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78 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:34:59 ID:jK9Wh.Rc0
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結局、ドクオの家で夕飯を済ませた。今日はオムライスを作ってくれた。
ドクオの作るオムライスは、巷で流行っている半熟トロトロのアレではない。
昔ながらの、薄焼きの卵で包んだものだ。
我が家はとろふわ卵に秘伝デミグラスソースのオムライスが主流なのだが、ドクオ流のケチャップオムライスも文句無しに美味しい。
なんとも甲乙つけ難い。
チキンライスには、微塵切りにされた野菜がたくさん入っている。
しかも食感を楽しめるように、火の入れ方まで拘っているらしい。
肉はその時の気分で変更するそうだ。
今日は切ったウィンナーが入っていた。
このチキンライスを、バターの風味が香る卵と一緒に食べることで、数段階上のランクにレベルアップする。
卵の上にかかったケチャップもくど過ぎることなく、飽きずに最後まで楽しめるオムライスだ。
余談だが、ショボンの分のオムライスにはケチャップでハートマークが描かれていた。普通に殴られていた。
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79 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:37:02 ID:jK9Wh.Rc0
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ああ見えて、ドクオは料理が得意だったりする。
中学2年生の夏休みに、料理男子はモテるという情報を信じて修行した結果、料理の腕前が上達した。
料理を披露する相手が僕らしかいないということに気付いたのは、それから1年ほど経った後である。
僕とショボンは最初から気付いていたが、敢えて黙っていた。
しかしまさか、1年間も気付かないとは思わなかった。
料理を始めたての頃は、とても食べられるものではなかった。
一応ちゃんと食べたが。
ショボンもなんやかんや文句を言いつつ、きちんと完食してから味の批評をしてあげていた。
はじめは辛口コメントばかりだったが、夏が終わる頃にはそれもほとんど無くなっていた。
良いところ、悪いところをしっかりと指摘して、どうすれば改善されるか等もきっちりと言う。
自分でも分からないことは、ちゃんと調べてからドクオに話していたことを僕は知っている。
ショボンの口から美味しかった、という言葉が出たのは10月になってからだった。
あの時はドクオも感極まって泣きだしそうになって、大変だったものだ。
きっとショボンが居なかったら、ドクオの料理の腕前がここまで上達することは無かっただろう。
間違いない。
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80 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:39:19 ID:jK9Wh.Rc0
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それから少し経って、高校の頃だったか。
僕らは相変わらず、休みの日はドクオに材料費と少しの手間賃を払い、昼食をご馳走になっていた。
そんなある日、ちょっとした事件が起きる。
当時のショボンの彼女が、ショボンに手料理を振舞ったらしい。
するとその手料理を食べたショボンが、
(´・ω・`)『ドクオの飯の方が美味い』
と、漏らしてしまったのだ。
当然速攻で振られたとのこと。
あれからショボンとドクオのホモ疑惑が後を絶たなかった。
しかも本人が面白がって否定しないせいで、ドクオに余計女子が寄り付かないという事態が巻き起こっていた。
そのことをドクオはまだ知らない。
いつの日か、彼に彼女が出来た時にでも教えてやるとしよう。
( ^ω^)「おっおっwww」
そんな来るかも分からない未来のことに思いを馳せながら、帰り道を歩く。
ショボンとは先程別れたので、今は1人だ。
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81 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:40:32 ID:jK9Wh.Rc0
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辺りはもうすっかりと夜の帳が下りているが、まだまだ暑い。
夏特有のじめっとした空気が、身体に纏わりついてくる。
汗で張り付いてしまいそうなシャツを手で摘み、パタパタと乾かす。
額から滴る汗は、既に湿ってしまったハンカチで拭き取る。
あまり良い気分ではない。
こんなじめじめした空気の中にいると、つい自然と思考まで湿っぽくなってきてしまう。
( ^ω^)「……」
今、存在しているドクオは、ショボンは、荒巻博士の言うところの「オリジナル」では無い。
彼らは既に、テレポート装置を利用したことが何度かある。
所謂、「スワンプマン」だ。
中学の頃、ワイワイと遊んでいた彼らとは別人だと言うのか。
( ^ω^)
頭の中で、即座に否定する。
別人のわけがない。
ドクオはドクオ。ショボンはショボンだ。
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82 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:42:08 ID:jK9Wh.Rc0
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そもそも、「オリジナル」とは一体何なんだ。
たとえばドクオの分子構造は、昨日と今日で全く同じということはない。
もっと細かい区切りで見ても、全く同じ状態なんて存在しない。
例を挙げるなら、オムライスを食べる前のドクオと、オムライスを食べた後のドクオ。
この2つを比較すると、当然ドクオを構成するものは異なる。
ドクオの胃の中にはオムライスが入っているし、食後のプリンだって体内に吸収されている。
食事中に飲んでたお茶だって、今ではドクオを構成する物質の一つだ。
極論、1秒前の自分と今の自分だって、別人だとさえ言えるだろう。
しかし、本当に別人であろうか?
