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39 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:35:18.389 ID:Ay5AiMcAa
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共同生活三日目。金曜日。
我が家は三カ月遅れのシュントウである。
食事については、二人で話し合った結果、先に帰った方が作ろうということに。
私もシューさんも携帯電話は無いので、不慮の事態には対応できず、やむなしといったところ。
買い出しの問題は残っているけれど、家賃が削れて少しゆとりができた現在、少しくらい食材を買いためしても罰はあたるまい。
ミセ*゚ー゚)リ「よーし、やるぞー!」
とりあえず昨日の様子からすると、シューさんの料理スキルはなかなか高めの模様なので、私も頑張らねば。
そんな決意の吶喊だったのだけれど、ああ、運が悪いというか。
(゚、゚トソン「……あの、ミセリ、何をやるんですか?」
ミセ*;-ー-)リ「や、その、つまり……宇宙人対策?」
スクールの友達に、全てまるっと聞かれてしまいました。
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40 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:35:49.941 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「というわけで、連れてきました。こちら都村和さん、スクール生です」
(゚、゚トソン「はじめまして。ミセリにはお世話になっています」
lw´‐ _‐ノv「いえいえそんな、うちのミセリがご迷惑をおかけしていないかしら」
ミセ*;゚ー゚)リ「いやいや、私のお母様じゃないんだから!」
(゚、゚トソン「迷惑だなんてそんな、成績も良いし真面目で助かっていますよ」
ミセ*;゚ー゚)リ「お前は先生か!」
意気投合の様子。とりあえず一安心。
私は相変わらず正座を崩さないシューさんの目の前に、買い集めてきた食べ物を並べる。
lw´‐ _‐ノv「ニンジン、玉ねぎ、白菜、長ねぎ、コンニャク、豆腐、鶏肉……?」
ミセ*゚ー゚)リ「そうです! 今日は三人だし、鍋にしましょう!」
lw´‐ _‐ノv「え、やだよ。このクソ暑いのに」
(゚、゚トソン「ほら! 普通はこうなるんですよ!」
そんなばかな。
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42 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:37:09.852 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*;゚ー゚)リ「で、でも、お母様は三人寄れば鍋日和って……」
(゚、゚トソン「聞いたこともないですよ、そんなの。だいたい、鍋日和とか言って、今の気温が何度あると思っているんですか?」
lw´‐ _‐ノv「今現在およそ28度ですね。今日は涼しめのようです」
ミセ*;゚ー゚)リ「ぐ、ぐぬぬ……とにかく今日は鍋! 鍋しようよ!」
(゚、゚トソン「冷や奴と浅漬、あとは……どうします?」
lw´‐ _‐ノv「鶏肉はローストして、ネギを付け合わせにしましょう。こんにゃくは後日刻んで炊き込みご飯にします」
ミセ*;゚ー゚)リ「な、鍋……」
(゚、゚トソン「いいですね。では早速準備に……」
ミセ*;;ー;)リ「鍋……」
(゚、゚;トソン「わ、わかりましたよ! なにも泣くことはないじゃないですか!」
勝訴。また勝ってしまった。
虚しい勝利だった。敗北が知りたいものだ。
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43 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:38:58.575 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「トソンさんは……はむっ……はふっはふっ……なぜ、帝国大学を?」
(゚、゚トソン「んくっ、……学びたい分野が、あっつ……、帝国大学で、最も盛んだからです」
ミセ*;゚ー゚)リ「せめて食べるか喋るかどっちかに決めろ! 火傷するぞ!」
lw´‐ _‐ノv「はふっ……はっ……」
(゚、゚トソン「ん……はっ、あっ……んちゅっ……」
ミセ*;゚д゚)リ「二人とも食う方選ぶのかよ!」
蓋を開けてみれば結局、二人は私以上の勢いでハシを滑らせ、肉を野菜を豆腐をかっさらってゆくのであった。
何という事だ、なけなしのお金を叩いたお肉(トソンちゃんと共同出資)は瞬く間に二人の胃袋に消えてしまった。
会話を再開したのは、コンニャクを争い、しらたきを争い、白菜を争い、その決着がついてからだった。
ミセ*゚ー゚)リ「なんだよう、結局ほとんど二人で食べてるじゃん」
lw´‐ _‐ノv「ふぃぃ……美味い料理こそ人生の醍醐味ですから。味わわないのは罪です。さて、帝国大学でしたね」
(゚、゚トソン「帝国大学です」
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44 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:39:44.515 ID:Ay5AiMcAa
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帝国大学。ていこくだいがく。
日本トップクラスの頭脳にして、ありがたくも私達周辺国民にも門戸を開いておられる偉大な大学校様。
学びを望む僕達君達は一年間の大学付属スクール生活の末、入学試験の受験機会を頂戴し、生涯を賭けた試験に臨むもので。
私とトソンちゃんを含め、スクール生はだいたい一万人ちょい。うち移民は一千人くらい。
スクール生以外に入学試験が開かれていない現在、この一万人のみが目下のライバルであり、将来の学友となりうるのであった。
ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃんは本当に優秀なんだよ」
