夢想:あの光は揺蕩う。それは脆弱で、砂を握るように儚い。それでも

67 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:49:47 ID:4564RFO20

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 世界が焼け落ちて灰になった跡を、目が見えないぼくはあてもなく歩いている。

 風は息絶えて、塔を築いた我利我利亡者達はその身体を失い、色とりどりの宝石が降り注ぐ空に向かって、尾を引きながら昇ってゆく。

 全てのものが絶えず死にゆく世界で、ぼくだけが何処に行くことも出来ず、ひたすら歩いていた。

 ガラクタのような自分の視覚を呪うことは、とうにやめた。

 疲れ果てたぼくは、とうとう杯の山に腰を下ろした。

 灰はぼくの身体を支えることを拒み、足と尻が深く沈み込んでゆく。

 纏わりつく泥のような灰が全身を包み込んだかと思うと、ぼくは唐突に五感の全てを失った。

 やがて自由落下が始まり、ぼくは何処かに手を伸ばした。

 掴もうとしても届かないそれは、光だった。

 沈み、沈み、落ち――――

 何かに辿り着こうと――――

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68 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:50:37 ID:4564RFO20
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69 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:51:19 ID:4564RFO20

 ドクオが死んだ。

 崖から飛び降りたそうだ。
浅瀬から飛び出た岩に頭をぶつけ、見つかった頃には、首から上はぐずぐずになった肉片した残っていなかったらしい。

 丁寧にゴム草履を崖先で並べて残していたということで、自殺であるという鑑識結果が下されるのにそう時間はかからなかった。

('A`)「俺たちさ、もう選ばなきゃいけないんだ。何も知らないでやり過ごせる時間なんて、もうとっくに残ってないんだよ」

 煙草を喫いながら、ぼくはあの日のドクオの姿を、何度も、何度も夢想する。

('A`)「だから――――」

 あの日、その続きを聞いていたら――或いはこんな虚脱感に苛まれることは無かったのだろうか。

 短くなった煙草を捨て、靴の裏で擦り潰す。

 夜のベールが、地平線から剥がれてゆく。
朝日に照らされ、白んでゆく空を見据えて、ぼくは纏めた最小限の荷物をリュックサックに詰めて背負った。

70 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:51:53 ID:4564RFO20

 ドクオが死んでから三ヶ月経って、ぼくはようやっとこの日を迎えた。
彼が死んだ次の日には決めていたことだ。
不安よりも、待ち侘びたという気持ちの方が強い。

 この街を出て、自分には明るい未来が待っている。無限の可能性が広がっている。
そんな風に、熱に浮かされた子供のような考え方が出来たのなら、或いはこの門出も少しは華やかになっただろう。

 仲間達に、街を出ると伝えたのは昨日だ。

 ドクオが死んで、気でも触れたのかと言われればまだ気分も良かっただろうに。
三ヶ月という長くもない時を経て、ぼくらの間でドクオの名前を出すことはタブー視されていた。

