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136 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:46:38 ID:62pQqJ3.0
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|::━◎┥「オアアアアアアアアアアアこええええええええええええええ!!!!!」
ドボンと水しぶきを弾ませ着水。重みによって腰まで海に沈む
スクリューを更に回転させる。すると
|::━◎┥「進めえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
前進しながら身体が浮き上がり、海面に『立ち上がった』
水上スキーのように推進力によるものもあるが、人体では再現できない『艤装の浮力』も手伝っているように思える
普通の人間なら、この段階で横転してしまいそうなほど不安定ではあるが
俺並の運動スペックの持ち主なら難なく奔らせることが出来る
母さんありがとう丈夫な身体と運動神経をくれて
|::━◎┥「ッ!!」
前方から砲火が立て続けに吹く
奴らの狙いは俺では無く、後ろの鎮守府だった
背後で派手な倒壊音が聞こえ、首だけで振り返り確認する
|::━◎┥「野郎……!!」
毎日のように登っていた見張り台が、斜めに倒れていき
工廠の入り口は、今まさに崩れ落ちていく
|::━◎┥「野郎オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
鎮守府に被害は無かったが、それも時間の問題だ
奴らの標的を、『俺』に差し変えなければならない
-
137 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:47:42 ID:62pQqJ3.0
-
|::━◎┥「オラァッ!!!!」
右手の『主砲』を向け、発砲する
響き渡る衝撃と、目が眩む閃光。腕が引きちぎれそうだ
砲弾は見当違いの場所に着弾。水柱を立てる
イ級の青白い目が、俺を捉えた。そうだ、それでいい
|::━◎┥「いい気になってんじゃあねえッ!!深海魚共がァッ!!」
左手に握る短槍を、奴らへと向ける
|::━◎┥「日本海軍所属ッ!!東郷ドクオ!!又の名を、駆逐艦『電』ァッ!!」
|::━◎┥「人間を代表してッ!!テメェらをぶっ沈めに馳せ参じたァッ!!!!!」
深海棲艦の威嚇の叫声が、大気を震わせた
腰が引き抜けそうな、ゾッとする鳴き声だ。重なり合って不協和音を奏でている
なんの、負けてたまるか。こちとら気迫だけは人一倍ある。さぁ――――
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138 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:48:13 ID:62pQqJ3.0
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叫べ
|::━◎┥「海のッ!!」
叫べ!!
|::━◎┥「底にィッ!!」
叫べッ!!
|::━◎┥「消えろォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
-
139 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:48:53 ID:62pQqJ3.0
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♪Pacific Rim
https://www.youtube.com/watch?v=tMTr2rbqSBM
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140 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:49:58 ID:62pQqJ3.0
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此方は単騎、向こうは横一列の『単横陣』
右舷へと緩やかに航行しながら、砲撃を放ってきた
|::━◎┥「チィッ!!」
回避行動、『之字運動』を行いながら、出来る限り接近する
一発は右前方に、残り二発は後方へと通り過ぎる
連中の命中精度はそれほど高くない。航行しながらだと尚更だ
しかしそれは、たった今海に出たばかりの俺にも言える
立ち止まって撃ったとしても、知れているだろう
だから、『必中』の距離まで近づく必要がある。短期短距離で仕留めたい
そして、この『短槍』。艦娘を構成する資材の一つである『鋼材』で作られたこの武器なら、俺の力でも装甲を貫ける筈だ
