ξ゚听)ξくいのこした四季たちのようです

186 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 00:13:31 ID:hyNsC6320



 熱気は徐々に緩んでいき、青かった葉が赤く色付く。



(#<●><●>)「そんでも〜〜〜箱開けたら何が入ってたと思います!?」

∬´_ゝ`)「はいはい、何ですっけ」

(#<●><●>)「『ひゃくまんえん』って書いた紙切れだよ
       あんッッッのババアふざけんなよ!!」

 美布ハイツの食堂に、ワカッテマスの叫びが轟いた。
 彼の前にはビールの空き缶が大量に転がっている。
 その向かいでチューハイを呷る姉者が呆れたような顔をした。

187 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 00:16:22 ID:hyNsC6320

∬´_ゝ`)「お盆に帰省してからというもの、酔うとその話ばっかねセンセー」

(#<●><●>)「減ってた金は寄付に回してたんだとよ御立派御立派ァ!! ジジイも一芝居うちやがって!」

∬´_ゝ`)「いいお祖母様じゃない」

(#<●><●>)「そんで箱にさあ、他のものも入ってたんだよ何だと思う!? なあ!?」

∬´_ゝ`)「はいはい何々」

( <●><●>)「これまで僕が答えてきたテストの束ですよ……普通あんなもん捨てるじゃないですか……くそっ……」

∬´_ゝ`)「愚痴るか泣くかどっちかにしてほしい」

(*,゚Д゚)「センセー元気っすねー」

川 ゚ -゚)「あ、ギコそれ私が食べようと思ってたプリンだぞ」

(*,゚Д゚)「あっ、すんませーん」

 ワカッテマスの隣に座っているギコが、クールの指摘に赤ら顔でへらへら答える。
 彼はまだ19歳であるが、馬鹿ゆえにチューハイをジュースと勘違いして飲んでしまったらしい。
 しかも酒に弱かったのか、僅か数口でへべれけ。

188 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 00:17:40 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ(その空き缶やおつまみのパック、片付けていってくれるのかしら……)

(*^ω^)「秋の夜長は飲み会だおー」

 と言いつつ水を飲むばかりのブーンが、姉者の近くにあったチューハイをツンに渡してくる。
 自分まで酔ったら、誰がこの散らかりきった食堂を掃除するのだ。
 明朝、二日酔いに喘ぎながら片付けなどしたくない。

 そうは思うも、皆があまりに美味そうに酒を啜っているので。
 ツンは、ふんと鼻を鳴らし、プルタブに指を引っ掛けた。

 実りの秋だ。美味いものを楽しむべきである。

189 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 00:18:11 ID:hyNsC6320





■ 秋の食堂 ■

196 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:39:07 ID:hyNsC6320

 素直クールは頭が良くない。


( <●><●>)「海外の小説読んでるとマザーグースがちょくちょく出てくるんですよねえ」

∬´_ゝ`)「あーそうね、たしかに多いわ。題材にしやすいしね」

川 ゚ -゚)「お、マザーグース知ってるぞ私」

( <●><●>)「嘘つかない」

川 ゚ -゚)「嘘じゃない。あれだろ。あれ男の子女の子のやつとか……タイトル何だっけ……あれだ!」

川 ゚ -゚)「男の子はなんで生きてるの?」

( <●><●>)「差別主義過激派かよ」

∬´_ゝ`)「男の子は何で出来てるの、ね。正しくは」

.

197 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:39:50 ID:hyNsC6320

 羽生ギコも頭が良くない。


(,,゚Д゚)「ペニサスちゃんって彼氏いないの?」

('、`*川「えっ、いません」

(,,゚Д゚)「じゃあ学校に好きな男の子とかいない? いるでしょ」

('、`*川「いませんけど……」

爪'ー`)「殺すぞお前」

( <●><●>)「何でよりによってこいつが居る前で伊藤にそういう話題振るんだよ馬鹿かよ」

∬´_ゝ`)「馬鹿でしょ」

.

198 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:40:39 ID:hyNsC6320

 だが、2人とも真っ直ぐだ。


川 ゚ -゚)「秋だなあ。秋は……食べ物が美味しい」

(,,゚Д゚)「さつまいもっすね」

川 ゚ -゚)「さつまいもだな」

(,,゚Д゚)「焼きたいっすね」

川 ゚ -゚)「でも火は危ないから使うなってみんなに言われてるんだ」ショボン

(,,゚Д゚)「小学生みたいっすね! 俺はそれに加えて包丁持つなとも言われてます!」

川 ゚ -゚)「園児みたいだな」

(,,゚Д゚)「さつまいも食いたいっすね」

川 ゚ -゚)「え、あ、急に話題戻るな……食べたいな」

(,,゚Д゚)「みんなで食いたいです」

川 ゚ -゚)「そうだなあ。美味しいさつまいも、みんなで食べたいなあ」

.

