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88 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/31(木) 20:54:15 ID:jdq.bwYg0
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日射しは日に日に強くなり、季節が一個、次へと転がる。
(;<●><●>)「あっっっつ」
1階、エントランスホール。
ぐったりとソファに凭れたワカッテマスが、首に掛けたタオルで汗を拭いながら
ぱたぱたとうちわを扇いでいる。
首を振る扇風機が定期的に彼の方を向くが、あまり効果はなさそうだ。
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89 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/31(木) 20:55:28 ID:jdq.bwYg0
-
(;<●><●>)「照山さん、もっとパワーのある扇風機買いましょうよ」
∬´_ゝ`)「私エアコンがいい」
ξ゚听)ξ「考えておきます」
( ´ω`) アツーイ
扇風機の前を陣取る姉者とブーンも生気が溶け落ちるほどの気温。
暑さには強い方であるツンも、この中で掃除機を引いて歩き回るのはなかなか辛い。
/ ,' 3 ズズー
しかしこの、涼しい顔で麦茶を飲みながら囲碁番組を眺めているような祖父から
扇風機あるいはエアコンの購入許可をもらえるだろうか。
数学と英語の課題を前にするペニサスが、申し訳なさそうにワカッテマス達を見た。
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90 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/31(木) 20:56:00 ID:jdq.bwYg0
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('、`;川「ごめんなさいワカ先生、姉者さん。
私の部屋か先生達の部屋で勉強教われれば良かったんですけど……」
∬´_ゝ`)「いいのいいの、あの兄貴が許さないでしょ。狭い部屋で個別指導とか。しかもセンセーいるし」
( <●><●>)「図書館行きません?」
∬´_ゝ`)「大人がペニサスちゃん連れ回すのも嫌がるわよ。しかもセンセーいるし」
( <●><●>)「あーあ! あいつ死なねえかな!」
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91 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/31(木) 20:57:13 ID:jdq.bwYg0
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──と、いい大人達が揃って茹だっていると。
(,,゚Д゚)「いやマジで凄いらしいんすよ、ハッカ油っての。めっちゃ涼しいんですって」
川 ゚ -゚)「でも発火油って名前からして物凄く暑そうだぞ?」
(,,゚Д゚)「そこなんすよねえ」
( <●><●>)「脳味噌がバターで出来てそうな会話やめろ」
美布ハイツが誇る稀代の馬鹿ども、
301号室の羽生ギコと304号室の素直クールが
神妙な面で話し合いながら階段を下りてきた。
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92 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/31(木) 20:57:46 ID:jdq.bwYg0
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■ 夏の浴室 ■
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96 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:28:51 ID:kX2GMNb20
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8月。真夏だ。
各自の部屋にはエアコンが取りつけてあるものの、
1階の共有スペースであるホールと食堂は扇風機しか置いていない。
にもかかわらず、今年の最高気温を記録した本日、
ほとんどの住人がホールに集結するという悲劇が巻き起こっていた。
(;´ω`)「あづうーいー」
ξ゚听)ξ「部屋に戻れば?」
(;´ω`)「みんなここにいるのに仲間はずれなんてやだお」
ツンは例によって掃除のため。ブーンは寂しいため。
/ ,' 3「いご」
祖父は大きなテレビで好きな番組を見るため。
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97 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:30:01 ID:kX2GMNb20
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('、`*川「これでいいですか?」
ペニサスは夏休みの課題で解けないところを教わるためで、
