春に抱かれて恋する川д川のようです

26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/01(金) 18:38:59 ID:0t4CjmL2O
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その日、学校から帰ると、長岡さんが外にいらっしゃって、わたしの方に気づき、こちらの方に手を振ってくださいました。
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( ゚∀゚)ノ「貞子さん、学校帰りですか」

"川д川

わたしの声はあまり通りませんので、頭を下げてから、小走りで近づきました。

川д川「はい、もうしばらくしたらお仕事です」
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( ゚∀゚)「お帰りなさい、と俺が言うのも妙ですが。いつもありがとうございます」

川ー川「…いえ、お迎えしていただけたような気持ちで、嬉しいです」
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( ゚∀゚)「それは良かった。迎えてくれる人がいるというのは、いいものですから」

そう会話しながら、どちらからともなく、季節はずれのたんぽぽ畑のほうへ向かいます。元々人の多く集まるような場所ではないうえ、季節でなければなおさらです。
誰もいない畑には、たんぽぽと夕日を正面に見られる位置に、木の長椅子があります。三人ほど掛けられる椅子に、少し距離を置いて、並んで掛けます。
長岡さんは左側に。わたしは右側に。

すると、目の前をつい、と秋色が通りすぎました。

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27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/01(金) 18:40:04 ID:0t4CjmL2O
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( ゚∀゚)「…おや、アキアカネ」

川д川「もう、そんな季節ですからね。行き帰りの道でも、いくらか黄色い葉が見られますよ」
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( ゚∀゚)「日々変化がありますね、この時期は」

川д川「ええ、夏はなるたけまっすぐ家に帰りたかったものですが、今はもったいなく思われて」
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( ゚∀゚)「もったいない、ですか。どういう事でしょう?」

川ー川「秋の初めは、なにか見つけるにつれ、つい立ち止まってしまって。
    実のついた稲穂のそばで赤とんぼが飛び交わしていたりだとか、彩りがよくて好きです」

それは、と長岡さんが笑っておっしゃいました。
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( ゚∀゚)「まるで、小さい秋みつけた、じゃないですか。小さくはないかもしれませんが」

川ー川「そうですね。わたしは、秋を見つけながら歩くのが好きなのですね」

つられてわたしも笑ってしまいます。

そこで、長岡さんにじっと見つめられていることに気づきました。
心なしか、楽しそうに微笑まれて。
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( ゚∀゚)「……」

川д川「長岡さん…?なにか?」

28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/01(金) 18:41:19 ID:0t4CjmL2O
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( ゚∀゚)「…貞子さんは、言葉でよくものを表現なさいますね」

川д川「…そうでしょうか?」
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( ゚∀゚)「風景だったり、お気持ちだったり。なにかを伝えるとき、言葉を尽くして表現なさる。
     今も、家にまっすぐ帰るのがもったいないということを、風景や情感を合わせて説明していたでしょう」

…なぜでしょう、なんだか面映ゆく感じて、わたしはうつむいてしまいます。

川* _川「こんなに話せること、あまりありませんから…嬉しくて、喋りすぎてしまっているかもしれません」
  _
( ゚∀゚)「そんなことありませんよ。俺は、聞いていて楽しいです。もっと聞きたくなります。
     貞子さんの気持ちがしっかり伝わってくるのが、いいと思います」

ことばが、画用紙に絵の具がにじむように伝わってきて。…もう秋なのに。じわじわと、熱くなってきます。
わたしにそんなこと、言ってくださるのはもったいない。わたしは、そんなのじゃありません。
長岡さんが聞いて、楽しくなるような言葉を言えているとしたら、それは……

川д川「…それは、長岡さんが言葉を待ってくださっているからですよ。
    普段は本当に…うまくお話できません。日記を書くときだけ、おしゃべりなんです」
  _
( ゚∀゚)「たいしたことは、していないですよ。俺が、ちゃんとお話を聞きたいと思っているから、そうするんです。
     お話の練習と思って、気になさらず、もっと聞かせてください。お疲れでなければ、今日のように、学校の帰りの時間とか――」

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29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/01(金) 18:42:00 ID:0t4CjmL2O

それから、学校帰りからお仕事の始まる時間までのほんの十数分、たんぽぽ畑で二人でお話をするようになりました。…お話の練習、のつもりじゃありません、とは言えないけれど。

毎晩の日課で、趣味でもある日記は、長岡さんと交わしたお話の内容や、お話したいことばかりで埋まり、会話がすこし出来るようになっても、日記はますますおしゃべりになってしまうのでした。


ある時、帰宅がお昼ごろになり、そのままお仕事にとりかかるためにお話ができず、何かことづけを残していこうと思い立ちました。
しかし、お手紙などは大袈裟ですし、他の誰かに見つかることを考えたら…、恥ずかしさで死んでしまいそうです。
そこで、長椅子のかたすみに。道に落ちた、色づきはじめた楓の葉を二枚重ねて、上に手ごろな大きさの重石を置きました。

川*ー川

気付いてもらえなくてもいいのです。
誰かにどかされる、そういう運命もあるでしょう。
けれど、もしも、彼が手に取ってくださったならば。

“――俺は、聞いていて楽しいです”
“俺が、ちゃんとお話を聞きたいと思っているから、そうするんです”

そんなふうに言って下さった方に、言葉でなくとも、すこしの気持ちが伝わりますよう。
これはそんな、ささやかな願いなのです。

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30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/04/01(金) 18:42:55 ID:0t4CjmL2O
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( ゚∀゚)「俺の勘違いかもしれませんが…」
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( ゚∀゚)「貞子さん、昨日、もしかしてこの葉を置かれましたか」

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( ^∀^)「――あぁ、やっぱり」

次の日。願いは、とどきました。

川//_川

……これはこれで、やっぱり。とても気恥ずかしくなってしまったのですけれど。

植物の葉を二枚。
あるいは、花を一輪。
秋、そんな決まりごとができました。

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