艦娘がいない鎮守府のようです

89 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 17:58:34 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(;'A`)「状況は!?」


駆け込んだ作戦司令室には、既に二人が待機していた
ブーンはレーダーを見つめ、距離を割り出している
通信機に怒鳴り込んでいたオッサンは、俺の姿を見るとマイクを勢いよく差し出した


(#´・ω・`)「おう来たか!!本部のクソ野郎共、提督じゃねえと取り扱わねえっつーんだよ!!」

(;'A`)「よ、よし!!」


マイクを受け取り、『もしもし』と話しかける
スピーカーから、返事はすぐに返って来た


「やっと会話が通じそうな相手が出たか。それで?」


オッサン何言ったんだ?と気になりつつも、状況を伝えることにする


(;'A`)「先ほど、レーダーに反応がありました。深海棲艦が近海海域に侵入したものと思われます」


「そうか、では撃退したまえ」


(;'A`)「はっ……?」


困惑した。ウチに艦娘が配属されていないのは分かっているはずだ
それを分かっていて尚、そんな指示を出すのか?

90 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 17:59:10 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「い、いえ、ですが当鎮守府には艦娘は配属されていません」


「ああ、そうだったな」


まるで今気付いたかのような口ぶりだ。それでいてワザとらしい


「しかし、そちらの海域は既に奴らの支配から解放されているはずではないか。何かの間違いではないのかね?」


その可能性もある。しかし


(;'A`)「本部からの食料品等の補給は先日受けました。当鎮守府に寄る予定の船はありますか?」


「あー……今の所は予定されていない。別鎮守府の艦娘では無いかね?」


(;'A`)「だとしても、一度連絡を入れるのは筋でしょう!!」


「民間船の可能性も」


(;'A`)「バケモノがいる海を呑気に民間船が渡ると本気でお思いですか!?」


「小僧、口が過ぎるぞ」


頭に一気に血が昇る。俺の口調にいちゃもん付けてる場合じゃねえだろうが
思わず罵倒してしまいそうなのを抑え一度謝罪をし、冷静な口調に戻した

91 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:00:06 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「とにかく、確認の為にも艦娘部隊の派遣を要求します」


「却下だ。そもそも、間に合うとは思えない」


(;'A`)「ではどうしろと!?生身の人間である俺達三人で、戦えと仰るのですか!?」


「君も誇りある我が国の海軍軍人だろう?なら、平和の為の礎となりたまえ」


(#'A゚)「ッ……!!」


「当然、敵前逃亡は重罪だ。逃げ出した兵士がどのような処罰を受けるか、知らないわけではあるまい」


戦争において敵前逃亡は、処刑される可能性もある罪だ
現在俺達は、立ち向かっても絶望、逃げ出しても絶望の窮地に立たされている


(#'A゚)「……ってやるよ」


だったら


(#'A゚)「やってやるよクソボケが。俺達だけで、深海棲艦をぶち殺す」


少しでも前に進んでやろうじゃねえか

92 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:00:58 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「いいか良く聞けクソッタレのタマナシ野郎。事が済んだら、テメーの鼻っ面をぶん殴りに行く」


「貴様、上官に向って……!!」


(#'A゚)「黙れ、艦娘の股座舐めることしか頭に無いブタ野郎が。クンニもロクに出来ねえその口から二度と『平和』だなんて言葉が吐けねえようにしてやる」


オッサンが『ヒュウ』と口笛を吹いた。吹いとる場合か
スピーカーからは、歯軋りをする音が聞こえ、その後に


「健闘を祈る」


と、忌々しそうに吐き捨て、通信は切断された


(#'A゚)「クソがッ!!」


マイクを投げ捨て、怒りをぶつける
テメーで勝手に『平和』だと慢心し、艦娘も配置せず管理を俺達にぶん投げた張本人達が
その尻拭いをも俺達に押し付けたことに腹が立ったのだ


(;^ω^)「ど、どうすんだお……」


ブーンが不安そうな声で訊いてくる。俺が考えもなしに引き受けたと思っているのだろう


確かに、ここには艦娘はいない
しかし、戦える『装備』はあるのだ

93 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:01:45 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ブーン、使わせてくれ」

