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56 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:31:22 ID:h7hhsNrw0
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雲一つない日本晴れである。
起きる前からどうせそんな天気だろうとは思っていたが、ここまで予想通りだと笑えてくる。
あくびをしながらハイエースから降りると、朝飯にしろという意味か、族長が転がっていた。
('A`) 「安らかに眠れ」
俺は族長をお姫様抱っこすると(肘までのゴム手袋装着)、川に流して水葬にした。
川 ゚ -゚) 「お、ここにいたのかドクオ。どうした朝飯は食わなかったのか?」
('A`) 「車ん中でアンパンと水飲んだよ。あんなものが食えるか」
川 ゚ -゚) 「ですよね」
俺はクーと連れ立って村を闊歩する。
小川に田畑、民家に役場。ちっぽけな商店はまだシャッターが閉まっていて、村内放送のスピーカーからはちょうどラジオ体操が流れ始める。
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57 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:31:52 ID:h7hhsNrw0
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川 ゚ -゚) 「すまなかったな。騙すような真似をして」
('A`) 「こっちは見透かした上で請けたんだ。謝られる覚えはない」
俺は立ち止まって辺りを見渡した。
ひまわりの花が揺れ、昨日のクソガキどもが体操の音楽につられて表に飛び出してくる。
――いい田舎だ、と思う。
('A`) 「ステレオタイプ過ぎるけどな。こういうのが原風景っていうんだろ。都会育ちでも綺麗な農村見ると悶えるだろ。心の底に刻まれてんだよ」
('A`) 「安心しろ。素材がこれだけいいなら俺の腕はともかく、いい写真になる」
俺がそう言って笑いかけると、隣にいたはずのクーの姿はなかった。
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58 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:32:19 ID:h7hhsNrw0
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('A`) 「クー……?」
川 ゚ -゚) 「あ?」
10歩くらい離れた場所のベンチで、クーは久保帯人著『BLEACH』を読んでいた。
川 ゚ -゚) 「やっぱ作者の人柄が滲み出てる作品って神だわ」
('A`) 「お前の中の判断基準それだけかよ」
俺は馬鹿らしくなって、機材を取りにハイエースに戻ろうとする。
川 ゚ -゚) 「おい」
('A`) 「なんだよ」
川 ゚ -゚) 「お前、ビオレママで抜ける?」
('A`) 「当然だ」
川 ゚ -゚) 「……ふっ。やはりお前に撮影を頼んで正解だった……」
('A`) 「もうちょっと会話の内容に因果関係を持たせない?」
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59 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:33:00 ID:h7hhsNrw0
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クーと別れ、車に積んだ荷物からデジタル一眼レフを取り出す。
三脚も望遠レンズもレリースも要らない。そもそも凝らすような撮影技術をもともと持っていない。
('A`) 「俺は写真家じゃねえんだよ」
俺にもしカリスマと呼ばれる才能があるとするなら、それは撮影技術でも、ましてや加工技術でもない。
村の中心部に歩いていっても、もう誰も残っていなかった。ベンチにもクーの影はおろか、ブリーチのブの字も残っていない。
俺はカメラを高々と掲げし、ファインダーも液晶も覗かずに無人の村の中で叫ぶ。
('A`) 「お望みの撮影時間だ! いいか!? 俺はシャッターを適当に切るだけだ!」
('A`) 「もし俺に写真を撮って欲しいならなぁ!」
('A`) 「てめえらの方から、勝手に飛び込んで来い!」
カメラ設定を秒間三十連写にする。
撮影時間は無制限。記憶媒体の容量がパンクするまで延々と高速撮影が続く。
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60 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:33:35 ID:h7hhsNrw0
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シャッターボタンを押した。
馬鹿みたいに絶え間なくシャッター音が連発する。
('A`) 「ほれほれほれ! 写れ写れ写れ!」
俺はカメラを四方八方にぶん回す。ピンボケ上等。手ブレ上等。
そんなノイズでボケてしまうような貧弱な被写体が俺に依頼をしてくるはずがない。
わははははは、と笑う声がする。
きゃあきゃあとはしゃぐ子供の声がする。
yes...good...と不穏な声がする。
――俺に才能があるとするなら。
――それは、本来写るべきではない被写体に好かれることだ。
('A`) 「もう一丁!」
弾丸を入れ替えるかのようにカメラのSDカードを交換して連写を続ける。
撮影成果を確認もしない。
どうせ不可視の被写体どもは己が最高に見えるように趣向を凝らして、勝手にレンズに飛び込んでくるのだ。
ならこちらが優先すべきは丁寧さよりも枚数だ。
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61 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:34:33 ID:h7hhsNrw0
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キチガイにしか見えないカメラぶん回しの撮影作業は数時間に及んだ。
そうして、疲れ切った俺は、SDカードを車内のプリンタに突っ込んで、自動印刷を開始した。
プリンタの口から大量に写真が吐き出されていくが、俺は一枚も見ずに運転席でふんぞり返る。
('A`) 「ああ終わった。早いとこシモン・ボリバルで抜こう」
ひどくくたびれた気がして、俺は目を閉じた。
ふと、黒一色の視界の中、ひどく近くから村人たちの声が聞こえてきた。
まるで車内から響いているようだった。
川 ゚ -゚) 「ありがとう。ドクオ。これで私たちはありし日の思い出を留めることができるよ」
( ^ω^) 「さすがは噂に聞こえたカリスマ写真屋だお」
( ・∀・) you are real...professional...