 決して誰かが咎められたわけではないのに、そのような暗黙の了解が定められ、何かにもがき、苦しんだ末に命を絶った彼が風化してゆくのが――――

 ぼくには耐えられなかったのだ。

 喪に服しているわけではないけれど、彼らよりもドクオの存在の方が大切だったわけではないけれど――

 ぼくの中でそれは、この街を出るのに充分過ぎる理由だった。

71 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:52:27 ID:4564RFO20

 だから――――

 お願いだから――――

( ^ω^)「そんな顔をしてぼくの前に現れないでくれお。ハイン」

从 ゚∀从

 彼女の視線が痛い。
朝焼けに照らされたハインは後光を帯びて、ぼくが進む道に立ち尽くしている。

 ドクオの死を防げなかった負い目など微塵もないけれど、彼が死んだ後に生き続けているぼくが、その存在そのものが、どこかぎこちなく思えてしまうのだ。

 それすらも洗い流そうと、或いは窘めようと、ハインは、何も言わずぼくを見ている。

( ^ω^)「落ち着いたら手紙書くお」

从 ゚∀从「…………」

( ^ω^)「お互い、穏やかに生きていけたらいいおね」

从 ゚∀从「…………」

( ^ω^)「じゃ、行くから」

从 ゚∀从「…………」

72 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:53:08 ID:4564RFO20

从 ゚∀从「本当に、行っちまうのか」

( ^ω^)「うん」

从 ゚∀从「どうしても」

( ^ω^)「うん」

从 ゚∀从「俺が行かないでくれって言ったら、どうする?」

( ^ω^)「どうもしないお」

从 ゚∀从「行かないでくれよ」

( ^ω^)「無理だお」

从 ゚∀从「…………」

( ^ω^)「行くお」

从 ゚∀从「だめだ」

( ^ω^)「離せお」

从 ゚∀从「だめだって。じゃないと、私……」

从 ;∀从「あっ……」

73 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:54:41 ID:4564RFO20

 なぁ、ハイン。
ぼくはね、おかしくなってしまったんだ。

 頭がとか、身体が、とか、そういうんじゃない。
もっと、根本的なものが、多分もう元どおりに直せないくらいに、壊れてしまってるんだよ。

 だからこのままじゃいけないんだ。
ぼくは、決めなきゃいけない。
何度も何度も気付きながら、気付かないふりをして引き延ばし続けたモラトリアムの、そのつけを払わなきゃいけないんだ。

 この街は、いいところだ。
此処には仲間がいる。
思い出がある。
変わらない毎日がある。
ぼくが、今のぼくであることを、認めてくれる人がいる。

 凄く心地がいいんだ。
でも、だからそれが、ぼくを壊すんだ。

 ドクオが死んでしまった理由が、ぼくには解らないけど解るような気がするよ。

 ドクオが見つけられなかったものを、手に入れられなかったものを、命を賭してまで欲しがったものを、ぼくは見つけなきゃいけない。


 だから――――


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74 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:55:29 ID:4564RFO20

 私にはよくわからないよ。
ブーンが壊れてしまっても、どれだけ苦しくても、それがこの街に居たら、絶対に治らないものだとしても――――

 私はそれでも、お前がいなくなるのが悲しいと思ってしまうんだ。

 なぁ、私は我儘なのかな。

 良いじゃないか。
心地良くて、毎日同じようなことを繰り返して、何も悪いことなんてないじゃないか。

 お前のことを微塵も考えてないことなんて解ってる。
私は、私が苦しいのが嫌だから、お前に行ってほしくないと駄々を捏ねてるんだ。

 何も言わずに見送ってやるのが大人なのか?

 なぁ、大人にならなきゃいけないのか?

 お前を苦しめてるものがよくわからないから、私は平気でこんな我儘を言えてしまうんだ。

 私は最低なやつだ。
お前がいなくなったら、死んでしまうかもしれない。
大人になんかなれやしないんだ。

 だから、お願いだよ、ブーン――――


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75 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:56:11 ID:4564RFO20
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76 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:57:23 ID:4564RFO20










   あの日の、続きを――――













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77 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 22:59:46 ID:4564RFO20

 それは墓標だった。

 崖先から望む海は、深い闇と形容してもいいだろう。

 壁のように切り立ったこの崖から飛び降りて、ドクオは死んだ。

 花を手向ける者はおろか、足を運ぶ者すらいない。

 この場所そのものが、ドクオの墓標だ。

( ^ω^)「ぼくがここで何をしたいか解るかお?」

 崖先に、並び立つ。
ぼく達は、かつてドクオが見た景色を、見ている。

从 ゚∀从「解らないよ」

 風が冷たい。
隣で小刻みに震えるハインを抱き寄せ、ぼく達は暫しの間、そのままお互いを温め合った。

 目を合わせる度に、言葉に変換出来ない感情が霧散する。
何度それを繰り返しただろうか。

 月だけが、ぼく達を見ていた。

78 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:00:23 ID:4564RFO20

 あらゆる感覚が蕩けてしまいそうな世界の中で、心臓の鼓動が頭に響く音だけが、鮮明だ。
まるで、ぼくというものが、心臓と脳だけで出来ているみたいだった。

( ^ω^)

从 ゚∀从

 やがてぼく達は向き合い、見計らうでもなく、自然に抱き合っていた。

 赤毛がぼくの頬を撫で付ける。
こそばゆいが、不思議と心が落ち着く心地良さだ。

 
 互いに膝を折り、崩れ落ちるように座り込む。
小さく、小さく、ぼく達は身を寄せ合う。

从 ゚∀从「なぁブーン」

 ぼくの頭を、まるでペットを愛でるように撫でながら、ハインが口を開く。

从 ^∀从「好きだよ」

 自分で選んだ末に街を出て、自分で選んだ末に戻ってきて、何も不安など無いはずなのに、ぼくは、何故かその言葉に縋りたくなった。

 ここでぼくが、好きだと返すことは、きっと適当な行為なのだろう。
そうすれば素敵なことなのだという具体的な像を思い浮かべながらも、ぼくはそれをしない。

79 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:00:59 ID:4564RFO20

( ^ω^)「ありがとう」

 きっとハインは、この言葉を望んでいたわけではない。
それでもぼくに紡ぎ出せる言葉なんて、この程度のものなのだから、ぼくには彼女の好意に応える資格など無いのだろう。