(;^ω^)そ「ッ!?」


ブーンが開発した『アンカーシステム』。アレで俺が戦う
だがブーンはハッキリと拒否した


(;^ω^)「ダメだお!!アレはテストもしていない、いや『出来ない』代物だお!!戦えるかどうか、そもそも装備できるかどうかさえ怪しいもんだお!!」

(#'A`)「じゃあどうしろってんだよ!!艦娘どころか、通常兵器すらないこの場所で、どう戦えっつーんだよ!!」


怒りに任せて、机を叩こうと拳を振り上げたその時
『パン』と手を叩く音が、俺を正気に戻した


(´・ω・`)「盛り上がってるとこ悪いがね、ちょっと冷静になれよお前ら」


ショボンのオッサンだった


(´・ω・`)「ブーン、深海棲艦の到着までの時間は?」

(;^ω^)「えっと……向ってくる速度だと多分、砲撃有効範囲まで一時間と少しだお」

(´・ω・`)「なら、考える時間はある。ドクオ、お前は指揮官だ。緊急時こそ冷静になれ」


頭に昇った血が、スッと冷めていく
そうだ。今は取り乱している場合じゃない。戦うと決めたんだ


(;'A`)「あ、ああ……悪い」


とにかく、今ある『全て』で、撃退するしかない
一か八かの賭けは、最後の最後まで残しておくべきだろう

94 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:02:29 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ふー……」


深呼吸して、気持ちを整える
考えろ。この状況を打破する戦略を
ここにある全てで、撃退する策を


(;'A`)「必要なのは火力……それを当てるための妨害、デコイ……」


火力の問題。これが一番大きい
『砲』が無ければ、弾丸は撃てない。一朝一夕で用意できる代物でもない

その問題がクリアできても、『当たらなければ』意味が無い。目的は威嚇ではなく撃破だ


(;'A`)「どうする……どうする?」


弾丸はあるのに、撃てない。なんとも歯がゆい気持ちになる
せめて、発破出来れば希望が……うん?


(;'A`)「発破……ブーン、お前工廠吹っ飛ばしたっつってたよな!?」

(;^ω^)「お、おう。え?その話今する?」

(;'A`)「それって、何が原因だった?」

(;^ω^)「何って……艦娘用の燃料に引火して爆発……」

(;'A`)「それだーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


弾丸だけに拘る必要は無かった。『爆発』でも奴らを倒せる筈だ

95 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:03:53 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「船に艦娘用燃料を積んで深海棲艦に突っ込み、海に飛び降りてって……」

(;'A`)そ「先ず船がねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


ダメだ光明が見えた瞬間かき消された。なんなの?イジメ?


(´・ω・`)「船ならあんぞ?」

('A`)「えっ?」

( ^ω^)「えっ?」

(´・ω・`)「えっ?」


と思ったら、オッサンから救いの手が差し伸べられた


(;'A`)「えっ?嘘?聞いて無いよ?」

(´・ω・`)「いや、改築の最終日にガレージに突っ込まれてたのを見つけたんだが、ほら俺その日ベロンベロンになって言うの忘れちゃって」

(´・ω・`)「そのまま今まで忘れてた……ごめんね?」

(;^ω^)「むしろグッジョブだおオッサン!!」

(;'A`)「ちなみに、どんな船だ?」

(´・ω・`)「小型のクルーザー一隻と、水上バイク一隻だ。動くかどうかわかんねーぞ」

(;'A`)「クルーザー……積載量ギリギリまで燃料弾薬を積んで……」

(;'A`)「そうだ!!もう一つ……」


水上バイクまであったのは僥倖だ。使わない手は無い
囮がいるだけで成功率がぐっと上がる

96 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:04:40 ID:62pQqJ3.0
鎮守府周辺海域の海図を引っ張り出し、机の上に広げる


(;'A`)「……よし、ここだ!!」


浅瀬のポイントを指で叩く
ここまで深海棲艦を誘い出し、座礁させ
動きが鈍った所に、燃料を積んだクルーザーで突っ込み爆発させる


(;'A`)「ブーン!!今すぐ船のチェックだ!!オッサン、ありったけの燃料弾薬を運び出すぞ!!」


( ^ω^)「了解!!」

(´・ω・`)「合点だ!!」


二人は毅然とした態度で立ち上がる
どちらも、気合と根性を漲らせていた


(#'A`)「やるぞォ!!」


俺も例外じゃない。生き残る為に戦ってやる
そして絶対、上官の鼻を潰して前歯全部折ってケツに93式酸素魚雷をぶt(ry

97 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:05:29 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



