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1 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:30:15 ID:GYqZQ/tA0
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そこに男が居りました。黒いローブを身に纏い、浜辺をザリザリ歩きます。
男は不思議な人でした。歳が25を超えてから、老いる事がありません。
男は不思議な力が使えます。種も仕掛けも無いそれは、人智を超えておりました。
だから男は、受け入れてはもらえませんでした。
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2 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:30:56 ID:GYqZQ/tA0
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男は死のうと思いました。長く永く、生きすぎたと思ったからです。
思い残す事はありません。
胸まで海に浸かったならば、持って来たロープに不思議な力をちょちょいと掛けて、自らを雁字搦めに縛り上げました。
男は海に沈みます。
波と一緒に、ザブンザブン。海の深くへ攫われます。
開けた口から、こぽこぽこぽ。沢山の泡が出ていきました。どれだけ時間が過ぎようと、息は苦しくなりません。
身動き出来ずに、コロリコロリ。転がっていれば、時につつんとつつかれました。擽ったいなと思えれど、何故か死ねる気がしません。
崖から投げたが良かったか。そう後悔した時です。
「わぁ! 本当だ!」
楽しげな声が聞こえて来ました。
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3 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:31:38 ID:GYqZQ/tA0
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何者なのかと見た先で、
o川*^ー^)o「変な魚ー!」
――――男は恋を、したのです。
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4 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:33:57 ID:GYqZQ/tA0
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それから、長い長い月日が流れました。
男は『魔法使い』と呼ばれ、洞窟の奥深くで暮らしています。
男は光り輝く大きな貝を、こんこんこん、優しく叩きました。
( "ゞ)「キュート、朝だよ」
o川*- -)o クピー…
( "ゞ)「いい加減、起きなさい」
o川*´〜`)o ムニャムニャ…?
( "ゞ)「今夜は嵐になりそうだ。出掛けるなら、早めに帰って来るように」
川*ぅ〜`)o「んぅ〜〜〜?」
( "ゞ)「起きてるかい? キュート」
o川*´ー`)o「起きてゆよ〜〜〜。おはよ〜、デルタしゃん……」
( "ゞ)「おはよう。ちゃんと聞いてたかい?」
o川*´ー`)o「ん〜〜〜……今夜はぁ、アワビぃ〜〜〜」
( "ゞ)「アワビじゃない。嵐だ」
o川*´ー`)o「朝飯ぃ〜〜〜」
ツンツン
「起きなさい」( "ゞ)σ)´〜`)o"「んぅ〜〜〜〜〜!」
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5 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:34:36 ID:GYqZQ/tA0
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( "ゞ)「起きたかい?」
o川*`゚ー゚)o「起きた!」
( "ゞ)「今日は、遠くへ出掛けていた王子が帰国する予定だけど、夜は嵐になる。その船が嵐に巻き込まれるかもしれないから、難破船には気を付けるように」
o川*^ー^)o「はーい!」
( "ゞ)「それじゃあ、行ってらっしゃい」
o川*゚ー゚)o ジッ…
( "ゞ)「……何だい?」
o川*^ー^)o「デルタさんも遊びに行こうよ!」
( "ゞ)「その内ね」
o川*゚ぺ)o「この間も、その前も、その前の前も、ずっと同じこと言ってる!」
( "ゞ)「魚たちは、俺を快く思っていないだろう?」
o川*゚ー゚)o「それは、デルタさんがみんなと遊ばないからだよ!」
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6 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:35:29 ID:GYqZQ/tA0
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o川*゚ー゚)o「ね? 行こう!」
( "ゞ)「その内ね」
o川*゚ぺ)o「む!」
( "ゞ)「その内」
o川*゚ぺ)o
( "ゞ)「行ってらっしゃい」
o川*゚ぺ)o
( "ゞ)
o川*゚ぺ)o
( "ゞ)
o川*`へ´)o「今日のキュートはかたいぞ!」
( "ゞ)「いつも通り、ふにふにだったよ」
o川;*゚ー゚)o「ん、んーとね……かたいの! かたいな! かたいなだよ!」
( "ゞ)「あぁ、頑なね」
o川*`ー´)o「そう! かたくななの!」
( "ゞ)「……分かった。行こう」
o川*゚ー゚)o !
o川*^ー^)o「やった! ありがとう、デルタさん!!!」
( "ゞ)「キュートが喜んでくれるなら、お安い御用さ。さぁ、行こう」
o川*^ー^)o「うん!」
.
