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21 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:17:51 ID:muDfrfuA0
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その夜にドクオはまた夢を見た。
夢の中にはこれまでドクオが関わった人物が現れては消えていった。オールスター総出演であったし走馬灯のようでもあった。
実家であり高校の校舎であり大学のキャンパスでありバイト先のコンビニでありテレビ・ドラマで見た有名なロケ地でありブーンの部屋だった。
出演者は揃いも揃って手と足がなかった。付け根のところで切断されて傷は焼かれて塞がれていた。皮膚はぶよぶよになっている。
母親も父親も担任教師もクラスメートも初めて付き合った女子生徒も同じゼミの学生も年老いた教授も店長も面倒な客も有名女優もブーンも手と足がない。
起き上がろうとするがうまくいかず身体をばたつかせる。見慣れた顔で胴体もしっかりしているのに手と足だけが存在していない。
手と足のない母親が洗濯物のカゴに入れられていた。手と足のない父親がスクランブル交差点の真ん中で邪魔そうに通行人に避けられていた。
手と足のない担任教師が山手線E231系のロングシートに座らされていた。手と足のないクラスメートが同級生にサッカーボール代わりに蹴られていた。
手と足のない初めて付き合った女子生徒がオーブン・トースターで焼かれていた。手と足のない同じゼミの学生がボウリング・レーンを滑っていた。
手と足のない年老いた教授が日産・シルフィのトランクに詰め込まれていた。手と足のない店長がレジ台の上に載せられていた。
手と足のない面倒な客が煙草の火を押し当てられていた。手と足のない有名女優が裸にされて何台ものカメラに映されていた。
手と足のないブーンがロフトから降りる事が出来ず飛び降りる事も出来ず身体は腐り始めていた。
手と足がないから一人では何も出来ない。服も着られず水も飲めず文字も書けず歩く事も走る事も出来ない。
キーボードで文字も入力出来ない。レコードに針を落とす事も出来ない。ヘアワックスで髪の毛を整える事も出来ない。
階段を上がる事も出来ない。高音質ヘッドホンを装着する事も出来ない。エレベーターのボタンを押す事も出来ない。
文庫本のページをめくる事も出来ない。列車から降りる事も出来ない。シャッターボタンを押す事も出来ない。
アクセルを踏み込む事も出来ない。乾電池を取り替える事も出来ない。排泄後にトイレを流す事も出来ない。
目的地まで切符を買う事も出来ない。糊のきいたシャツを着る事も出来ない。乱視でも眼鏡をかける事も出来ない。
缶ビールのプルタブを開ける事も出来ない。雨が降ってきても傘をさす事も出来ない。雪崩から逃げる事も出来ない。
高速で通過する特急列車にプラットホームから飛び込む事も出来ない。大量の睡眠薬を飲み込む事も出来ない。
フェンスを乗り越えてビルの屋上から飛び降りる事も出来ない。車内をガムテープで密閉して練炭を燃やす事も出来ない。
椅子を蹴り飛ばし天井から吊るしたロープに首を絡ませる事も出来ない。崖から渦巻く荒々しい海に飛び込む事も出来ない。
頭からガソリンを被ってライターで火をつける事も出来ない。風呂に浸かって腕をナイフで切る事も出来ない。
自分で生きる事も死ぬ事も選べない。自分で動くか留まるかも選べない。選択が存在しない。
選択もなく行動する事も出来ない。与えられるものを与えられるだけ。
自己の世界に他者から押し付けられるように与えられるだけだ。
実家で、高校の校舎で、大学のキャンパスで、バイト先のコンビニで、テレビ・ドラマで見た有名なロケ地で、ブーンの部屋で。
彼ら彼女らは与えられる。自分では選択出来ずただ与えられる。与えられるがまま与えられる。
名もない女も与えられる。中野新橋のアパートの一室のロフトの上で女は与えられる。
女はロフトに寝かされている。仰向けに寝かされている。裸のまま寝かされている。
使い古された秘部は剥き出しで隠される事もなく寝かされている。
ドクオはそれを眺めていた。ぼんやりとその世界の入口を眺めていた。
世界の入口を眺めていた。世界の出口を眺めていた。帰るべき場所を眺めていた。
女には人格もなくただ黙って寝かされている。はずだった。女が瞬きをした。
ゆっくりと顔を上げた。膨らみの乏しい胸越しにドクオを見た。目が合った。
女の口が開く。長らく開かれなかった口が開いた。女の声。それはドクオの耳に届く。
「ねぇ」
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22 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:20:52 ID:muDfrfuA0
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女はドクオの目を見て呼びかけた。ドクオにはそれが分かった。
恐ろしくて返事が出来なかった。夢なのに恐ろしかった。早く夢が終わってほしかった。
「ねぇ」
終わってほしい。早く終わってほしい。覚醒して現実に戻ってほしい。
そう強く願うと中野新橋のアパートの一室のロフトが闇に染まる。
蛍光灯を落として遮光カーテンを引いて月明かりすら差し込まない闇夜で完全な漆黒が訪れる。
混じりけのない闇に飲み込まれる。闇夜に溶け込むように飲み込まれていく。
「ねぇ」
誰かに呼ばれた気がした。
女性の声のようだった。
まだ覚醒途中の意識ではうっすらとしか聞こえなかった。
ドクオは成増で一人暮らしをしている。
部屋で自分を呼ぶ者などいない。
彼女もいないうえ部屋を訪れるような女性は存在しない。
それでもその声はドクオを呼んだ。
やはり呼ばれている。
それは自分に向けられたものだった。