( ^ω^)「エンジンは着く、スクリューは回る。両方ともまだまだ走れるお」

(´・ω・`)「その内の一つは今日吹っ飛ぶんだけどな」

('A`)「寂しいこと言うなよ」


間も無く、深海棲艦の有効射程範囲に入る
なんとか時間内に間に合った。いやほんともう人生で一番俊敏に動いた。こうシュッ!!シュッ!!って感じで


('A`)「もう一度、作戦の確認をするぞ」


囮役である俺が、深海棲艦を浅瀬のポイントまで誘い込む
座礁し動きが鈍った所に、ショボンのオッサンが燃料弾薬を満載したボートで突っ込み、途中で離脱
見張り台にいるブーンが、タイミングを見計らい遠隔操作で起爆させる

ガバガバの作戦だし、運に任せる要素も多々あるが
これが今、俺達と鎮守府にある物資で出来る限界だ


('A`)「……」


一つ、憂いがあるとすれば


('A`)「言い出すタイミングが無かったから今言っちゃうけど、無理して俺の無謀に付き合う必要は……」

(´・ω・`)「いや本当に今言う事かよ。準備全部終わっちまってんぜ?」

(;'A`)「そう……だけどォ!!」


非戦闘員二人を巻き込んでしまうことだ

99 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:07:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「アホなこと言ってないで、サッサと始めるお」

(´・ω・`)「そうだな、ドクオのアホに付き合ってる暇は無い」


さも当然かの如く、行動を再開する
それを見て、俺の憂いは消え去った

別に言葉を交わさなくても、二人は俺と戦ってくれる
海軍の上官ですら見放した戦場で、俺と共に絶望に立ち向かってくれる


('A`)「……」


胸の奥が、熱くなった
俺達なら、世界を敵に回しても戦える。そんな気持ちになった


('A`)「アホは……お前らだ!!このアホ!!」

( ^ω^)「お前が一番アホだお!!」

(´・ω・`)「いやお前ら二人が最高にアホ!!」


アホアホ言いながら、水上バイクに乗り込む
ショボンのオッサンも、クルーザーのエンジンを点火させた


('A`)「サッサと済ませて打ち上げだ!!」

(´・ω・`)「おうよ!!腕によりを掛けて料理こしらえてやるぜ!!」

( ^ω^)「お夕飯までには帰ってくるのよ!!」


それぞれのエンジン音を轟かせ、配置へと向う。艦娘のいない海上戦

『艦娘いないけど俺達の気合と根性、男気で深海のビッチをファックしてやろうぜオーベイベー真夏の日差しサマータイム』

作戦が開始された。因みに、考えたのはショボンのオッサンだ

100 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:09:15 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「おっとと……」


水しぶきを弾きながら、水上バイクは軽快に海の上を走る
俺くらいのスポーツ万能マンになると、別に免許を持って無くても運転できるのだ。実際スゴイ
時折、波に煽られバランスを崩しそうになるのはご愛嬌だ。シコっても、いいのよ……?


(;'A`)「ッ!!」


咄嗟にアクセルを戻し、減速、停止する

見えた、見えてしまった
残っていた、民間船や艦娘の可能性は、たった今消えた

深海棲艦の、どす黒い姿が俺の視界に入ったのだ



     _ ィ: '':  ̄: : 二ニ= . _
   /: : /:; : : >――ニ=─- ミヽ,、
  /: : : /:.:.:./:;:;:; _-ニニニ _: : : ` l: :> ._
 〈:.:.ィ// ,/≦ >ミ: : : : : : : : ― l:;:;:;: : : : : > _
 .ヽ\:.i  /: : : : : i\ッ'): : : : : : : : : /: : : : : : :.:.:.:.:.:.: >. _
   \\三≧ーzzzzzz≦三三三>x、: : : : : : : :.:.:.:.:.:.:.:.: ≧., _
     ヽニニ彡"二二\三三ニ三三三>--‐'''⌒ゝ- _: : : : :;:.:.:.:.`ヽ
        | ヘ | l ヽ\>、 `   ー、   〈   _ ヽ:.\: : : :.:.:`ー- , ,_
        l_ゝィzzト,,、メ-彡/‐ヽー‐ミY´    \   \l:_:_:;ミ、\:\:.: : : : : : : |
          ̄   ̄ r-ミ‐lヽ_l: : : lー 二ァ_,_,_,,,,≧、  `i__ `iハ`i: : : \:、:,:-''
               〈 ` トー': : /  \ー‐ " ̄ヽヘ  l:.:.:.:.:.l ̄ヽ___ \
                 ̄ヽニゝ/\   ヽ‐ 、   ̄∨うーテ      ̄`ーニ=
                       `ヽ _  \    ヽ/
                            ` ー'

