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54 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:17:24 ID:F4fbQg2U0
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──集落・豚小屋──
ξ;゚听)ξ「ッ!」
(;'A`)「えっ!? なになに!?」
ξ;゚听)ξ「……」
感じ取れた。ブーンの魔力を。
正確には、ブーンの中にいる竜の魔力をだ。
あのクーと言う女は、それほどまでに強かったのか。
ほどなくして、竜の魔力が消えた。
これによりブーンの勝利を確信する。
ξ゚听)ξ(今回の件……かなり厄介かもしれない……)
モララーの使い程度の相手で、ブーンが一時的に竜を解放しなければならないほどの強さ。
同じような実力者が複数いるかもしれないし、モララー本人も相当な力の持ち主かもしれない。
慎重に行動した方がよさそうだ。
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55 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:18:34 ID:F4fbQg2U0
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( ^ω^)「ただいまー」
ξ゚听)ξ「……おかえり。お疲れ様」
( ^ω^)「ちょっと手こずっちゃったお。あいつ竜だったお」
ξ゚听)ξ「そう……ブーンは大丈夫?」
( ^ω^)「心配いらないお」
(;'A`)「ちょ、ちょっと、竜ってもしかして竜化病……?」
( ^ω^)「正確には違うお。まぁ要約するとあいつも実験台だったってことだお」
(;'A`)「竜化病って感染しないはずだろ? 移植……というか他人に移すなんてことできるのか?」
( ^ω^)「うーん……」
ξ゚听)ξ「そもそも竜化病は、一般的に病気の名前が付けられてるけど本当は違うのよ」
(;'A`)「まじで?」
ξ゚听)ξ「正しくは、竜が体の中に封印されている人のこと」
(;'A`)「……どういうこと?」
ξ゚听)ξ「詳しくはわかってないんだけど……」
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56 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:19:59 ID:F4fbQg2U0
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ξ゚听)ξ「人間が生きている間に除々に封印が弱まり……最終的に竜が解放される」
(;'A`)「じゃ、じゃあ……こいつにも……?」
( ^ω^)「だお。ぼくは制御できるけどね、ある程度は」
(;'A`)「ほんとに大丈夫なのかよ!? 突然竜化した奴が一つの都市を壊滅させた話も聞くぜ!?」
( ^ω^)「大丈夫だお。ぼくが竜になってもお前はまずそうだから食べないお」
(;'A`)「なんか複雑!」
( ^ω^)「踏んで埋めてやるお」
(;'A`)「有り得そうだからやめて!!」
( ^ω^)「とにかく、モララーは危ないやつだお。あの女で確信したお」
( ^ω^)「人為的に竜を封印、もしくは移植できる手段を知ってるお」
ξ゚听)ξ「……そういう人を増やして、最終的に無敵の竜部隊でも作るのかしらね」
( ^ω^)「かもしれないお。世界征服でも企んでるのかわかんないけど……」
ξ゚听)ξ「放っておくわけにはいかないわね」
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57 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:21:58 ID:F4fbQg2U0
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( ^ω^)「ツン、いくお」
ξ゚听)ξ「ええ、いきましょう」
行動は早いほうが良い。
夜も深まっており、奇襲には丁度良い条件だ。
(;'A`)「これからいくのか……?」
( ^ω^)「そうだお」
(;'A`)「領主の城はたしかにここからそんな離れちゃいないが……」
ξ゚听)ξ「ドクオ。さっきも言ったけどあなたとはここでお別れよ。モナーさんには先に発ったと伝えておいて」
('A`)「……死ぬなよ」
ξ゚听)ξ「ありがとう」
外へ出て、ブーンの背中にしがみついた。
下がよく見えない夜なら、昼よりは大丈夫だ。きっと、多分。
( ^ω^)「いくお」
ブーンの両腕が変化して、竜の翼のそれになる。
部分竜化ができるブーンならではの、私たちの移動手段だ。
