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224 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:08:29 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)『買ってきたぞ……!』
(;,゚Д゚)『ついに……!』
息を切らせて帰ってきた彼女を、エントランスホールに迎え入れる。
テーブルの上に袋の中身を出して、ごくり、同時に唾を飲み込んだ。
どきどきしながら包み紙を剥がすと、空きっ腹には強烈すぎる匂いが広がる。
(;,゚Д゚)『おお……何か……ハンバーガー! って感じしますね……』
川 ゚ -゚)『包みを開けてもぺちゃんこなパンにがっかりしないハンバーガーだな……!』
どっしりして、一つ一つの具材が大きなハンバーガーは
漫画や映画の世界のものというイメージしかなかった。
なので数十分前、ネットサーフィンをしていた折に
たまたま近場でそのようなハンバーガーを出す店があるのを知ったときは驚いた。
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225 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:09:26 ID:hyNsC6320
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本当は2人で行こうと思ったのだが、
( ^ω^)『ツン、こっちの壁、拭き忘れてるおー』
ξ゚听)ξ『さっき拭いた』
( ^ω^)『隅っこまで拭いてなかったお』
ξ゚听)ξ『……姑みたい』
(;^ω^)『な、僕は丁寧に掃除してほしいと言ってるだけで……
隅っこだけ綺麗じゃなかったら変だお!』
ξ゚听)ξ『こんな古い壁、ぱっと見じゃ違いなんかないでしょ』
(;`ω´)『見た目じゃなくて手入れの問題だお!
楽器だって手入れして大事にしていれば経年によって音色が良くなるし
家具だって年々色に深みが出て素敵なインテリアになるんだお!』ムキー
ξ゚听)ξ『いま楽器と家具の話はしてない』
と、管理人2人が下らないことで軽い喧嘩をしていたので、
いざとなったら止められるように彼が残らざるを得なかったのだ。
今はもう2階に上がっていったが、未だ喧嘩を続けてやしないだろうか。
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226 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:10:28 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)『よし、食べよう』
(*,゚Д゚)『そうっすね!』
川*゚ -゚)(*,゚Д゚)『いただきまー……』
/ ,' 3『いいにおい』
川 ゚ -゚)(,,゚Д゚)『あ』
2人が大口開けたところへ、大家の荒巻が階段を下りてきた。
(,,゚Д゚)『食べます?』
訊けば荒巻がゆっくり笑ったので、食堂からナイフを持ってきて
彼の分のハンバーガーから、まずは一口分を切り分けた。
ちなみに切ってくれたのは彼女である。
/ ,' 3『んん』
のんびりハンバーガーを噛み締めた荒巻が、満足げに頷く。
もっと食べるかと訊くと、お食べ、と遠慮して荒巻はソファの端に座った。
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227 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:12:30 ID:hyNsC6320
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川*゚ -゚)『うまいな!』
(*,゚Д゚)『美味いっすね!』
しばらく、美味い美味いと言い合いながらハンバーガーを食した。
半分ほどにまで減った頃だろうか、
/ ,' 3『ブーンとツンが、喧嘩、してた』
荒巻が呟いた。
(,,゚Д゚)『あ、まだ喧嘩してました?』
川 ゚ -゚)『珍しいよな。ブーンも照山さんも喧嘩するような人じゃなさそうなのに』
2人の言葉に荒巻はうんうん頷く。
けれど荒巻の口元は笑みの形を保っていた。
/ ,' 3『喧嘩、いいこと』
ぽつりと一言こぼして、荒巻が外へ出ていく。
残された2人は口を噤んで、ハンバーガーを齧った。
荒巻さんが来て良かった、けど、ちょっと。
困ったなあ。
そう思いつつ顔を見合わせ、へらっと笑った。
□
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228 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:13:57 ID:hyNsC6320
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ξ゚听)ξ「……」
色々と思うところがあった。
あったが。
とりあえず、ブーンとの喧嘩を、ギコ達にまで下らない内容だと思われていたのが分かって辛い。
言い合いながら掃除している内に気付けばいつもの状態に戻っていた程度には
本当に下らない喧嘩だったので。
(,,゚Д゚)「ハンバーガー美味しかったです」
川 ゚ -゚)「やっぱ秋はハンバーガーだな」
botか?