101 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:10:30 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「フッ、フー……」


鼓動が高鳴る。呼吸も荒くなる
ここは遮蔽物もない海の上だ。砲弾を打たれたらひとたまりも無い
これが戦場のプレッシャー、これがあいつらの放つ恐ろしさ

身体が、震えた


:(;'A`):「ハァー、ハァー……」


落ち着け、落ち着け
勝算はある、あるんだ。テメーがしっかりしないでどうする


:(;'A`):「し、深海棲艦は、知能のある生き物で……イルカなどの哺乳類のように……獲物を玩ぶ習性が確認された……」


自分自身に言い聞かせるように、訓練生時代の座学で学んだ知識を呟く
明らかな脅威では無い限り、奴らは俺達を『舐めてかかる』。すぐには殺さず、右往左往する姿を楽しむ
人間が、アリの巣で遊ぶようなもんだ。そこには大きな『油断と隙』が生じる

102 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:11:08 ID:62pQqJ3.0
:(;'A`):「大丈夫、倒せる、大丈夫……」


奴の姿はドンドン近づく。にも関わらず、俺は動けずにいた
これが、『蛇に睨まれた蛙』って奴か。なるほど、昔の人は上手い事言う


:(; A ):「クソッ……恐ぇ、恐ぇ!!」


後悔がこみ上げる。こんなことなら、提督にならなきゃ良かったと
こんなことなら、下手なやる気なんて出さず、逃げ出せばよかったと


だけど……


:(;'A`):「だけど……!!」


俺一人の問題じゃない。後ろには、俺を信じて待つ二人の友がいる
腹の内を明かし、信頼してくれた親友で、家族だ。裏切るわけにはいかない

それに、やっぱり悔しいじゃねえか

上官に舐められて、よくわからん別世界の為に戦争させられて、意味も無く死ぬってのは
だから、ここで臆病風に吹かれて逃げ出すわけにはいかない。そんなの、『男』じゃねえ


(#'A`)「おおおおおおおおおお……」


奮い立たせろ、勇気を。搾り出せ、叫びを。そして立ててやれ
クソッタレな『世界』に向けて、中指を

103 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:11:42 ID:62pQqJ3.0




(#'A゚)「かかって、来いやぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」




♪Zebrahead - Broadcast to the world
https://www.youtube.com/watch?v=4HFoeUgULGo

104 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:13:10 ID:62pQqJ3.0
アクセルを吹かし、反転する
背後から、深海棲艦のきったねえ鳴き声が聞こえた。奴も俺に気付いたか


(#'A`)「あああああああああああああああああああ!!!!!!!」


出来る限りジグザグに動きながら、奴を誘う
命中しても失敗、外れた砲弾が立てる水柱でひっくり返っても失敗
ここからは、俺の運転技術と多大なる運に掛かっている


(#'A`)「テメッコラーーーーーーーーー!!!!!!ザッケンナオラーーーーーーーー!!!!!!」


喚きながら後ろを確認。着いてきている
まるで大きな鉄の鯨だ。奴の艦種は『駆逐艦イ級』
最も脆弱な深海棲艦と言われてはいるものの、それは艦娘が相手をする場合に限る
アレ一隻で、護衛艦数隻に匹敵する力があるのだ。人間にとっては厄介な存在に変わりない
その姿を映像や写真で目にしたことはあるが、やはり本物の迫力は違う


(#'A`)「ッ!!」


マズい、口を開けた。喉の奥に潜んだ砲塔からの、砲撃が来る
ハンドルを右に傾け、回避行動を取る


(#'A`)「っつああああああああああああああ!!!!!」


腹にまで響く砲撃音、その後間も無く、大きく左にそれた場所に着弾
爆発が海面を吹き飛ばし、白い水柱が立った


(;'A`)「クッソ……!!」


波に煽られ、バイクがひっくり返りそうになる
野郎、間違いなく遊んでやがる


(#'A`)「ボケオラァ!!」


体勢を気合と根性で立て直す。口が汚いのはご愛嬌だ。存分にシコれ
後ろからゲラゲラと笑うような鳴き声がする。笑ってられるのも今のうちだ

106 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:15:09 ID:62pQqJ3.0
この作戦のキモは、出来る限り『近づかなければならない』所にある
引きつけて、俺と言う『おもちゃ』に夢中にさせるのだ
近づけば近づくだけ、砲弾の命中、横転の可能性が高くなる