艦隊決戦に白兵戦などちゃんちゃら可笑しいと、誰もが言うだろう
だが、意外にもこれは効果的な戦略なのだ。何故なら、奴らは接近戦を『想定していない』
そもそもが艦である奴らの基本攻撃は、『砲雷撃』。主砲と魚雷だ
つまり、その攻撃を『行い易い』姿形をしている。バケモノに近い形状の駆逐、軽巡級は尚更だ
これが重巡級、戦艦級、正規空母級になっていくと、より人の形に近づいていく
これに対し、艦娘はその全てが『人間』ベース
砲雷撃に加え、人類が戦争の歴史で培ってきた、肉体による『殺す技術』が使える
格闘、剣術など、様々な近接戦闘を行えるのだ
事実、軽巡洋艦の天龍型や、戦艦の伊勢型など一部の艦娘は、艤装に刀や槍が搭載されている
|::━◎┥「オオッ!!」
スピードを上げ、更に近づいていく。反対に、敵艦隊は遠ざかろうとする
航路を妨害する為に、進行方向に砲塔を向け、放つ
大型ライフル弾ほどの砲弾が、質量的にありえない威力で
ホ級の間近で水柱を立て、巨体を煽る。偶然近くに着弾したのだが、効果はあった
慌てた旗艦が急激な方向転換を行い、駆逐イ級がそれに着いていけてない。あいつら、練度はそれほど高くないようだ
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141 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:51:41 ID:62pQqJ3.0
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ヘッドギアのスクリーンに、『装填中』の文字が浮かぶ
12.7センチ連装砲が連続して発射できる砲弾は二発。再び撃つまでにリロードの時間が必要だ
|::━◎┥「じれってぇな!!」
陣形が崩れかけている今こそ畳み掛けるチャンスだが、そう容易くいかない
人間には人間の、艦娘には艦娘の戦い方がある。それを良く理解しなければならない
目標までの距離は、まだ大きく開いている
敵にも、まだ砲撃のチャンスは残っている
最後尾のイ級が、今度は俺の邪魔をするかのように発砲
|::━◎┥「っぶねッ!!」
立ち上がった海水をおっ被るほど、近くに着弾
直撃は免れたが、嫌な汗が吹き出る
航行は出来た、砲撃も出来た。しかし、耐久性までは自分で確かめることは出来ない
下手すると一発で死ぬ可能性もある。両肩の盾があるとはいえ、それがどこまで役に立つのだろうか
|::━◎┥「お返しだオラァッ!!」
『装填完了』を知らされるや否や、二発連続で発射する
狙いは旗艦、軽巡ホ級だ。指揮系統を執っている奴を先に潰すのは、戦闘の常套手段だ
今度は上手くいかなかったようで、二つとも遥か後方へと飛んでいってしまう
それを見たホ級は、喘ぐ様に吼える
すると、駆逐艦二隻が隊列を離れこちらへ向ってくる
自分が標的だと気付き、手下に始末を命令したか。それとも、二隻を囮にして自分だけ逃げるか
どちらにせよ、好都合だ。俺の目的は至近距離戦闘。近づいてくれるに越したことは無い
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142 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:52:35 ID:62pQqJ3.0
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だが、諸刃の剣でもある
こちらから当てやすいという事は、向こうからも当てやすいという事
それを、身を持って味わうことになる
距離、凡そ五百。急速に縮まっていく
両イ級の口が開かれた。砲撃が来る
|::━◎┥「来いやァ!!」
時間差で、二発の砲弾が放たれる
砲火がはじけた瞬間
|::━◎┥「ぎっ……ッ!!」
右肩に、激痛が走る。被弾してしまった
スクリーンに損壊箇所が映し出される。右肩の盾が吹き飛んでいた
耐久値が六分の一ほど減っている。機関部の損傷では無い為、航行に問題は無い
もし盾が無かったら、吹き飛んでいたのは右腕そのものかもしれない
|::━◎┥「ファック!!」
しかし、痛いものは痛い。艤装で強化されたとはいえ、元は人間だ
艦娘は戦場に出る度に、こんな痛みを背負い込みながら戦っているのか。全く恐れ入る
もう一発の砲弾はどこへ飛んでいったのかわからないが、連続で食らっちまったらやばかったかもしれねえ
|::━◎┥「おおおおおおおおおおおお!!!!!」
だが、これでイ級のターンは終わった
雄叫びを上げて痛みを誤魔化しつつ、槍を構える
次は、俺の番だ
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143 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:54:01 ID:62pQqJ3.0