/ ,' 3 「殺せ、殺してくれ」
('A`) 「うるせーお世辞はやめろ。だいたい、てめえらの仲間はどこから俺の噂を嗅ぎ付けてんだよ」
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62 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:35:00 ID:h7hhsNrw0
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川 ゚ -゚) 「なに。我々のような者を撮影できるのは君だけだからな。有名にもなるさ」
('A`) 「二度と来るなよ」
川 ゚ -゚) 「ああ、安心して逝くさ」
('A`) 「あばよ」
川 ゚ -゚) 「そうだ。別れに歌を贈ろう。せめてもの感謝の気持ちを込めて……」
そしてクーたちは童謡『ふるさと』を歌うかと見せかけて、エアロスミスの『miss a thing』(アルマゲドンのテーマ)を歌い始めた。
しかも青年団の連中が異様に上手い。なんだこれ。まるで本物じゃねえか。
――いや、これは。
『……それでは。14歳の娘さんから働くお父さんへのエールにリクエストされたエアロスミスの『miss a thing』でした。今日もお仕事頑張ってくださいとのことです』
('A`) 「お父さん、隕石爆破にでも行くのか?」
眼を開けると、ラジオを付けた覚えのないカーステレオから、本物のエアロスミスが流れていた。
それどころか時刻もまだ夜が明けたばかり。ちょうど世にいう社畜の出勤時間だ。
('A`) 「ったく。またこんなオチかよ」
俺は悪態をついた。車の後部を見ると、プリンタは写真を吐き出しきっているし、布団は敷かれたままだし、アカギは積まれたままだ。
しかし、車外の光景は、昨日とえらく違った。
廃村である。
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63 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:35:51 ID:h7hhsNrw0
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人っ子一人いやしない。民家も役場も半ば腐り落ちていて、雑草だらけでロクに歩けたものではない。
車を降り、方向感覚だけを頼りにクーの家を探してみるが、石垣の跡くらいしか見つからなかった。
| ^o^ | 「おや、不審者がいますね」
| ^o^ | 「ころしますか」
/^o^\ 「ボディーにしとけって」
そのとき、工事業者の作業着を着た3人組が雑草を踏み分けて俺のそばにやってきた
('A`) 「うわっ。社畜だ。眼が眩むっ」
| ^o^ | 「こんなところで、なにをやっているんですか。テロリストですか」
| ^o^ | 「ころしますか」
/^o^\ 「指詰めにしとけって」
そこはかとなくヤバい空気を感じたが、俺は一瞬で冷静になる。
('A`) 「ああ俺はですね、廃墟専門のカメラマンなんですよ。ちょうどいい村があるというんで撮影に来てました」
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64 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:36:19 ID:h7hhsNrw0
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| ^o^ | 「あやしいですね」
とりあえず俺の車に案内して、プリンタから吐き出された写真を何枚か引っ掴む。
そこに写っているのは、俺が訪れていたはずの『美しい村の姿』だ。
('A`) 「ほら。廃村の写真だろ?」
| ^o^ | 「なるほど。これは見紛うことなきハイソン」
何も不思議がることではない。
あるべきはずでない者たちを写真に撮れるのが俺ならば、その写真をまともに見ることができるのも俺だけなのだ。
たぶん、こいつらには何の変哲もない廃村の姿に写っている。
/^o^\ 「工事の邪魔だから消えろカス」
('A`) 「へいへい。他の車が来る前に帰りますよ」
これ以上の疑いをかけられる前に、俺はそそくさと車のエンジンをかける。
村の出口に向かって走らせ、その間際、
('A`) 「ほらよ! 約束のブツだ!」
撮った写真を村の中にバラまいた。作業員たちが「ゴミ撒くな」と喚いて追ってくるが、突風が吹いて写真はすべて宙に舞っていく。
それはそうだろう。依頼して撮ったものをゴミ扱いで攫われるわけにはいくまい。
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65 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:37:00 ID:h7hhsNrw0
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('A`) 「『好きなだけ写真撮らせてくれる』って報酬も確かに頂戴したぞ! データは貰ってくからな! あばよ! 安心して沈め!」
エンジンを吹かして細い林道に突っ込む。
村の出口に立てかけられた工事業者の看板には、こう書かれていた。
『旧・久宇(くう)村 工事中につき関係者以外立入厳禁』