たった今、瞬きした瞬間、僕が僕でなくなるというなら。
一体、僕とは何なのか。
僕という物質は、どの状態のことを言うのか。
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83 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:43:00 ID:jK9Wh.Rc0
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つまり、「オリジナル」なんてものは存在しないのだ。
人間の身体は、決して不変的なものなどではない。
昨日の僕と今日の僕が、同じ僕であるという証明なんて、他の誰にも出来やしない。
それを唯一証明出来るのは、自分の意識だ。
ドクオはスワンプマンになっても、5年以上前に買ったゲームのことだって覚えているし、美味しい料理を作ることが出来るし、彼女が出来ないし、内藤ホライゾンと友達だ。
ショボンはスワンプマンになっても、優しいし、ホモ臭いし、彼女に振られ続けるし、内藤ホライゾンと友達だ。
彼ら自身の意識が、記憶が、体験が、心が。
自分を自分だと証明している。
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84 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:43:43 ID:jK9Wh.Rc0
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しかし。
その意識すら、記憶すら、体験すら。
機械によって、0と1で構成された「ツクリモノ」だったら。
果たしてそれは、「ホンモノ」と言えるだろうか。
唯一、自分を自分と証明できる、彼ら自身の「心」でさえも。
他人によって作られた、「ニセモノ」だっていうのなら。
僕は、彼らをちゃんと、受け入れることが出来るだろうか。
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85 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:44:52 ID:jK9Wh.Rc0
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「――ちょっと!!」
( ^ω^)「!!」
唐突に後ろから突き刺さる、聞き慣れた女性の声。
そのたった一言が、泥沼のような深い深い思考から、僕を掬い上げてくれる。
ξ゚听)ξ
津出ツン。
僕の、恋人だ。
まさかこんなところで出会うとは思っても無かったので、驚いた。
(;^ω^)「どうしてこんなところにいるんだお? 夜も遅いし、危ないお」
ξ゚听)ξ「バイトが長引いちゃったのよ。そんで帰ろうとしたら、偶然あんたを見かけたの」
ほら、と紙袋を見せてくる。
きっと中に、バイト用の制服でも入っているのだろう。
そういえばツンのバイト先の飲食店は、ここからすぐ近くだった気がする。
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86 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:46:17 ID:jK9Wh.Rc0
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ξ゚听)ξ「ブーンこそ、どうしたのよ。まさか他の女の子と遊んでたんじゃないでしょうね?」
( ^ω^)「おっおっ、バレちゃったお。実はドク美とショボ子っていう2人と遊んでたんだお」
ξ゚听)ξ「まーたあいつらか……友達付き合いが良いのは分かるけど、たまには私にも構ってよね」
そう言い、少し頬を膨らませる。
確かに、最近ツンに構ってやれてない。
そもそもそれは、ツンとデートの行き先について喧嘩になったからだ。
あれから少し気まずかったので、意識的にこちらから連絡を控えていた。
どうやらもう、機嫌はなおったようだ。
ギスギスした雰囲気は得意でないので、ありがたい。
( ^ω^)「……夜も遅いし、家まで送るお。ほら、それ貸すお」
ξ゚听)ξ「あら、珍しく紳士的ね。せっかくだし、お言葉に甘えようかしら」
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87 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:47:26 ID:jK9Wh.Rc0
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彼女から紙袋を受け取る。
やはり中身は制服だったようで、それほど重くない。
そのまま横に並んで、2人で歩を進める。
ツンの家は、途中まで僕の家と同じ方向だ。
喋ることも思いつかないので、暫くは無言でいる。
だが不思議と、気まずい無言ではない。
先に口を開いたのは、ツンの方だった。
ξ゚听)ξ「……最近、ごめんね。ちょっとキツく当たってたでしょ」
今日の彼女は、やけにしおらしい。
こんなことを言うと、照れ隠しに1発貰ってしまうことが目に見えているので、心の中に仕舞っておく。