再び眠りに沈み込みそうになった意識を呼び止める。
目を開けると天井が近い。
成増の部屋ではない。
ロフトに敷かれた布団で寝ていた。
そうだ、ここは中野新橋の部屋だ。
ブーンのアパートに泊まっているのだ。
「ねぇ」
声が呼ぶ。
ここはブーンの部屋だ。
ブーンに頼まれて代わりに泊まっているのだ。
女の声がする。ここに女など一人しかいない。
ドクオは飛び起きた。声のした方を見た。
布団の横。タオルケットをかけられた女。
こちらを見ていた。顔だけを傾けて。
「起きた?」
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23 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:23:45 ID:muDfrfuA0
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状況が理解出来なかった。
寝起きの頭は処理に戸惑った。
ただ呆然とドクオは女を見ていた。
「寝起きが悪いのね」
女が喋っていた。意識を持って。自我を持って。
(;'A`)「喋れるのか」
なんとか出てきた言葉はそれだった。
まず頭に浮かんだ率直な疑問を口にしていた。
「えぇ」
(;'A`)「でも喋れない、人格もないって」
「隠していたのよ。 壊れた人形だと思われればまだ扱いまマシだもの」
(;'A`)「そんな」
騙されていた。自分も、ブーンですらも。
(;'A`)「ずっとなのか、ここに来てから」
「ここに来る前から。 意識があると、皆抵抗出来ない私が嫌がる事をして反応を見て楽しむの。
それに比べて人格が壊れたふりをしてしまえばただ私に入れてオナニーをしてお終いだもの」
恥ずかしがらなければ。
嫌がらなければ。
苦しまなければ。
泣かなければ。
何をしても反応がなければ虚しいだけだ。
たとえ抵抗されず自由にしてよい生身の女だとしてもそういった反応をする人格がなければただの壊れた人形だ。
きちんと使える本物の膣で自慰行為をするのが唯一の使い道となるだろう。それが今の彼女だ。
「人間オナホール、そう言っていたわね」
あぁ、とドクオは呻く。
「そうする事で私はひとまずの安寧を手に入れたのよ」
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24 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:25:35 ID:muDfrfuA0
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恐ろしかった。ドクオはとにかく恐ろしかった。
喋り出す事のないと思い込んでいた女が話した。
意識もあった。人格もあった。隠していた。
喋らないでほしかった。黙っていてほしかった。
今すぐ絞め殺してしまいたいという衝動に駆られた。
別に手足のないこの女が何かを出来るはずもない。
自分の仕打ちを告発する事も叶いはしない。
一人では動けずこうして知らない男に秘部を晒している。
世界で一番弱い人間なのかもしれない。
それなのに急に話し始めた女が恐ろしくて仕方なかった。
(;'A`)「どうして、急に話したんだ。 隠していたんだろう」
「貴方にお願いがあるの。 今しか頼めない」
(;'A`)「なんだ」
何を言い出すのか分からなかった。
「私をここから連れ出してほしいの」
(;'A`)「ここから?」
「あいつ、今日の夜まで帰ってこないんでしょう」
あいつとはブーンの事だろう。きっと昨日の昼の通話を聞いていたのだ。
「だから今しかないって思ったの。 この部屋にあいつ以外が来るのもこれまでなかった。 ましてあいつが不在だなんて」
(;'A`)「でも俺はあいつの友達だ。 裏切れる訳ないだろう。 それにお前を連れ出すって、俺の部屋で匿えとでも言うのか」
「違うわ」
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25 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:27:53 ID:muDfrfuA0
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女は決して悲壮的ではなかった。
ドクオに懇願する訳でもなかった。
落ち着いて淡々と話すのみだ。
「私を生まれ故郷に連れて行ってほしいの。 そうしたらそのまま捨ててもらって構わない」
(;'A`)「生まれ故郷」
「ずっと帰りたいって思っていた。 こんな姿は見せられないけどひと目また生まれ故郷を見たい」
(;'A`)「けれど」
「言いたい事は分かるわ、貴方には何のメリットもない」
ドクオと女の立ち位置は明白であった。圧倒的な強者と弱者だった。絶対的な壁があった。
対価を払う事なくドクオは女の身体で自慰行為を出来る。それ以上に女に求めるものはないように思える。
女に何かをしてもらいたいという願望もない。女が何かを出来るという事もないだろう。
何のメリットもないのだ。女を連れ出せばドクオは友人であるブーンを裏切る事になる。
「それでも私は貴方にお願いしたいの、貴方しかいない」
壊れた人形だと思っていた女が喋り出した恐怖心は徐々に落ち着きつつあった。
冷静に現状を考えられるようになってきていた。
確かにこの機会を逃せば女がこの部屋から出る事は叶わないだろう。
ブーンはこの部屋に自分以外の他人を招く事は考えにくい。
女の存在を話したのもドクオだけだと言っていた。
では女がブーンに人格も意識もある事を打ち明けてみればどうだろう。
('A`)「どうしてブーンに頼んでみなかったんだ」
「あいつはだめよ。 私に意識があると知ったら今の状況が悪化するだけ」
('A`)「俺とそんなに変わらない」
「貴方は他の人と少し違うわ。 優しいもの」
