('A`)はプロの写真屋のようです

1 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:42:11 ID:IZ.M.bbU0
 俺の名はドクオ。またの名をPhotoshopの魔術師。
 就活や婚活で悩み苦しむ顔面困窮者どもに救いを与える光の如き存在である。

('A`) 「まだガキらしさが抜けず就活で連戦連敗中・都内在住大学生のビロードくん(22)も、俺の手にかかれば……」

before
( ><)
  ↓
after
( <●><●>)

('A`) 「ご覧あれ。瞬く間に頼もしいナイトの顔に。この眼力は間違いなく人を殺せる」

('A`) 「じゃ、注文の証明写真10枚で5万円ね。最初に言ったけどうちは高いから。文句はないよね?」

( <●><●>) 「もちろん喜んで払うんです! なんだか生まれ変わった気分なんです! ありがとうございます!」

('A`) 「たぶんもうじきそのガキっぽい口調も消えてくると思うから、就活もきっとうまくいくよ」

('A`) 「個人的には失敗して社会のゴミ仲間が増えて欲しいんだけどな」

( <●><●>) 「こんなに素晴らしい写真を撮れるあなたがゴミなんてとんでもないんです!」

('A`) 「うるせー所詮は加工だ。AVのパッケージだったら詐欺レベルだ。さっさと消えないと料金倍にするぞ」

 俺は忙しいのだ。女児向けアニメの18禁コラージュを画集にまとめて即売会で売り捌いたり、あるいはセルフで抜いたり。
 余談だが、セルフスタンドでアナルにガソリンを注入したら気分はさしずめトランスフォーマーである。コンボイ。

2 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:43:44 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「やっとガキが帰ったか。ああ疲れた。やっぱり仕事なんてするもんじゃねえ。早いとこチェ・ゲバラで抜こう」

 しかし、そのとき俺の背中に「ぶわっ」と鳥肌が立った。とうとう童貞をこじらせて天使の羽根が生えるのではない。
 店の表から唐突に臭い立った、新たな仕事の気配へのアレルギー反応である。

    |┃≡
    |┃≡
 ベキッ.|┃≡    
.______|川 ゚ -゚) < たのもう!
    | と   l
______.|┃ノーJ_


('A`) 「うちの店自動ドアなんだけどナチュラルに壊してくれたなこの犯罪者」

川 ゚ -゚)「初来店のお客様に対してそんなイケナイ台詞を吐いちゃうのはこの口か? それとも……下のお口か?」

('A`) 「出会い頭にアナルから前立腺を抉ってくるのは悔しいがちょっと嬉しい」

 括約筋を駆使して客の指を排出(リジェクト)すると、彼女はチョコバーと化した指を俺のしまむらシャツでさりげなく拭った。
 歳若い乙女らしい控えめな配慮である。

3 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:44:40 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「はあ。仕事ですか仕事なんですね。労働は国民の義務ですもんね。だが断る。仕事は一日一件まで。それが俺ルール」

川 ゚ -゚) 「てめえのルールなんか知らねえよ。こっちは切実なんだよ。お客様は神様やぞ? おんどれ神に逆らう気か? 中二系アンチヒーローか? それとも巨人ファンか?」

('A`) 「やだこの客阪神ファンだわ……通報しないと……」

 真性のヤクルトファン(選手の靭帯を次々にぶっ壊すところがニート魂をくすぐる)である俺は、とりあえず中指を立てた。

('A`) 「ていうか客なら客で事前に予約しろや。うちは就活婚活万事オーケーの超人気写真屋だぞ。アポなしで依頼できると思ってんの?」

('A`) 「自動ドア弁償した上で予約名簿に名前と連絡先書いていくなら、1年後くらいには受けてやらんでもないがな」

 踵を返そうとした俺の肩を、すがるような手が掴んだ。

川 ゚ -゚) 「頼む。時間がないんだ」

('A`) 「なんだ? 婚期でも逃しそうなのか? 大富豪とでも見合いするのか?」

川 ゚ -゚) 「違う。証明写真や見合い写真を撮りたいんじゃない。風景写真を撮って欲しいんだ」

4 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:45:42 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「風景ぃ? そんなもん、もっと高尚なゲージュツ家の先生に撮ってもらえよ。俺は専門外だ」