∬´_ゝ`)「よしよし、文法のミス減ってるわね」
( <●><●>)「そろそろ数学もやりましょう伊藤」
('、`*川「そうですね、英語は一区切りついたし……」
姉者とワカッテマスはそれぞれ英語と数学をペニサスに教えるためだ。
川 ゚ -゚)「センセー、アイス買ってきたぞ!」
(,,゚Д゚)「コーヒーも買ってきました!」
( <●><●>)「ご苦労」
そして馬鹿2人──クールとギコは先程コンビニに出掛けようと3階から下りてきて、
そのついでにワカッテマスにパシられた。
各々の目的により、こうして美布ハイツの住人ほぼ全員が揃うに至ったわけである。
この場にいないのは1人だけ。
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98 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:31:11 ID:kX2GMNb20
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川 ゚ -゚)「ペニちゃんえらいなあ。夏休みの宿題ちゃんとやって。
私なんか高校のとき、答え丸写しにしてたぞ」
( <●><●>)「出ましたよ馬鹿の常套手段」
川 ゚ -゚)「でもな、『途中式省略』の意味が分からなくてそのまま書いて提出したら
一瞬でバレてしこたま怒られたんだ」
( <●><●>)「一歩先行く馬鹿だな」
カップアイスの蓋を剥がしながら話しているのは304号室の住人、素直クール。
ツンとあまり歳は変わらない筈だが、度々、こう、間の抜けた言動をとるので
どうにも彼女をいっぱしの成人女性として見ている者がいない気がする。
近所の会社で事務員をしているらしいが、ちゃんと働けているのか不安に思わないでもない。
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99 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:31:47 ID:kX2GMNb20
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(,,゚Д゚)「ていうか今の内から宿題やってるだけでもうめちゃくちゃ偉くないすか?」
∬´_ゝ`)「あー、最終日に焦るタイプだ。そんな感じするわギコ君」
(,,゚Д゚)「いや、夏休み明けるまで宿題の存在忘れてました」
∬´_ゝ`)「ごめんちょっと引く」
(;,゚Д゚)「そんなあ。あ、ねえツンさんもアイス食べましょうよ! 休憩休憩!」
ξ゚听)ξ「はあ。……ありがとうございます」
棒つきアイスの袋を振り回してツンを誘ったのは301号室の羽生ギコ。
こちらは19歳で、美布ハイツではペニサスに次いで若い。
田舎から単身上京してきたらしい。
ギコからアイスを受け取り、ツンもソファに座った。
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100 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:32:37 ID:kX2GMNb20
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( <●><●>)「他の課題もちゃんとやっていますか伊藤。
去年みたいに君の兄貴が勝手にやってはいませんか」
('、`*川「大丈夫です、机にしまってるので……」
( <●><●>)「ならいいですが。──……それにしても暑い」
川 ゚ -゚)「センセー汗っかきだな」
既に意味をなしていなさそうなタオルで顔を押さえるワカッテマスに、何気なくクールが言う。
それを聞いてツンはTシャツの襟を軽く引っ張った。
ずっと動き回っていたのでこちらも随分と汗をかいてしまった。
ξ゚听)ξ(……夏だなあ)
(;´ω`) アツーイ
外から聞こえる蝉時雨に耳を傾けつつ、アイスに舌を押し当てた。
.
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101 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:33:23 ID:kX2GMNb20
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──日が沈みかけ、暑さがいくらか緩んできた頃。
ξ゚听)ξ(どうしてこうなった)
そこにはアパート住人達と共に銭湯へ向かうツンの姿が。
ξ゚听)ξ(どうしてこうなった)
タオルやら着替えやらシャンプーボトルやらを詰めたトートバッグを見下ろし、
それから前を歩く集団を見遣り、ツンはいくつもの疑問符を浮かべた。
どうしても何も。
∬´_ゝ`)『せっかくだし皆で銭湯行かない?』
と姉者がホールにいた女性陣に声を掛け、
たまには足を伸ばせる風呂に入りたいという欲望に負けたツンも参加することになり、
姉者、クール、ペニサス、ツンの4人が準備を整えたところで
爪'ー`)y‐『人の妹どこに連れてく気だよ』
運悪く仕事帰りだったペニサスの兄、伊藤フォックスに見付かり、
何やかんやのやり取りを経て、
爪'ー`)y‐『……俺も行く』
可能な限り妹を目の届く範囲に置いておきたい病的なシスコンまで加わり、
それなら俺も僕もとギコ、ブーンも手を挙げたので
ここまで来たらということでワカッテマスを姉者が引っ張り、ブーンも祖父を誘って。
ξ゚听)ξ(何この行列)