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砲撃を終えたイ級も、黙って待ってはくれない
大口を開き、俺を噛み砕こうと突っ込んでくる
俺の狙いは、向って右側のイ級
|::━◎┥「ッッッオラァ!!」
鼻先を狙い、槍を突き出した
貫通こそしなかったが、『ぎゃりり』と音と火花を立て装甲を削り取り、胴体にまで続く溝を刻んでやった
飛び散った黒鉄が、アンカーシステムにコツコツと当たる。ざまあみやがれクソッタレ
傷を付けられたイ級は、痛みの悲鳴か怒りの咆哮か、大声を上げた
|::━◎┥「まだまだァッ!!」
スキーのキックターンの如く海面を蹴り、急旋回。これも、『足』がある人間にこそ出来る芸当だ
『鯨』の姿に酷似しているイ級は、大きく孤を描きながら旋回しなければならない
|::━◎┥「ッッラァ!!」
背後に回った俺は、先ほど傷を付けたイ級の背に飛び乗り、槍を突き立てる
今度はしっかり装甲を貫通。槍の先端に、柔らかな肉の感触が伝わった
|::━◎┥「暴ッ!!れんじゃッ!!ねえッ!!」
悲鳴を上げながらもがくイ級に振り落とされないように、両手でしっかりと槍を握り、踏ん張る
幸いにも右腕は、まだ使える。痛いことには変わりねえが
|::━◎┥「おおおおおおおお……!!!!!」
そのまま、渾身の力を込めて槍をねじ込んでいく
突き刺した部位からは、目の色と同じ青白い蛍光色の血が溢れ出てきた
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144 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:35:24 ID:62pQqJ3.0
-
|::━◎┥「おわッ!!」
その血に足を滑らせ、側面から海へ投げ出されそうになるが
まだ無事な左手で槍を掴み、なんとか踏みとどまる
しかし、怪我の功名はあるもので、そこそこの重量が槍に掛かったお陰で
テコの原理でイ級体内に傷を付け、装甲を引っぺがした
|::━◎┥「っぶね……ん?」
視線を横にやると、無傷のイ級の砲塔が俺を狙い済ましている
|::━◎┥「やっべ!!」
逃げなければ、こっちのイ級もろとも海の藻屑だ
だが、槍を手放してしまうのも惜しい。そこで
|::━◎┥「ゼロ距離だ」
12.7センチ連装砲を、ぶら下がっているイ級に向ける
この距離じゃ外しようがねえ。喰らいな
|::━◎┥「オラァッ!!」
発射とほぼ同時に爆発。スクリーンが一瞬真っ白に染まり、ノイズが走った
爆風が俺の身体と槍を押し出し、後方へと落ちるように吹き飛ぶ
|::━◎┥「ゴアっ……!!」
海面を、水を切る小石のように跳ねる
立て続けに聞こえる砲撃音に気を向ける余裕は無く、体勢を立て直すのに必死だった
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145 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:36:33 ID:62pQqJ3.0
-
|::━◎┥「ぐおおおおおお……!!!!!」
なんとか四つん這いになり、海面を掴んでブレーキをかける
耳元からアラートが聞こえる。耐久値が一定を切ったらしい
緑から黄色へと変わったバーの隣に、『小破』の文字が浮かんだ
更にマズい知らせが入る。近距離で主砲を撃った所為で、二本ある砲塔の内、一つがお釈迦になった
無茶に撃とうとすると、暴発するだろう
|::━◎┥「ご丁寧にどうも……ッ!!」
だがこうも言える。『もう一本の砲等は無事』だと
それに、無茶をしたお陰で槍も手放さずに済んだ。詰んだワケではない
先ほどまで乗っかっていたイ級だが、黒煙を吹き上げて傾いている
損壊が派手な所を見ると、味方の砲弾も浴びてしまったらしい。ざまぁねえな
|::━◎┥「ん!?」
と、ここであることに気づく
遠くに軽巡ホ級の姿が見える。それは良いとして
|::━◎┥「何処行った……?」
もう一体のイ級の姿が見当たらない。逃げ出した?そんな馬鹿な
そう考えた瞬間、手前の海面が『盛り上がった』
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146 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:39:19 ID:62pQqJ3.0
-
|::━◎┥「うおおおおおおおおおお!?」
海水の膜を打ち破り、大口上げてイ級が飛び出してくる
野郎、潜行して不意打ちを仕掛けやがったか。駆逐艦が潜ってんじゃねえよクソが
頭上から覆いかぶさるように落ちてくる、巨大な口。大きな歯
俺の上半身を丸ごと食い千切ってしまいそうなそれが、文字通り眼前まで迫る
回避は間に合わない。主砲は装填中。防御?どうやって?