困ったものだ、とドクオは思った。しかし自分でも不気味なほどに冷静に考えていた。
恐怖心が落ち着くと女に対する純粋な興味が蘇ってきた。
知る術もないと思っていたのに、それが叶うのだ。
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26 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:30:45 ID:muDfrfuA0
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('A`)「その生まれ故郷はどこなんだ」
「富山よ」
('A`)「富山か」
遠いな、とは思った。しかし試しに携帯電話で調べてみると三時間も掛からずに行けるようだった。
そういえば去年の春に北陸地方に新幹線が開通したとしきりにテレビで放送していた事を思い出す。
それならばブーンの帰宅までに戻る事は十分に可能だった。
('A`)「あぁ、いいよ」
どうしてそう思えてしまったのだろうか。
当然ながら金がかかる。人間オナホールである女にそこまでしてやる義務もない。
まして自由に身動き出来ずただ男の性的玩具として生きているだけの女を可哀想だと深く同情した訳でもない。
やはり興味があったのだ。この女がそういう道を辿って現在に至ったかの。
「ありがとう」
('A`)「何と呼べばいい、本当は名前があるんだろう」
「当たり前じゃない」
そう、当たり前なのだ。
人格も意識もないと思い込んだ男達が人間オナホールとしてしか扱ってこなかっただけで彼女にも人生があるのだ。名前があるのだ。
親にこんな風に育ってほしいという思いを込められて与えられた名前があるのだ。生の膣だけのために生かされていても名前がある。
ξ゚听)ξ「ツンよ」
ドクオはツンを持ってきていた大型のバックパックに詰め込んだ。
底の方に着替えをそのまま詰めてその上に胴体だけのツンを載せるとちょうどすっぽりと収まった。
これでツンを人目につかず運搬出来るし、運賃や特急料金を二人分取られる事もない。
呼吸が出来るようにファスナーを少し開けておく。それにペットをバックで運ぶのとは違う。
壊れてしまっているように見せかけて長らく男を欺いていたほどなので静かにしていられるだろう。
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27 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:35:11 ID:muDfrfuA0
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中野新橋から丸ノ内線に乗る。ちょうど中野富士見町からの出庫車両がやって来てそのまま四ツ谷に出た。
四ツ谷から中央線に乗り換えて東京に出る。長いエスカレーターを降りて売店で飲み物を調達した。
新幹線改札口で行き先表示板を見上げる。仙台・山形。新函館北斗。新潟。郡山。金沢。様々な終着地が踊っている。
ホームに上がると大きなキャリー・バッグを持った旅行客や出張らしきスーツのサラリーマンが到着を待っていた。
煙草を吸いたかったがどうやら喫煙所は設置されていないようだった。そのうち間もなく列車が入線する旨のアナウンスが流れる。
そして東京駅新幹線ホームに十二両編成のかがやきが入ってくる。顔から屋根にかけて大胆に青で貫いた挑戦的なデザインだ。
いったん閉扉して折り返しの車内清掃を終えドアが開かれた。待っていた客がぞろぞろと乗り込み始める。
券面に印字された指定席を見つけて座った。網棚に置くのははばかれたのでバックパックは足元に置いた。
八時三十六分、かがやき五〇五号金沢行きは定刻通り東京駅を発車した。
北陸新幹線の最速達種別であるかがやきは富山まで二時間ほどだ。
よくテレビで特集を組んでいたがドクオは特に興味がなかった。初めての乗車で新鮮だった。
山手線を横目に神田を通過し、秋葉原のヨドバシカメラを過ぎると一気に地下に潜って上野に入っていく。
東京から埼玉にかけて広がる代わり映えしない住宅地を駆け抜けて大宮を出ると次第に自然が広がっていく。
高崎を通過すると大きく曲がり山の中へ突入していった。トンネルが連続して携帯電話の電波は繋がらなくなる。
隣の座席に乗客はいなかった。ドクオはバックパックをその空き座席に通路側から背になるように置いた。
ファスナーを開けて窓の向こうを見えるようにしてやる。ツンは高速で変化する車窓を眺めていた。
ξ゚听)ξ「ひどい人生だったわ」
ツンは話し始めた。
まず彼女の出生から。ツンには戸籍がない。母親が出生届を提出しなかったためだ。
母親は両親の反対を押し切り十六の時に隣県の男と結婚した。
しかし夫となった男は乱暴者で次第に殴る蹴るの日常的な暴力が絶えなくなった。
身の危険を感じた彼女の母親は暴力を振るう元夫から逃げ出して新しいパートナーとの生活を始めた。
その新しいパートナーとの間に出来た子供がツンである。
しかし夫は離婚を認めておらず出生届を出す事が出来なかった。
まして居場所を知られればたちまち連れ戻されると恐怖していた。
母親は新たなパートナーとの間に出来たツンを可愛がった。
しかしパートナーはそう思わず彼女の元を去ってしまった。
残された母親は自分の収入だけでは生活も苦しくツンの世話も満足に行えないため実家に帰る事となった。
しかし暫くして実家に帰ってきた事を夫がどこからか聞きつけ髪の毛を掴んで連れ戻してしまった。
それからの三日三晩彼女の母親は夫に溜まっていた暴力を振るわれ頭部は灰皿で殴られ陥没してしまった。
一週間ほど経って母親は崖から飛び降りて自殺してしまった。ツンは母親の両親に育てられる事になった。
ξ゚听)ξ「学校にも行けないの、友達なんていなかったわ」