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58 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:23:52 ID:F4fbQg2U0
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ゆっくりと上昇し、次第にスピードが上がってゆく。
モララーの城を目指し、私たちは星の海へ飛び込んでいった。
──領主・モララーの城──
窓から漏れる灯りは、あまり多くなかった。
戦争がなくなり平和な世が訪れてから数十年経っている。
この平和ボケは、侵入する側にとって好都合だった。
城の最上階近くに一際大きな部屋がある。
その部屋の全ての窓から明かりが漏れており、わざとらしいことこの上ない。
予想はしていたが、どうやら奇襲は成功しないようだ。
念の為、更に上空まで上がり、バルコニーへ垂直に降りた。
ツンと顔を見合わせ、互いに一つ頷いて中の様子を窺う。
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59 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:25:48 ID:F4fbQg2U0
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ξ゚听)ξ「中がよく見えないわね……」
( ^ω^)「……いや、いるお」
嫌な気配は明かりと同じようにわざとらしく、窓を通しても感じられた。
その気配は自分たちを早く来いと誘っているように。
窓を押す。
やはり、施錠されていない。
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
中に入ると、外観から想像できた通りの大広間になっていた。
だが、それだけ。
豪華な長いテーブルもなければ、装飾といった類もまるで存在していない。
殺風景な、夜だから灯しているだけと言わんばかりのランプが点在しているだけだ。
その部屋の中心に、その男は居た。
( ・∀・)「ようこそ、私の城へ。人払いは済ませてあるから寛いでくれたまえ」
( ^ω^)「お前がモララーかお?」
( ・∀・)「いかにも。私がモララーだよ」
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60 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:27:52 ID:F4fbQg2U0
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モララーは笑みを浮かべ、しかし大袈裟にため息を吐き、
( ・∀・)「竜の気配を感じて向かわせたまではよかったが、やはりクーはだめだったか」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「どうだったかい? 私の試作品。なかなか良く出来ていただろう?
しかし、やっぱり常人の精神力ではすぐ竜に支配されてしまうみたいなんだ。
よく精神が不安定になっていたよ。まぁこれは、次の実験の為の貴重なデータになったけれどね」
( ^ω^)「ふざけんなお。あんな人間を増やしてどうするつもりなんだお?」
( ・∀・)「おっと、いきなりそんな核心に迫っちゃうの? もう少し盛り上げていこうよ。せっかく会えたんだし」
( ^ω^)「聞くことだけ聞いて早く終わらせたいんだお。こんな短い会話でお前が屑野郎だってことはわかったし」
モララーはまた大袈裟に肩をすくめる。
言葉もそうだが、挙動までもがいちいち癪に障る男だった。
( ・∀・)「これはひどい。なかなかないよ? こうやって竜同士が出会うことは」
ξ゚听)ξ「やっぱりあなた……竜なのね」
( ・∀・)「ああ、キミは人間だね。喋らなくていいよ。人間風情が私の鼓膜を震わせないでくれ」
ξ゚听)ξ「は?」
( ^ω^)「まぁ……竜は崇高ななんちゃらってえばる奴、たまにいるお……」
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61 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:30:16 ID:F4fbQg2U0
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( ・∀・)「そう! 生まれながらにして竜をその身に宿し、計り知れない力を手にしている!
私たちは選ばれし崇高な存在なのだよ! 人間ごときが同じ高さにいるなんて汚らわしい!」
( ^ω^)「で、お前の目的はなんなんだお? 世界征服かお?」
( ・∀・)「そんな単純なものじゃないよ。高尚で、偉大で、美しい目的だよ」
( ・∀・)「竜の王国を作るんだ」
( ^ω^)「……竜の王国?」
( ・∀・)「そう! 選ばれし存在の竜を宿した者たちを集め、王国を作るのだよ!
そこに住める人間はクーのように実験に適合した者のみ!