|::━◎┥「ッッツァ!!」
考えるより先に、体が動いた
槍を強く握り、イ級の上顎に突き刺し、柄を下顎に引っ掛けた
所謂、『つっかえ棒』だ。モンスターパニック物ならお馴染みの手法だろう
|::━◎┥「重ッ……!!」
だが、咬みつきは防いでもその重さまでは防げない
圧し掛かってくるイ級の重みに、片足を着いてしまう
思わぬダメージを受けたイ級は、血の混じった唾液を飛ばしながら叫ぶ
騒ぐんじゃねえ耳がうるせーだろうが
|::━◎┥「ボケがアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
艤装の馬力を最高まで上げる
背中が焼けるように熱くなり、アラートは継続して鳴り響く
構ってられるか。それより先に済ませておくことがあるだろうが
|::━◎┥「装填急げえええええええええええええええええッ!!!!!」
イ級の砲塔は『口の中』だ。俺の目と鼻の先にあるそれが、いつ火を噴いても可笑しくない
やられる前に、殺るしかない。この均衡から逃れる方法も、それしかないのだ
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147 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:40:02 ID:62pQqJ3.0
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イ級の口内から、『ゴトン』と重たい物が送られる音が聞こえた
|::━◎┥「クソッタレがァァァァ!!!!!」
右腕を突っ込み、いつでも撃てるようにする
さながら、西部劇のファスト・ドロウだ。遅い奴は無様に死ぬ、刹那の緊張感
一日千秋の『一瞬』の後、装填が完了する
|::━◎┥「ッラァ!!」
狙いをやや斜めに定め、発射
頬の部分に砲弾を受けたイ級は、左方向へと仰け反る
その瞬間の隙を突き、槍をそのままに鍔迫り合いから離脱する
横転したイ級は、目の光を弱々しくしてゆっくりと沈んでいった
|::━◎┥「どうだオラァ!!競り勝ったぞ!!」
ガワの固い連中でも、やはり粘膜部分は弱いようだ
槍が無くなったのは痛いが、これで『二隻』。残りは
|::━◎┥「これで一対一だ……」
旗艦、『軽巡ホ級』
-
148 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:41:37 ID:62pQqJ3.0
-
数で言えば対等。しかし、ダメージは俺の方が上だ
先ほどの無茶な力比べで、燃料が著しく減っていることに加え、アンカーシステム自体にもガタが来ている
現在の状態は『中破』。黄色だったバーもオレンジ色に変わっている
艦娘にも言えることだが、中破判定から艤装の調子が格段に落ちる
攻撃力は万全時と比べ三割減り、回避力や命中率にも影響が出る
この不利な状態で、イ級よりも耐久、攻撃力が上の軽巡洋艦を相手にしなければならない
|::━◎┥「……」
ゆっくりと、周るよう航行しながら出方を窺う
ホ級は攻めて来ない。先ほどの戦いを見て、近距離で戦うのは得策ではないと悟ったのだろう
太陽は完全に水平線に沈み、月の時間が始まる
ここからは『夜戦』だ。艦娘、深海棲艦ともに戦いが苛烈となる
|::━◎┥「……」
艤装を背負っている俺も、例外では無い
気持ちが、更に昂ぶる。電の艤装が俺に、『奴を殺せ』と囁きかけているようだ
落ち着け、勝負を急ぐな。奴も様子見に入っている。策を練る時間はある
しかし、どう攻めれば良い?ここは海上、水平線。身を隠す遮蔽物は無く、味方もいない
燃料、弾薬は残り少なく、耐久値は半分以下。これで、どう奴を殺す?
考えあぐねていると、耳元で通信音が聞こえた
『ドクオ、無事かお!?』
続けて、ブーンの声。ほんの十数分前に会話したばかりだろと言うのに、酷く懐かしく思える
-
149 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:42:29 ID:62pQqJ3.0
-
|::━◎┥「なんとかな……残りは軽巡ホ級だけだ」
『ホ級か……せめて、魚雷があれば……』
今度はオッサンの声。恐らく、作戦指令室から通信しているのだろう
主砲の口径が大きくない駆逐艦にとって、魚雷は大型艦を喰える一撃必殺の武器だが
当てるには相当の計算と技術が必要だ。それに、そもそも電の初期装備には搭載されていない
|::━◎┥「無いものねだりをしてもしょうがねえ。あるものでなんとかしねえと……ん?」
『どうしたんだお?』
あるもの……そうだ、それは別に、『この場』だけに限った話じゃねえ
視野を広げりゃ、もっともっと使えるものはある。ここは、『鎮守府近海』だ
俺の後ろには、『家』も『味方』もいるじゃねえか!!