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28 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:44:03 ID:muDfrfuA0
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戸籍がないという事はこの国に存在しないという事だ。
保育園にも小学校にも中学校にも行けなかった。
母親の両親、祖父と祖母から様々な事を教わった。
算数や社会、料理や家事などをよく教えてもらった。
学校にいけないのならばせめてとの思いがあったらしかった。
祖父と祖母は反対を押し切り勝手に嫁いで子供だけを残して死んでしまった娘の事を歯がゆく思っているようだった。
戸籍がなくこれより茨の道を歩む事となるツンの事を可哀想だと思い出来るかぎりの事をしてあげたいと考えていた。
学校には行けないため友達は出来なかった。テレビで見ていいなぁと思う事が多かった。学校も友達も羨ましかった。
家は地方部にあり周囲は田んぼで囲まれていた。家を取り囲むように植木が立ち道路から中の様子を見るのは困難だった。
幹線道路から離れた細い道路の交通量は皆無に等しく近くに家もなかったためにツンの存在は知られる事がなかった。
家の近くに大きな川が流れていて、ツンは夜にその川を見に行く事が好きだった。昼間は散歩をする人がたまにいてあまり近づけなかった。
ξ゚听)ξ「とても綺麗な川だった。 夜になって晴れていると月の光が水面に当たってきらきらと光るの」
十四の時だった。いつものように祖父と祖母が眠ってから一人で川を見に来ていた。
すると背後から男に羽交い締めにされた。口に詰め物をされて手足を粘着テープで縛られた。
叫んだが夜の堤防には人気はなかった。遠くの道路を行き来する僅かな車が気づく事もなかった。
近くに停められていたバンにツンは放られた。一人が合図するとバンが走り出した。
川から遠ざかってどんどん夜を進んでいった。あっという間に見慣れた景色が消えた。
男達がツンをじろじろと見ていた。確かに良い年頃だと言った。
男が言うには少女が夜な夜な一人でこの人気のない堤防に現れるので狙っていたのだ。
堤防には街灯の一つもない。人や車の往来もそのような時間には殆どない。
不用心であったとツンは悔やんだ。底知れぬ恐怖心が襲った。
男達はツンに乱暴するために攫ったのではなかった。人攫いだった。
ツンは売り飛ばされて更に遠い土地へトラックに乗せられ運ばれた。
手足を縛られて頭には麻袋を被されていたので長い時間移動していた事しか分からなかった。
ツンを買い取ったのは中年の男性だった。卑しいだとかそういったものは感じさせず優しそうな雰囲気すら持っていた。
これからこの男の元でどんな生活を送るのだろうかとツンは考えた。給仕を任されるのだろうか。
攫われてとても不安だったがこの男ならばそれほど悪いようには扱われないのではとすら思った。
まずは手始めにとツンは病院に連れて行かれた。そこは深夜の病院の手術室だった。
小規模なクリニックで既に閉院時間を過ぎていた。戸籍のないツンにとって初めての病院だった。
ツンを買い取った男と幾つか打ち合わせをして執刀医と思しき男がツンを手術台に促した。
冷たい手術台に寝かされてもツンは自分が何をされるのか分からなかった。
ツンを買い取った男は近くで静かに見ているのみだった。やがてツンの腕に注射針が刺された。
全身麻酔だよと執刀医が言う。ドラマで見た事のあるものだとツンが考えていると意識が急速に消えていった。
眠ってしまうと考える余裕もなく意識は遮断された。次に目覚めるとまた知らない部屋で寝かされていた。
起き上がろうとしたがそれは叶わなかった。手と足の感覚がまるでなかった。ただ頭上を見ている事しか出来なかった。
やがて男がやって来て満足気に頷いた。ツンが手と足の感覚がないと訴えると男は鏡を持ってきてツンに見せてくれた。
手と足がなかった。
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29 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:53:31 ID:muDfrfuA0
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ξ--)ξ「どうなっているのか最初は分からなかったの」
ツンはひどく混乱した。男は相変わらず優しそうな表情で手足を切り落としたのだとツンに教えた。
ξ゚听)ξ「そいつは女の子を攫っては手足を切り落として売り物にしていたの」
ツンは男の経営する店に出された。店にはツンと同じように手と足のない女ばかりが揃えられていた。
まだ初潮も迎えていない少女や二十代半ばの女性もいた。裸のまま台に一列に置かれて客は品定めをした。
選ばれると係りの者に個室へ運ばれた。そこで客とセックスをした。それが一日に何度も課された。
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30 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:55:48 ID:muDfrfuA0
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ξ゚听)ξ「はじめは抵抗したの。 嫌だ、助けてくれって。 でも手も足もないから逃げられないの。 自分の意思で動く事が出来ないの。
自分で歩く事も立ち上がる事もスプーンを持つ事も出来ないの。 どれだけ喚いてもあいつらはどうせ私が何も出来ないからって気にもしないの。
あそこにいた子は皆はじめのうちは叫んだり食事を受け取らないで精一杯抵抗するのだけれど結局は無意味だって諦めちゃうの。 受け入れちゃうの。
そうするしかないから。 どのみち手も足もないから自分の意思では何も出来ないもの。 動く事も出来ない自分の意思を聞いてくれる者なんて誰もいない。