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7 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:36:10 ID:GYqZQ/tA0
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そうして、夜になりました。
海中は変わらず穏やかですが、海面はぐらりぐらりと揺れています。
o川*^ー^)o「楽しかったね!」
( "ゞ)「そうかい?」
o川*^ー^)o「うん! 今日はデルタさんがいたから、とっても楽しかったよ!」
( "ゞ)「そんなに喜んでくれたなら、出てきた甲斐があったよ。さぁ、帰……」
o川*゚ー゚)o「……デルタさん?」
(;"ゞ)「キュート!」
男は人魚を抱き締めます。
それが合図と言わんばかりに、ザァッブゥーン! 船が沈んで来ました。
男も人魚も、周りにいた魚たちも、余波を受けて流されてしまいます。
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8 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:36:48 ID:GYqZQ/tA0
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(;-ゝ-)
(;"ゞ) !
(;"ゞ)「キュート! 無事かい?」
o川;>〜<)o「んぅ……ぶじぃ〜……」
( "ゞ)「そうか。良かった……」
o川;゚ー゚)o「わぁ……! 大きな船……!」
( "ゞ)「人間に見つかるといけない。早く帰ろう」
o川;゚ー゚)o
( "ゞ)「……キュート?」
o川;゚ー゚)σ「デルタさん、あれ!」
( "ゞ)「ん?」
o川;゚ー゚)σ「見て! あそこ! 船に引っ掛かってるの! 人間だよね!?」
( "ゞ)「……あぁ、うん。そうだね」
o川;*゚ー゚)o「まだ動いてるよ! 助けに行かなきゃ!」
( "ゞ)「キュート、帰るよ」
o川;*゚ー゚)o「デルタさん!」
( "ゞ)「時期に死ぬさ。放っておこう」
o川#゚ー゚)o「デルタさん!」
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9 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:37:37 ID:GYqZQ/tA0
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( "ゞ)「人間なんか助けて何になる。俺たちに利なんか無いだろう? さぁ、帰ろう」
o川#゚ー゚)o「私行く!」
( "ゞ)「キュート」
o川#>ー<)o「行くもん!」
( "ゞ)「今は嵐が来ているから、海面に上がる事も困難だ」
o川*`゚ー゚)o「私、行けるよ! 多分!!!」
( "ゞ)「仮に浜まで辿り着けて、それからどうするんだい?」
o川;*゚ー゚)o「んー……嵐が止むまで、岩陰に置いとく!」
( "ゞ)「人間は雨に打たれ続けると、凍えて死ぬ」
o川;*゚ー゚)o「じゃあ、どうしたらいいの!?」
( "ゞ)「助けたいと思っているのは君だけだよ。でも、あれが助かる術は無いさ。さぁ、帰ろう」
o川*゚ー゚)o「デルタさんなら、助けられるよね?」
( "ゞ)「……どうしてそんなに助けたいんだい?」
o川;*゚ー゚)o「……み、見つけちゃったから……」
( "ゞ)
( -ゝ-)「……分かった」
o川*^ー^)o「本当!? やった! ありがとう!!!」
( "ゞ)「でも、人間を助けるのは今回だけだよ。俺は人間が嫌いなんだから」
o川;´゚ー゚)o「う、うん……。ごめんなさい……」
( "ゞ)「いいさ。それでキュートが笑ってくれるなら」
そう言い置いて、男は助けに行きました。
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10 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:38:13 ID:GYqZQ/tA0
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人間を連れて、男と人魚は洞窟へ帰って来ました。
隅へそっと寝かされるのを、人魚はジッと見ています。
( "ゞ)「何か、気になるのかい?」
o川*゚ー゚)o「うん。あのね、人間は水の中じゃ生きられないんでしょ? どうするの?」
( "ゞ)「彼の身体に空気の膜を張ってあるんだ」
o川*゚ー゚)o「早いね!」
( "ゞ)「手遅れになったら、困るからね」
o川*゚ー゚)o「じゃあ、その内起きるの?」
( "ゞ)「陸にあげるまで寝ているよ」
o川*゚ー゚)o「そうなんだぁ……」
o川*゚ー゚)o