 俺は写真家ではなく写真屋である。実用に即した写真を提供するのがモットーだ。
 俺の写真が貼られるべきは書類の写真欄の中であって、断じて額縁ではない。

川 ゚ -゚) 「だが、かつて数多の写真コンクールで賞を攫った『練馬区の暴れ牛・ドクオ』とは貴様のことだろう?」

('A`) 「普通に実名で応募したはずなのになんか由来不明の二つ名付けられてる」

 ちなみに俺は練馬区出身ではない。生まれも育ちも板橋区だ。

5 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:46:16 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「だいたい、その賞なら全部剥奪されたよ。全部画像加工してたのがバレたからな。もうどこのコンクールも俺の応募を受け入れちゃくれない」

川 ゚ -゚) 「だが、いかに加工だとしても審査員が素晴らしいと思ったから賞が与えられたんだろう?」

('A`) 「ドーピングした選手が世界新出したところで何の誇りにもなりゃせんよ」

川 ゚ -゚) 「ドーピングでも構わない。いや、美しく見せてくれるなら、その方がいいくらいだ」

('A`) 「……あ?」

川 ゚ -゚) 「『栃木の暴れ牛・ドクオ』よ。お前を見込んで頼みがある」

('A`) 「俺の出身地コロコロ変わるね」

川 ゚ -゚) 「ダムに沈む私の故郷を――どうか、写真に収めてくれないだろうか」

6 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:47:15 ID:IZ.M.bbU0


          ――('A`)はプロの写真屋のようです――

7 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:48:53 ID:IZ.M.bbU0
 季節はうざったいほどの夏である。
 ユースフルな若者ならば極上の汗を流して青春できようものだが、四捨五入すれば三十路になってしまう歳ではそこまで陽気になれない。
 運転席の窓から差す殺人的な陽光にうんざりとしながら、俺はキャンピング仕様に改造した愛車のハイエースを走らせていた。
 
('A`) 「田舎の旅館に一人旅の予約入れると自殺警戒されてだいたい断られるんだよな」

 仮に予約できたとしても、当日にフロントで塩を撒かれることもある。
 これも俺の纏う陰のオーラのせいであろう。

川 ゚ -゚) 「おい。この布団臭くて寝れんぞ。シーツ変えてるのか?」

('A`) 「人が峠道をかれこれ二時間近く運転してるのに、よく呑気に寝ようとできるな」

 クーと名乗った客は、座席後部のキャンピング空間で昼寝を決め込もうとしていた。
 枕元には福本信行著『アカギ』の単行本が積み上げられているが、どうやら鷲頭麻雀の途中(開始後9年目くらい)で読むのを止めたらしい。

8 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:49:41 ID:IZ.M.bbU0
川 ゚ -゚) 「だってこんなド田舎までの道中とか退屈で死にそうだし……」

('A`) 「故郷への愛着どうした」

川 ゚ -゚)+ 「愛着とダルさは両立する。可愛いは作れる」

('A`) 「決め台詞っぽくいえば何でも許されると思うなよ」

川 ゚ -゚) 「うるさい黙って走れ。報酬を忘れたのか?」

('A`) 「忘れちゃいねえよ。お前こそ絶対守れよ。警察に駆けこんでチャラにするとかなしだからな?」

〜回想〜

川 ゚ -゚) 「もし仕事を引き受けてくれるなら、この超絶美人の私が好きなだけどんな写真でも撮らせてやろう!」

川 ゚ -゚) 「無論……あんなところやこんなところも撮り放題……!」
 
川 ゚ -゚) 「さあ! どうする!?」

('A`) 「ハイご成約」


〜回想終わり〜

9 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:50:21 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「絶対だぞ。冗談抜きに『クパァ……クチュクチュ』とかさせるからな」

川 ゚ -゚) 「うわ……引くわ……」

('A`) 「どうとでも言いたまえよ明智クン」

 俺という超人気写真屋相手に「どんな写真でも」と白紙の小切手を切ったなら、そのくらいは当然である。

('A`) 「しかし、そこまでして故郷の写真なんか残したいか?」

川 ゚ -゚) 「ああ。世田谷育ちの都会人には分からんかもしれんが、田舎者にとって故郷は特別なんだよ」

川 ゚ -゚) 「村から一歩も出ずに人生を終えるなんて珍しくない。誇張抜きに、あれは一つの世界なんだ。その世界が終ろうとしているんだぞ」

('A`) 「全然共感できましぇーん。自治体からの補償金握りしめて上京すれば?」

川 ゚ -゚) 「貴様にはノスタルジーというものがないのか……! これだから埼玉土人は……!」

('A`) 「もうどこでもいいよ俺の出身」

 林に囲まれた峠道はいつの間にか舗装も消え、時折立っている電柱は腐ったような木製で、途中でくぐったトンネルは戦前からあるようなレンガ製だった。
 昼でも薄暗い道には外灯もなく、道幅もギリギリ一台分で、踏み外せば林へ転落真っ逆さまのの急斜面である。死んでも夜には通りたくないと思う。