最終的には各国に宣戦布告して、世界中に竜の素晴らしさを知らしめるのだよ!」
( ^ω^)「くだらねぇ……」
( ・∀・)「キミも竜だろう!? この計画の壮大さがわからないのかい!?」
( ^ω^)「わかりたくもないお。お前のわがままに他人を巻き込むんじゃねーお」
( ・∀・)「巻き込むだって!? 人間は動物以下、つまり家畜なんだよ! 気を遣う必要なんてあるかい!?
計画の為のモルモットとしての利用価値と、我々の餌でしかない脆弱で愚かな存在なのだから!」
( ^ω^)「ドクオもその中の一人だったのかお」
( ・∀・)「あの醜い害虫か……あれは高貴なる竜の血を注入したら、偶然不死身の特性を引き継いでね。
ただそれだけの存在だよ。竜として覚醒するかもしれないと思い泳がせていたが……ゴミのままだったね」
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62 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:32:21 ID:F4fbQg2U0
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( ^ω^)「ああ、もうわかったお。お前の声でぼくらの鼓膜を震わせないでくれお」
( ・∀・)「……私の理想を理解できないとは……竜であることが恥ずかしくないのか……」
( ^ω^)「ぼくは自分の中の竜を消し去る為に旅をしているお。この忌々しい竜を追い払うために。
できることなら今すぐにでも消し去りたいお」
( ^ω^)「でも────」
それは、今じゃない。
( ^ω^)「────この竜を消す前に、消し去らないといけない屑野郎が目の前にいるみたいだお」
( ・∀・)「残念だ……私とキミは分かり合えない存在のようだね……」
( ・∀・)「よし! キミを殺した後にキミの中の竜を取り出そう! 依代が腐っていたんだ!
だったら依代を変えてしまえばいい! もっともっと相応しい者にね!」
モララーが両腕を大きく開いた。
迸るのは、殺気。
クーとは比べ物にならないほどの殺気が、部屋に充満する。
( ^ω^)「ツン!」
ξ゚听)ξ「うん!」
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63 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:35:10 ID:F4fbQg2U0
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ξ゚听)ξ『“Glay”────……ツン=デレンカの名において命じる』
ξ゚听)ξ『汝は何よりも冷酷で硬質な灰の壁。森羅万象の侵入を拒絶せよ』
( ・∀・)「ほう! 色魔法か!」
ツンが色を紡ぎ終える。
大広間の壁の内側に新たな灰色の壁が生まれ、殺風景だった部屋は無機質な部屋へと変貌する。
本来は対象を閉じ込める結界魔法だが、今回は外への影響がでないように使用したのだ。
竜と戦う時にだけ、ツンにこうしてもらっている。
ξ゚听)ξ「外界と遮断したわ! ブーン! 思う存分やっちゃいなさい!」
( ・∀・)「人間ごときに気を使われるとはね」
( ^ω^)「感謝して死ぬといいお!」
両腕を広げると同時に、部分竜化。
モララーは純粋の竜だ。クーより弱いわけがない。
最初から全力で行く。
( ・∀・)「ハハッ! 素晴らしいよ! 部分竜化も完璧なんだね!」
(#^ω^)「おおおおおおおお!」
モララーへと駆けた。
鉤爪となった右腕を上げ、左腕を下げ。
噛みつく。
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64 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:37:15 ID:F4fbQg2U0
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( ・∀・)「ハッハッハッ!!」
(;^ω^)「……!」
振り下ろした右腕と振り上げた左腕は、部分竜化したモララーの両腕によって止められる。
止められたことよりも、自分以外に部分竜化ができる竜がいたことに驚いた。
竜化の力をそれなりに扱えているようだ。
( ・∀・)「もっとだよ! もっとキミの力を見せてくれ! 私を退屈させないでくれたまえ!!」
( ^ω^)「うるさいお!」
後方に跳躍して距離をとった。
が、
( ・∀・)「さぁ! いくよ!」
すぐさまモララーが駆けてきた。
右腕を振りかぶっている。それなら、打ち合ってやろう。
(#^ω^)「おおおおッ!!」
左腕を引き────撃つ。