現在、9人もの男女がぞろぞろと銭湯へ赴くに至ったわけである。
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102 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:34:22 ID:kX2GMNb20
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フォックスも加わったことでアパート住人全員が揃っている。
こうして住人達を改めて見てみると、妙な取り合わせだ。
∬´_ゝ`)「みんなで行く形になっちゃったわね」
川 ゚ -゚)「何だ、うちのアパートってみんな仲が良かったんだなあ」
ξ゚听)ξ「男性陣まともに仲いいのいませんよ」
そもそも女側も姉者が満遍なく付き合っているというだけであって、
姉者を抜いたメンツでは普段から大した交流もない。
このように全員で行動することなど、今後あるかないかだろう。
ξ゚听)ξ(学校の行事以外でこんな人数の団体行動したことない……)
──美布ハイツは緩やかな坂の途中にある。
桜並木に挟まれた坂は、今の季節には青々とした緑葉が陰を落としているため些か涼しい。
この坂を下りきって、少し歩いた先に目的の銭湯があるのだ。
休憩所や食事どころが備わった、いわゆるスーパー銭湯というやつ。
そこへ向かうべく、10人近い男女が各々バッグだったり大胆にもタオルで包んだだけの着替えだったりを抱え
大雑把に2人並ぶ形で列を作っているので、傍目にはやや目立つ。
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103 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:35:02 ID:kX2GMNb20
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/ ,' 3「おふろ」
ξ゚听)ξ「おじいちゃん、のぼせないでね」
/ ,' 3「大丈夫、大丈夫」
祖父は全体的にのんびりした人だが、足腰は強い方だ。
逆に言えば足腰は強い方だが元来のんびりしているせいで所作が鈍い。
ので、こうやって列になって歩くといつの間にか最後尾にいるし、距離も開く。
もしものときのため、ツンも祖父に合わせてゆっくり歩いた。
賑やかなのが楽しいのだろう。祖父はにこにこしている。
/ ,' 3「ブーンの仕事、見ちまったの」
ξ゚听)ξ「え」
急に問い掛けられて、詰まった。
ブーンの仕事──喧嘩の仲裁とか、そっちの方ではないだろう。
人の「後悔」を食べる仕事。
やはり祖父はそのことを承知しているらしい。
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104 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:35:36 ID:kX2GMNb20
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──姉者の後悔を食した春の日以降、ブーンはツンの前でその仕事を隠すのをやめた。
基本的には皆が寝静まった夜に行っているようだが、
平日の昼など、ほとんどの住人が留守にする時間帯にも時々やっているようだ。
たとえばツンがホールで休憩していたときに、例の丸い鍵でランドリールームに入るブーンを見た。
胃もたれしたと腹を摩っている日もあるので、ツンの後悔も定期的に片付けてくれているのだろう。
たまにすっきりしたような気持ちで目覚める日があるし。
1ヵ月ほどは恥ずかしさで居た堪れなかったが、最近はもう開き直っている。
ξ゚听)ξ「……うん」
/ ,' 3「あれも、大事な仕事。
みんな知らんだけで、どこのアパートやマンションでも、一軒家でも、やってること」
ξ゚听)ξ「うん……え? そうなの?」
/ ,' 3「うん」
そうなのか。そうなのか?
祖父の顔を凝視しても、嘘をついているようには見えない。
ξ;゚听)ξ(ええ……?)
そんなの聞いたことがないのだが。
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105 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:37:05 ID:kX2GMNb20
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でもたしかに。前回思ったように、こんな事実が住人達に──世間に広まれば
世の中は大変な騒ぎになるだろう。だから秘密は厳重に保持される筈だ。
ならばツンが知らなかったのも当然かもしれない。
しかし。
どこのアパートでもマンションでも、とは。
まあそれはブーンのように、管理人や大家がやっているのかもしれないが──
ξ;゚听)ξ「一軒家の場合はどうしてるの」
/ ,' 3「ちゃんと、担当する人がな。いるんよ」
ξ;゚听)ξ(えええ……)
ツンが実家で暮らしていた頃にも、見知らぬ何者かが夜な夜な侵入して
胸に抱えた後悔を食っていたということか。
何というか。それは。嫌だなあ。と思う。
/ ,' 3「……そういう人達の中で、ブーンは
あんま、上手な方じゃないみたい」
一歩一歩、ゆっくり進みながら、祖父は言った。