lw´‐ _‐ノv「へぇ、さすがは帝大志望ですね。うちのミセリに爪の垢でも煎じて飲ませたいくらい」
ミセ*;゚д゚)リ「私も帝大志望なんですけど!? つーかそれまだ続けるのか!」
照れたように顔を背けるトソンちゃん。
そういう小芝居は要らないよ。お前はその程度で怯むタマじゃないだろ。
(゚、゚トソン「シューさんは、大学には?」
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45 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:40:15.886 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「ええと、地元の大学に。もう卒業しましたよ」
ミセ*゚ー゚)リ「え、マジで」
もちろん、歳を考えれば不思議でもないんだけど。
でもシューさんからは知的な感じがしないといったら失礼というか。
lw´‐ _‐ノv「あ、今ちょっと失礼なことを考えたでしょう。私、天才なのに」
(゚、゚トソン「いえいえ、私はそんな事は。私は。……地元って?」
lw´‐ _‐ノv「ええと、生まれはNE35−138付近にある大型の月です。太陽に呑み込まれて消滅しました」
(゚、゚トソン「え、えぬ……は?」
うん、やっぱりこの人、アホなんじゃないかな。
lw´‐ _‐ノv「まぁ、詮索を受けたくないこともあるんですよ。このご時世ですから。ご容赦ください」
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46 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:40:42.587 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「? どうして?」
(゚、゚トソン「まあまあ、やめておきましょう。それじゃ普段はどんなお仕事を?」
lw´‐ _‐ノv「異星の住民を観察しています」
(゚、゚トソン「それも秘密ということですね」
lw´‐ _‐ノv「はい。……あなたは、本当に優秀ですね」
(゚、゚トソン「え、いえ、そんなこと……」
顔を背けるトソンちゃん。ああ、これガチで照れてる反応だ。シューさん、恐ろしい子。
何やら二人だけで会話が成立してるし、話に入れない私は一人、鍋に浮かんだくずきりをつつくのであった。
(゚、゚トソン「ここに住んでいるということは周辺国民ですよね? 日本には長いんですか?」
lw´‐ _‐ノv「そうですね、こうして語るに不自由しない程度には」
(゚、゚トソン「ええ、本当、日本人と変わらないです」
lw´‐ _‐ノv「でも、それを言うならミセリの方がずっとすごいですよ」
ミセ*゚ー゚)リ「え、私?」
急に話を振るな。くずきりが逃げちゃうだろ。
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47 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:41:18.430 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「ミセリは、日本に来てからまだ数カ月ですよね」
ミセ*゚ー゚)リ「なんで知って……ああ、お役所か。私は、お母様が日本人だから」
だから、きっちり教育を受けたところはある。日本語はもとより、歴史含む諸学問もばっちりだ。
それに環境に日本文化がいっぱいあったから、並みの外人さんじゃあ私にゃ太刀打ちできないぜ。
lw´‐ _‐ノv「それにしても、これだけ精通しているのは大したものだと思いますよ」
(゚、゚トソン「そうですね、こう見えてミセリはやればできる子ですから」
ミセ*゚ー゚)リ「えへへ……ちょっと引っかかる言い方だけど、ありがと」
どう見えているのか問い詰めたい気持ちは、この際だから置いておこう。
褒められて伸びるミセリ耳は聞き心地の良い所だけ吸収するのである。
と、まあ、こんな感じで鍋会は終了のこと。
外はすっかり暗いし、窓からは涼しげな空気(24度前後)が入って来ている。
「女の子の一人歩きは危ない」と言ってトソンちゃんを駅まで送り届けて、帰ってからお片づけ。
lw´‐ _‐ノv「ねえ、ミセリ。都村さんは何故、トソンちゃんと呼ばれているんですか?」
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48 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:41:56.944 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「うん? ええと、名字と引っかけてなんだけど」
そっか、シューさん、日本語は読めないんだ。
読み違えというか、ええと、異音同字というか、どう説明したものか。
ミセ*゚ー゚)リ「ツムラ、って、漢字で書くと――『都』――『村』、なんだけど」
lw´‐ _‐ノv「へえ、それじゃあ……この文字がト、こっちがソンとも読めるんですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「そうそう。最初は周りがからかって、ドクター・ワトソンなんて言ってたんだけど」
lw´‐ _‐ノv「ふふ、私にはむしろホームズに見えましたよ、ねえミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ「う、うん」
lw´‐ _‐ノv「まあ、鍋が美味しかったから、よしとします」
ミセ*゚ー゚)リ「ぐぬぬ……」
どうやら私の「才女トソンちゃんをぶつけてシューさんの素性を探ろう」大作戦はツルツルスケスケだった模様。
シューさんはちょっと上機嫌に黒っぽしいノートを広げる。
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49 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:42:40.641 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「なにそのノート、って、待って分かった、昨日言ってた日記でしょ」