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65 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:39:39 ID:F4fbQg2U0
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ξ;><)ξ「うっ……!」
自分の左手とモララーの右手が、ぶつかり合った。
凄まじい音と衝撃が高速で周囲に拡散していく。
力は互角。
少なくとも、自分は全力で撃ち込んだ。
モララーは、どうだろうか。
( ・∀・)「いいね! いいよ! 私と互角の力とは素晴らしい!」
なにやら興奮しているが、無視して鉤爪を合わせたまま、逆の手を薙ぐ。
モララーも空いている左腕を上げ、防ぐ。
お互いに鉤爪と成った腕を合わせ、均衡状態になった。
( ^ω^)「……お前……」
( ・∀・)「なんだい? 何か聞きたいことでも?」
( ^ω^)「どうやってこんな力を、竜の力を制御できるようになったんだお?」
( ・∀・)「ハハッ! 自分以外に信じられない! といった所かい!?」
( ^ω^)「癪に障るけどそんなとこだお」
( ・∀・)「長年の研究の成果、と言ったところだね!」
( ^ω^)「研究……」
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66 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:42:02 ID:F4fbQg2U0
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( ・∀・)「今でも思い出すよ! 初めて竜が覚醒した時のことをね!」
( ^ω^)「……」
ξ;゚听)ξ「ッ……」
ツンが息を呑む音が聞こえた。正確には、聞こえた気がした。
モララーの馬鹿でかい声と、鉤爪が軋る音が響くこの空間では、自分の耳をもってしても聞き取れるはずもない。
あくまで、そんな気がしただけだった。
( ・∀・)「あの時はまだ十歳にも達していなかった気がするね!」
(;^ω^)「くおッ!」
モララーが距離をとった。と思った矢先、鉤爪を薙ぎ三筋の斬撃を飛ばしてくる。
部分竜化のタイプが似ている所為か、扱う攻撃が同じようなものが多い。
自身に似た相手と戦うことが、ここまでやり辛いものだとは思ってもみなかった。
( ・∀・)「突然胸が痛くなったんだ! 体の内から、何かが飛び出しそうな感覚だったよ!!」
モララーの斬撃を避け、或いは弾き、或いは流す。
こちらも反撃するが、涼しい顔で昔話を続けている。
( ・∀・)「実際、飛び出していたんだね! 私の中に眠っていた竜が!」
( ・∀・)「体の自由を取り戻した時、私が住んでいた村は全滅! 大人も! 子どもも! 家も! 全てなくなっていたよ!」
(;^ω^)(チッ……)
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67 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:44:01 ID:F4fbQg2U0
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いわゆる竜化病者であれば誰もが経験した記憶であり、その殆どが思い出したくもない記憶であろう。
数年に一度訪れる竜化現象は覚醒発作と呼ばれている。その名の通り、発作的に竜が覚醒し、現れる。
全身が竜化してしまっている間は体の動きを制御できず、自分の意思ではどうにもならなくなる。
だが、意識ははっきりと、恨めしいほどに残っているのだ。
( ・∀・)「全て覚えていた! 両親を、兄弟を食った光景を! 悲鳴を! 味を!!」
( ・∀・)「私は選ばれし強者であると……実感した瞬間だった!」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「キミにもあるだろう!? あの絶頂に達した快感、幸福を感じた瞬間が!!」
( ^ω^)「……あるお」
( ・∀・)「そうだろう!! だったら何故キミは竜の偉大さに────」
( ^ω^)「直近で言えば、レモナさんの料理が最高に美味しかったお」
( ・∀・)「……」
( ^ω^)「幸せに暮らす家族、笑顔の絶えない家族……その団欒の中でする食事に勝るものなんてないお」
( ^ω^)「お前みたいなクズ野郎にはわからないかもしれないおね」
クズ野郎が目を閉じて、また大袈裟に首を横に振りながら溜息を吐いた。
( ・∀・)「下らない……下らないよ、本当に」
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68 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:46:23 ID:F4fbQg2U0