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106 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:37:52 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ「……そうなの?」
/ ,' 3「うん。だから。
ブーンが困ってたら、手伝ってあげてな」
歩みに似てゆっくりと発される言葉を受けて、ツンは顔を前に向けた。
( ^ω^)
先頭を歩くブーンは、隣のワカッテマスと何やら話している。
考えてみれば、たしかに──絶対に知られるべきでない筈の仕事を
ツンに見付かっている時点で、あまり腕のいい方ではないのかもしれない。
/ ,' 3「ブーンも辛いでな」
ξ゚听)ξ「……うん」
あれ以来ツンはブーンの仕事に同行していない。
他人の、一番誰にも知られたくないであろう部位に触れるのは
きっと良くないことだと思うのだ。
でも、あれはある意味、汚れ仕事であって。
様々なリスクがある分、彼にかかる負担も様々で、とても大きなものの筈。
ならば助けを求められれば、手伝うのもやぶさかではない。かもしれない。
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107 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:39:03 ID:kX2GMNb20
-
川 ゚ -゚)「──ちょっと寄っていくな。みんなは先に行っててくれ」
(,,゚Д゚)「あ、俺も俺も!」
途中、薬局の前に差し掛かったところでクールとギコが立ち止まった。
姉者は店の前で2人を待つことにしたようだ。
一方でワカッテマスは2人に構わずさっさと歩いていったし、
ペニサスもフォックスに手を引かれ、名残惜しげに遠ざかっていった。
祖父が立ち止まったので、ツンも足を止める。
∬´_ゝ`)「あら珍しい、ブーンが人を置いていくなんて」
ぽつりと落ちた姉者の呟き通り、ブーンはワカッテマスの隣についたままだった。
こういうとき、ブーンは置いていくよりも待つ方を選ぶのだが。
ξ゚听)ξ「ワカッテマスさんとフォックスさんが喧嘩しないようにじゃないでしょうか」
ツンが言うと姉者は、ああ、と納得したように頷いてそれ以上言及しなかった。
ワカッテマスとフォックスは相性が悪い。
ξ゚听)ξ「……」
だがツン自身は、己の発言に納得していなかった。
ワカッテマスに目を向けているブーンを観察する。
──春のあの日。
階段を掃除する姉者を見つめていたブーンの姿を思い出していた。
■
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108 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:39:47 ID:kX2GMNb20
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入浴の様子は割愛する。好きなように想像していただきたい。
ともあれ無事に銭湯に着き、無事に入浴し、
久しぶりに風呂の中でのんびり手足を伸ばせてツンもご満悦であった。
∬´_ゝ`)「──あら、みんな待っててくれたの」
風呂から上がって。
休憩所を覗き込んだ姉者は、長椅子に座る男5人を見て意外そうな声を出した。
まあ、和気あいあいと待っていた気配はゼロだったが。
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109 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:40:42 ID:kX2GMNb20
-
( <●><●>)「待ってたんじゃなくて馬鹿の対処に困ってたんですよ」
∬´_ゝ`)「あー、やっぱりそっちも」
('、`*川「兄さんごめん、ゆっくりしすぎちゃった」
爪'ー`)y‐「別にいい。帰るぞ」
('、`*川「あ……う、うん」
入口に近い位置にいたフォックスは脇に置かれてある灰皿に煙草を押しつけ、
ペニサスの腕を掴むなり、さっさと歩き出してしまった。
だが手付きは強引なものでなく、腕を引っ張るというより軽く握っているだけに見えた。
もはや無愛想どころの話ではないしペニサスのこととなれば他者(主にワカッテマス)に粗暴な態度をとるが、
ペニサスにだけはとにかく甘い兄である。
兄に付いていきながらもこちらに振り返り、ペニサスが一礼。
('、`*川「ごめんなさい、先に帰ります。楽しかったです」
∬´_ゝ`)「はいはーい」
-
110 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:43:03 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ(何だかなあ……)
( <●><●>)「もう少し伊藤を放っておいてやれないもんですかね、奴は」
∬´_ゝ`)「それが出来たらペニサスちゃんも苦労しないわ。
──で、」
兄妹の背が見えなくなったタイミングで、姉者が振り返った。
視線の先には休憩所の床に転がる男女。
姉者とワカッテマス、ツンの溜め息が重なる。
:川 ; -;):「しゃぶいいいい風に当たったら死ぬううう」ガタガタ
:(,,;Д;):「凍ってません!? 俺凍ってませあああああ」ブルブルブル
∬´_ゝ`)「この馬鹿達どうしましょ」
( <●><●>)「本当にね」
真夏だというのにがたがた震えるクールとギコを前に、
顔を見合わせもう一度溜め息をついた。
.