( "ゞ)「……キュート?」
o川*゚ー゚)o「んぅ? なぁに?」
( "ゞ)「さっきから、そればかり見ているね」
o川*゚ー゚)o「だって、こんなに近くで人間見るの、初めてだもん! ねぇ、デルタさん。触っても起きないよね?」
( "ゞ)「起きないけど、火傷するからダメだよ」
o川;*゚ー゚)o「むむむ……!」
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11 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:38:50 ID:GYqZQ/tA0
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光る貝の、その中で、寝そべる人魚は人間を、ジッとジィーッと見ておりました。
そんな人魚を見つめる男は、薄暗がりに座っています。
心持ちは、良くありません。何故なら、人間に向けられている瞳が、キラキラと輝いて見えるからです。
( ゞ)「……キュート」
o川*゚ー゚)o「なぁに〜?」
( ゞ)「そんなモノを見ていて、楽しいかい?」
o川*゚ー゚)o「見てるだけじゃ、楽しくないよ?」
o川*^ー^)o「でもね、この人、どんな話し方するのかなぁ? とか、地上だと、どんな生活してるのかなぁ? って、考えるのは楽しいよ!」
( ゞ)
( ゝ-)「そう、か……」
o川*^ー^)o「うん!」
( ゝ-)「……それは、この国の王子だから、……噂通りなら、気さくで温和な話し方をするだろう。生活は、良いものだろうさ」
o川*´ー`)o「そうなんだぁ〜……」
ぼんやり、ぼんやぁりと、王子に思いを巡らせる愛しい人魚に背を向けて、男はそっと、暗闇へと隠れました。
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12 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:39:29 ID:GYqZQ/tA0
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それから暫くすると、男は戻って来ました。
光り輝く大きな貝殻のベッドでは、人魚がすぴすぴと寝息を立てています。
( "ゞ)「お休み、キュート」
小さく呟いて、男は王子を担ぎ上げました。そして、洞窟を出ます。
荒れていた海面は、穏やかに揺れていました。
男は浜辺を目指して、海底を歩きます。
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13 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:39:59 ID:GYqZQ/tA0
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夜の海は
しん
と、していました。
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14 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:40:43 ID:GYqZQ/tA0
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静かなのは、海の中だけではありません。
嵐の過ぎた浜辺には、難破した船の残骸が、月明かりに照らされていました。ザザン、ザザンと、波の音だけが聞こえます。
男はその残骸の影に、王子を放り投げました。しかめっ面にはなりましたが、起きる気配はありません。
起きようが否が、今の男には関係ありませんでした。
ふわり。
海面に青空が漂います。それは、浅瀬を行ったり来たりしていました。
( "ゞ)「……キュート」
ばちゃり。
顔を出した人魚は、ペロリ、舌を出しました。
o川*>ー<)o「バレちゃった!」
( "ゞ)「全く、仕方の無い子だね」
o川*゚ぺ)o「仕方のある子だもん!」
( "ゞ)「はいはい」
男は拗ねる人魚を横抱きにして、王子の元へと戻ります。
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15 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:41:21 ID:GYqZQ/tA0
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側にしゃがむと、人魚は男の腕から抜けるように砂浜に降りました。
王子の顔を覗き込む後ろ姿はぶれません。きっと、それしか眼中に無いのでしょう。
金の光りに照らされて、海の鱗が輝きます。
風に揺れて青空が、雪の肌を撫でています。
海の中とは違う美しさに、思わず感嘆の息が漏れました。
