' _'<人ノ「こんな事をして、何も変わらない。何も変わらない。それは私も分かっているんです」
<(' _'<人ノ「だけど、それでも私は、やらずにはいられないんです」
<(' _'<人ノ「理由なんて分からないんです。本当に、馬鹿な話ですが、分からないんです」
<(' _'<人ノ「自分自身への陶酔なのでしょうか? それとも何かに対する、呆れるくらいに小さな反抗なのでしょうか?」
<(' _'<人ノ「やっぱりいくら考えても私には分からないし、分かったとしても。それは、きっと、何の意味も無い事なのです」
<(' _'<人ノ「それでも、私は」
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25 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:57:11 ID:yYm6uZjQ0
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白い肌に、紅い筋。
手首に絡んだ、私の呪詛が。
<(' _'<人ノ「 」
また1つ、産声をあげました。
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26 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:57:44 ID:yYm6uZjQ0
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第2部
『リストカッター』
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27 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:58:21 ID:yYm6uZjQ0
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まるで、それは。
Χが抜け落ちた方程式。
虫食いだらけの、子供が無理矢理背伸びをしてでっち上げた。
数学的思考回路のようで……
(´・_・`)「手首」
(´・_・`)「手首」
(´・_・`)「手首手首手首手首手首手首手首」
(´・_・`)「手首」
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28 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:58:57 ID:yYm6uZjQ0
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鏡に映った私の姿は、言うまでもなく平凡です。
一糸纏わぬ(無駄にカッコつけた言い方。早い話が、全裸なんです)裸体は、とんと魅力を感じるようなものではありません。
肌は白いですが、情欲を掻き立てるような、それではなく。
ただ、ただ、不健康に青白いその様は、出来の悪い人形のように、不自然な感じがしました。
女性的、と言われるべきボディラインは、理想とはほど遠く。
凹凸の無い平淡な私の身体が、まさに思春期のありふれた年頃の少女のソレで、どこか哀しくて。
でも、それでいて、何だか安心できた気がしたんです。
<(' _'<人ノ(私は、おかしく無い)
髪は黒。ボサボサの、粗雑なニット帽を被ったみたいな、そんな黒。
顔は特徴の無いどこにでもいるソレで、良くも悪くも、誰の記憶にも、きっと残りはしないでしょう。
それ以外の特徴と言ったら、額に2つほど小さなニキビがあるだけでしょうか。
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29 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:59:31 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「つまり、それは」
<(' _'<人ノ「言うなれば」
普通。
平々凡々。
それが、いい。
それで、いい。
いいんだ。
<(' _'<人ノ「……」
いいよね?
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30 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:00:14 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「……」
締め切ったカーテンの隙間から密かに漏れる、私の肌より蒼白い月光が私の右半身を照らしました。
一切の灯りを消した、薄汚い室内にぼんやりと照らされた私の手首には、無数の『証』が刻まれていて、魅力に欠ける私の身体を、さらに醜く彩っています。
<(' _'<人ノ「……」
そっと、左手でソレをなぞります。
子猫を撫でるようなタッチでそこを辿ると、性的快感にも似た柔らかな刺激が私の身体にじんわりと広がっていきます。
この感覚を他人に説明するのは、なかなか上手くは出来ないのですが。
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31 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:00:59 ID:yYm6uZjQ0
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そう、言うなれば。
<(' _'<人ノ「生きている」
生の感覚。とでも言うべきなのでしょうか。
とにかく、私は、今、生きている。
そんな実感が薄ぼんやりと私の全身を包み、心臓の鼓動がだんだんと大きく響き渡り、エコーをきかせていくのです。
私は、今、生きている。
書きかけのノートや教科書。
友人と撮った写真フィルム。
脱ぎ散らかされた洋服。
先端がテカテカと濡れ光る卑猥な機械。
そういうものがゴチャゴチャと散らばった、ゴミ箱のような小さな世界で、私は今、確かに。
<(' _'<人ノ「生きている」
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32 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:01:36 ID:yYm6uZjQ0
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暗闇に、私の命だけが。
あの、美しい月明かりに反射するように。
弱々しくも、それでも、確かに。
輝いている。
<(' _'<人ノ「生きている」
<(' _'<人ノ「……」
<(' _'<人ノ「私は」
<(' _'<人ノ「生きている」
手首をまた、なぞる。
生きている。
ああ、本当に
<(' _'<人ノ「生きている」
哀しいくらいに、生きている。
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33 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:02:24 ID:yYm6uZjQ0
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(´・_・`)「祈りなさい」
(´・_・`)「祈りましょう」
(´・_・`)「祈りなさい」
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34 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:03:22 ID:yYm6uZjQ0
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仏の成就せる所は、第一の希有
なる難解の法にして、唯、仏と仏のみ、乃ち能く諸法の実相を究め尽くせばなり。
謂う所は
諸法の是の如き相と
是の如き性
是の如き体
是の如き力
是の如き作
是の如き因
是の如き縁
是の如き果
是の如き報
是の如き本末究竟等なり。
(´・_・`)「つまり、これは、十如是であるのさ」
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35 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:04:02 ID:yYm6uZjQ0
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私は幸せなのでしょう。ええ、きっと幸せ。
何故ならば私は今まで生きてきて、大きな不幸というものに見舞われたこともありませんから。
身近な人が死んだこともありません。
理不尽な不幸に陵辱されたこともありません。
両親に手を挙げられたこともありません。
大きな病に冒されたこともありません。
誰かに酷く疎まれたこともありません。
女に産まれたことを後悔するような目にあったこともありません。
だから、私はきっと。
<(' _'<人ノ「私は、幸せ」
噛み締めるように呟きました。
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36 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:04:35 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「幸せ」
<(' _'<人ノ「幸せ、幸せ、幸せ」
<(' _'<人ノ「……」
噛み、締める、ように。
<(' _'<人ノ「幸せ?」
幸せの裏側。
柔らかく、暖かい。
世界中の人達が、夢中になって追い求めるモノの裏側は?