-
111 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:44:04 ID:kX2GMNb20
-
──簡単に顛末を説明すると、クールとギコが
薬局で購入したハッカ油を風呂上がりの体に塗りつけて自爆したという、ただそれだけの話である。
馬鹿だ。
今日は2人から後悔の飴玉がぽろぽろ零れることだろう。
原液直塗りは危険なので絶対にやめよう。
川 ; -;)「うう、これが発火油……たしかに焼けるようにひりひりする……でも寒い……」
(,,;Д;)「名前は間違ってなかったんすね……また一つ学べましたねクーさん」
川 ; -;)「そうだな、賢くなったぞ」
( <●><●>)「こんなに馬鹿なのに、何でこんなに真っ直ぐ育ったんでしょうね。こいつら」
∬´_ゝ`)「余計なこと知らずに生きてきたから真っ直ぐ育ったんじゃないの」
ともかく休憩所で騒げば迷惑になる。むりやり外に引っ張り出されたギコ達は、
ぶるぶる震えながら帰路についていた。
ワカッテマスと姉者は呆れ顔で彼らを眺め──
( ^ω^)「……」
そんなワカッテマスを、ブーンが不安げに見つめていた。
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112 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:44:45 ID:kX2GMNb20
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ξ゚听)ξ(……やっぱり、あの目だ)
姉者の「淀み」を感じ取り心配していた目。
その目が今、ワカッテマスに向けられている。
つまりは──そういうことだ。
でもどうせ、今まで通り1人でやるだろう。
ツンは目を逸らし、生温い夜風に当たりながら歩を進めた。
■
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113 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:45:52 ID:kX2GMNb20
-
それから3日ほど経った。
(;^ω^) ウーン
ξ゚听)ξ(……駄目だったのかしら)
この3日、ブーンは日がな一日何やら悩み続けている。
考え込むように顔を顰め、時々ワカッテマスを見て、また考え込んで。
明らかに「仕事」が上手く行っていない様子だ。
/ ,' 3『ブーンが困ってたら、手伝ってあげてな』
ぐるぐる、祖父の言葉が頭を回る。
ツンは2階の廊下の真ん中で掃除機のスイッチを切り、
隅っこに座るブーンへ顔を向けた。
──盆の時期であるため、姉者とクール、ギコの3人は今朝、地元へ帰省した。
ワカッテマスも明後日に帰省するそうだ。
だからもしかしたら、それまでに解決した方がいいのかもしれないし。それなら、協力、しないでも。ない。
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114 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:46:33 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ「……ブーン」
(;^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「何か、困ってる? なら、あの? 何か?」
(;^ω^)「ごめん、もうちょっと疑問符減らして話してくれお」
軽く死にたくなった。
どうしてこう、相談しろの一言が出ないのだ。
掃除機の持ち手を握り締めて深呼吸。
目を閉じて、一拍おいてから瞼を持ち上げた。
ξ゚听)ξ「……何か手伝うことある?」
( ^ω^)「……お?」
言えた。
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115 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:47:12 ID:kX2GMNb20
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ξ゚听)ξ「手伝えるなら、まあ、やぶさかではないから。
別に──代わりに掃除手伝えとか、言わないし」
( ^ω^)「?」
ξ゚听)ξ「その。私も管理人だし。住人にはいい気持ちで暮らしてもらわないと。
何かあったらおじいちゃんが損するかもしれないし。そしたらこっちにまで影響あるし。
だから」
何を言っているのだと我ながら呆れた。
これは余計に恥ずかしい気がする。
えっと、と言い淀む。
しかしブーンはツンの言いたいことを正しく理解してくれたらしく、
ちょっと笑って、自分の隣を叩いた。
掃除機の持ち手を床に下ろし、ブーンの隣にしゃがむ。
-
116 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:48:41 ID:kX2GMNb20
-
( ^ω^)「──日常的な後悔は飴玉みたいな可愛い形をしてるって、前に説明したおね?」
ξ゚听)ξ「……うん」
その話し始めに、少しほっとした。
やはり「仕事」のことで悩んでいたらしい。違っていたらどうしようかと思った。
( ^ω^)「一方で、根深いものは綿飴のようだったのを覚えてるかお?」
ξ゚听)ξ「うん」
飴玉、わたあめ。ツンが内心で勝手にそう呼んでいただけだが、
ブーンも同様に表現していたので、やはりその印象で間違っていないようだ。
( ^ω^)「ああいう風にふわふわしてるから、掴みにくいんだお。
しかも一つ一つが埃のように小さいから、ますます捕まえづらい」
( ^ω^)「そうして捕まらずに放置された綿飴たちがどんどん増えていくと、
やがて集まりだし、ぎゅっと固まって──」
ξ゚听)ξ「人の形をとる?」
( ^ω^)「そういうこと。この間の姉者のようにね」
-
117 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:50:21 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ「あの状態になると危険なのよね」
( ^ω^)「そう。でも『核』……『最も悔いている部分』を暴いてやれば、
形を保てなくなり一時的にふわふわの固まりに戻る。
──そこを捕まえて、僕が食べる……ってわけだお」
それは分かったが、なぜ今その話を?