 思考の空回りだと言ってしまえばそれに尽きるのだと思う。
ぼくにそれを無視するだけの無邪気さがあれば、或いは、また違った結末を迎えられたのかもしれない。

 友の墓標の上で、ぼくは生きるということを、嚙み締める。

 初めから解っていたことだ。

 仕事を辞め、あてもなく巷間を漂ったその先に待ち受けるものなど、消化試合染みた人生でしかないのに、ぼくはそれすらもどうでもいいと臭いものに蓋をするように、遠巻きに自分を客観視していた。

 五年という月日を経た末に、結局のところぼくは何も見つけることが出来なかったのだ。

 友の死を嘆き、喪に服し、その在り方を擬えたような紛い物のような人生。

 彼に代わる答えすら見出せないのであれば、この墓標から身を投げるのはお誂え向きなのだろう。

80 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:01:32 ID:4564RFO20

( ^ω^)「ハイン、これを」

 ハインの細い手首を掴んで、その嫋やかな指先をなぞる。
そしてぼくは、その小さな掌に海を落とした。

 月明かりは、ビー玉の中に閉じ込められた海を照らすには弱々しい。
しかしぼくにはその小さな海の世界が、脈々と息づいているように見えた。

从 ゚∀从「キレイだね」

( ^ω^)「あいつがぼくに見せてくれた世界だよ」

 この世界の何処かに、こんな綺麗な世界があるのかもしれない。
五年前のぼくは、そんな淡い期待を抱いていたのだろうか。
いや、抱いていたのだろう。

( ^ω^)「……そろそろ、ぼくはいくよ」

 長い旅だった。

 結局何も見つけられなかったけれど、虚無感は無い。
むしろ何もないなりに、やり切ったとさえ思えてくる。

 さようなら。

 こんなぼくのことを好きになってくれて、友達でいてくれて、本当にありがとう。

81 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:02:06 ID:4564RFO20

 最後に、ぼくはハインの掌の上の世界に手を重ね、その温もりを嚙み締める。

 そして、立ち上がった。

 一歩、一歩、階段を上る。
あと数歩も歩けば、その道が途切れていることを知りながら、自分自身の手で、道を終わらせるために。

 巾着袋を取り出して、崖先で足を止めた。

 真後ろで感じる確かな命、それから与えられる愛に向き合う為に、踵を返して振り返る。

( ^ω^)「ごめんな。もう、疲れちゃったんだ」

 ハインは口を閉じて、薄く微笑んでいた。

从 ゚∀从

 一歩、また一歩と、彼女もまた、崖先に佇むこのぼくに向かって、近付いてくる。

( ^ω^)「楽しかったよ」

 宝が詰まった巾着袋を、口も開けずに後ろに放り投げた。
それが海に飛び込む音は、聞こえなかった。

82 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:04:41 ID:4564RFO20

从 ゚∀从「ほら、ブーン」

 ぼくとハインの間にある隔たりは、拳三つ分までに縮まっていた。

 これ以上此処にいると、きっと名残惜しくなってしまうだろう。
そう思ったその時、ハインは、海を閉じ込めたビー玉を、月に向かって翳した。

从 ^∀从「綺麗、だよ」

 "朧げな雲のベールを脱いだ"月を仰ぎ、そして、ハインの指先に視線を落とした。

 月明かりに照らされた世界が、静かにぼくを見守っていた。

(  ω )「はは、ははは……」

 視界が、滲む。

 思えば、最後に泣いたのはいつだろうか。
こんな感情すら、ぼくは気付かぬうちにどこかに置いてきてしまっていたらしい。

 役立たずの視界に映る世界が、綺麗で、ぼくは――――

 ぼくは――――

 ぼくは――

83 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:05:39 ID:4564RFO20
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84 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:06:16 ID:4564RFO20
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85 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:06:48 ID:4564RFO20

( ФωФ)「きびきび動くのである! この愚図が、誰のお陰で飯が食えると思っているか!!」

 尻を鞭打たれ、ぼくはその場で膝をついた。
監督はそれでもお構いなしに、ぼくの背中に鞭を浴びせてくる。
痛みなど、最初の尻の痛みで麻痺してしまっていて、むしろ頭は驚くほど冷静だった。