だから大人しく客を受け入れて勝手に果てるのをひたすら待つの。 あそこにいた子は皆妊娠する機能も破壊されていたから客はお構いなしに中に出していったわ。
人間の尊厳なんてないのよ。 ただ客の相手をする人形だもの。 手も足もなくて自分では何も出来ないのだから私達は生かされているのも同然なのよ。
生かされなければ私達は食事も取れず水も飲めず死んでいくしかないもの。 あいつらからすれば世話というよりも延命措置に近いようなものなの。
それに知らない男とセックスさせられて嫌がったり叫んだり泣いたりしても逆効果なの。 むしろ客はそれを望んでいるの。
あの手も足もない子ばかりの店に来るのは女の子に絶対に反抗されたくない完全に服従させたがる男ばかりなの。
口臭の酷い口でキスされたり脂ぎった手であそこを広げられたりして嫌だやめてって叫ぶと客は余計に興奮するの。 私達が逆らえないから反応を見て楽しむの。
こっそり持ち込んだ針で乳首をちくちくちょっとずつ刺して痛い?もっと刺そうか?それともぶっすり刺しちゃおうか?って嬉しそうに訊いてくるの。
私の髪を掴んで口にちんちんを入れてオナホールみたいに突くの。 苦しくても臭くても逃げられないの。 ひたすらに我慢するしかないの。
吐いてもやめてくれないの。 あそこに出すならまだしも鼻の穴に出したりわざと目をいっぱいに開かせてそこに射精する客もいるの。
熱した蝋燭を垂らされて熱い熱いって泣いても絶対にやめないの。 手も足もないから抵抗出来ない私達は客の願望を叶える人形なの。
絶対的な弱者なの。 絶対に覆せない壁があるの。 どれだけ憎い殺してやるって思ってもただ受け入れるしかないの。 ひたすら我慢して客が射精するのを待つしかないの。
私も諦めて受け入れる事にした。 もう勝手にしてくれと思うようにした。 どれだけ理不尽だと分かっていても全て諦めて考える事を放棄した。
助けなんて来ないしまして戸籍のない私は失踪届すら出されない。 だから何も考えない事にした。
だけどそれでも針で乳首を刺されれば痛いし首を絞められれば苦しいし熱した蝋燭を垂らされれば熱くて叫んでしまうの。
そうすると客は喜んでそれを続けるの。 私は終わるまで必死に堪えるの。 それが一日に何回もあるの。 多い時は一日に十回もあった。
終わるとすぐシャワーで身体を洗われてあそこを指で広げられて精液を掻き出されるの。 そしてまた店の台の上に載せられるの。
休みの日なんてなかったわ。 食事も思い出した時に与えられる程度だった。 面倒だからとゼリーが落ちてくるようにセットされてその下に置かれるの。
なんとか口を開いて落ちてくるゼリーを飲み込むの。 その時と眠る時だけが安息の時間だった。 男の相手をしないで済む、安心出来る時間だった。
日付なんてすぐに分からなくなって何年あそこにいたのかも分からなかったわ。 とても長い長い時間をあそこで過ごした気がする。
永遠に近い時間だった気がする。 あそこで一生を終えると思っていたもの。 生かすも殺すもあいつら次第だもの。
不要になったらゼリーも与えられなくなってゴミ箱にでも捨てられるんだろうって思っていた。 そうなっても手も足もないからそこで朽ち果てるしかないもの。
それは不安に思えた。 だけどこうして生きている事とどちらがいいのかと考える事もあった。
ただどのみち選択する権利は自分にはないのだしそれも考えるだけで無駄だと分かったわ。
だから何も考えないようにしてただ我慢して無限に似た時間を過ごした。 あそこは地獄だった」
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31 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 15:58:42 ID:muDfrfuA0
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新幹線は長野を出てから長いトンネルに入った。携帯電話の電波はいよいよ届かなくなった。
とても長いトンネルを抜けるとより長閑な風景が広がっていた。よく晴れていた。
進行方向を変えると右手に日本海が見えた。左手には北アルプスの山々が広がる。
線路際に住宅が目立つようになると間もなく富山に着く旨のアナウンスが流れた。
新幹線を降りて改札口を出ると駅の中に乗り入れる形で目の前に路面電車の停留所がある。
駅前の広場に出ると新幹線開通に向けて造り直したようでここもまだ真新しい。
その駅前広場の一部はまだ工事の真っ最中であり地面にタイルを貼っているところだった。
新幹線開通をチャンスとばかりに造り直した急ごしらえの街のようにも感じられた。
きっとツンが暮らしていた時とは違う景色になっているのだろう。
ツン曰くここから地方私鉄に乗り換えるそうで乗り場の方へ進む。
新しい駅舎と新しい商業施設に挟まれる形で古びたビルが建っていた。
そこには昔ながらの有人改札がありその奥には頭端式のホームが伸びている。
自動改札機の設置はないのに券売機はタッチパネル式でちぐはぐな印象を受ける。
発車時刻も古い駅に不釣合いなディスプレイに表示されていて、間もなく各駅停車が発車するようだった。
改札を通り黄色と緑色に塗り分けられた二両編成の列車に乗り込む。いかにもローカル線といった趣があった。
車内は空いていてクロスシートに座りバックパックを窓際に置く。またファスナーを開けてツンから車窓が見えるようにした。
十一時ちょうどに二両編成の電鉄黒部行きワンマン列車がゆっくりと電鉄富山駅を発車した。
列車が駅を出ると新幹線の新しい高架と並走する。やがて高架と別れると住宅街の中を進んでいった。
大きな車庫のある駅を出るとひたすらに単線が続いていく。工場を脇目に坂を登ったかと思えば視界が開ける。
列車は大きな川に差し掛かっていた。長い鉄橋が真っ直ぐ伸びて列車はそこを高速で駆け抜けていく。