相談事への前ふりならいいけれど、はぐらかすためならば嫌だ。
とりあえずおとなしく聞いておく。
( ^ω^)「ツンも見た通り、淀みが人の形をとるほど肥大すると
内面世界もその念に合わせた状態に変わってしまうお」
ξ゚听)ξ「姉者さんの部屋に花が咲いてたみたいにね」
( ^ω^)「うん。で、大抵『核』へ辿り着くための記憶──
『ヒント』がどこかにあるんだお。
その場所において、分かりやすい違和感として」
それはたとえば無数の赤い花の中、隠れるように咲いていた異色の花のように。
-
118 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:52:14 ID:kX2GMNb20
-
( ^ω^)「それでワカッテマスの『内面』でも違和感を見付けるところまでは行ったんだけど、
……あ、ごめん僕いまワカッテマスのことで悩んでて、」
ξ゚听)ξ「うん、やたらワカッテマスさんのこと見てたから、そうなんだろうなと思ってた」
(;^ω^)「おーん……」
そんなにバレバレか、とブーンが呟く。
そんなにバレバレだ。
(;^ω^)「……ともかく、『ヒント』は見付けられたけど……
僕にはどうしようもなくて、参ってるんだお。
初めて見る後悔だったから何も分からないし」
ξ゚听)ξ「へえ……」
(;^ω^)「ワカッテマスも明後日には帰省するって言ってたおね。
だからその間に時間かけて頑張ろうかと思ってたんだけども」
そこで一度区切り、ブーンはツンを見た。
申し訳なさそうな、けれど期待するような目だった。
( ^ω^)「……もしかしたらツンには出来るかもしれないお」
■
-
119 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:52:50 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ「……入っていいのかな」
( ^ω^)「……いいとは言えないおねー」
深夜。アパートの3階。
303号室、ワカッテマスの部屋の前で2人は小声を交わした。
手伝ってやろうとは思ったものの、やはり他人の内面、後悔を覗き見るのは気が引ける。
( ^ω^)「僕が不甲斐ないせいだお。……君にもワカッテマスにも、申し訳ない」
ξ゚听)ξ「……やんなきゃいけないんだし、しょうがないでしょ。入ろう」
しょぼくれられると、後込みする自分こそ不甲斐ないような気分になるではないか。
覚悟を決めてブーンを促すと、彼はごめんと呟き、あの丸い鍵を差し込んだ。
こきん。
.
-
120 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:53:48 ID:kX2GMNb20
-
──室内は前回同様、明るかった。
だが前回よりはいくらか落ち着いた明るさで、赤みもある。
日が暮れ始めた頃か。
足を踏み入れた瞬間むっとした熱気に包まれた。
かなかな、ヒグラシの鳴き声も。
ξ゚听)ξ「夕方っぽい」
( ^ω^)「そんなとこだろうお」
目に入る限りの引き戸や窓は開け放されている。
まだ赤みを帯び始めた程度の夕日が見えた。だが街の風景などは
姉者のときと同じように、ぼんやりしていた。
今回もブーンは靴を履いたまま部屋に上がった。
そのまま迷いなく洋室に向かう。
-
121 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:54:40 ID:kX2GMNb20
-
洋室には黒い机と本棚が置かれており、
机上にも棚にも大量の本があって、床にまで本やファイルが散乱していた。
ブーンは床にあるそれらに目もくれず、真っ直ぐ本棚を目指すと
数学の教科書と教科書の間からはみ出していた紙を引き抜いた。
それを見た瞬間、違和感に胸がざわつく。これが今回の「ヒント」か。
ξ゚听)ξ「……テスト?」
手書きのテスト──に見える。
計算問題が5つほど。
問題文から解答欄の枠に至るまで手書きである。
妙に歪んでいるというか乱れていて、判読しづらい箇所もいくつかあった。
( ^ω^)「多分これを解けば『核』に近付けるんだろうけど、
3問目あたりから分からなくて……」
ξ゚听)ξ「計算苦手なの」
( ´ω`)「そうなんだお」
これで悩んでいたのか。
まあ苦手な人はとことん苦手な類のものだろう。
-
122 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:55:51 ID:kX2GMNb20
-
ξ゚听)ξ「私も得意なわけじゃないけど……やってみる」
(*^ω^)「本当かお!」
ぱっと見、単純な計算問題という印象を受けた。
たしかに3問目から少し複雑になっているようだが。
(*^ω^)「それなら早速行くお」
ξ゚听)ξ「どこに」
(*^ω^)「ワカッテマスのとこ」
そういえばワカッテマスが見当たらない。
どの引き戸も──押し入れすらも開いているのに。
ブーンは机上から鉛筆と消しゴムを取るとキッチンへ出た。
ツンもそれに続いて、「ああ」と得心する。
室内で唯一閉まっているドアがあった。
ひどく狭い脱衣所の先──浴室。
そこにいるのだろう。
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123 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:56:39 ID:kX2GMNb20