ぴくりと震えたその身体が手を伸ばし、王子の髪に触れられます。
痛む胸に手を当てて、男は、人魚の気が済むまで待ち続けました。
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16 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:41:52 ID:GYqZQ/tA0
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洞窟に帰ってから、人魚はまた、ぼんやりしていました。
( "ゞ)「……キュート」
o川*゚ー゚)o「んぅ〜?」
( "ゞ)「もう眠る時間だよ」
o川*゚ー゚)o「……うん」
( "ゞ)「俺は先に寝るよ」
o川;*゚ー゚)o「あ、待って、デルタさん!」
( "ゞ)「ん? 何だい?」
o川*゚ー゚)o「陸を散歩してる時の話しが聞きたいの!」
( -ゝ-)「陸より海の方が綺麗だよ。お休み」
゙o川#*>ー<)o"「やぁだやぁだ〜〜〜!」
( "ゞ)「じゃあ、何が聞きたいんだい?」
o川*゚ー゚)o「ん〜っとね、海から浜辺に上がると、何があるの?」
( "ゞ)「砂かな」
゙o川#*>ー<)o"「違うの〜〜〜!」
( "ゞ)「浜辺を出ると、道がある」
o川*゚ー゚)o「みち?」
( "ゞ)「人間が歩きやすいように、土の上に煉瓦を敷いたところの事だよ」
o川*゚ー゚)o「れんが?」
男は人魚が眠るまで、陸の事を話して聞かせました。
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17 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:42:27 ID:GYqZQ/tA0
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――――それから、3日後のことです。
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18 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:43:00 ID:GYqZQ/tA0
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o川*´〜`)o" モッチャモッチャ
貝殻のベッドに腰掛けて、人魚は海藻を食べていました。寝起きなのか、目が開いていません。
そこへ、男が来ました。顔の半分が、フードに覆われています。
o川*´〜`)o"「ふあぁ〜……デルタしゃんらぁ……。……んぅ〜……」
o川*´ー`)o「おはよ〜……」
( ゝ )「おはよう、キュート」
o川*´〜`)o「陸のお散歩してたの〜? あのねぇ、私ねぇ、朝ごはんねぇ、」
( ゝ )「王子に、見られていたのかい?」
o川*´ー`)o「……んぅ〜……?」
( ゝ )「嵐の日に助けた、あの王子のことだよ」
o川*´ー`)o「嵐……助けた……王子……」
o川;*゚ー゚)o !
( ゝ )「見られていたのかい?」
o川;*゚ー゚)o「……な、なんで……?」
( ゝ )「『嵐の月夜に瞬いた空色の娘』を、王子が探しているからだよ」
o川*゚ー゚)o「え……?」
( ゝ )「……いい加減に、答えてくれないか」
o川;*゚ー゚)o「あ、ぅ……」
( "ゝ )「……見られたんだね?」
o川;- -)o「ご、ごめんなさい……」
.
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19 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:43:38 ID:GYqZQ/tA0
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( -ゝ )「いや、謝らなくていいんだよ」
o川;゚ー゚)o「で、でも……」
( "ゝ )「確かに、見られたことを直ぐに報せなかったのは、頂けないね」
o川;´ー`)o「ご、ごめんなさい……」
( "ゝ )「けど、王子は君を人魚だとは思っていないはずだ。何より、嵐の夜に王子を助けた娘など居るワケが無いと、世間は揶揄しているよ」
o川;´ー`)o「……そっかぁ……」
( "ゝ )「だから、さ……キュート」
o川*゚ー゚)o「んぅ?」
( -ゝ )「君が望むなら、……会えるんだよ」
o川*゚ー゚)o「会える? 何に?」
( -ゝ )「起きている、王子に……」
o川*゚ー゚)o !
o川*゚ー゚)o「本当!!?」
( "ゝ )「キュートに嘘は吐かないよ。……会いたいかい?」
o川*゚ー゚)o「明るい陸に行けるの?」
( "ゝ )「そうだよ」
o川*^ー^)o「じゃあ、会いたい!」
( -ゝ )「……そう、か……」
.