代わりに僕の口から出たのは、謝罪。
( ^ω^)「こちらこそ、ごめんだお。ほら、VIPタワーの件」
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88 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:48:36 ID:jK9Wh.Rc0
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ツンとはこの間、デート先について一悶着あった。
彼女はVIPタワーの夜景を観に行きたいと主張していたのだが、僕は得体の知れないテレポート装置を使うことを頑なに拒んでいた。
するとツンは、せっかくVIPタワーに行くのに、なんでわざわざ長時間エレベーターで寿司詰めにされねばならないのか。
そう反対し、僕と意見が食い違った。
流石にデートで別行動は避けたいので、僕がVIPタワーへ行くこと自体を渋っていたら、次第にエスカレートして行き、喧嘩になったのだ。
こうして思い返してみると、なんとも下らない喧嘩だったなぁ。
きっかけは些細なものだったが、お互い引くに引けなくなり、どんどんヒートアップしていった結果である。
ξ゚听)ξ「いいのよ。私の方こそ、あんたのこと考えてあげられなくてごめんね」
僕のこと。
そう、元はと言えば、僕が頑なにテレポート装置を拒んだことが原因なのだ。
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89 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:51:06 ID:jK9Wh.Rc0
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だが、得体の知れないという理由だけで毛嫌いしていたテレポート装置は、実際健康上の被害が皆無だと言う。
無知は罪なり、とはよく言ったものだ。
ただ、その代償により得た知は、空虚どころでは済まされないものだったが。
ツンの横顔を盗み見る。相変わらず綺麗だ。何年見続けていても飽きない。
しかし、そう。
彼女もまた、スワンプマンなのだ。
一度張り付いた嫌な考えを上書きするように、次の話題を探す。
( ^ω^)「それより、埋め合わせの件だお。前の土曜日の」
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90 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:52:23 ID:jK9Wh.Rc0
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ξ゚听)ξ「ああ、あれ。そういえば結局、何をさせられたの?」
( ^ω^)「ゼミのことだったお」
ξ゚听)ξ「ふーん」
適当な相槌をうたれる。あまり興味が無いようだ。
杉浦教授には、荒巻博士の実験について他言無用だと事前に告げられていた。
漠然と、有名人だから仕方ないと考えていたが、そんなレベルの問題ではなかった。
今思うと、当然だろう。
こんな情報がむやみやたらと広まったら、大パニックどころでは済まない。
というか、発表から3年経った今でも表面化してないのが不思議なくらいだ。
取り敢えずツンには、教授に呼ばれたということだけ伝えておいた。
そのおかげでデートの予定が先延ばしになってしまったわけだが、あまり根に持っていないらしい。
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91 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:54:36 ID:jK9Wh.Rc0
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ξ゚听)ξ「……別に、ね。私は無理してデートがしたいわけじゃないんだ」
声のトーンを少し落とし、ツンは話す。
ξ゚听)ξ「でもほら、なんていうか、さ。周りの子とかの話を聞くと、みんなもっと、恋愛にこう、……精力的、なんだよね。うん」
言いたいことが纏まってないのか、途切れ途切れに言葉を紡いでいる。
周りの音が小さくなったように感じた。
( ^ω^)「……精力的?」
ξ゚听)ξ「そう……ほら、話題のお店に並んだり、旅行に行ったり、そういう感じがさ」
ツンの交友関係を熟知しているわけでは無いので詳しくは分からないが、ツンの周りではそういった人間が多いらしい。
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92 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:55:16 ID:jK9Wh.Rc0
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そういえば、ツンがやけにデートに拘り始めたのは、今年に入ってからだったか。
ξ゚ -゚)ξ「けど私たちは、なんかもう、そういうことする感じじゃなくなってると言うか……少し、冷めてる気がするんだよね」
言われてみると、そうだろうか。