つっこむのを再び堪え、腰を上げた。
( ^ω^)「これで半分だお……」
ξ゚听)ξ「うん……」
奥のテーブルへ移動する。
残り6皿。1人3皿。
先と同じように向かい合って座り、4食目。
カップ焼きそば(ビッグサイズ)を見て、ツンは立ち上がった。
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229 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:15:15 ID:hyNsC6320
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(;^ω^)「ツン?」
ξ;゚听)ξ「ちょっと外出てくる」
(;^ω^)「何で!?」
ξ;゚听)ξ「外に出たら、お腹に入ってる食べ物が『核』に引っ張られてなくなるんでしょ……
ワカッテマスさんのときにそういうこと言ってた」
(;^ω^)「なくなるったって皿の上に戻ってくるだけだお、水の泡だおー!」
ブーンが腰にしがみついてくる。腹を押さえるな。やめてほしい。
ξ;゚听)ξ「いま焼きいもと牛丼とハンバーガー入ってるのに
焼きそばなんて無理! しかも何で大盛りなの!」
(;^ω^)「いける、いけるお! 頑張って!」
しばし、無理いけるの押し問答を繰り返し、
ようやく観念してツンは席に戻った。
牛丼と同じように置かれていた割り箸を掴む。
──何とか焼きそばを食べ終えて、今度は、
食堂で伊藤兄妹とカップ麺を食べた2人の記憶を見た。
伊藤兄妹と、と言っても兄妹がいたテーブルにギコとクールがお邪魔して
ほぼ一方的に話しかけていただけだったので
ペニサスはともかくフォックスとは会話どころか存在を認識されていたかすら怪しかったが。
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230 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:17:17 ID:hyNsC6320
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5食目は饅頭。それも焼きいも同様、半分ずつ。
一瞬ほっとしたものの、腹が限界を超えかけている状態ではあまりにもキツい食べ物であると知った。
ぎっしり詰まったあんこが辛い。飲み込めない。
記憶はブーンとツンと食べたときのものだった。
たしかに余り物を一緒に食べた覚えがある。が──
ξ;゚听)ξ「……もしかしてこれ、時期が巻き戻っていってる?」ウップ
(;^ω^)「そのようだお」オゥッ
腹を摩りながら言葉を交わす。2人の顔は死にかけだ。話すために口を動かすのもしんどい。
彼らと饅頭を食べたのは先月のことである。
だが、一度目に見たワカッテマスとの記憶では桜が綺麗に紅葉していた。
あそこまで色付いたのは最近だ。
ツンの名が出ていたので今年のことだろうし、
姉者が新しい洗剤を使い出した時期やブーンと喧嘩した時期を見てみると、
やはり遡っているように思う。
それも短いスパンでだ。
核となる後悔は、そう遠い過去ではないのだろうか。
ならば──そんな短期間に、ここまで淀みが溜まったということ。
それは一体、どんな重たい出来事だったのだ。
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231 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:18:20 ID:hyNsC6320
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ξ;゚听)ξ「……開けよう」
(;^ω^)「おー」
頷き合い、軽い食べ物であってくれと願いながら、蓋を持ち上げた。
ξ;゚听)ξ「……ん?」
スプーン。
ツンの皿の上に、スプーンだけが乗っている。
(;^ω^)「あれ?」
ブーンの方には何も乗っていない。
どういうことだ。まさかスプーンを食べろと。
困惑していると、それまで同じことばかり喋っていた筈のクールとギコが、
初めて他の意味合いの言葉を発した。
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232 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:19:14 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)「プリン食べたかった」
(,,゚Д゚)「プリンを食べてしまった」
ξ゚听)ξ( ^ω^)「は?」
.
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233 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:19:55 ID:hyNsC6320
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プリン?