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66 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:37:26 ID:h7hhsNrw0
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('A`) 「オマンコブギウギ」
そんなわけで俺は写真を加工する。くっそくだらない無様な写真たちを、俺の目に見えているように。手間暇をかけて少しずつ。
完成図が最初から見えているのだから、弄る手腕にもキレが出ようものである。
( <●><●>) 「ドクオさん!」
('A`) 「うわっ。社畜予備軍が来た。思わず俺の寿命が縮む」
( <●><●>) 「ありがとうございます! おかげさまで就職が決まりました!」
('A`) 「うるせえ俺に喧嘩売ってんのか。お前にレイプされたって内定先に通報してやろうか」
( <●><●>) 「あなたがそんなことをする人ではないと分かっています!」
パソコンの画像フォルダにはビロードの写真も残っている。
これも、他人の眼にはもともとのガキ臭い( ><)←こんな小便面にしか見えないだろう。
しかし、俺の目には『被写体が見せたかった理想の自分』が写るのだ。
それをそのまま加工で表に出してやれば、自信も付いて当たり前だ。
('A`) 「お礼っていうならさ、しゃぶれよ」
ボロンと一物を開帳するも、本当にしゃぶろうとしてきたので俺は膝蹴りでビロードの顎を突き上げた。
変な理想まで開眼させてしまったのかもしれない。
( <●><●>) 「おや……ドクオさん。ここに飾ってある写真はなんですか? ずいぶん綺麗な田舎の風景ですね」
('A`) 「ん? ああ、それか」
('A`) 「オンボロで誰もいなくなったくせに、綺麗に撮られたいっていう自己顕示欲だけは強い女々しい村の写真だよ」
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67 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:37:55 ID:h7hhsNrw0
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|┃≡
|┃≡
ベキッ.|┃≡
.______|川 ゚ -゚) < 聞き捨てならんな!
| と l
______.|┃ノーJ_
('A`) 「そしてまた俺の店の自動ドアが壊れる。修理費は約6万円。俺の小遣いが一瞬にして消え去る夏である」
川 ゚ -゚) 「お? 誰が若作りの化粧婆だ? マリリン・モンローだ?」
('A`) 「感動の別れをしたはずだろうが。なんで大人しくダムの底に沈んでねえんだよ」
川 ゚ -゚) 「ダム事業が仕分けられたんだよ……無期延期だよ……どうすんだよこの無駄に潰されたやるせなさ……」
('A`) 「あ、うん……」
( <●><●>) 「おや。これは私は失礼した方がよろしいようですね。分かります」
('A`) 「なんかすげえ腹の立つ気の使い方されてる」
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68 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:38:46 ID:h7hhsNrw0
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ビロードが壊れた自動ドアを蹴破って(中破→大破)、揚揚と店を去っていく。とりあえず器物損壊で通報しておこうと決める。
クーはレジ前に飾られた村の風景写真を手に取り、
川 ゚ -゚) 「おおドクオ。なんだか美しい写真があるな。これをコンテストに出そうそうしよう」
川 ゚ -゚) 「大賞間違いなしや!」
('A`) 「てめえさては自分の美しさアピールしたいだけだろ。出さねえからな。また不正扱いされるだけだ」
川 ゚ -゚) 「は? つべこべいわず出せや。架空の戸籍購入してでも応募しろや」
('A`) 「やだこいつモンスター客だわ」
しかし、写真を褒めちぎるクーがあまりにも上機嫌で、俺も嬉しくなってしまったから――
おーいお茶俳句大賞にその写真を応募することで、一応の決着を見た。
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69 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/03(日) 20:39:34 ID:h7hhsNrw0
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< おわり! >
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|っ| ヽ_ノ と|
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第二話より
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第二話より
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('A`)はプロの写真屋のようです