僕は特に気にしてなかったが、確かにそうかもしれない。
ξ゚ -゚)ξ「それが、その……そろそろ振られちゃうんじゃないかって、不安になってきて」
思わず目を見開き、歩幅がズレる。
僕が、ツンと、別れる?
頭の片隅にもなかった考えを、唐突に目の前に突き出され、思わず動揺する。
しかし、そんな僕の様子の変化に気付いていないのか、ツンは続ける。
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93 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:56:45 ID:jK9Wh.Rc0
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ξ゚ -゚)ξ「だから、今までに行ったことのない場所に行ったりして、新鮮さを取り戻そうかと思ったんだけど……」
ξ゚ー゚)ξ「……私ってば、空回りばっかしちゃって。逆に喧嘩は増えちゃうし、ダメダメだったね」
泣き笑いみたいな表情を、こちらに向ける。
心なしか、声が震えているように聞こえるのは、気のせいだろうか。
そしてこの時、理解した。
僕の、本当の気持ちを。
安心してくれ、ツン。
君のそんな心配は、全て杞憂なのだ。
だってそうだろう?
荒巻博士のあんな実験に付き合わされても、ツンと別れるという発想に今まで至らなかったことが、何よりの証拠じゃないか。
僕は君を、手放したりなんかしない。
手放してやるもんか。
( ^ω^)「……僕は、昔の関係も、今の関係も、両方好きだお。どっちが良いとか、選べないお」
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94 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:58:13 ID:jK9Wh.Rc0
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( ^ω^)「それでも、ツンが以前のような関係を望むと言うなら。僕は全力で、それに応えるお」
改めて言葉にするのは、とても恥ずかしい。
でも、今言わなければいけない気がする。
この言葉は、ツンだけにじゃない。
僕にも伝えなければならないものだ。
だから、告げよう。
( ^ω^)「――だって、僕は、ツンが好きだから」
( ^ω^)「どんな形であろうと、ツンのことが大好きだから」
思いの丈を、拙い言葉ながら、ぶつける。
そして、自分で再確認する。
きっと、難しく考え過ぎていたのだろう。
「オリジナル」だとか。
「スワンプマン」だとか。
そんなことは、関係ない。
僕はツンのことが好き。
ただそれだけだ。
本当に、たったそれだけのことだった。
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96 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:59:41 ID:jK9Wh.Rc0
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ξ*゚听)ξ「……ばーか。勘違いしないでよね」
ξ*゚ー゚)ξ「私は、ブーンと一緒に居られるだけで、十分幸せなんだよ」
こんなに可愛い笑顔を浮かべる彼女が。
こんなに可愛い笑顔を作れる心を持った彼女が。
ニセモノのわけがない。
ツクリモノのはずがない。
今、僕の隣にいる彼女は。
僕の右手に、そっと指を絡めてきた彼女は。
赤面しながらも、満面の笑みを浮かべている彼女は。
紛れもなく、津出ツンだ。
そんな当たり前のことに、やっと気付く。
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97 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:00:28 ID:jK9Wh.Rc0
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久しぶりに見た、恋人の笑顔。
何故かそれだけで、全てが救われたような気になった。
* * *
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98 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:02:19 ID:jK9Wh.Rc0
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彼女のマンションのエントランスホールまでたどりつく。
時刻はもう、夜の10時を回っていることだろう。
辺りには誰もいない。
繋いだ左手を名残惜しそうに手放し、僕にそっと告げる。
ξ゚听)ξ「……ここまでで良いわ。今日は本当にありがとう」
左手をスカートの横まで下ろし、ぎゅっと握りしめている。
代わりに差し出された右手が、僕の目の前に留まる。
( ^ω^)「……?」
ξ゚听)ξ「か、み、ぶ、く、ろ!」
(;^ω^)「おっ!」