食べたかったというクール、食べてしまったというギコ──
いや。ちょっと、それは、ちょっと。
ξ゚听)ξ「あの2人はプリンで心のどこかが死にかけてるの?」
(;^ω^)「どうも、そのようだお……」
メンタルが既にプリンレベルに脆くはないか、それは。
ξ゚听)ξ「プリンて……」
ツンとブーンは沈痛な面持ちで黙り込んだ。
こんなに苦労して、プリン。
いや、でも、しかし。
彼らがひどく悔やんでいることには違いがないし。
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234 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:21:29 ID:hyNsC6320
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ξ゚听)ξ「……あれ? ここからどうしたらいいの?」
( ^ω^)「んん?」
スプーンを握り、ツンは思い浮かんだ疑問をそのまま口にした。
まだ核に至っていない。
しかし他にヒントらしきものがない。
( ^ω^)「……プリン……」
呟き、ブーンが立ち上がる。
キッチンへ回って冷蔵庫を開けた彼は、何かを持って戻ってきた。
ξ゚听)ξ「あ」
底の丸い透明なカップに入った、淡い黄色の固まり。
蓋にはとある有名なケーキ屋の名前。
蓋は今はじめて見たが、カップ自体は見覚えがあった。
──あのときのものか。
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235 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:22:27 ID:hyNsC6320
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ブーンからカップを受け取り、蓋を剥がして、スプーンで一掬い。
ξ゚听)ξ「ん」
口の中。ひんやり、ぷるり、やわらかな感触。
ふわりとした表面が崩れて、とろりととろけて、大人しい甘みが舌にじわじわ染みていく。
ミルクが強い。
あんまりにも優しいから、お腹が苦しい筈なのに、どんどんカップの中身は欠けていった。
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236 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:23:18 ID:hyNsC6320
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□
川 ゚ -゚)『あ、ギコそれ私が食べようと思ってたプリンだぞ』
(*,゚Д゚)『あっ、すんませーん』
仕事から帰り、騒がしい食堂が気になったので覗いてみたら
楽しみにとっておいたプリンを彼が食べていた。
横で酔っ払っているワカッテマスや彼の手元の空き缶を見るに、
彼も酔ってしまって、冷蔵庫に入っていたプリンに手を出したのだろう。
食堂の冷蔵庫は共用だ。自分のものに名前を書いておかなかったら、
誰かに食べられても文句は言えない。
そういうルール。
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237 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:24:41 ID:hyNsC6320
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仕方ない。名前を書き忘れた馬鹿な自分が悪い。
そう理解はしているけれど、もやもやした。
ちょっと遠出して買った、人気も値段も高いプリンだった。
一日数量限定で、朝早くから並ばないと買えない。
そんな大事なプリンを共用の冷蔵庫に、しかも名前なしで置いた自分が悪い。悪いけど。
でも。もうちょっと、謝り方くらい。
いや、仕方ない。仕方ないのだ。
彼に悪気なんかないし。酔っ払っているようだし。
怒らないでいよう。こちらが年上なのだから、クールでいよう。
また買えばいいのだから。
──そう思っても、また朝早くに遠出してまで買いに行こうとは、思えなかった。
.
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238 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:25:43 ID:hyNsC6320
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一方で彼も、もやもやしていた。
朝になって目が覚めて、何故か痛む頭に首を傾げ、
しばらくしてからようやく昨夜のことを思い出した。
そうだ、間違って酒を飲んでしまったのだ。
そういえば勝手にプリンを食べてしまったような。
ああ、彼女のプリンだった。
すごく美味しくて、蓋に書かれた文字も金ぴかで格好よくて、多分、とても高いものだったろう。
申し訳ないことをした。
なのに、あんな謝り方。あれはひどい。
ちゃんと謝らなければ。
でもこの時間では、彼女は既に出社している筈。
夜に会ったら謝ろう。
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239 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:27:17 ID:hyNsC6320
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そうして夜。帰宅したら運良くエントランスホールに彼女がいた。
謝罪するため口を開きかけた。が。
川 ゚ -゚)『ギコ! 照山さんが饅頭くれた。半分こしよう』
まるで何も気にしていないように彼女が言った。
機会を失った言葉がぐるぐる喉の中を回って、そのまま腹へと落ちていってしまった。
もしかして、本当に気にしていないのだろうか。
もしかして、今さら話題を掘り返したら、それこそ嫌な思いをさせてしまうだろうか。
(,,゚Д゚)『……やった、ありがとうございます!』
あのとき出てこなかった言葉がずっと腹の中に留まって、苦しい。
けれど時が経つにつれてますます言いづらくなる。
同じプリンを買ってこようと思ったが、何という名前の店のものか分からない。
蓋を探そうにも、酒盛りが終わった後にみんなできちんと片付けをしてしまったので探しようもない。
きらきらした、ぐちゃぐちゃの曲線みたいな英語、馬鹿な自分には覚えていられなかった。