鉄橋には柵もなく横風が吹けば今にも転げ落ちてしまいそうな気がした。大きな川は太陽に照らされ水面はきらきらと輝いていた。
ξ--)ξ「あぁ…」
ツンが呻く。
ξ゚听)ξ「ここが、夜によく見に来ていた川。 攫われる前に見た、最後の故郷の景色」
食い入るようにツンは川を見ていた。きっとこの景色ばかりは当時と変わっていないだろう。
ξ゚听)ξ「常願寺川というの。 立山連峰が水源で綺麗な雪解け水が流れてくるのよ」
長い鉄橋を渡り終えて緩やかに坂を降り、駅に着く。そこでドクオはかぼちゃみたいな色の列車を降りた。ここがツンの生まれ故郷なのだ。
木造の駅舎を出ると駅前には何もない。民家がぽつりぽつりと建っていて、後は自動販売機が幾らか設置されているのみだ。
近くの幹線道路を少し歩いてもコンビニエンス・ストアの一つも見当たらない。脇道に逸れると民家もなくなり田んぼばかりが広がる。
遠くには先程通ってきたはずの真新しい新幹線の高架が見えた。やがて脇道は舗装すらなくなり草が伸び放題の状態になった。
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32 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:02:23 ID:muDfrfuA0
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ξ゚听)ξ「止まって」
震える声でツンが言う。あれ、とツンは言いドクオは視線の先を追った。田んぼを挟んだ先に民家が一軒ぽつんと建っている。
庭先には木々が植えられここから中の様子を伺う事は難しいようであった。築何十年かは分からないが古い家だとドクオは感じる。
ξ--)ξ「あぁ、変わってないなぁ…あの時のままだ…」
それきりツンは何分も黙って育った家を見ていた。
('A`)「家に行くか?」
ξ゚听)ξ「やめてよ。 こんな姿を見せられる訳ないじゃない」
そうなのだろうか。失踪した子供が十数年ぶりに帰ってくる感動よりもそのショックの方が大きいのだろうか。
ξ゚听)ξ「いいの、家を見られただけで、変わらずちゃんとあるって分かっただけで十分だわ」
('A`)「あ、あれは?」
その家にゆっくりと軽自動車が近づいていく。二人でその様子をじっと見ていた。
軽自動車は家の敷地に入った。植木の隙間から軽自動車が停車した事が分かる。
そこから老夫婦が降りてきた。買い物帰りなのだろう、後部座席からビニール袋を取り出している。
ξ )ξ「あぁ…あぁ…」
ツンは今にも泣き出しそうだった。言葉にならない声を漏らす。
('A`)「祖父母か」
ξ--)ξ「えぇ…随分と老け込んでしまったようだけど…間違いない…」
元気そうだ、良かったとツンは繰り返し呟いた。
ξ゚听)ξ「ありがとう…良かった、すごく嬉しいわ…」
('A`)「満足なのか」
ξ゚听)ξ「えぇ…とても…。 あと、出来れば、さっきの川をもう一度見たいのだけどいいかしら」
('A`)「あぁ」
思い出の家を後にする。再び幹線道路に戻って歩く。
橋の脇から堤防を降りる。先程渡った鉄橋がすぐ近くにある。
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33 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:05:52 ID:muDfrfuA0
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ξ゚听)ξ「ここも変わってない」
懐かしそうにツンは言う。
ξ゚听)ξ「よくここに来た。 そしてここで攫われた」
周囲を見渡すと確かに人気はなく街灯の一つもない。
ちょうど線路が横切り踏切がないため堤防を行き交うランナーや散歩をする人は迂回を強いられるために往来がないようだった。
幹線道路からは見えるが夜では別の話だろう。人を拉致するには最適な場所だしそこに年端もいかない少女が一人でいるのは迂闊だと思った。
ドクオは適当な場所に座った。横にバックパックを置く。
ξ゚听)ξ「あの店に何年いたのかは分からない」
川を眺めながらツンは再び語り始めた。
ξ゚听)ξ「他に良い女の子が入荷されて私は売られる事になった」
数年かけて商品は入れ換えられており、新しい女が連れてこられるのだ。
役目を終えた女は個人の愛好家に売られる。ツンもそうして新しい主人となる男に買われた。
ξ--)ξ「あの地獄から出られると思わなかったわ。 嬉しかった」
愛好家に買われた後も待っていたのは執拗な愛撫とセックスだった。しかし多くても一日に三回までだった。
ろくな休憩も与えられず代わる代わる男の相手をさせられていた店よりは随分と楽に感じられた。
一人目は手足のない女性がとても好きなようで部屋じゅうに自分で描いた手足のない女性の絵が飾られていた。
何の抵抗も出来ないツンを好き放題に犯した。お前は俺がいなければ生きていけないのだと罵った。
食事を与える時もわざと時間を空けて極限の空腹状態になるよう調整された。
身動き出来ないツンにとってその男こそが全てであるのは明白であったが男はそれでは物足りなかった。
ツンの心まで支配したがった。趣味で描いていた漫画のように世話をしてくれる主人に対して従順な女にしたかった。
男は愛を注いだつもりだった。時間をかけて金をかけて愛せば当然その分ツンも男を愛してくれると信じてやまなかった。
しかしツンの口から出たのは明瞭な拒否だった。気持ち悪いの一言だった。その一言で男は愛を失いツンを売り払った。
二人目は過去に女性に振られた事がトラウマとなって女性と上手くコミュニケーションを取る事が出来ないでいた。
またその何年も前の失恋を引きずり恨みは積もり続けており攻撃的な一面も持っていた。その攻撃性をツンにぶつけた。
言う事を聞かないと殴ったり床に叩きつけたりした。ツンは手も足もないので言う事を聞けず暴力を受け続けた。