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20 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:44:11 ID:GYqZQ/tA0
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o川*゚ー゚)o「でも私、人魚だよ? 人魚は、人間に見られちゃいけないんでしょ?」
( "ゝ )「うん、そうだよ」
o川*゚ー゚)o「じゃあ、どうやって会いに行くの?」
( "ゝ )「……俺は『魔法使い』だぞ?」
o川*>ー<)o「知ってるよ!」
( "ゝ )「人魚を人間にするのは難しいだろうけど、出来ない事は無いはずさ」
o川*´゚ー゚)o「何だか大変そう……大丈夫? 無理してお腹壊したりしない?」
( "ゞ)「しないよ。俺は、キュートの為なら何でも出来そうなんだ。……頑張るよ」
o川*^ー^)o「じゃあ、たくさん応援するよ! 頑張ってね、デルタさん!」
( -ゝ )「ありがとう、キュート」
男は背を向けて、暗がりへと歩いて行きます。
( )「明日だ。明日の朝まで、待っててくれ」
o川*^ー^)o「はーい!」
そう言い残し、洞窟を後にしました。
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21 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:44:42 ID:GYqZQ/tA0
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そうして、1日が経ちました。
洞窟の奥では、男と人魚が話しをしています。
o川;*゚ー゚)o「……え? そ、そんな……」
( "ゞ)「何せ、尾ひれを足に変えるなんて、種族そのものを変えるようなモノだからね。タダと言う訳にはいかないらしい」
o川;*゚ー゚)o「で、でも、……足の代わりだなんて……分かんないよぉ……」
( "ゞ)「キュートの一部なら、何でもいい」
_,
o川;- -)o「んぅ〜〜〜……」
( "ゞ)「……何なら、“声”なんてどうだい?」
o川;*゚ー゚)o「声……?」
( "ゞ)「話せなくはなってしまうけれど、月日を重ねれば、意思の疎通も容易くなると思うよ」
o川*゚ー゚)o「……デルタさんが、そう言うなら……」
( "ゞ)「うん。じゃあ、始めようか」
o川;*゚ー゚)o「う、うん……」
( "ゞ)「そんなに固くならなくていいよ。はい、そこに座って」
o川;*゚ー゚)o「うん……」
人魚は言われた通り、貝殻のベッドに腰掛けました。
.
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22 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:45:17 ID:GYqZQ/tA0
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男がパチンッと指を鳴らすと、身体が光ります。そして、人魚を中心に、何かを書き始めました。
o川;*゚ー゚)o「……デルタさん」
( "ゞ)「ん?」
o川;*゚ー゚)o「何してるの?」
( "ゞ)「呪文を書いているんだよ。キュートを人間にするのに、必要なことだからね。……さぁ、出来たよ」
そう言って、男が少し離れると、その呪文を囲うように円が現れました。仄かに輝いています。
o川;´゚ー゚)o「で、デルタさん……」
( "ゞ)「怖いのかい?」
o川;´゚ー゚)o「うん……」
( "ゞ)「それなら、目を閉じているといいよ。直ぐに終わるからさ」
o川;´゚ー゚)o
o川;´>ー<)o ギュッ
( "ゞ)「……始めるよ」
男が指を動かすと、呪文は人魚の足下から浮かび上がります。それは身体を通り、頭を抜けると、静かに消えてしまいました。
.
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23 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:46:00 ID:GYqZQ/tA0
-
( "ゞ)「……終わったよ」
o川*゚ー゚)o !
人魚は尾ひれを見ます。それは、2本の足になっていました。
真っ白だった肌は少しの赤みを帯びて、肌色に近くなっています。
o川*゚ー゚)o !
o川;*゚ー゚)oそ
( "ゞ)「もう、声は出せないよ」
o川;*゚ー゚)o !
o川;´>ー<)o
( "ゞ)「さぁ、早くしないと日が暮れてしまう」
o川*^ー^)o"
o川;*゚ー゚)oそ
立ち上がった途端、人魚の身体がぐらりと傾きました。俺は腕を伸ばし、その身を抱き留めます。
o川*゚ー゚)o !
( -ゝ-)「歩きづらいだろう? 陸まで、抱いてあげるよ」
o川*^ー^)o"
けれど、男は歩き出しません。
.
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24 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:46:37 ID:GYqZQ/tA0
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o川*゚ー゚)o ?
゙o川*゚ー゚)o" ?
( -ゝ-)「……キュート」
o川*゚ー゚)o !
o川*^ー^)o ?
.
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25 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:47:11 ID:GYqZQ/tA0
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――――ちゅっ
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26 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:47:41 ID:GYqZQ/tA0
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o川*゚ー゚)o
o川;*////)o !!!!!????
( "ゞ)「……行こうか」
川;*∩∩)"
男は歩き出しました。
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27 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:48:15 ID:GYqZQ/tA0
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人魚が水面から上がると、海が纏わり付いて、綺麗なドレスになりました。
o川*゚ー゚)o !
( "ゞ)「降ろすよ」
砂浜に足を付けた人魚は、男の腕にしがみついたまま、面白そうに足踏みをします。
やんちゃな人魚が転ばないように、男はもう片方の手で支えました。
( "ゞ)「楽しいかい? キュート」
o川*゚ー゚)o !
o川*^ー^)o"
( "ゞ)「それなら良かったよ。さあ、歩きづらいとは思うけど、城に向かおう」
o川*`゚ー゚)o !
