艦娘がいない鎮守府のようです

322 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 07:53:25 ID:PWZ18VnA0
深海棲艦の言葉は、人間には理解できない
彼女達がその口から発する音は、全てノイズのような不協和音として聞こえる

これが、艦娘だと『言葉』や『鳴き声』として認識出来るのだ
兵士クラスである駆逐イ級や空母ヲ級などは『鳴き声』として
将クラスである『姫級』や『鬼級』などは『言葉』として、耳に届く

内容は主に恨み言や煽りの類だ。艦娘と人類に対して明確な憎しみを露わにする


それが、どうして今


『人間』である私に、理解できるのだろうか

323 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 07:54:37 ID:PWZ18VnA0




■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




        Epilogue



.

324 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 07:56:19 ID:PWZ18VnA0
いや、理解っている筈だ。私はもう人間ではない
あの愛おしい我が家に着任したその時から、別のモノに作り替えられてしまった

だから今、私は男性でありながら『龍田』の艤装を背負イ
鎮守府近海を埋メつくす、深海棲艦の群れと

たった一人で戦争ヲしているのダカラ


「■■■ッ!!!!」


龍田専用近接艤装であル『矛』で、ル級の首を刎ねた
勢いヨく吹き出す血飛沫を身に受ケナがら、背後に迫っていたハ級に裏拳ヲ見舞う


「■■■■■ーーーーーーーーーーッ!!!!!」


最後の魚雷を撃ち、弾薬が尽キタ。この分だと燃料モ直に底を着くだロう
殺さねば。私が、俺が殺サレるまで、目の前にいる大軍を殺シつクサねば


【オウ】


うルサい


【おう】


黙レ


【王よ】


「■■■■っ■■■■■ーーーーーーー!!!!」


何故俺ヲ、『王』ト呼ブ

325 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 07:58:06 ID:PWZ18VnA0
ホ級のクビを切り裂キ、チ級の頭蓋を握りツブス


「■■■■ッ!!」


タ級の背骨を腹から抜き取り、ヲ級の顎ヲ引キ裂いた


殺さねば


【王よ】


殺サネば


【王よ】


殺サネバ


声ガ聞こエなくなるマデ


「■■■……!!」


駆逐棲姫の首をオル、北方棲姫ヲ真っ二ツにスル
海中カラ足首を掴モウとしタソ級の顔面を踏ミ砕イタ
戦艦棲姫ニ向けて投ゲツケた矛は、額から脳を串刺シニした


「■せ■……!!」


レ級の尾ヲ引き抜キ、振リ回シてツ級の頭を吹っ飛バス
マダ息がアッタレ級の腹にソレを突き刺シテ返シテヤリ、そこで


艤装ハ動カナクナッタ

326 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 07:59:27 ID:PWZ18VnA0
殺した、殺した、何人も、何隻も
かつテ俺が立った陸の戦場で、奴らがソウシたように

それなのに、何故


「殺せよッ!!」


「俺を殺せェッ!!!!」


奴らは、砲弾の一発も撃たなイノダろウか


【王よ】


【王よ】


【愛おしき我らが王】


身体が重たイ。燃料が切れタからだロうか
違う、そんなものじゃない。背中ニ、艤装とは違ウ別のモノが圧し掛かッテいる


【嗚呼、なんて羨ましい】


【王の身になれるなんて、羨ましい】


【果報者だわ。彼女たちは】


背中から、尾ガ伸ビルかのように
俺が殺シタ深海棲艦ノ屍ガ、一塊ニなって繋ガッテイル

327 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:00:46 ID:PWZ18VnA0
「あ」


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


【嬉しい、嬉しい】


【我が身は王の肉に】


【幸せだわ、幸せだわ】


濁った瞳が、俺ヲ見ル。薄い唇カラ、膿のヨウナ液体と共ニ嗤いゴエを吐キ出ス
矛ヲ投ゲ捨テナケレバ良カッタ。容易ク自害デキタ機会ヲ自分カラ手放シテシマッタ


【王よ、王よ、愛おしき我らが王】


腕、上ガラナイ。顎、閉ジラレナイ
自分デ首ヲシメルコトモ、舌ヲ噛ミ切ル事スラ出来ナイ


【人間が我らを作った】


【人間が艦娘を作った】


【そして、嗚呼、我が王。貴方すらも作り上げた】


「殺せ……殺せよ……」


【嗚呼、王が!!王が!!我々にお声を掛けてくれた!!】


【王!!王!!なんて麗しいお声!!お姿!!】


【人間の醜い声を捨てて下さったのだわ!!我々の為に!!】

328 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:01:58 ID:PWZ18VnA0
俺ハ、俺、俺、おれ、オレ……
人ノ言葉スラモウ、話スコトガ出来ナイノカ