|::━◎┥「ブーン、オッサン。頼みがある」
『なんだお?』
『遺言ならお断りだぜ?』
糸口は、見つかった。後は、俺の気合と根性次第
作戦を手短に伝える。ブーンは不安そうな声で聞き返した
『本当に、有効なのかお?』
|::━◎┥「多分な」
『多分ておま』
|::━◎┥「やる価値はあるさ。とにかく、頼むぜ」
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150 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:43:41 ID:62pQqJ3.0
-
『了解』を言い残し、通信は切れる
|::━◎┥「さって……」
お釈迦になった方の砲塔を、無理やりもぎ取った
ナイフほどの大きさのそれは、先端が鋭利になっており、無いよりマシレベルの近距離武器となる
|::━◎┥「そんじゃ……もうちょっとだけ、付き合ってくれや」
『電』の艤装に、そう話しかける。俺の言葉に応えるかのように、半壊した機関部が唸りを上げた
方向転換を行い、ホ級と対峙する。変化を感じたであろう奴も、砲塔を上下に動かした
|::━◎┥「殺せるもんなら……」
|::━◎┥「殺してみろオラァァァーーーーーーー!!!!!」
急発進。全身が海風を切り、耳元に『ヒュオオ』と音を残す
回避行動は最低限にした。燃料は限られている。余計な動きは出来ない
ホ級の単装高角砲が火を噴く
|::━◎┥「ッ!!??」
咄嗟に、頭を左に傾ける。瞬間、視界が暗転した
(メ A゚)「」
時間にして、一秒も満たなかったが
(メ'A゚)そ「……オオッ!!???」
俺は意識を失っていた
-
151 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:44:51 ID:62pQqJ3.0
-
視界が開け、顔面に風が直接吹き込んでいる
右手でヘッドギアに触れ、確認してみると、右側に一本の筋が刻まれていた
頬に生暖かい液体が流れ、米神に激痛が走る。頭部裂傷だ。流れ出る血の量は少なくない
直撃では無いが、砲弾が掠めたのだろう。面のパーツは衝撃で吹き飛んだらしい
人の身なら、掠っただけでも吹き飛んでいたはずだ。改めて、艤装の性能に感心する
だが、ステータスが確認できなくなったのは大きな損失だった
機関部はまだ動く。今の砲撃で艤装自体の損傷は無い
(メ#'A゚)「ぐ……!!」
『脳震盪』、身体のダメージが深刻であった
視界はぐらりと揺れる。腹からこみ上げた吐瀉物を、喉奥でむりやり押し戻した
(メ#'A゚)「ッッッ……!!!!!」
不安が残る距離だが、ここで決めるしかない
重たい右腕を左手で支え、狙いを定める
(メ#'A゚)「オオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
咆哮と共に、砲撃を放つ
向かい風に煽られた砲火が、顔面を撫でたが、瞬きすらも許されない
命運を懸けた砲弾の行く末を、見届けなければならないからだ
-
152 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:45:20 ID:62pQqJ3.0
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(メ#'A゚)「ッッッけええええええええええええええええ!!!!」
.