( "ゞ)「……見えるかい? キュート」
o川*゚ー゚)o ?
( "ゞ)「あの赤茶けた物が、煉瓦だよ」
o川*゚ー゚)o !!!
゙o川*>ー<)o" ♪
( "ゞ)「転ぶと痛いから、ゆっくり行こう」
o川*^ー^)o !
.
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28 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:48:55 ID:GYqZQ/tA0
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それから、人魚は引っ切り無しにローブを引っ張っては、気になったモノに指を差し、男はそれに答えていきます。
気付いた時には、城の前に居ました。
用件を告げて暫くすると、中へ通されます。
そして、謁見室に案内されました。奥の王座には、あの王子が座っています。
王子は人魚を見ると、側に控える老いた男に言いました。
「ほら、爺や! 夢じゃ無かったろう?」
「王子。客人の前ではしゃぐのはみっとものう御座います」
「! ……すまないね」
( -ゝ-)「いえ。喜んで頂けている様で、何よりに御座います」
「あぁ! 俺は嬉しいよ! ところで、命の恩人よ。名前を聞いても良いかな?」
o川;*゚ー゚)o !
( -ゝ-)「これは、キュートと申します」
「そうか、キュートか」
( -ゝ-)「はい。口の聞けぬ者で御座います故、参るのが遅くなってしまい、申し訳ありません」
「いやいや! こうして来てくれたんだ。構わないよ」
王子は人魚の元へ行き、その手を取りました。
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29 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:49:43 ID:GYqZQ/tA0
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o川;*゚ー゚)oそ
「城を案内しよう」
o川*゚ー゚)o !
o川*^ー^)o"
人魚は男を見上げて、クイクイとローブを引っ張ります。
男はそれを一瞥し、頭を下げました。
( -ゝ-)「行ってらっしゃいませ」
o川;*゚ー゚)oそ
「行こう! キュート」
再び伸ばされた手がローブを掠めて、離れて行きました。
「……宜しいので?」
( "ゞ)「はい。ところで、お聞き致したいのですが」
「私めに答えられる事でしたら、何なりと」
( "ゞ)「王子のお触れでは『妃に娶る』とありましたが、あれは真で御座いましょうか?」
「えぇ。勿論に御座います」
( -ゝ-)「そうですか。ならば、私はこれで……」
「お連れ様も、共に暮らせますよ?」
( -ゝ-)「いえ。私は、彼女さえ幸せならば、それでいいのです」
「左様で御座いますか……。ならば、城門までご案内致しましょう」
( "ゞ)「有り難う御座います」
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30 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:50:16 ID:GYqZQ/tA0
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人魚を置いて、男は1人、海に帰って来ました。
浜辺には、暗い暗い深海色をしたローブを纏う人間が、こちらに背を向けて立っています。
( )「帰りはお一人ですか?」
( "ゞ)「……何のようだ」
( )「随分な言いぐさですねぇ。僕はただ、様子を見に来ただけですよ」
( -ゝ-)「貴方に教わった魔法は成功した」
( )「それはそれは……やはり君は、優秀なんですよ。どうです? 僕の弟子になりません?」
( "ゞ)「俺は、死ぬ為に海に来たんだ」
( )「おやおや。知っていましたが、残念ですねぇ」
( "ゞ)「……ロミスさん」
( £°)「はい?」
( "ゞ)「あの魔法、自分に掛けることは出来るのか?」
( £^ )「勿論ですよ」
( -ゝ-)「そうか……。分かった」
( -ゝ-)
( "ゞ)
そこにはもう、誰も居ませんでした。
.
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31 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:50:55 ID:GYqZQ/tA0
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城に残された人魚は、与えられた部屋の窓から、夕陽に輝く海を眺めていました。その表情は、どこか物寂しげです。
王子は散々に手を尽くしましたが、2人きりになってから、
「……キュート」
o川 ゚ー゚)o ?