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99 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:03:17 ID:jK9Wh.Rc0
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すっかり忘れていた。
あやうくこのまま持って帰るところだった。
左手に持っていた紙袋を、ツンに手渡す。
ξ゚听)ξ「持ち帰って何をする気だったのよ! この変態!」
(;^ω^)「ひっでぇ誤解だお」
ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ」
こんな軽口を言い合える関係が、僕は好きだ。
いや、「好き」では収まらないかもしれない。
きっと、僕はツンを――
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102 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:04:38 ID:jK9Wh.Rc0
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ふわり、と
視界が唐突に遮られる。
僕の唇に、柔らかいものが当たる。
嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが、僕の鼻腔を擽る。
突然起きたその事態に対し、いつまでもこの感覚に浸っていたい、と本能が訴えかけてくる。
しかしそれは、1秒も経たずに終わりを告げた。
視界が開けた時、僕に残っていたのは、少し湿った唇。
それと、微笑みを浮かべたツンの姿だった。
ξ゚ー゚)ξ「またね」
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103 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:05:44 ID:jK9Wh.Rc0
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ああ、ツン。
どうしてこうも愛おしい。
これじゃあもう、君のこと以外考えられないじゃないか。
「オリジナル」と「スワンプマン」の垣根なんて、君の前では無に等しい。
この気持ちは。感情は。想いは。
決してハリボテなんかじゃない。
紛れもない、本物の「愛」と呼んで良いだろう。
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104 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:06:44 ID:jK9Wh.Rc0
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それを、証明してみせよう。
( ^ω^)「ツン」
「一緒に、行きたいところがあるお」
僕なりの、覚悟だ。
* * *
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106 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:08:19 ID:jK9Wh.Rc0
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「ねぇ、本当に良いの?」
「良いんだお」
「でも、今まで凄く嫌がってたのに……」
「おっおっ、吹っ切れたんだお」
「なら良いけど……」
「そんなことより、ここ。前から行きたいって言ってたおね?」
「そうね、凄く楽しみ。あのしょぼくれには感謝しないとね」
「僕はお昼ご飯が楽しみだおー」
「まったく。いつも食べることばっかりなんだから」
『次の方々どうぞー。チケットとテレポートカードの準備をお願いしまーす』
「あ、そういえば。あんたは初めてだから、カードまだ無いんだっけ」
「ちゃんと事前に作っておいたお」
「なら良かった。これでお願いします」
『……はい! 確認しました!』
『それでは、海底300メートルの旅を、どうぞお楽しみください!』
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107 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:09:41 ID:jK9Wh.Rc0
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旧い自分に、さよならを交わそうか。
いや、必要ない。
「ツン」
「なぁに、ブーン」
「――愛してるお」
返事を聞く前に、意識が途絶える。
しばらく、おやすみ。僕。
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108 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 17:10:41 ID:jK9Wh.Rc0
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case.A 内藤ホライゾン
実験終了