幸せの裏側は。
本当に、不幸なのでしょうか?
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37 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:05:20 ID:yYm6uZjQ0
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(´・_・`)「 ねえ」
(´・_・`)「君の後ろの、黒くて、ぐにゃぐにゃした、ソレは、誰?」
(´・_・`)「それ、本当に、誰?」
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38 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:05:52 ID:yYm6uZjQ0
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桃色の剃刀を左手に軽く握り、右の手首に当てました。
刃先を立てるように構え、皮膚にしっとりと密着させると、私の全身の産毛がぞわりと逆立って、お世辞にもキモチイイとは言えない、あの感覚。
泥水と氷水を、ありったけに浴びたような、冷たく、臭く、汚いそれがベッタリと絡み付きました。
<(' _'<人ノ「……」
何故こんな事をしているのでしょうか?
何故私は満たされないのでしょうか?
何故私は不幸を演じているのでしょうか?
何故私は産まれてきたのでしょうか?
<(' _'<人ノ「どうして?」
ねえ。
何故、呼吸をしているだけなのに。
こんなに、重くて。
寒いのでしょうか?
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39 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:06:28 ID:yYm6uZjQ0
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勢いよく、それでいて、余韻を残すようにじっとりと。
引き抜いたそれが産み出した私の魂の滴。
青白い光とと黒い闇に満たされていた空間に割って入るように産まれた、紅の色がまるで、ぶらっどすぴねぃるのように、艶やかにピカピカと。
汚ならしくピカピカと輝き、私の命の鼓動を急かすように早めるのです。
<(' _'<人ノ「……」
やがて、手首の傷から産まれた鈍く光る私の魂の証は。
まるでアメーバのようにウニョウニョと蠢きだします。
そして出来の悪い、早送りの、植物か何かの成長の映像でも見てるかのようにあっという間に大きく育ち、巨大な蛇の形になりました。
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40 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:07:25 ID:yYm6uZjQ0
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ニョロリニョロリと頭を揺らめかし、チロリチロリと舌を出す。
もんすたあ。という言葉で表すには余りにも愛しい、私の分身は、舐めるような視線をこちらに寄越した後。
グチョリグチョリとわざとらしい水音を立てながら上品(私の乳首が、勃起するほど上品)に変体。
そうして私が気が付いた時には、パックリと大きな口を開いていた蛇の頭がしっかりとその形を変え、見事な深紅の右腕になっていてました。
その存在感たるやいなや、目も口も無い筈なのに、まるで血液全体で私をしっとりと見詰め、へもぐろびんを震わせながら、どこか笑っているようにも見えるのです。
<(' _'<人ノ「 」
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41 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:08:12 ID:yYm6uZjQ0
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そしてその腕は、トロリトロリと焦らすように這いずり回りながら、私の身体に。
獲物を仕留める、百足のように絡みつき。
やがてはジュルリジュルリと全身から甘い甘い涎を垂れ流しながら、私の首に。
ヒタリと触れて。
<(' _'<人ノ「 」
じわりじわりと。
味わうように。
弄ぶように。
愉しむように。
ゆっくりと私の首筋を、閉めていく。
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42 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:09:10 ID:yYm6uZjQ0
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<(' _'<人ノ「 」
ああ、鼓動がまた(鼓動がまた)、大きく。
そして、月明かりが(ドクンドクン)消えて。
紅いソレが、(ドクンドクン)私の世界を融かすように(ドクンドクン)埋め尽くす。
黒いアレが、(ドクンドクン)私の視界を壊していくように(ドクンドクン)染めあげていく。
<(' _'<人ノ「 」
ぽつり。
追い込まれた私の、叶わぬ独白と共に。
私の一部が暗闇に蕩けて。
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43 名前: ◆v9a62Q4dlc[] 投稿日:2016/03/27(日) 06:09:46 ID:yYm6uZjQ0
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「死にたい」
そしてまた、私は泣きながら。
シアワセになりました。
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