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( <●><●>)「何です、2人して」
案の定。
浴室のドアを開けると、湯が張られた狭いバスタブの中に
服を着たままのワカッテマスが座っていた。
裸でなくて良かった。
浴室の壁には知育グッズであろう、九九の表やアルファベットのシート、日本地図、
世界の国旗表まで貼られている。
いずれも子供向けだ。
ワカッテマスはブーンの手にあるテストを見付け、片眉を上げた。
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124 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:57:38 ID:kX2GMNb20
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( <●><●>)「テストを受けに来たんですか?」
( ^ω^)「そうだお」
ブーンが洗い場に座ったので、ツンも仕方なく腰を下ろした。
ぎゅうぎゅう詰めだ。暑い。湿気もあって、放っておいても汗が滲む。
床や壁は濡れていないようだ。
これで服を濡らされていたら、不快さに耐えきれず逃げていたかもしれない。
ちゃぷん。水面から両手を出したワカッテマスが、手を叩いた。
( <●><●>)「それでは今から一時間。始め」
同時にテストと鉛筆を差し出すブーン。
それらを受け取り、ツンは首を傾げた。
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125 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:58:42 ID:kX2GMNb20
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ξ゚听)ξ「時間制限あるのね」
(;´ω`)「そうなんだお……一時間経つと何も反応してくれなくなるお。
それでここ3日、時間切れの度に部屋を出るしかなくて……」
ξ゚听)ξ「一晩に一回しか挑戦できないの?」
(;´ω`)「たぶん回数には制限が無い筈だお。
でもほら、一晩に何回も部屋出入りしてたら、誰かに見付かりそうで」
ξ゚听)ξ「ああ……」
昼間の発言を理解する。
ワカッテマスの帰省云々といった言葉だ。
住人がごっそりいなくなる隙に、何度も挑戦するつもりだったのだろう。
──1問目は図形の問題だった。
長方形をいくつかくっつけたような図形の内、一ヶ所だけ色の付いた部分の面積を求めるもので、
先に全体の面積を割り出せば後は簡単に答えが出た。
ξ゚听)ξ「これで合ってる?」
( ^ω^)「合ってるお」
壁を下敷き代わりにして、答えを書き込む。
書き終えると同時に軽い目眩。──ああ、来た。
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126 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 22:59:22 ID:kX2GMNb20
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(*‘ω‘ *)『お前は名前の割に勉強が出来ないっぽね……』
(#<●><●>)『うるせーババア』
(*‘ω‘ *)『口まで悪い』
脳天にげんこつ。
ふざけんなイテーよババアと喚くと、もう一発喰らった。
日に日に暑さが増していく7月下旬。
汗ひとつかかず、しゃんと背を伸ばし正座する祖母の姿が
やけに暑苦しく──威圧的に見えて、目を逸らした。
向かい合う2人の間には、夏休みの宿題として小学校から配布された計算ドリル。
祖母に採点された1ページ目は1問目以外すべて不正解だった。
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127 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 23:01:36 ID:kX2GMNb20
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( ><)『勉強できなくてもいいんです、元気でいてくれるなら』
(*‘ω‘ *)『黙れ』
( ><)『ごめんなさい』
斜め後ろの卓袱台でうちわを扇ぎながら笑った祖父は
即座に祖母から睨まれ沈黙した。
はあ、と祖母が溜め息。
(*‘ω‘ *)『別に勉強が得意でなくてもいいから、せめて基本くらいは覚える努力をするっぽ。
それより何よりまず礼儀も』
言って、去年の春に定年退職したという元中学校教師の彼女は額を押さえた。
(*‘ω‘ *)『──はっきり言うと、親の育て方が悪かったっぽね。
まあその片方を育てたのが私達なわけだから、私達も悪かったということだけど……』
親を馬鹿にされた気がして祖母を睨むと、彼女はこちらの顔を見て
感心したように笑った。
(*‘ω‘ *)『……育て方は下手だけど、お前のことを大事にしてるのだから決して悪い親じゃないっぽ。
親を貶されるのを嫌がるくらいには、お前もあいつらを愛しているのだし』
( <●><●>)『……何言ってんのか分かんねーぞクソババア』
(*‘ω‘ *)『躾け直しが有効ということだっぽクソガキ』
あんたも口悪いじゃん。そう言ってやれば、
悪い言葉しか出せないのと悪い言葉も出せるのとでは訳が違うと返された。