199 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:41:38 ID:hyNsC6320

 だからブーンもこう言っている。

( ^ω^)「あの2人、あんまり淀みが出ないんだお。出てもすぐに消えるし」

ξ゚听)ξ「へえ……」

( ^ω^)「すぐに忘れちゃうか、素直に反省して前向きに考え直して乗り越えるんだお。
       今までこんな人たち見たことない」

 それはとても羨ましい、と思う。
 自然に人生を楽しむ術を身につけているのだ。



 なので。



(゚Д゚,,)   川 ゚ -゚)



ξ゚听)ξ「……何でこうなったの」

(;´ω`)「さあ……」

 まさか彼らが、急激に淀みを溜め込み危険な状態にまで陥るとは思わなかった。





200 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:42:46 ID:hyNsC6320


 美布ハイツのエントランスから見て正面、ホールの奥の壁。
 右側の扉は食堂に繋がっている。

 食堂には4人用のテーブルセットが3つ置かれていて、
 奥の方に、カウンターで区切られたキッチンがある。
 大きめの冷蔵庫の中身はその時々で違うが、基本的には酒盛り用の酒が常備されているようだ。


 各戸にも狭いながらキッチンはあるが、
 こちらの方が遥かに広いし道具もそれなりに揃っているので
 主に姉者やワカッテマスが手の込んだ料理をしたいときに使っている。

 あとは仲のいい者達で一緒に食事をすることも。

 そのような感じなので一応、一日の内に数人は利用しているらしい。

201 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:43:30 ID:hyNsC6320


(;´ω`)「助けて」


 一日の業務を終えた後。

 エントランスホールの右隅、階段を上ろうとしたところで
 ブーンに呼び止められた。

ξ゚听)ξ「何?」

(;´ω`)「僕の『仕事』の方で、ちょっと問題が」

 少し驚く。
 夏以降、彼はまた1人で例の仕事を行っていた。
 基本的にツンに頼る気はないようだったので、まさか彼の方から相談してくるとは思わなかったのだ。

202 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:44:38 ID:hyNsC6320

(;´ω`)「君を巻き込むべきじゃないのは分かってるけど、でも今回は僕1人の力じゃ……」

ξ゚听)ξ「……別にいいけど。先に、何か軽く食べてきてもいい?
      お腹が減っててあんまり頭が回らない」

 今日はまだ夕飯を食べていない。
 時間を見付けて食べようと思っていたが、
 その度にブーンが用を言い付けてきたため何も食べられなかったのである。ぺこぺこだ。

 ツンの申し出にブーンは目を逸らした。
 やっぱり駄目か。まあ、急ぎの用だろうし。

ξ゚听)ξ「いいや、行く。どの部屋?」

(;^ω^)「……来てくれお、大丈夫、すぐにお腹が膨れるから」

ξ゚听)ξ「?」

 ごめん、と言いつつブーンが踵を返す。
 物凄く気まずそうだ。どうしたのだろう。

203 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:45:17 ID:hyNsC6320


 移動は数歩で済んだ。
 先ほど施錠したばかりの食堂の前で立ち止まり、ブーンがポケットから取り出した丸い鍵を差し込む。
 こきん。変な音をたてて、鍵が開けられた。扉の取っ手を引く。



(゚Д゚,,)   川 ゚ -゚)


 3つあるテーブルの内、一番手前のテーブルにギコとクールが座っているのを見付けて
 ツンは目を丸くした。

204 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:46:35 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ「2人いる」

