1 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/26(土) 23:59:55 ID:VUb6X4.g0
 目が覚めた時に、差し込んだ光が朝を教えてくれた。快晴であった。
 
 
 2LDKの、一人で住むには持て余す部屋に住む彼にとって、気に入っていたのはその光だった。


 黒い敷布団と、黒い掛け布団をゆっくりと退けて、怠慢な動作で彼は時計を見た。



( ^ω^)「6時……30分かお」



 男は、無意識に言葉を漏らした。実のところ、彼の心情は穏やかではなかった。

2 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:03:44 ID:2LhFCVPo0


( ^ω^)「昨日は……飲み過ぎた」


 仕事上、静かに行動しなくてはいけないからか、それともそれは関係がないか。


 居てもいなくても支障のない仕事を終わらせ、うるさく、必要でもなく、邪魔もしない飲み会を楽しんだ彼の頭はひどく痛んでいた。


 俗にいう、二日酔いだった。

3 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:05:42 ID:2LhFCVPo0
( ^ω^)「おー、いてーお。でも楽しかったお」


 寝室から広めのリビングへと移った。窓から見下ろせば車の往来が、朝の通勤を彷彿とさせた。 
 
 
 遠くまで行く車のイメージに、揺れる頭の中でギリリと動いた脳内が、今日は仕事だということを全身に伝達させた。


( ^ω^)「水を飲むお」


( ^ω^)「おいしいお!」


 彼は時計を見た。
 

( ^ω^)「6時……30分かお」

4 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:09:15 ID:2LhFCVPo0
冷蔵庫から取り出した緊急避難用に用意している缶に入ったオレンジ色の飲み水を、浴びるように飲み干した彼は残り三分の一に蓋をして戻す。
 
 
 あと14本あるそれらに対して、用意周到というのなら、彼の住むマンションから細部に至るまで、変わったこだわりがあった。
 
 
 彼は光がたくさん入ってくる部屋が好きなのだ。水分で満たされた体は、食事を欲した。


( ^ω^)「おなかすいたお……」


 彼は時計を見た。


( ^ω^)「6時……30分かお」

5 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:10:30 ID:2LhFCVPo0
彼は時計を見た。



 

( ^ω^)「……」




 彼は時計を見た。

 彼は時計を見た。

 彼は時計を見た。






 妙。

6 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:13:07 ID:2LhFCVPo0
 おかしい。


 少なくとも、目を覚ましてから5分以上の時間が経過しているはずだった。



 にもかかわらず、彼の目には一向に動かない針の数々があった。



 次に彼がとった行動は、その図体に似合わず俊敏であった。枕元に置いている携帯電話を開いた。マナーモードだった。



( ^ω^)「……ちゃく、しんりれき、23件」





( ^ω^)「12時……46分」

7 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:15:01 ID:2LhFCVPo0
 仕事をする上で、彼は静かにしていた。当然、携帯電話の着信音はならないようにしていた。
 
 
 それでも、時計の役割を、ましてやアラームとして使っているそれをそのままの状態にしていたのは、やはり酒の力が大きかったのだろう。

 
 まるで目の前に人がいるかのように、平身低頭な姿で謝罪の言葉を述べた彼は、決心をしたように、背広に袖を通す。
 
 
 急ぐことはしなかった。お気に入りの一張羅を着たかったから。


 時計は止まっていたのだ。
 
 
 彼の部屋にある、すべての時計が。
 
 
 彼は寝坊をしてしまったのだ。

8 名前: ◆U05kAeOd3o[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 00:16:33 ID:2LhFCVPo0
( ^ω^)「それじゃ、行ってきますお」


 家主はドアを閉めながら、無機質なそれらを見た。


 やはり6時30分だった。


 そのどれもが6時30分だった。


 寝室にかかっている25台の時計と、
 リビングに散らばっている31個の時計と、
 トイレに設置されている8個の時計と、
 風呂場の壁に埋め込まれた9種類のデジタル時計は、6時30分だった。



 彼は、階段を駆け上がっていった。



 終

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