男は女が自分の思い通りにならない事をひどく嫌った。自分の求めるように考え理想の通りに動いてほしかった。
手足のないツンは自分を裏切らないだろうと思っていた。自分の思い通りになると考えていた。
ツンはそうではなかった。貴方は弱い人なのね、と吐き捨てると男はもうツンを保持する事をやめた。
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34 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:08:48 ID:muDfrfuA0
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三人目は芸術家を名乗る男だった。ツンを素晴らしい芸術品だと褒め称えた。
男はルーブル美術館で展示されているミロのヴィーナスを例えに挙げた。
ミロのヴィーナスは両腕が失われている。本来どのような形であったのか様々な憶測がなされている。
未だに正答は導き出されていない。しかしそれこそが魅力なのだと男は語る。
その腕のない姿こそ見る者の想像力を掻き立てるのだ。他ならぬ神秘性を持っているのだと。
僕も君の手と足がどのようであったか想像するのが楽しい、長い時間をかけてそれを見つけたいと話した。
そういえば切り落とされたあと、自分の手と足はどこにいったのかとツンは考えた。
人形を作りたかったのだから手と足は不要であるし他に使い道もないので処分されたのだろう。
腐ってしまうしどこかに保管したりもしないはずだ。やはり埋めてしまったか燃やしてしまったのだろう。
生の手足を焼くというのはまるで火葬だ。胴体は無事で心臓が動いていて意識もあるのだから自分は生きている。
ただ手足は死んでしまったので燃やされる。手も足も個々の命を持ってはいないけれど死んでしまったのも同然だろう。
数ヶ月かけて男はツンの手と足を作り出した。シリコンで作った手と足は本物そっくりだった。
男はそれをツンの身体に縫合した。しかし手も足も動かなかった。
肉体がくっついただけで神経も通っておらず当然である。ツンは虚しくなった。
手と足が欲しいとこれまでどれだけ考えたか数えきれない。
自分の手と足があれば逃げられる。走っていける。自分で動ける。好きな道を選べる。
そんなツンの叶うはずのない願望すら男は芸術だと言いながら弄んだ。
男はそのうち飽きてツンを売った。新たな芸術を見つけようとしていた。
四人目は極めて暴力的な男だった。女性が怖いだとかそういうものではなく純粋なる暴力主義者だった。
女を痛めつける事で快感を得ていた。決して反抗出来ないツンは男にとって最高の存在だった。
帰ってきてはまずツンを蹴り飛ばした。腹を拳で殴って吐かせるとその吐瀉物にツンの顔を押し付けた。
髪を掴んで振り回し壁に放り投げた。ぶちぶちと髪が抜けて頭皮が散らばった。歯が折れるとそれを飲み込ませた。
セックスよりも暴力の方が好きでありツンの存在意義はそちらに重点を置かれているようだった。
度重なる暴力にツンはいよいよ死を予感した。殴り殺されるか失血死か、どちらも十分に考えられた。
困窮したツンが思いついたのは廃人を装うという事だった。徐々にツンは人格が破壊されていくように演技をした。
嘘なのではと疑った男の暴力は激しさを増しツンはそれに耐える必要があった。これまで以上の忍耐力が必要だった。
そして時間をかけて遂にツンは完全に人格が破壊されたふりをするようになった。応答もせず反応もしない。
それから一週間あまり男の暴力は続いた。その内に暴力は減っていき、やがてなくなった。つまらないと男はツンを売った。
男は生身の身体を痛めつけるだけではなく悲鳴や痛がる姿、歯を食いしばる様子や激痛に顔をしかめる様を求めていた。
何の反応もなければ意味がなかった。失望して男は興味を失った。
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35 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:11:31 ID:muDfrfuA0
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それからツンを買うのは人格がなくても良いという者ばかりだった。ただ自慰行為を出来れば良い。
ツンの膣への挿入はセックスではなく自慰行為になった。膣で自慰行為をしているだけだ。
ずっとツンは人格がないふりをしていた。慣れてしまえばそれほど難しいものではなかった。
それに主人はどれも一人暮らしで日中は出掛ける者が殆どだった。その間ツンは自由であった。
そうして何人もの男の間を売り渡されて、三ヶ月ほど前にブーンの元にたどり着いた。
ブーンほど平凡な大学生は初めてだった。経済的に余裕のある者が多かったからだ。
他の男と変わらずブーンはツンを人間オナホールとして扱った。
ただ一つ、これまでと違うのは普通のアパートという事だった。
これまではツンの存在を秘匿するべく防音の部屋や地下倉庫といった場所で飼われていた。
特に経済的に余裕がある訳でもない平凡な大学生に買われて遂に普通の環境に置かれたのだ。
静かな朝に新聞配達のホンダ・カブの音が聞こえてツンはそれを知った。極めて外の世界と近い場所なのだと。
ブーンがいない時間に大きな声で悲鳴をあげ続ければ気がついた近隣住民が警察に通報するかもしれない。
そうすればツンは警察に保護される。これまでの経緯を話せば捜査が行われ関係者が逮捕されるかもしれない。
自分を攫った者や手足を切り落とした執刀医、店で働かせた男に自分達を買っていた客達に断罪が下るかもしれない。
この地獄のような日々から脱出出来る。そう思った。しかし同時に今更人間としての尊厳を取り戻したいのかとも思った。