(;^ω^)「どうも、たまたま2人の後悔が食堂に溜まっていたみたいなんだお。
       ……いや、たまたま、じゃないんだろうけど」

 互いにそっぽを向いていることから、ここで2人に何かあったのではないかと
 ブーンは推測しているらしい。

 ツンは2人いることにも驚いたが、それがこの2人であることに何より驚いていた。
 以前ブーンが言っていた。彼らは淀みが溜まりにくいと。

 しかも人型ということは、心がもう危険な領域に達しているわけだ。
 そのような重たい後悔が彼らにあるだなんて。

ξ゚听)ξ「……何でこうなったの」

(;´ω`)「さあ……」

 それを今から探るわけだが、言わずにはいられなかった。

205 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:47:41 ID:hyNsC6320

 改めて食堂を見渡す。

 奥2つのテーブルには、ずらりと皿が並んでいる。
 ひとつのテーブルに6皿。計12皿。
 全てにドーム型の蓋が被さっているため、中身は見えない。

 ざわざわ湧き上がる違和感。これが今回の「ヒント」。

(;^ω^)「あのお皿の中身を食べるの、手伝ってほしいんだお」

ξ゚听)ξ「え、食べるの? 食べて大丈夫なの?」

(;^ω^)「大丈夫だお」

 ただ大丈夫、とだけ言われても。
 ブーンを睨むと、彼は頭を掻いて言葉を探した。

( ^ω^)「……後悔の『核』を暴けば、淀みは一時的に人型の状態からわたあめ状に戻る。
       そのとき、部屋の異変も全て消えるおね?」

ξ゚听)ξ「うん」

 たしかに姉者の淀みが崩れた瞬間、
 周りの花や「ヒント」の花束も消えていた。
 ワカッテマスのときも同様に。

 ──そうか、なるほど。

206 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:48:54 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ「じゃあ。この料理をいくら食べても、最終的に核を突き止めて
      わたあめにしちゃえば、胃袋の中から料理は消えるってこと?」

( ^ω^)「そう。だから体には何の影響もないお」

 しかしそれは逆に言えば──

 この部屋から出なかったり、核を突き止められなかったりすれば、
 料理は普通に腹の中に溜まり続けるということだ。

ξ゚听)ξ「一回挑戦したけど、お腹いっぱいになって断念したのね、ブーンは」

(;^ω^)「そうなんだお……」

 前回は計算問題。
 今回は大食い。
 大変な仕事だと改めて思う。

川 ゚ -゚)「何の話をしてるんだ? 難しい話か?」

 ついにクールから声をかけられた。
 入室しておいて、放置したまま話し続けたのは申し訳ない。

 何でもない、と答えてブーンが真ん中のテーブルに移動する。
 右側の席に座ったのでツンはその向かいに腰を下ろした。
 皿は綺麗に整列しており、2人の前にそれぞれ3皿ずつ横並びの形となっている。

207 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:50:25 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ「このために私にご飯食べさせなかったんだ」

( ^ω^)「……相談して断られた場合に、美味しいご飯が食べられるよと釣る予定もあったお」

 目を逸らすブーンにじっとりと視線を送る。
 やはり仕事のこととなると普段の間抜けさが薄れる人だ。
 咳払いをして誤魔化したつもりらしい彼が、端の皿に触れた。

( ^ω^)「じゃあ、食べるお」

 そう言って蓋を持ち上げる。
 ツンも倣って、その対面の皿を開けた。

208 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:51:28 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ「──お芋だ」

 2人の皿には半分ずつに割られた焼きいもが乗っていた。
 大きさからして、一つの焼きいもを2つの皿に分けたのだろう。

 ぐう。ツンの腹が切なく鳴いた。さっそく手を伸ばす。

( ^ω^)「いただきますお」

ξ゚听)ξ「……いただきます」

 何も言わずに食べようとした自分が物凄く不躾に思えて、
 慌ててブーンに続けて両手を合わせた。

 今度こそ焼きいもを持ち上げる。

ξ゚听)ξ「あち」

 思ったより熱い。両手で転がし、手のひらに馴染ませた。

 内側は輝かしい黄金色。甘い匂い。
 じっくり焼いてあるのか蜜が滲み出し、しっとりと水分を含んだ断面はつやつや光っている。
 断面に歯を立て、皮ごと齧った。

ξ゚听)ξ アム

 ぱりぱりした皮とほくほくした身がほろほろ崩れる。
 皮と身の間がもっとも味が濃い。ほんのり苦くて、とても甘い。

209 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:52:18 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ(……うん、焼きいも)

 意外に普通というか、リアルというか。味や食感は現実のものと違いがなかった。
 もっと、こう、得体の知れないものを予想していた。

 美味しいし、半分だし。これなら難なく食べ進められる。
 夢中になってぱくぱく消費していき、ブーンとほぼ同時に食べ終えた。

ξ゚听)ξ(──来た)

 目眩。
 人の後悔を覗き見る罪悪感は依然としてあるが、
 正直、この2人にどんなことが起きたのかが気になる気持ちもある。

.