(#'A`)「頼むぜ神様〜〜〜〜〜……」


深海棲艦及び艦娘は、砲撃後に次弾装填に時間が掛かる
ポイント到達まで、後二・三回は撃ってくるだろう
命中精度は、良くは無いと思う。思いたい
加えて、俺という『的』は小さい上にすばしっこい。昔の人は言っていた


(#'A`)「『当たらなければ、どうと言うことは無い』ってなぁ!!」


二度目の砲撃音、今度は俺の頭上を通り越し、前方へ着水


(#'A`)そ「うおッ!!」


視界を多い尽くす水しぶきと、せり上がる波が俺を襲う
頭から派手に海水を被る。水上バイクが持ち上げれられ、宙に浮いた


(;'A゚)「おっ……」


高さも、浮いている時間も大したことは無かったと思う
それでも、突然の軌道に俺の頭は一瞬真っ白になった


(;'A゚)「おおおおおおおおおおお!?」


そして、着水。グラリと傾く水上バイクから、投げ出されないように踏ん張る

107 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:16:14 ID:62pQqJ3.0
(#'A`)「ッし、よォし!!」


二発目も乗り越えた。思わず雄叫びが上がる
座礁ポイントまで、あと僅かだ。一発、残り一発さえ耐えられれば、こいつにぶちかませる

今度は、イラつくような金きり声が聞こえた
俺が横転しなかったのを怒っているのだろうか?いいぞ、もっと怒れ


(#'A`)「どうしたノーコン野郎!!俺はまだ生きてんぜェ!!」


聞こえているかどうか、俺の言葉を理解出来るのかどうかもわからないが、挑発をする
流れはこちらにある。大丈夫、きっと上手くいく


(#'A`)「ッ!!」


横目で、オッサンが乗り込んでいる船を確認した
出来るだけエンジン音を抑えながら、ゆっくりと助走を始めている


(#'A`)「オラァ!!こっちだ!!こっち来いよ!!」


ここで標的を変えられるわけにはいかない。奴の執着を、俺に向け続けなければならない
より一層喚き散らし、注意を向けることに尽力する


(#'A`)「来る……ッ!!」


奴が口を開けた。三発目が間も無く発射される
俺は思いきって、アクセルを緩め減速した

砲撃音が、より近くから轟く
『ごう』と風が唸り、バイクと俺の身体を煽る

108 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:17:24 ID:62pQqJ3.0
(#'A゚)「ッ……!!」


呼吸が詰まる。心臓まで止まるかと思った
だが、俺の行動は功を奏し、三発目の砲弾はさっきよりも前方へと飛んでいき、着水した


(;'A゚)「ッッッ……ハァッ!!」


息を無理やり吐き出して、再びアクセルを回す
もう少し、もう少しだ。止まるな、進め


(#'A゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


ポイント上を通り過ぎる。ボディが軽い水上バイクなら、浅瀬の通行も問題なかった
だが、巨体である奴らは違う。『ガリリ』と硬い物が擦れ合う音が聞こえた


(#'A゚)「今だあああああああああああああああ!!!!!オッサアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!」


狙い通り、イ級は『座礁』した。作戦の第一段階がクリアされた
次、第二段階。『爆弾』を積んだ船の吶喊

助走をしていた船は、猛烈にエンジンを鳴り響かせスピードを上げる
バイクを旋回させ、その成り行きを見守ることにした。海に飛び込む予定のオッサンも拾わなきゃいけないしな


(;'A`)「なっ……!!」


しかし、予定外の出来事が起こる
座礁したイ級は、突っ込んでくる船の存在に気付き、方向転換を始めたのだ

下顎と、鉄の身体を浅瀬の上で跳ねさせる、なんとも稚拙な方法だったが
着実に、確実に、砲塔の向きはオッサンの方向へと動いていた

109 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:18:36 ID:62pQqJ3.0
(;'A゚)「……さっ……」


