艦娘がいない鎮守府のようです

291 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:26:42 ID:BwmDOLZA0
海は、砂浜に

飲み込んだものを、吐き出す


(´・ω・`)「……」


流木、ゴミ、藻屑
手紙を入れた瓶、もはや抱かれることのないぬいぐるみ
宿主を静かに待つ巻貝の殻、息絶えた海月


(´-ω-`)「……」


死にかけた、『深海棲艦』

292 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:27:23 ID:BwmDOLZA0




『アカツキ』の鎮守府のようです


Side story → Mamiya





293 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:29:49 ID:BwmDOLZA0

駆逐イ級、軽巡ホ級を、仮に『歩兵』とするならば
その砂浜に流れ着いたそれは、『将』の役割を持つ深海棲艦だった


(´・ω・`)「……北方棲姫、だっけか」


強くなれば強くなるほど、より人間らしい姿と成る『奴ら』
その中でも、最も幼い容姿をしている北方海域の主が


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「手酷く、やられたようだなぁ」


下半身及び左腕を損失、顔の左半分が爛れを通り越して黒く燻り
橙色の濁った瞳を、ショボンに向けながら弱々しく呼吸を繰り返しながら横たわっていた


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「悪いなぁ」


砂浜に腰を落とし、胸ポケットから愛煙しているアメリカンスピリットを取り出し、火を着ける

294 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:30:23 ID:BwmDOLZA0
(´・ω・`)y-~「俺の家族達は、お前らをぶっ殺す為に命を懸けて戦ってる」

(´・ω・`)y-~「そんな連中がいる中で、俺の独断で『敵』に情けを掛けるわけにはいかねえんだ」

(´・ω・`)y-~「だから、だからせめて……」


タバコを吸い、空に向けてぷかりと吐き出す
見えているのか定かではないが、橙色の瞳も紫煙を追いかけたように見えた


(´・ω・`)y-~「お前が『楽』になるまで、ここにいてやるよ」

(´-ω-`)y-~「それがお前にとって良いことなのか悪いことなのか、わかんねえがな……」


それ以上何も言わず、ショボンは黙って煙草を吸った


(´-ω-`)y-~「……」


喪に服すかのように、目を閉じ、黙ったまま

295 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:31:06 ID:BwmDOLZA0
「……」


「……カ……ミデ……」


「………イツカ………」



(´-ω-`)y-~「……」


(´-ω-`)y-~「そうか」


(´-ω-`)y-~「お前らにも、『次』があるのなら」


(´・ω・`)y-~「行けるといいな、その『海』とやらに」

296 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:32:42 ID:BwmDOLZA0
ショボンはタバコを靴底で擦り消し、携帯灰皿へと捨てる
立ち上がり、尻についた砂を手で払った


(´・ω・`)「もういいぞ、心配かけたな」


その数メートル後ろでは


('A`)「……」


ドクオが、警戒のために構えていた短槍を砂浜に突き立てていた


(´・ω・`)「今、逝ったよ」

('A`)「そうかい」


生身の左手と、艦娘用資材で作られた義手の右手をポケットに突っ込み、ショボンと並んで亡骸を見下ろす
目は完全に色を失い、開け放しの口からは、唾液とも血液とも取れない黒ずんだ粘液が垂れ流れている


(´・ω・`)「お前らが?」

('A`)「いや、今週の北方海域担当は艦娘部隊だ」

(´・ω・`)「なるほどな、納得だ」

('A`)「……そんで、何か得られたか?幼女の姿をした、人間を殺すだけのバケモノと接して」


遠慮も、配慮もない皮肉だった。『アンカーシステム』を使い、戦闘に出るドクオにとっては見慣れた光景なのだろう
幾度となく殺されかけた相手。例え姿形が違えど、彼にとってはその他大勢の『奴ら』と変わらない


(´・ω・`)「……『いつか、楽しい海で、いつか』」

('A`)「あん?」

(´・ω・`)「最後、そう言ったんだよ」

297 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:33:40 ID:BwmDOLZA0
(´・ω・`)「まさかなぁ、深海のクソビッチが、んなこと漏らすたァ……」

('A`)「楽しい、ね……」

(´・ω・`)「……俺はなぁドクオ、ガキが好きだ」

('A`)「……」

(´・ω・`)「うるせえし、鬱陶しいし、悪さもする……けど、純粋にその瞬間瞬間を楽しんで生きる、ガキが好きなんだ」

('A`)「……ああ」

(´・ω・`)「……こんな事、仮にも大隊長であるお前の前でするのもなんだがよぉ」


ショボンはしゃがみ込み、手のひらでそっと亡骸の瞼を閉じた


(´・ω・`)「こいつもまた、俺の好きなガキと変わらねえ存在だったんじゃねえかって……思ったんだ」

('A`)「……」

(´ ω `)「ク、クク……な、なに言ってんだろうなぁ俺ァ……敵に向かってよぉ……」


俯くショボンの肩に、ドクオは左手を乗せた


('A`)「俺は……俺達『戦う人間』は、そのあたり麻痺しちまってんだが」

('A`)「オッサンのそれは……多分、人間が忘れちゃいけねぇ……『哀れみ』ってやつなんじゃねえの?」

298 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:34:50 ID:BwmDOLZA0
(´ ω `)「……」


('A`)「だから、オッサンの抱いた感情は、ある意味じゃ当然のもんなんだと思う」

('A`)「決してわかりあえない『敵』に対しても、慈悲を見せるってのは……人間が、人間であるために必要なんじゃねえかな……?」


(´ ω `)「……」


ショボンは肩越しに振り返り、少し躊躇い交じりに


(´・ω・`)「墓……っつっても、埋めてやるだけだが」


ドクオに、提案をした


('A`)「……ま、このまま掘っといても直ぐに海水に溶けて消えるんだけどよ、放置も後味悪いし」


ドクオは頭を掻くと、両手で砂を掘り始めた
ショボンもそれに続き、海水で湿った砂浜に、二人で小さな墓穴を掘った


(´・ω・`)「……」

('A`)「……掛ける言葉は?」


小さな山に両手を合わせ、ショボンに言葉を促す


(´・ω・`)「……」


ショボンは、まるで父親が寝かしつけた娘に語り掛けるような優しい口調で


(´・ω・`)「おやすみ、楽しい夢を」


と、告げた


('A`)「……風が吹いてきたな。戻ろう」

(´・ω・`)「……そうだな」

299 名前: ◆HS4z8y6JHc[] 投稿日:2016/06/27(月) 23:35:49 ID:BwmDOLZA0
海風は波を起こし、二人が残した足跡と
墓と呼ぶにはお粗末な砂山を飲み込んだ


埋めたはずの亡骸も、無かったかのように飲み込んだ―――――




Side story → Mamiya END

301 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/06/27(月) 23:37:38 ID:BwmDOLZA0
捨て艦娘はもうちょっと待ってください話固まりつつあるんで

inserted by FC2 system