210 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:53:32 ID:hyNsC6320





川*゚ -゚)『んま』

(*,゚Д゚)『んまー』

 夕方。アパートの前、坂の途中。
 紅葉した桜の木の下。

 そこに座り込んで、半分ずつ分け合った焼きいもをかじる2人。
 美味しいなあと彼女は思ったし、彼もまた、美味しいなあと思っていた。

 赤みがかった橙色と鮮やかな黄色が重なり合う葉が、とても綺麗だ。
 秋である。

211 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:55:18 ID:hyNsC6320

川 ゚ -゚)『しかし一個しか買えなかったな』

(,,゚Д゚)『まさかあんなに並んでるとは……』

川 ゚ -゚)『みんな焼きいも好きなんだなあ』

 先程。焼きいもが食べたいと話していたら、ちょうど坂の下に石焼きいもの移動販売車を見付けたので
 急いで2人で買いに走ったのだが、既に結構な行列が出来ていた。

 残り少ないぞ、と店主が言ったところで2人の番が来て、
 たしかに少ないなと思いながら振り返れば、カップルや親子連れが何組かいたので。
 アパートの住人達の分も買うつもりだったが、結局、一つだけ買って列を抜けた。

川 ゚ -゚)『仕方ない、お前と私だけの秘密だぞ』

(,,゚Д゚)『こんなに美味いものを2人占めとは贅沢な』

( <●><●>)『あ、焼きいも』

(;,゚Д゚)『すぐ見付かった!!』

川 ゚ -゚)『すぐ見付かる! こういうときすぐ見付かる!』

 そこへ帰宅途中らしいワカッテマスが通り掛かって、
 秘密の焼きいもは秘密でなくなってしまった。
 ワカッテマスが鼻白む。

212 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:56:26 ID:hyNsC6320

( <●><●>)『別に取りませんよ』

川 ゚ -゚)『見られたからにはタダでは帰さん。センセーにも半分やろう』パカッ

(,,゚Д゚)『あ、じゃあ俺のも半分どうぞ』ポコッ

( <●><●>)『まあ、くれるならもらいますけど……』

 彼の半分と彼女の半分がワカッテマスの両手に渡される。
 つまり彼の手にも残り半分、彼女の手にも残り半分、そしてワカッテマスが半分ずつ持っているわけで。

川 ゚ -゚)『よし、みんな同じ量で平等だな』

(,,゚Д゚)『ヘーワ的カイケツっすね!』

( <●><●>)『頼むから単純な算数くらいは出来てくれ』

 可哀想なものを見る目を向けられた。
 ワカッテマスと話していると、よく、こういう目をされる。

 いつか悪い大人に騙されますよと言われたがよく分からない。

213 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:57:09 ID:hyNsC6320

(,,゚Д゚)『センセーもここ座りましょうよ』

( <●><●>)『嫌ですよ服が汚れる。寒いし』

川 ゚ -゚)『でも葉っぱがな、綺麗なんだぞ』

( <●><●>)『ああ毎日枯れ葉の掃除で大変そうですよね照山さん』

川 ゚ -゚)『センセー夢ないな』

 座り込んだまま、2人でワカッテマスのスーツの裾を引っ張る。
 うるせえなと乱暴な口調で手を振り払ったワカッテマスは、
 仕方ないとばかりに2人の間に腰を下ろした。

 睨むような目で桜の木を眺めながら、焼きいもに齧り付く。

( <●><●>)『……うま』


 そうして2人は同時に思った。

 ──ああ、センセーが来てくれて良かったなあ。と。





214 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:57:54 ID:hyNsC6320


 記憶の再生が終わって、真っ先に抱いた感想はたった一言。

ξ゚听)ξ「平和ね」

( ^ω^)「まあこの2人だし」

 のほほんとした日常の一コマである。


 クールの視点とギコの視点が混ざったような不思議な感じで、
 また、姉者のとき程ぼやけていなく、ワカッテマスのとき程ぱきっともしていない、
 ふわふわ柔らかな、優しい色彩であった。