(  ω )「あっ……が!」

 毎日毎日、このように鞭を打たれながら、ぼくは海の向こうで人を殺す為の道具の一部を作っている。

 一日死ぬような思いで働いて得た金など、安酒を一杯飲めば消し飛んでしまうのだ。

 監督は一頻り嬲り終えると満足したのか、踵を返して何処ぞに去っていった。

 入れ替わるように駆け寄ってきた足音が止まり、その直後、ぼくは冷や水を背中にぶっかけられた。

86 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:07:26 ID:4564RFO20

(・∀ ・)「ひええ、こっ酷くやられたなぁ。ほら冷やせ冷やせ」

(;^ω^)「ありがとうだお、またんき」

(・∀ ・)「いいってことよ。ほら、休憩だってよ。飯にしようぜ」

 休憩を知らせる鐘の音が聞こえる。
ぼくは油と汗の臭いが混じった汚物のような作業着を脱ぎ捨て、下着姿になる。
またんきも、同じように作業着を脱ぎ捨てた。

 ぱさついた握り飯をやかんの水で流し込み、手早く昼食を終える。

(・∀ ・)「わりぃ、金欠で煙草買えねぇんだよ。一本恵んでくれや」

( ^ω^)「今月でもう何本目だお? そのうち美味い飯奢ってもらうお」

(・∀ ・)「ひっひ、悪いね」

 マッチで擦った火に、二人揃って顔を近付けて煙草を喫う。

 脳髄が痺れるような感覚、一時の微睡みに身を委ねる。

87 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:07:59 ID:4564RFO20

(・∀ ・)「北の方でよ、防衛戦やってるんだってよ」

( ^ω^)「へぇ」

(・∀ ・)「もうこの国も終わりかなぁ。さっさと降伏しちまえばいいのに」

( ^ω^)「時間の問題だおね」

 この動乱が終わった先、世の中はどうなっているのだろうか。

 街から出てみても、ぼくらの考えの及ばないところで、世界は目まぐるしく動いている。

 所詮翻弄される流れの中の一つでしかないことを知りながらも、ぼく達は、世界の行く末に思いを馳せて、時に思い悩んだりするのだ。

(・∀ ・)「生まれる時代が悪かったなぁ、俺も、お前も」

( ^ω^)「そうかもね」

 悔やんだところで、自分の環境を、運命を呪ったところで、詮無いことなのだ。

 だからぼくはこうして、冷や飯で腹を満たし、束の間の休息を噛み締めている。

88 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:08:33 ID:4564RFO20

(・∀ ・)「もしもよ、戦争なんか終わっちまって、誰もがそれなりに裕福に暮らせる時代が、俺の生きてるうちに来たらさ、学者になりてぇな」

( ^ω^)「いいんじゃない?」

(・∀ ・)「んだよ、お前は。普通は笑い飛ばすもんだろ」

( ^ω^)「素敵だと思うお」

(・∀ ・)「…………へへ、気持ち悪いやつだなお前は」

 またんきは顔をくしゃくしゃにして、笑った。
ぼくも同じように笑う。

 この束の間の休憩が終われば、また常に気を張って、尻を鞭打たれる地獄の作業が始まるのだ。
前職のごみ拾いと同じように、最早人間として扱われない奴隷のような日々。

 ようやっと作業を終えて、ぼくは泥のように眠り、朝になれば自分の足でこの地獄に向かい、同じ事を繰り返す。

89 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:09:21 ID:4564RFO20

 そのようにして、ぼくは、ぼく達は、砂を噛むように生き続けるのだろう。

 それは呪いや強迫観念などではなく、自分の足で。

 何処まで行ったところで何も見つけられないのかもしれない。
或いは、初めからそういう定めだと知りつつ、気付かないふりを続け、なんでもないような顔をして明日を生きるのだ。

(・∀ ・)「ああ……休憩が終わっちまう……」

 またんきが作業着を着て、足早に去って行く。
その後ろ姿を眺めながら、ぼくは新しく煙草に火を付け、深く煙を喫った。

 遅刻してしまうだろうか。
構うものか。いずれ叩かれ慣れた身体だ。傷など安酒を浴びれば治るだろう。

90 名前: ◆THPOzTMYUA[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:10:28 ID:4564RFO20
90. そうだ、手紙を書こう。

 ふと思い立ったことだ。
いつもならば作業を終えて真っ直ぐ帰宅するところを、郵便局に寄って小洒落た便箋を買うことにしよう。

 ぼくは生きている。自分の足で、歩んでいると、書き記そうじゃないか。

 その先に何も残らなかったとしても、ぼくには光が、朧げな光が見えているから。

 あの光は揺蕩う。それは脆弱で、砂を握るように儚い。それでも――

 ビー玉の中に閉じ込めたようなこの世界が、とても愛おしかったから。

 夢想のような未来を思い描き、ぼく達は同じ空の下で、なんでもないような顔をして生きてゆく。

 生きてゆく。

 生きて、ゆく――――













 《We have a happy ending!!》

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