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153 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:46:15 ID:62pQqJ3.0
-
結果から言うと、砲弾は『届かなかった』
ホ級を穿つ筈の弾は、足下に着水し、空気を巻き込み白く染まった海水を大量に巻き上げただけだ
もしもホ級に『表情』があるならば、きっとほくそ笑んでいるだろう
最後のチャンスをモノに出来なかった俺を、嘲笑っていることだろう
だが
(メ#'A゚)「狙い……通りッ!!」
俺の目的は、本体への直撃ではなかった
この一発は、ただの時間稼ぎ、目くらまし、そして
油断を誘う為のものだ
(メ#'A゚)「ラァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
速力最大。艤装が黒煙を吹き上げ、大きな軋み音を立てる
海水が巻き上がっている『今』だけ、俺の無茶に付き合ってくれ
吶喊する俺に対して、ホ級はゆっくりと砲の標準を合わせた
奴からは、成す術無くした俺がヤケクソ起こして突っ込んできたように見えるのだろうか
だとしたら、まんまと策に嵌っている事に気付いていないマヌケだ
そうさ。今の俺はたった一人、戦場に立っている
お前のように命令に忠実な手下はいねえ。背中を預け、肩を支えてくれる戦友もいねえ
だがな、俺の背中には、誰よりも心強い『家族』が着いている
戦場にいなくても、戦う武装が無くとも、戦況を覆す『知恵』が、人間にはあるという事を――――――
(メ#'A゚)「今だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
思い知れ、バケモノ
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154 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:47:45 ID:62pQqJ3.0
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『どぉん!!』と、遠くから響く砲撃音
陸地から聞こえてきたその音に、ホ級は気を取られ、襲来するであろう砲弾に備えた
だが、そんなモノいつまで待っても来るはずがねえ
あの音は、俺が二人に指示したものだ
『鎮守府の屋外スピーカーから、最大音量で砲撃音を流せ』と
海上は、建設物などの障害物が無い場所だ。音は良く通る
それに加え、今は暗闇の時間帯だ。海を遠くまでは見渡せない
その二つの条件で、『援軍艦隊が現れた』と錯覚を起こさせたのだ
ただ『音』を鳴らす。それだけで、有効な援護となる
奴らは野生動物のように、『威嚇』の手段として鳴き声を使った
声を使えば、大抵の相手は恐怖で萎縮すると、理解しているのだ
逆に言い返せば、『深海棲艦』であろうとも、音だけで危機感を刺激することは可能
考え、行動する生物なら、身の危険や天敵から逃げる為に、突然の物音にはとても敏感になる
予期せぬ方角から、その音が聞こえてきたなら尚更だ
(メ#'A゚)「ッッッッッ……!!」
反対に俺は、叫びを押し殺した
ここで大声出して意識をこっちに向けられると、それで作戦はパーになる
ふわふわと舞う海水の粒子を掻い潜り、近距離戦闘の間合いに突入
ここまで近づくと、流石に感づかれてしまう
意識を俺へと戻したホ級は、焦燥に駆られながら砲を撃った
しかし、いつ襲来するか分からない偽りの砲弾と、迫ってくる俺との板ばさみだ
狙いは正確ではない。砲塔の向きからややズレるように航行すれば
(メ#'A゚)「ッッたるかァ!!」
回避は可能だった
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155 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:49:48 ID:62pQqJ3.0
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攻撃順は俺に移る。もう、奴には絶対に渡さない
右腕を差し伸ばし、ざっくりと狙いを定める。この距離、大きさなら外さねえ。巨体が仇となったな
(メ#'A゚)「オラァッ!!!!!」
今度は正真正銘の、砲撃音。同時に、ホ級の胸部へと着弾、爆発
人間がそうであるように、痛みと苦しみで胸元を抑え、頭を垂れる
ホ級の『顔』は、人の頭蓋と前歯を組み合わせたような、のっぺらとした装甲に覆われているが
下から覗き込めば、生身の『顎』が見えてくる。俺の攻撃はまだ終わっていなかった
(メ#'A゚)「喰らえェェェエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
折った砲塔を、下顎から上へ向けて思いっきり突き刺す
柔らかな肉と、骨らしき物がぶちぶちと千切れていく感触
そして、空気が血を吐き出す『ゴポリ』といった重たい水の音
(メ#'A゚)「まだまだァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」
両手いっぱいの大きさの頭を抱え、顎に膝蹴りをぶちかます
握り締めていた砲塔の余剰部分も、完全に頭部へと刺し込む
頭の装甲に、僅かにヒビが広がった。先端が頭蓋を貫いたのだろう
(メ#'A゚)「もッッッッ……」
頭部を手放し、やや間合いを取って砲塔を向ける
ホ級は力無く傾いていくが、これで死んだとは思えない
(メ#'A゚)「いっぱあああああああああああああああああああつ!!!!!!!」
トドメの一撃を放つ。一発目のすぐ隣へ着弾
最後のため息を吐くかのように、弱々しい鳴き声を上げ――――
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156 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 20:51:10 ID:62pQqJ3.0
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俺の視界は、爆炎に包まれた
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157 名前:名無しさん 投稿日:2016/04/03(日) 20:51:52 ID:62pQqJ3.0
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