10 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:50:57 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「こんな先に人が住めるとは思えないんですけど」

川 ゚ -゚) 「ふざけるな。まだそこそこ人がいるんだぞ? 限界集落の癖して子供も若者も少なくない。いまどき珍しい優良村落だ」

川 ゚ -゚) 「『あっぷる』社の『あいふぉーん』だって3人も所有者がいるんだ!」

('A`) 「電波届くの?」

川 ゚ -゚) 「でん……ぱ……?」

('A`) 「待て。電波の概念がない世界で、iPhoneを何の用途で使ってるんだ?」

川 ゚ -゚) 「え……あれ……光るじゃん……? 動くじゃん……? よく飛ぶじゃん……?」

('A`) 「文明人にはちょっと理解できないiPhoneの用途が展開されている模様。これにはジョブスも草葉の陰で苦笑い」

11 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:51:33 ID:IZ.M.bbU0
 と、そんな会話をしていたところで、上り坂だった峠道が分水嶺に達し、下りの傾斜へと変わった。

川 ゚ -゚) 「おっと。このまましばらく下っていけば村に着くぞ。ちょうど山間にあるんだ。そのせいで、ダムにはこの上ない立地なんだがな」

('A`) 「水力発電はエコなんだぜ」

川 ゚ -゚) 「別に反対というわけじゃないさ。子育て世代では金を貰い、大手を振って街に移住できると喜んでいたのも多いしな。ちょっと寂しいだけだ」

('A`) 「その割にはずいぶんとご執心なことで」

 俺が詰ると、クーは不貞寝っぽくごろりと横になった。ただし、枕にファブリーズを10回ほど噴き付けてから。
 少しでも寝苦しくしてやろうと、心中覚悟でエアコンを切って車内をサウナ状態にしていると――

 ふいに林道が割れるようにして、視界が開けた。

('A`) 「おお……」

 思わず漏れたのは嘆息の声だった。鬱蒼とした暗緑色の林道から、日光に映える芝の黄緑に眼が一瞬だけ眩む。
 こんな僻地でどれだけの手間をかけたのか、田園は青々とした稲を伸ばし、畑には向日葵が咲いている。

12 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:52:43 ID:IZ.M.bbU0
川 ゚ -゚) 「どうだ。田舎にしてはちょっとしたものだろう?」

('A`) 「いかにも感動系エロゲに出てきそうな田舎だ……!」

('A`) 「ワンピースの美少女はどこや!」

('A`) 「こちとらちょうどハイエース乗車中やで!」

川 ゚ -゚) 「おっとハイエース乗りの悪評を広げる真似はやめてもらおうか」

 クーは窓を開けて村の風を車内に吹き入れた。不思議なことに、真夏だというのに空気がやたら清涼だ。
 そして、立ち並ぶ木造の家々へ叫んだ。

川 ゚ー゚) 「みんな! 写真屋が来たぞ! この村の最期の姿をしっかり収めて貰おうじゃないか!」

13 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:53:15 ID:IZ.M.bbU0
 まず聞こえたのは「わぁ!」という甲高い子供の声だ。

ξ*゚听)ξ 「わ! 本当に来たんだ!」

(* ^ω^) 「おっおっ! これで記念アルバムが作れるお!」 
 
ノハ*゚听)ノシ 「おいカメラこっちカメラ!」

く(,,゚Д゚)/ 「くだらん……何が思い出だ……」ポーズキメ

 どこからともなくぞろぞろと子供たちがタケノコのように湧いて出てくる。

川 ゚ー゚) 「おいお前ら! まだ撮影は始まらんぞ! まずは『上越の前科二犯・ドクオ』先生に茶でも出してやらんとな!」

('A`) 「おかしいな。いつの間に逮捕歴付いたんだろ俺」

14 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 03:53:59 ID:IZ.M.bbU0
 そう言いながら、俺はバックミラーを注視していた。
 背後に見えるのは、林道から村に通じるべきただ一本の道。
 その青々とした芝生の上には――




 ――人里に当然あるべき、車の轍がどこにもなかった。

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