「何か、甘いものでも食べる?」
o川 ゚ー゚)o !
o川;^ー^)o"
人魚は楽しそうに笑ってくれません。
王子はその美しい空色の髪を優しく梳いて、部屋を後にしました。
o川´゚ー゚)o
「人魚姫」
o川;゚ー゚)oそ
振り向いた先に、男が立っています。
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32 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:51:27 ID:GYqZQ/tA0
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£*°ゞ°)「おやおや。これはこれは……お美しい」
o川;゚ー゚)o" !!!
£^ ゞ^ )「知っていますよ。デルタから話しを聞きますからねぇ」
o川*゚ー゚)o !
o川;*゚ー゚)o ?
£- ゞ°)「僕ですか? 僕は……そうですねぇ……」
£^ ゞ^ )「魔法使いの幸せを願う者、とでも言いましょうか」
o川;*゚ー゚)o" !
£°ゞ°)「デルタなら、海に帰りましたよ。彼は今、貴女に出会ったが為に遂げられなかった事を、成そうとしています」
o川;;゚ー゚)o !!?
o川;#゚ー゚)o" !!!
£°ゞ°)「嘘ではありませんよ、人魚姫」
o川 ゚ー゚)o
o川 ;ー;)o
£- ゞ- )「僕とて、友人を失うのは辛いのです。なので、提案に来ました」
o川 ;ー;)o ?
£- ゞ°)「人魚姫。今一度、人魚に戻る気はありませんか?」
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33 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:52:04 ID:GYqZQ/tA0
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暗い暗い海の底の岩場に、何かが凭れ掛かっていました。
黒い布からは、黒い尾ひれが覗いています。その全身からは、ゆっくりと泡が上っていました。
抗う力は、残っていません。全てを代償にしたのです。
(……キュート)
美しい人魚が笑っていました。
そっと寄り添ってきて、歌を歌い始めます。初めて聴く歌声もまた、素敵なモノでした。
(綺麗だよ……)
人魚は泣きそうな顔で微笑むと、優しく、唇を重ねてきました。
胸にすがり付いてくるその身を抱き締めようとして、腕が重いのに気が付きます。
(……好きだよ、キュート)
答えるように、人魚の口が動きましたが、声が聞こえません。
重い瞼は上がらず、男はそっと、目を閉じました。
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34 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:52:42 ID:GYqZQ/tA0
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人魚は、海底の岩に凭れている男の胸で、涙を流しています。
o川*;ー;)o(デルタさん……デルタさん……)
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35 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:53:16 ID:GYqZQ/tA0
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£- ゞ°)『人魚姫。今一度、人魚に戻る気はありませんか?』
o川 ;ー;)o『(え……?)』
£°ゞ°)『貴女なら、彼を救えます』
川*ぅー;)o『(ほ、本当……?)』
£^ ゞ^ )『勿論です。何たって僕は、魔法使いの幸せを願う者ですから。彼の幸せも、……貴女の幸せも、願っているのですよ』
o川*。゚ーと『(私も……? だって、私……)』
£°ゞ°)『おや、ご存知無いのですか? 人魚の歌には、魔法を使える力が宿っているのですよ?』
o川*。゚ー゚)o『(え……?)』
£- ゞ- )『人魚の歌は、祈りの歌。覚えておいてください』
o川*゚ー゚)o『(……うん)』
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36 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:53:58 ID:GYqZQ/tA0
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o川*。- -)o(人魚の歌は、祈りの歌……)
嗚咽を落ち着かせる為に、人魚は深呼吸をしました。
そして、もう一度、祈りを込めて歌います。
歌に言葉はありません。
祈りは言葉になりません。
ただただ、男を思って歌います。
o川*- -)o 〜♪
黒い尾ひれの鱗が剥がれて、2本の足になりました。
消えかけていた輪郭は、境界を取り戻します。
o川*- -)o 〜♪
o川*゚ー゚)oそ
何かが身体に巻き付いて、人魚は歌うのを止めました。
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37 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:54:57 ID:GYqZQ/tA0
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「ロミスさんに会ったんだね、……キュート」
くしゃり、人魚の顔が歪みます。
「全く……魔法使いにはとことん甘い大魔法使い様だ。そうは思わないかい?」
( "ゞ)「キュート」
o川*;ー;)o「うん、……うん……!」
人魚の額にキスをして、男は幸せを噛み締めるように、そっと、目を閉じました。
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38 名前: ◆PMq4fKaXiE[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 19:55:33 ID:GYqZQ/tA0
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終わり