手も足もないため自分で歩く事も叶わない。この地獄から逃れたとて、その先が天国とはならないだろう。
果たして自分が生きている意味とは何なのだろう。男によって生かされ続けている。自分の意思ではなく。
自分の意思で選べるとして、生きたいのだろうか。一人では生きていけないのに。
答えは簡単だった。この地獄から解放されるのは自分の死であるのだと。
ξ゚听)ξ「だから私を殺してほしいの」
ツンは輝く川を見たまま言葉を紡ぐ。
ξ゚听)ξ「故郷を見られたら捨てても構わない、と言ったけど、本当は殺してほしい」
('A`)「そんな」
暴力主義者に買われた時に死を予感して恐怖した。暴力と一方的なセックスを受け続けてもなお死は怖かった。
しかし死は解放と同じなのだ。幸福な死も悲劇の死もどちらも終焉という意味では何の差もないのだ。
死はあらゆるものから解放してくれる。全てを投げ捨てる代わりに全てから解放される。
ツンはそれを望んだ。自身の永久的な終焉を。
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36 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:14:17 ID:muDfrfuA0
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ξ゚听)ξ「ようやく生まれ故郷を見られて、二人が元気だって分かった。 いま、ようやく幸せなの。 思い残す事はない」
('A`)「だけど、殺すったって」
ξ゚听)ξ「あの線路に私を置くだけで構わないわ。 列車が来た時に放り投げてもらってもいい。 最後ぐらい、一瞬で楽になりたいの」
もう痛い苦しいは十分、とツンは俯いた。
ξ゚听)ξ「ねぇ、勝手だとは思うけどお願い」
('A`)「だけど」
ξ゚听)ξ「私の事を少しでも可哀想だと思ったのならそうしてほしい。 貴方も私が可哀想だと思ってここまで連れて来てくれたのでしょう?」
貴方も私が可哀想だと思ってここまで連れて来てくれたのでしょう。その言葉にドクオは暫く言葉を失い、やがて首を振った。
そうではないのだ。そうではない。興味があったからだ。
(-A-)「いや…」
興味があったから。ドクオの行動基準はそれだ。簡単明瞭なものだ。
('A`)「興味なんだよ」
ドクオはツンをバックパックに詰めた。それを背負って堤防へ歩き出す。
ξ゚听)ξ「興味?」
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37 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:17:30 ID:muDfrfuA0
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('A`)「そう、興味。 俺はお前に興味を持った。 どういう経緯であのブーンの部屋に到達したのかを」
それを知る事が出来た。見る事も出来た。やっぱり来てよかったな、とドクオは思う。
('A`)「だけど、ここまでだ。 お前は死にたいと言うが、自分では叶えられない」
興醒めだ、とドクオは思う。もはやここまでだ。
ξ゚听)ξ「ねぇ」
幹線道路を歩いて脇道に入る。舗装すらされていない道を進んでいく。
ξ゚听)ξ「ねぇ、ちょっと、どこに行くの」
('A`)「分からないのか?」
ξ゚听)ξ「ここはさっき通った…家のほうの…」
言いかけてツンは気づいた。恐らく気づいた。
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと」
それは恐怖心と怒気を孕んでいた。ドクオは構わず進む。
ξ;゚听)ξ「ねぇ、嘘でしょう、ちょっと」
('A`)「興味だったんだよ」
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38 名前: ◆LV5aVPnNI2[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 16:23:17 ID:muDfrfuA0
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さっき見たツンが育った家の前に着く。軽自動車が停められている。
家の周りは植木があり家の中の様子までは窺い知ることは出来ない。
しかし軽自動車が停まっているのならばまだ家の中にいるのだろう。
ドクオはバックパックからツンを取り出して門のところにそっと置いた。
ツンが身体を拗じらせ抵抗しようとした。じたばた暴れようとしているようだった。
惨めで滑稽だとドクオは思った。バックパックが軽くなった。
ξ;;)ξ「やめて、やめてよ、こんな姿見せたくない、絶対いや」
('A`)「驚き、恐怖、悲しみ、怒り、焦り、どれだろう」
ξ;;)ξ「ふざけないでよ、こんなのあんまりだわ、お願い、やめて、置いていなかいで」
('A`)「自分で死も選べないなんて可哀想だ」
ξ;;)ξ「お願いよ、やめて、やめて」
('A`)「そんなに騒ぐと気づかれてしまうよ」
ツンははっと息を飲んだ。怒りよりも恐怖心が勝り泣き出していた。
誰か来たのかしら、そんな声が家の方からした。ツンの顔が青ざめていく。
ドクオはそのまま歩き出した。きっとこれから始まる再会のドラマをどこかで見ていたいが、隠れる場所はないだろう。
それにブーンに何と言い訳するかも考えなければならない。友人関係の崩壊は避けられないかもしれない。
ともかく帰りの新幹線の時刻を調べようと携帯電話を取り出した。
人間オナホールのようです
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人間オナホールのようです
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人間オナホールのようです