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( ・∀・)「そうだ! キミがいた集落! 次の狩場はあそこにしよう!」
( ^ω^)「ッ……」
( ・∀・)「キミの顔を思い出しながら村人たちを食おうとしよう! 生で、こんがり焼いて、軽く炙って……」
( ・∀・)「ああぁ……考えただけでも涎が溢れそうだよ……」
ξ゚听)ξ「モナーさんが言ってた……周辺の村を壊滅させた竜って……もしかして……!」
( ・∀・)「私のことさ! 一部は実験材料にして、後はおいしくいただいたよ!!」
( ω )「もういいお!!」
もうたくさんだ。こいつは生きていてはいけない存在だ。
誰がなんと言おうと殺さなければいけない奴だ。
ξ#゚听)ξ「モララー! あんたはここで必ず止めるわ! これ以上関係ない人を殺させるわけにはいかないんだから!!」
ツンが、相棒が同調してくれる。こんなにも心強いことはない。
(#^ω^)「モララー! お前はぼくの全身全霊をもって止めてやるお!!」
後ろにはツンがいてくれる。それだけで、ぼくは戦える。
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69 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:49:17 ID:F4fbQg2U0
-
──灰色の結界──
肌に突き刺さるような鋭く尖った気配は殺気。
自分に向けられているものではなくとも、はっきりと感じられる。
ここまでブーンが怒ることはいつぶりだろうか。思い出すのが難しい。
ξ゚听)ξ(ブーン……)
でも、どうであろうとも、モララーは止めなくてはいけない。
大丈夫だ。もしブーンに何かが起きても、私が止める。止めてみせる。
(#^ω^)「ツン! 悪いけど約束をちょっと破るお!」
ξ゚听)ξ「安心しなさい! 今なら何をしたって怒らないわよ!!」
とっくに怒りの頂点に達している。これを超えるものは最早現れることがないだろう。
ブーンが大きく足を開くと同時に、Glayの結界が小刻みに震えだした。
長時間は耐えられないだろうが、少しの時間なら結界は耐えてくれるはずだ。
モララーを、倒す時間くらいは。
自我を保つことができる限界まで竜を解放する。
ブーンが今やろうとしていることだ。
長い旅の中で少しずつ試して、彼は限界を覚えた。
だが、やはり体への負担は大きい。
無理をしてほしくないから、出来る限りやめてくれと頼んだことがある。
ブーンはそれを約束として、今日まで大切に守っていてくれたようだ。
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70 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:51:48 ID:F4fbQg2U0
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モララーは制限を課して勝てる相手ではないことが、外から見ている私でもよくわかる。
( ω )「…………」
ブーンの肌が黒く変色していく。腕だけだった竜化が、全身にまで広がっている。
鱗が隆起し、体も一回り以上膨張していった。
人の姿を保ったままの全身竜化。
一分間だけの、ブーンの奥の手だ。
( ・∀・)「ハハハハッ!!! 人間大好きな甘ちゃんが、結局は竜の力に頼るんだね!! 滑稽だよ! 実にこっ」
モララーが言葉を言い終えることはなかった。
今の状態のブーンには、私の言葉すら耳に届かない。
竜化する前に定めていた標的が動かなくなるまで、打ちのめすのみなのだから。
(;;;;・∀ )「ごっ……か……っ……」
抗う術もなく、モララーの顔、いや、体中が変形していく。
殴られ、突かれ、裂かれ、砕かれ、潰されていく。
(;;;;;;∀#)「…………」
やがて、モララーは動かなくなった。
当然だ。今の状態のブーンに勝てる者などいないのだから。
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71 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:54:02 ID:F4fbQg2U0
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後は、とどめを刺すだけだった。
竜を殺す唯一の方法、それは────
────竜に、食われること。
( ω )「…………」
目を、背けた。この瞬間だけは、恐らく一生慣れることがないだろう。
ブーンも間違いなく、望んでしていることではないはずだ。
でもこうしなければモララーを止めることは、できない。
その為の、この竜化でもあるのだから。
────……は……はは……────
ξ--)ξ(…………?)