ここで船を撃ち落とされたら、作戦は失敗に終わる
それだけじゃない。オッサンの命も失われてしまう
避けなければ、助けなければ――――


(#'A゚)「っっっせるかってんだよォォォオオオオオオ!!!!!!」


アクセルをフルスロットルさせ、猛スピードでイ級に突進を仕掛ける
ダメージを与える必要は無い。ただ、注意を引ければそれでいい

その大きく、黒い身体が近づく。目は人工的な蛍光色の青に染まっている
醜い姿は、いやがおうにも『人類の敵』という認識をさせた

こんな連中に、俺の家族を殺されて-―――――


(#'A゚)「た ま る か ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! ! !」


淡く光るその瞳が、俺の存在に気付く。しかし、もう遅い


(#'A゚)「オアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


アクセルを吹かせたまま、海へと飛び落ちる
無人の水上バイクは、海上を疾走し、イ級の鼻っ面に衝突した

110 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:19:25 ID:62pQqJ3.0
イ級は、よろめきもしなかった
そりゃそうだ。護衛艦の砲撃にも耐える装甲持ってんだ。水上バイクなんて鼻くそ飛ばされたようなモンだろう
だが、『注意』は向けた。まんまと引っかかりやがった


船はもう間近に迫る。オッサンが海へ飛び込み、深く潜った


この一撃は

俺達と、テメーらに殺された人達からの


(#'A`)「悪魔のギフトだ!!受け取りやがれぇぇぇえええええええええ!!!!!!」


船が突っ込むのを確認した俺も、爆風を避けるために海中に潜る
後は、ブーンの仕事だ。一発ぶちかましてやれ


(;'A`)「ッ!!」


音を遮る水の中でも響く爆発音。熱と光
鉄の破片や、爆風によって吹っ飛んだ弾丸が、水を切りながら俺の傍を横切った

俺はその場所から少しでも離れるべく、水を掻いた
『ゴボゴボ』という空気を巻き込む音や、爆破音の名残に混じって
イ級の断末魔が聞こえた気がした。しかし、実際に目の当たりにするまで安心は出来ない

111 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:21:11 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「ブホハァッ!!」


海面へ浮上し、振り返ってポイントを確認する
黒煙が立ち昇っていた。燃料を満載していた船は炎々と燃えている
近くにあった水上バイクもまた然りだ
そして、肝心の『イ級』だが―――


(;'A`)「……」


どうやら、思っていた以上の破壊力があったらしく
艦首と艦尾が真っ二つに分かれ、沈み始めていた

最後に、息を引き取るかのように弱々しい声で鳴いた深海棲艦
僅かに残っていた青白い目の光が消え、絶命を伝えた


(;'A`)「か……勝っ……!!」


俺は我に返り、辺りを見回す
オッサンの姿が見えない。まさか……


(;'A`)「オッ……オッサン!!ショボンのオッサン!!」

(´・ω・`)「何?」ザババァ

(;'A゚)そ「うおおおおおおおああああああ!!!!びっくりしたあああああああ!!!!」


急に背後から浮かび上がってきやがった。性質悪いよこのオッサン

112 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:22:16 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「やったな、提督」


グイと肩を組まれる。お前らみたいな貧弱ボーイなら立ち泳ぎ中にこんなことされたら溺れ死ぬのがオチだろうが
生憎俺はスポーツ万能マンだった為、特に問題なかった。丈夫な体に産んでくれた親に感謝マジリスペクト


('A`)「ああ……ああ!!」


ようやく、勝利の実感が湧いてきた
勝ったのだ。艦娘がいない状況下で、人間だけの手で、深海棲艦を倒した


(*'A`)「よっっっ……しゃああああああああああああ!!!!!」

(´゚ω゚`)「フォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


俺達は拳を振り上げ、勝ち鬨を上げた
陸まで泳いで帰らなければいけないが、今はそんな事より、勝利の余韻を味わおう
俺達は全員生き残り、敵を倒した。これ以上無いハッピーエンド。めでたしめでたしだ
これがモンスター・パニック映画なら、この後にENDの文字が浮かび、エンドロールが流れるだろう






しかし、現実は




俺達の大団円を、許しはしなかった

113 名前: ◆HS4z8y6JHc[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 18:23:13 ID:62pQqJ3.0
鎮守府から、再び大きな音が鳴り響く



(;'A゚)「ばっ……?」

(;´・ω・`)「嘘……だろ……」



二度目の、深海棲艦侵入を知らせる、『アラート』だった

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