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240 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:28:23 ID:hyNsC6320
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彼に怒れないくせに。
彼女に謝れないくせに。
喧嘩にすら出来ないくせに。
一丁前に何でもないような顔をして、一緒に美味しいものを食べて。
そのくせ2人きりだと何だか気まずいから、
( <●><●>)『あ、焼きいも』
(;,゚Д゚)『すぐ見付かった!!』
川 ゚ -゚)『すぐ見付かる! こういうときすぐ見付かる!』
誰かが来てくれると、ひどく安心した。
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241 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:29:16 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)「独り占めしようと思ってたから、バチが当たったのかもしれない」
(,,゚Д゚)「クーさんは饅頭も焼きいもも分けてくれたのに、俺は1人でプリン食べてた」
そっぽを向いたまま、2人は沈んだ声で言う。
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242 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:31:10 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)「ギコはいい奴だから、酔いが覚めたらちゃんと謝ろうと思った筈なんだ。
私が怒らなかったから、あいつ、謝れなかったんだと思う」
(,,゚Д゚)「クーさん多分あのとき怒ってたのに、我慢したんだ。
俺が悪いってちゃんと言えてたら、クーさん、怒れたのに」
クールが困ったように眉を八の字にした。
ギコが堪えるように眉根を寄せる。
川 ゚ -゚)「でももう怒ってないから、あいつに怒ってやれないんだ」
(,,゚Д゚)「でも今さら謝ったって、クーさんは困るかもしれない」
──怒ってやれないから、ギコが謝れない。だから許してやれない。
──もう怒っていなければ、クールを困らせてしまう。だから謝れない。
2人の姿が崩れる。
ツンのお腹の中が軽くなった。
先程までクールとギコが座っていた席には、
眩しいくらいに真っ白なわたあめ。
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243 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:32:54 ID:hyNsC6320
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( ^ω^)「……2人共、頭は良くないけど」
同じように軽くなったのであろう腹を撫でながら、ブーンが口を開いた。
( ^ω^)「だからこそ彼らなりに一生懸命考えて、
それで辛くなることも、あるんだと思うお」
ξ゚听)ξ「……そうみたいだね」
気にせずに怒ればいい。謝ればいい。
言うのは簡単だが、人より少し回転の鈍い2人には、
どんなに入り組んだ機械よりもひどく複雑に見えてしまうのだろう。
∬´_ゝ`)『余計なこと知らずに生きてきたから真っ直ぐ育ったんじゃないの』
真夏。姉者の言葉を聞いたとき、ツンは深く納得していた。
だから彼らは真っ直ぐなのだと。
でも、あんまりにも真っ直ぐだから、自分の中の何かを曲げてしまったときに混乱するのだ。
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244 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:34:20 ID:hyNsC6320
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愛しくてしょうがないという顔でブーンがわたあめを見つめている。
手を伸ばそうとはしていない。
ξ゚听)ξ「明日までもちそう?」
( ^ω^)「ペースから考えれば、明後日までは大丈夫な筈だお」
ξ゚听)ξ「なら、今日はわたあめ、食べなくていいと思う」
( ^ω^)「うん。僕も、そう思ったとこだお」
2人は皿が消え去ったテーブルを一瞥してから、入口へ向かった。
扉を開けて振り返る。
しばしそのまま眺めていると、椅子の上でもぞもぞ蠢いていたわたあめが
再びギコとクールの姿をとった。
テーブルに皿が並んでいく。
食堂を出て扉を閉めると、約2時間ぶりの空腹が帰ってきた。
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245 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:35:18 ID:hyNsC6320
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ξ゚听)ξ「ギコさん」
(,,゚Д゚)「んえ? なんすか?」
翌日はちょうど休日だった。
ホールへ下りてきたギコを手招きし、食堂へ呼ぶ。
ξ゚听)ξ「えーと……手伝ってほしいんですけど」
(,,゚Д゚)「俺に出来ることなら!」
食堂のテーブルには既にブーンが座っている。
にこにこと見つめてくるブーンにギコは首を傾げつつ、
キッチンへ移動するツンに大人しくついてきた。
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246 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:36:01 ID:hyNsC6320
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(,,゚Д゚)「んで、何するんすか?」
ξ゚听)ξ「プリンを」
(,,゚Д゚)「はい?」
ξ゚听)ξ「作ろうと。思って」
間。
ぱちくりと瞬きをしたギコは、ややあって、えええ、と叫んだ。
(;,゚Д゚)「プリン!? プリン作れんすか!? 天才なのか!?」
ξ゚听)ξ「いや、別にそこまでの……」
恥ずかしくなってくるからやめてほしい。
熱くなりそうな顔をむりやり抑え、冷蔵庫から材料を出していく。
卵と牛乳。あとは砂糖。これだけだ。
(;,゚Д゚)「どうやって作るんすか!?」
ξ゚听)ξ「電子レンジで……」
(;,゚Д゚)「でんしれんじで!!?」