何かが、聴こえた。
掠れたような声が、薄っすらと弱々しく、聴こえた。
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72 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:55:30 ID:F4fbQg2U0
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まさか。
(;;;;;;∀#)「……すバラシぃね……人の形を……たモったマまで……こコまで竜カできるナンて……ね……」
まだ、意識が残っていた。
( ω )
そんなことは、今のブーンにとって大した問題ではない。
口以外は動けないのだ。虚勢を張ろうとしても、彼の耳には届いていないのだ。
ブーンが口を、いや、竜の顎を開いた。
後は、モララーの全てを無くすだけ。それだけで、全てが終わる。
(;;;;;;∀#)「ううん…………」
(;;;;;;∀#)「ワタシも………………」
( ・∀・)「キミを早く食べたいよ!!」
ξ;゚听)ξ「ッ!?」
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73 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 19:58:25 ID:F4fbQg2U0
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威圧、重圧、瘴気、殺意、食欲を混ぜ合わせ、捏ね回した塊を、周囲に撒き散らした。
禍々しい感情と欲が、Glayで生み出された結界内に一瞬にして充満する。
ξ;゚听)ξ(…………)
汗が滲みでる。肌にねっとりとした空気が纏わりつく。呼吸する度に苦しくなっていく。
その全ての元凶が、今まさにブーンに食われようとしているモララーだった。
気がつけば、右足が一歩分、後方に下がっていた。
身に迫る威圧感はこれまでに見てきた竜の中でも最大のものだ。
ξ;゚听)ξ「ブーン!! はやく!!」
絞りだす。一呼吸遅れて気がついたが、モララーの傷はいつのまにか再生されている。
早くこの男を止めなければ大変なことになる。
私の直感が、脳が、これまでにない速さで警告し、無意識に声を荒げさせていた。
しかし────
ブーンの牙がモララーを穿つことはなかった。
ξ;゚听)ξ「ブーン!!」
モララーを掴みあげていたブーンは、モララーによって私の遥か後方へと弾き飛ばされてしまった。
( ω )「…………」
一分間のリミットを過ぎ、竜化が完全に解けてしまっている。
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74 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:00:30 ID:F4fbQg2U0
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( ・∀・)「……では、次はワタシの番だよ!!」
( ・∀・)「真の竜を見せてあげよう!!」
大きく両腕を広げた。その両腕が、一瞬にして巨大な翼になる。勿論、竜のそれだった。
ξ;゚听)ξ「何を考えているの!? ここはあなたの城よ!! こんなところで完全に竜化したら……!」
( ・∀・)「一人の竜化病患者が竜化した。竜化した者は人間に戻り、身柄を拘束された」
ξ;゚听)ξ「……!」
( ・∀・)「これで済む話だよ!! 竜化病患者に襲われながらも見事に復興を遂げた領主モララー万歳、となるだけのことさ!」
ξ;゚听)ξ「ブーンに……全てをなすりつけるつもり!?」
( ・∀・)「何を言う! 侵入してきたのはキミタチじゃないか!! ここで言う悪人というのはキミタチのことだよ!!」
モララーの影が彼の体をよじ登るようにして、這い上がる。高笑いを続けていた顔も、影にすっぽりと覆われてしまった。
ブーンの竜化と同じように、巨大な翼を広げた真っ黒な“影男”のシルエットが、次第に変化していく。
肩から突起物が現れ、体中が隆起し、足も倍以上に膨れ上がり、その足先には鋭利な爪のような影が伸びていった。
(; ω )「……ツ、ツン……」
ξ;゚听)ξ「ッ! ブーン!!」
竜化を進めるモララーに注意を払いながら、ブーンに駆け寄った。
足と腕をだらりと伸ばし、壁に背を預けるようにして座っている。と言うよりも、倒れている、の方が正しいかもしれない。