【さぁ、参りましょう。我らが王】


【艦娘を葬りに】


【人間を根絶やしに】


葬リ……根絶ヤシ……


【屍の上に、貴方の玉座を作りましょう】


【醜いガラクタを積み上げましょう】


【我らの怨念を晴らしましょう】


馴染ジンデ、ユク、深海ノ、青イ血ニ、白イ、肌ニ
血液ガ 巡ル度 俺ガ オレデハ ナクナッテイク


【さぁ】


【さぁ】


【さぁ】


深海棲艦ノ 冷タイ手ガ オレノ身体ヲ、海ノ中ヘト引キズリ込ム
思考モ ボンヤリト ナッテイキ キオクスラモ―――――

329 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:04:06 ID:PWZ18VnA0
「クソ……■■■共がァァァ……!!」


手放シテ、ナルもノか
オレが、俺が鎮守府で過ゴした四年間の思イ出ヲ、失ッテたまるモノか
この身、この魂を支配サレても、あいつらの事を忘れて堪るものか


「覚え■け……てめえらと■をブチ■■のは……」


【まぁ、なんて醜いお言葉】


【引きずり込んでしまいましょう】


【海の底で癒して差し上げましょう】


多数の手が、身に圧し掛かる大量の屍が、海へ海へと落としていく
暗い海面から覗き込む、ゾッとするような無数の笑顔が俺に向けられていル


「俺の■娘■と……まだ見ぬ漢達だ……ッ!!」


冷タイ海水ガ、首元マデ迫ッタ
最後ニ、鎮守府ノ方向ニ顔ヲ向けタ


届カ無イダロウ 伝ワラナイダロウ ソレデモ 最後ニ




ワカレ ダケハ



.

330 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:05:13 ID:PWZ18VnA0






「■■■■■■■■■■■鎮守府、万ざ―――――」






.

331 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:06:02 ID:PWZ18VnA0






ごぽり。







332 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:08:21 ID:PWZ18VnA0
【嗚呼、なんたる幸せ、なんたる悦び】


【ご生誕なされた。我が王が】


【深海の王が】



「」



【始めましょう】


【ええ、始めましょう】


【私たちの戦争を】




【『禁じ手』を使う戦争を】






333 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:10:32 ID:PWZ18VnA0
―――――
―――



『りん』


脛にすり寄ってきた白猫を抱き上げる
首輪の鈴の音が、不気味なほどに響き渡った。この場所も、静かになったものだ


「そうだね。飲み込まれてしまった」


私に止める術は無かった。深海棲艦化が始まった段階で、既に彼女達の策中に嵌っていたのだ
『彼』ならば或いは……という期待も、たった今砕かれた


「渡してしまった……『プログラム』にはない、チートにも匹敵する戦力を」


あるいは、『バグ』とでも呼ぶべきだろう。この世界には、この『ゲーム』には、本来ある筈のないユニットなのだ


「本当に、現れるのかな……」


その『バグ』を打倒できる戦力が。彼が言い残したような


「『漢』という、戦士は」


猫は応えない。ただ、我関せずと言いたげに顔を洗っただけだった


「……また暫く、静かになるね」


応えない。既にうとうとと船を漕ぎ始めていた


「そうだね。少し、眠ろうか」

334 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:12:03 ID:PWZ18VnA0





「この呪われた鎮守府に招かれる、可哀想な提督と艦娘が現れるまで」






335 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:13:29 ID:PWZ18VnA0





■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




         END






336 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:15:11 ID:PWZ18VnA0
































337 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:16:48 ID:PWZ18VnA0








(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」








338 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:20:45 ID:PWZ18VnA0
「……」


爽やかとは言えない目覚めだった。軋む廊下の音と、マヌケな男の声
どれほど眠っていたのかはわからないが、どうやら漸く『替え』が着任したらしい


『りん』


猫が急かすかのように尻尾を振る。思わず、顔が綻んでしまった
それがまるで、私の『期待』をそのままそっくり表現しているかのようだったからだ


「そうだね」


帽子を被り、襟を正す


「会いに行って、見極めよう」


『チュートリアル』の始まりだ―――――







「新入りが、『彼』の意思を継ぐ者かどうかを」







339 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/10/29(土) 08:21:18 ID:PWZ18VnA0






■■■■■■■■■■■鎮守府のようです → 艦娘がいない鎮守府のようです








※外伝に続きます
捨て艦娘がいる鎮守府 ‐Mermaid Naval District‐
※リブート版
艦娘がいない鎮守府のようです 改
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