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128 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 23:03:53 ID:kX2GMNb20
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──「夏休みの間、隣町のおじいちゃんの家に行っておいで」。
息子のわんぱくぶりに手を焼いた両親にそう言われた。
年中忙しくしている親なので、息子が1人きりになる時間が増えるのを危ぶんだのだろう。
実際、前回の春休みに友達と無茶な遊びをして大怪我をしたし、
その前の冬休みでは自由研究と称して好き勝手やって家具を壊した。毎年何かしらやらかしている。
祖父母の家に預けられるのは正直に言って不服だ。
大した距離ではないから友達と遊ぶことは出来るが、祖母が厳しい人なので勝手が出来なくなる。
(*‘ω‘ *)『じいちゃんと風呂に入っておいで。それから夕飯にするっぽ』
夕方。祖母から指示を受けて。
祖父と共に風呂場へ行って、唖然とした。
浴室の壁に九九の表が貼ってあったのだ。
( ><)『おばあちゃんが用意してくれたんですよ』
(#<●><●>)『もう4年生だぞ俺! 馬鹿にすんな!』
( ><)『8×7は?』
( <●><●>)『え、……。……。……55』
( ><)『お勉強するんです』
入浴を済ませて夕飯を食べた後。
冷凍庫からアイスクリームをちらりと見せた祖母が、
卓袱台の上にチラシを置いた。
チラシの裏に、整った文字で問題が書かれている。
九九を全て答えよ。
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129 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 23:05:04 ID:kX2GMNb20
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( <●><●>)『何これ』
(*‘ω‘ *)『確認テストだっぽ。
正解できなければアイスはばあちゃんのものになります』
(;<●><●>)『は!? ずるっ!』
(*‘ω‘ *)『何がずるい。風呂場でちゃんと勉強してれば出来る問題っぽ。
はい、制限時間は10分。始め』
──果たして10分後、アイスクリームは祖母の手にあった。
(*‘ω‘ *)『8×9は正解なのに9×8で間違えるってどういうこと……』
( ><)『僕のアイス分けてあげるんです』
(*‘ω‘ *)『だめー』
(#<●><●>)『ババア!!!!!』
(*‘ω‘ *)『そんな悪い口にはますますアイスをあげられないっぽね』
(#<●><●>)『……〜〜ご褒美が悪いんだよ。100万円とかくれるんなら俺だって本気出すし!』
( ><)『やっぱり子供なんですねえ……』ホノボノ
(*‘ω‘ *)『100万ねえ。立派な男にならくれてやってもいいけど、こんな悪戯坊主には勿体ないっぽ』
(#<●><●>)『何だとババア!』
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130 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 23:06:06 ID:kX2GMNb20
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ξ゚听)ξ「……」
ツンの意識が目の前のテストへ戻る。
姉者のときと違い、随分と色彩の濃い記憶だった。
夏の空のように鮮やかで、溌剌としていた。
( <●><●>)「厳しいけど、茶目っ気のある人でした」
壁の九九を見つめ、ワカッテマスは語る。
( <●><●>)「ちょくちょく手製のテストを出してきて、制限時間内に解ければご褒美だ──という具合で。
こっちも負けず嫌いだったのでね、まんまと乗せられて……
あんなに嫌いだった勉強と毎日一生懸命に向き合ってました」
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131 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/04/01(金) 23:07:39 ID:kX2GMNb20
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( <●><●>)「さすが元教師といいますか、僕の頭で解けるか解けないかというような
絶妙な問題を持ってくるんで、負け続きでしたけどね」
でも、と。微笑み混じりの声が浴室に響く。
( <●><●>)「初めて全問正解したときにね。ご褒美のスイカを切り分けながら
『お前の頭は悪くないんだから、使わなきゃ勿体ない』って言われて。
嬉しくて、何だか、癪だけど嬉しかったです」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「ツン、次」
ξ゚听)ξ「あ、」
つい聞き入っていた。急いで2問目に取り掛かる。
割合の問題だ。
全体の金額の内、何パーセントはいくらだ、というやはり単純なもの。
面積よりも簡単だった。答えは100万円。
つい今しがた少年のワカッテマスが叫んでいたのと同じだ。
幼さゆえに飛び出したであろうあの値段が少し可笑しかった。