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75 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:03:00 ID:F4fbQg2U0
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時折、硝子にヒビが走るような音が聴こえた。Glay結界が悲鳴を上げているのだ。
元々は対象を封じ込める捕縛魔法であり、その力が強大な程封じ込めることが困難になる。
捕縛魔法を得意とする私でも、完全な竜を閉じ込めることは不可能ということなのだろう。
(; ω )「アイツ……ヤバイお……ひとまず態勢を立て直すんだお……」
ξ;゚听)ξ「……わかった」
ここまで焦っているブーンを見るのはいつぶりだろうか。
そして、『態勢を立て直す』という言葉の意味も理解できた。
気は進まない。でも、このままでは間違いなく二人とも殺されるだろう。
ξ;゚听)ξ「ブーン……大丈夫……?」
(;^ω^)「大丈夫だお。早く、あいつの竜化が終わる前に……!」
焦燥が伝わってくる。もうそれしか手がないのだろう。
認めたくないが、私自身も心のどこかでそう思っている。
ξ;゚听)ξ「“Delete”!」
色を消した。途端、音を立てて周囲の景色が粉々に割れていった。
景色の欠片に傷つけられることはない。すでに魔力を失った触れることのできない欠片だからだ。
欠片たちは地に落ちる前に消えていく。間もなくこの景色が終わり、元の殺風景な部屋へと戻るだろう。
(;^ω^)「行くお!!」
そうなる前に、ブーンが私の体を抱き上げ、窓を破り外へと飛び出した。
派手な音がしただろう。けれど、これからもっと派手な音がするはずだ。
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76 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:06:02 ID:F4fbQg2U0
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私を抱きかかえ、ブーンはひたすらにここまでの道程を戻るようにして飛翔する。
恐らくこの領土に降り立った最初の森へ向かっているのだろう。
竜の翼は背から伸びていた。精度よりも速度を求めた時の竜化だった。
(;^ω^)「…………」
ξ;><)ξ「…………」
風を切る音だけが耳を支配していた。
それが、唐突に途切れた。
森に到着したのだ。
その瞬間、遠吠えのようなものが聴こえた。
獣の類ではない。地を揺らし、空を駆けて行くような遠吠え。
竜の、咆哮。
ブーンは無言で降下して、私をそっと解放する。
( ^ω^)「ツン……ぼくが言いたいこと、わかるかお?」
ξ゚听)ξ「……」
遠回しに訊く。言いづらいことを話す時の、彼の癖だ。
ξ゚听)ξ「……わかってる」
( ^ω^)「このままじゃ、ぼくとツンはアイツに殺されるお」
ξ゚听)ξ「わかってる」
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77 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:08:55 ID:F4fbQg2U0
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遠くに、地響きのような音が聴こえる。
モララーが竜化を終え、自身の城を破壊しているのだろう。
( ^ω^)「だから……ツン……」
完全な竜となったモララーは、自身の欲を満たすまで破壊の限りを尽くすはずだ。
欲と言うのは破壊欲ではない。
竜化する直前まで見据えていた存在を、食い尽くすまで、だ。
( ^ω^)「封印を────解いてくれお」
ξ゚听)ξ「…………」
そうするしか、ない。
もう、あのモララーを倒す術はそれしか残されていないのだ。
ブーンも竜を解放し、完全な竜となる方法しか。
猛烈な殺意がこちらに向いた。
目標であるブーンの魔力に気付いたのだろう。
間もなく、こちらへやってくるはずだ。
それならば、まず先に時間を稼ぐ必要がある。
ξ゚听)ξ『“Platinum”────……ツン=デレンカの名において命じる』
ξ゚听)ξ『豪然にして婉然たる白銀の戦乙女よ。舞い、踊り、一切を蹂躙せよ』
ξ゚听)ξ『汝が降りるは我が世界。故に、我の姿を許可しよう』