 だが最後、ワカッテマスが来て良かった、という部分の2人の感情がいまいちよく分からない。

 「美味しいものを共有できた」という喜びが大きかったのだけれど、
 その陰に、後ろめたさの混じる安堵があったように思う。

215 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 21:58:28 ID:hyNsC6320

(,,゚Д゚)「焼きいも美味しかったです」

川 ゚ -゚)「やっぱ秋は芋だな」

 手前のテーブルを見ても、2人はのほほんと実のない感想を言うのみである。
 尚あいかわらず2人はそっぽを向いている。

 ──2人きりなのが気まずかったのだろうか?
 しかしいつも通り、仲良く焼きいもを分け合っていたようだが。

( ^ω^)「ちゃっちゃと次に行くお、あんまりゆっくりしない方がいい」

ξ゚听)ξ「ん」

 ブーンに促され、隣の皿を開ける。
 ──チェーン店の牛丼が、一人前。

ξ゚听)ξ「……2食目で重めのやつ来た」

( ^ω^)「そうなんだおね……」

 こちらも、2人の皿の中身は同じだ。
 ひょっとして他の皿もそうなのだろうか。

216 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:00:53 ID:hyNsC6320

ξ゚听)ξ「どっちも同じメニューなのね」

( ^ω^)「ギコとクーが一緒に食べたものが出てきてるんだと思うお。
       僕側の皿が多分クーで、ツンの方はギコ」

 昨日ブーンが1人で挑戦した際、クール側の3皿を食べ終え
 反対側に回って蓋を開けた瞬間、今しがた食べたばかりのものがまた出てきて
 しかも視点が違うだけの同じ記憶を再生されて
 だいぶ大きな精神的ダメージを負ったという。想像してぞっとする。

ξ゚听)ξ「……とりあえず食べましょうか」

 持ち帰り用の器。その脇に置かれた割り箸を手に取り、いただきます、と一言。
 まだまだ腹は減っている。

 ほかほか湯気を立てる牛丼を掬い上げ、口に収めた。

 甘辛く煮込まれた肉と玉ねぎ、汁を吸ったご飯。
 噛む度に玉ねぎはとろけてご飯に馴染み、
 牛肉はぎゅっぎゅと食感を残したまま強い風味を染み出させていく。

 少しして、残り一口のところでブーンを見ると
 先にほとんど食べ終えていたらしく、同じく一口分残していたブーンがツンを眺めていた。

 同時に最後の一口を頬張る。

.

217 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:01:27 ID:hyNsC6320





川 ゚ -゚)『たまに食べると美味いなあ』

(,,゚Д゚)『俺はしょっちゅう食べてますよ』

 ランドリールーム。
 4つ並んだ洗濯機の前、待機用のパイプ椅子に座って
 2人は牛丼を食べながら洗濯が終わるのを待っていた。


 仕事帰りに近くの牛丼屋の前でばったり会って、
 何となく一緒に注文して何となく一緒にアパートへ帰ってきて、
 そのまま何となく一緒にランドリールームで洗濯を始めたのだ。

218 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:02:05 ID:hyNsC6320

川 ゚ -゚)『今日はギコ、いつもより帰りが少し遅かったんだな』

(,,゚Д゚)『はい、仕事でミスしちゃったんすよー……
     同じ失敗はしないように気を付けてたんだけどなー……
     俺馬鹿だなあ』

川 ゚ -゚)『ギコはたしかに馬鹿だが……私よりは頭いいと思うぞ』

(,,゚Д゚)『クーさんも頭良くないけど俺よりはマシですよ。ん? 結局どっちが頭いいんだ?』

川 ゚ -゚)『じゃあ同レベルでいいな!』

(,,゚Д゚)『そっすね!』

 間をあけて、同時に溜め息。
 さすがに今の会話の空しさは理解できる。

(,,゚Д゚)『……センセーは先生だし姉者さんは英語できるし、
     頭いい人と住んでると自分も頭良くなった気になるけど、やっぱ全然っすねー』

川 ゚ -゚)『そうだなあ。みんな凄いな』

∬´_ゝ`)『あ、お馬鹿2人』

川 ゚ -゚)『頭いい人だ!』

(,,゚Д゚)『頭いい人!』

∬´_ゝ`)『何それ……』

 袋を抱えた姉者がランドリールームに入ってきた。
 あいている洗濯機に袋の中身を移そうとするので、彼は牛丼に目を落とした。
 他人の、それも女性の洗濯物はじろじろ見てはいけないのだ。

 壁際の棚に住人それぞれ愛用の洗剤が並んでいる。
 姉者が使うのは、彼らには商品名すら分からない、ちょっとお洒落な洗剤である。
 最近違うブランドにしたらしいが相変わらず商品名が読めない。でもいい匂い。