すこぶるうるさい。
UFOか妖怪でも見るかのような目をしてこちらを凝視してくる。
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247 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:37:30 ID:hyNsC6320
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ξ゚听)ξ「もちろん本格的な作り方じゃないんですけど、まあ、それっぽいものは出来るので……」
クールとギコに火を使わせてはいけない(ギコはそこに刃物も加わる)という
子持ちの家庭みたいなルールがアパート内に定着しているので、
火を使わないレシピをインターネットで調べてみたところ、電子レンジを使う方法がヒットしたのである。
念のため自分の部屋でも試しに作ってみたが、なかなかそれらしいものが出来た。
ξ゚听)ξ「マグカップで作れるんです」
(;,゚Д゚)「へえー……」
(*^ω^)「ツン、僕のも」
ξ゚听)ξ「分かってるから」
ブーンに答えて、食器棚からツンとブーンのマグカップを取り出す。
食堂に置かれている食器は基本的に共用だが、
しょっちゅう食堂を利用する者は、自分だけの箸やカップを常備してあるのだ。
特にマグカップはほとんどの住人が置いている。
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248 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:38:21 ID:hyNsC6320
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(,,゚Д゚)「……それ、俺の分も作っていいかなあ……」
ツンの手元を眺めながら、ギコが呟く。
それを聞いてツンとブーンは目配せをした。
ξ゚听)ξ「勿論。使いたいカップ、出してください。
誰かにも作ってあげたければ、その人のも」
ギコは悩むように手をさ迷わせ、自分とクールのカップを手に取った。
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249 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:39:35 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)「──何か甘い匂いする」
頃合いを見計らってブーンが連れてきたクールは、鼻をひくつかせてそう言った。
(,,゚Д゚)「クーさん!」
川 ゚ -゚)「ん、ギコもいたのか」
ちょうど冷蔵庫で冷やし終えたプリンを取り出すところだった。
ギコが2人分のマグカップを持っているのを見て、首を傾げるクール。
川 ゚ -゚)「何で私のカップ持ってるんだ?」
(,,゚Д゚)「プリン! 作りました!」
川 ゚ -゚)「作っ……? プリンは売り物じゃないのか?」
(,,゚Д゚)「チンして出来たんすよ!」
川 ゚ -゚)「何を言ってるんだ……? 気でも狂ったのか?」
( ^ω^)「君達はプリンを何だと思ってるんだお」
クールをテーブルに座らせ、ツンが彼女の前にスプーンと皿を置く。
それからギコが、慎重な手付きで皿の上にカップを引っくり返した。
物凄い真剣な顔をして、ゆっくりカップを持ち上げる。
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250 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:40:46 ID:hyNsC6320
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川 ゚ -゚)「お」
(*^ω^)「おー!」
(;,゚Д゚)「おおお……!」
ξ゚听)ξ「ちゃんと固まってますね」
ぷるんと揺れる、なめらかな黄色。
てっぺんには色濃いカラメル。
川 ゚ -゚)「本当に食べていいのか?」
(;,゚Д゚)「はい!」
川 ゚ -゚)「そっか、じゃあいただきます」
クールは右手のスプーンで幾度かプリンをつついてから
そっと優しく掬い上げた。
ちゅるん。小振りな唇に、プリンが吸い込まれる。
じっくり丹念に味わった彼女は、ごくんと喉を鳴らして。
ほんの僅かに頬を緩ませた。
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251 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:41:16 ID:hyNsC6320
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川*゚ -゚)「美味しい」
その顔を瞬きもせず見つめるギコの目が、徐々に徐々に、潤んでいく。
やがてぼろりと涙が零れて──
(,,;Д;)「クーさあああん!!」
川 ゚ -゚)「えっ何だいきなりえっ」
(,,;Д;)「勝手にプリン食べてごめんなさああい!!」
まさかの土下座。
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252 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:42:28 ID:hyNsC6320
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わんわん泣きながら謝るギコと傍観するブーンとツンを何度も交互に見たクールは
言葉を探すように視線を斜め上にやり、何か思いついたか、ギコの前にしゃがみ込んだ。
川 ゚ -゚)「いいよ、許す。だからギコも一緒に食べよう」
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253 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:43:04 ID:hyNsC6320
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──あ、とブーンが顔を上げる。
(*^ω^)「消えたお」
ξ゚听)ξ「そう」
良かったね、なんて甘ったるい言葉が出そうになって、ツンは唇を噛んだ。
この場で甘いものなどプリンだけで充分だ。
だから、クールと一緒にギコを起き上がらせて、みんなでプリンを食べよう。
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