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78 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:12:29 ID:F4fbQg2U0
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現れた、白銀の甲冑を身に纏う戦乙女。
甲冑を脱げば、私とうり二つの姿をしている。
私が使用できる色魔法の中で、対個人においては最も強力な魔法である。
あくまで人間相手なら、だが。
ξ゚听)ξ「お願い。できるだけ時間を稼いで」
私の言葉を受け、全てを把握した戦乙女はモララーを目指し飛び立った。
術者である私は彼女の思考と視界をある程度共有することができる。
短い言葉でも自分が何をするべきなのか理解し、動いてくれるはずだ。
彼女は通常時のブーンを少し上回るくらいの実力がある。
部分竜化したブーンには及ばないが、それはブーンが強すぎるだけで彼女が弱いということではない。
竜相手にまともに戦えば勝ち目はないが、彼女自身に意識を向けさせることなら可能なはずだ。
( ^ω^)「ツン」
ξ゚听)ξ「……うん」
彼の竜が暴れださないよう、封印を施してある。次はそれを解除しなくてはいけない。
ブーンの竜を封じるために彼の父から学んだ色魔法は、現在までしっかりと効力を発揮してくれている。
最後にブーンの竜が覚醒してから、数えれば十年が過ぎていたことを、ふと思い出した。
ξ゚听)ξ『“Black”────……ツン=デレンカの名において命じる』
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79 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:15:26 ID:F4fbQg2U0
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十年前に覚醒が起きた時には、まだブーンの父がいた。
( ^ω^)「絶対に勝ってくるお」
彼が負けるなんて微塵も思っていないが、対面に立つブーンがそんなことを言いながら、視線を上に逸らした。
モララーの気配に集中しているのだろう。竜となった時の目標を見失わないために。
ξ゚听)ξ『染めよ、黒く。潰せ、暗く』
戦乙女がモララーと接触した。ブーンもそれを感じ取ったようだった。
彼女の視界を借りて、モララーの姿を確認する。
想像より遥かに巨大な竜となっていた。
全身が黒ずんだ青色をしており、巨大な体から伸びる二枚の翼は更に巨大なものだった。
巨大なだけでなく、翼の先端に向かうにつれ弧を描くようにして伸びている。
あまりに悪魔的なシルエットであった。
ξ゚听)ξ『汝が染めるは七色の鎖。奪え、全ての色を』
不安なのはただ一つ。
私が再度ブーンの竜を封印することができるかどうか、だけだ。
あの時いたブーンの父はもうこの世界にいないのだから。
定期的に行う、綻びを直すための封印とはわけが違うのだ。
彼の父が施した封印あっての上書きと、ゼロからの封印では。
ξ;゚听)ξ『さすれば再び、現れる。汝と違わぬ漆黒の主が』
不安が高まり、口が渇く。鼓動が、早くなる。
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80 名前: ◆Tk5XFE8AeI 投稿日:2016/03/31(木) 20:18:43 ID:F4fbQg2U0
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( ^ω^)「ツン。ぼくの名前を呼び続けてくれお」
( ^ω^)「ツンがいてくれれば、ぼくはどこからでも戻ってこられるんだお」
( ^ω^)「大丈夫だお。ツンなら、きっと、きっと────」
────ぼくの竜になんか、負けないお!
優しく、しかし心強い声が、聴こえた気がした。
ξ゚听)ξ『塗り潰せ!! 染め上げろ!! 全てを黒に、鮮やかに!!』
風が生まれた。ブーンを中心に黒い風が巻き起こる。
ξ;゚听)ξ「う……」
下がる。近くに居たら、とても立っていられない。
膨れ上がっていく。黒い風と、ブーンの体が。
完全な竜となる為に。
十年間押さえつけていた竜が一体どんな姿に成長しているのか、はなはだ想像がつかない。
勿論その実力もだ。けれどもブーンなら、きっとなんとかしてくれる。
私を信じてくれているように、私もブーンを信じているのだ。
ξ゚听)ξ「ブーン! 思う存分暴れてらっしゃい!! そして絶対に帰ってくるのよ!!」