219 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:03:02 ID:hyNsC6320

∬´_ゝ`)『一口ちょうだい』

川 ゚ -゚)『うん、どうぞ』

 洗濯機の操作を終えて、彼女の隣に座った姉者が牛丼を一口食べた。
 美味しい、と微笑むので、彼らも笑った。

∬´_ゝ`)『ていうか言っとくけど、国語と英語以外は大したもんじゃなかったわよ。平均』

(,,゚Д゚)『嘘だあ』

∬´_ゝ`)『ほんとほんと』

(*,゚Д゚)『おお、じゃあ俺体育で姉者さんに勝てるんだ! やった!』

∬´_ゝ`)『いま頭がいいかどうかの話じゃなかったの……? まあ実際体育は苦手だったけど』

川 ゚ -゚)『私たぶん何も勝てないな……』シュン

∬´_ゝ`)『クーちゃんには色々敵わないと思ってるんだけどね私』

220 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:04:05 ID:hyNsC6320

(,,゚Д゚)『色々かあ……体育しか勝ててない俺より凄いっすよクーさん』

川 ゚ -゚)『ギコは婚約者がいるじゃないか。姉者さんにはいないぞ?』

∬´_ゝ`)『何、なんでいきなり急所突いてきたの。ほんとデリケートなとこよ。
      そもそも勝ち負けで測れないのよ。それは。分かる? ねえ』

川 ゚ -゚)『ご、ごめんなさい』

(*,゚Д゚)『こっ、婚約者なんて、まだそこまで行ってないです、
     ただ都会で独り立ちできるくらい立派な男になれば結婚していいってお義父さんが、
     あっお義父さんって言っちゃった俺』

 顔を真っ赤にして1人で捲し立てる彼と、顔を真っ青にして姉者に謝罪する彼女。
 対照的である。

 彼の地元にいる恋人の家が自営業をやっており、
 そこの跡取りとして認めてもらうために彼が1人で上京して
 花嫁修行ならぬ花婿修行をしていることはアパートの全員が知っている。

 上京してから今年で2年になる。まだ2年、と恋人の父親は言っているようだが
 盆に帰省した際、態度が軟化しているのを感じた。
 もう少しで認めてもらえるかもしれない。

 そうだ。恋人のため、自分のため、頑張らねばならないのだ。

221 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:04:41 ID:hyNsC6320

(,,゚Д゚)『……何かめっちゃやる気出てきた!! 仕事がんばります!!』

川 ゚ -゚)『おお、元気出て良かったな』

∬´_ゝ`)『どうしてギコ君に婚約者がいて私にいないことで元気出るわけ? 何?』

(;,゚Д゚)『いやそういう意味じゃ……』


 2人はまた思う。
 姉者さんが来てくれて良かったなあ。と。





222 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:06:20 ID:hyNsC6320


ξ゚听)ξ(……本当に、引きずらない人達なんだな)

 とても前向きで、しかし決して考えなしの前向きさではない。
 だから後悔が溜まりにくい──残りにくいのだ。

 それ故に彼らが一体何を悔いているのか、ますます疑問が募る。

(,,゚Д゚)「牛丼美味しかったです」

川 ゚ -゚)「やっぱ秋は牛丼だな」

 それは秋と関係あるのか? さっきと言っていることが同じでは? つっこみかけた口を押さえ、
 ツンとブーンはこのテーブル最後の皿を開けた。

ξ゚听)ξ「わー……」

 ハンバーガーだ。
 これも出来たてのようで、ふわりと湯気や香りが立ち上る。

( ^ω^)「ツン、大丈夫かお?」

ξ゚听)ξ「うん……多分、うん」

 普段ならば食事を終える程度には腹がすっかり落ち着いているが、
 決して入らないわけではない。と思う。

223 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/02(土) 22:07:37 ID:hyNsC6320

 チェーン店のものではない。
 駅前のダイナーの店名が印刷された包み紙に半分ほど覆われている。

ξ;゚听)ξ「……大きいね」

(;^ω^)「うん」

 厚みのあるバンズ、レタス、パティ、チーズ、またパティ、またチーズ、トマト、レタス、バンズ。
 大きく口を開いても上から下まで届くか怪しい。

 しかし怯んでいたら先の牛丼が効いてきそうなので、勢いのままにかぶりついた。

ξ゚〜゚)ξ(……あ、美味しい)

 表面がつやつやのバンズはやや硬め。
 とろとろに溶けて下の具材まで覆うほどたっぷり挟まれたチーズの塩気とパティの肉々しさ、胡椒の辛みを
 レタスとバンズが程々に受け止めていて、思いのほかくどくない。

 二口目は、さっき届かなかったトマトの方を中心に据えて齧る。
 肉とチーズとトマトとレタス。を乗せるパン。こってりとさっぱり。そりゃあ美味い。

.

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