lw´‐ _‐ノv「ぴんぽん、正解です。今からここにミセリの悪巧みを書き記します」
ミセ*;゚ー゚)リ「悪巧み言うなし! ……ごめんよう、一回やってみたかったんだって」
lw´‐ _‐ノv「鍋を?」
ミセ*゚ー゚)リ「鍋を。友達と」
lw´‐ _‐ノv「……」
無表情。相変わらずよくわからない。
でも、今考えてるのは多分。
ミセ*゚ー゚)リ「今、私をかわいそうな奴みたいに思わなかった?」
lw´‐ _‐ノv「……いや……そんな……つもりは無い………………済まぬ」
ミセ*゚ー゚)リ「ちっくしょう」
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51 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:43:09.294 ID:Ay5AiMcAa
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私はノートに月記用の日記を残し、シューさんはノートに日記風の落書きを残す。
その後は学習ノートを開き、じゃこじゃこと復習の時間。
シューさんはよくわからない落書きを、相変わらずすごい速さで書いている。
気がつくと、シューさんが居る日常が、いつも通りになっている。人間って不思議。
瞬きの少ない無表情を覗き見、ノートに目を戻し、意識をアメリカ史に戻した。
今日一日で、シューさんの謎はもっと増えた、気がする。
lw´‐ _‐ノv「……おっと、いけない、ウトウトしていた」
ミセ*;゚ー゚)リ「せめて顔に変化を出せ! カカシみたいにフリーズするな!」
こうして私達の日々はつつがなく過ぎてゆく。
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52 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:43:48.877 ID:Ay5AiMcAa
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共同生活四日目。土曜日。
土曜日と日曜日は、スクールはお休み。
天下の帝国大学様も休みが欲しい、というとちょっと語弊はあるかもしれない。
研究や学会に費やす時間が欲しいため、付属のスクールも巻添え休日ということだ。
もちろん、我ら学生にとっても休日とは即ち自由に『お勉強する』ための時間に過ぎないのでして。
私は今日もシューさんを押し入れに放置し、重い教科書鞄を掴んで町へと繰り出すのであります。
ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます、モララー先輩」
( ・∀・)「ミセリさん。おはよう」
こちらの素敵な殿方はモララーさん。本名・世貝良一さん。
帝国大学の二年生さん、すなわち私の未来の先輩(予定)。
一月前にここで困っていた私を助けてくれて以来、週に一度のペースで勉強を見てくれている。
曰く、「教えることが何より勉強になる」んだとか。私のようなぼっち移民には有難すぎるお方だ。
( ・∀・)「今日も歴史学? それとも政治学?」
ミセ*゚ー゚)リ「ええと、歴史の方をお願いします」
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53 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:44:14.558 ID:Ay5AiMcAa
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休日の午前なのにというか、だからこそというか、帝大附属図書館は今日もそこそこ盛況の模様。
モララーさんは読んでいた本を閉じ、隣の椅子を引いてくれた。
さすがイケメン、細かい配慮がなんとも憎い。
ミセ*゚ー゚)リ「失礼しまーす……」
( ・∀・)「じゃ、始めようか。まず先週の復習からだけど――」
こうして私達の甘美にして高貴なる学問の逢瀬がはじまるのでありました。
声を抑えたモララーさんの美声が、ああ、私の頭蓋に染みわたってゆくようで。
まるで蜘蛛の巣のように、きめ細かく、繊細で、強靭で、抜け目のない知識の渦。
捕えられた私は小さな羽虫、足掻き、身を捩り、小さな眼に暗い深淵を見るのです。
ぐるぐる、ぐるぐる、twidle、twidle。ああ、今なら私、空だって飛んでいけそう。
ミセ*‘ー‘)リ「たいへん、モララーさん。私、なにがわからないかがわからないわ」
( ;‐∀‐)「……もう一度、今度はもう少しゆっくり説明するよ」
こんな調子で勉強会という名のデート(だと勝手に思っている)は夕方まで続いた。
モララーさんが疲れに疲れた様子で終了宣言を出した頃には、既に時間は夕方6時。
最初にモララーさんが閉じた本は、もちろんずっと閉じられたままだった。
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55 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:45:22.172 ID:Ay5AiMcAa
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( ・∀・)「さて、俺はこの後どこかで晩飯にするけど、ミセリさんも来る?」
ミセ*゚ー゚)リ「えっと、私は家で用意してあるから……」
( ・∀・)「そっか。一人暮らしだったっけ」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、そうなんだけど……」
最近、変な人と二人暮らしになったよ。
なんてことはちょっと言いにくい。そもそも、実はまだ、私が外省人だとも明かしていないし。
そして、そんなことより、なんとモララーさんから食事のお誘い!
気持ちとしては嬉しいんだけれど、懐事情はノーの一声。でも一回くらいなら。しかし、お金。
どうしたものか、思いあぐねる私の視界の隅っこに、変なものが映った。
こちらに向かって歩いてくる見覚えのある黒い装いは……おい、なんで帝国大学前にいるんだ。
( ;・∀・)「ミセリさん?」
ミセ*゚ー゚)リ「はっ、え、あ、はい!」
lw´‐ _‐ノv「!」
向こうもこちらに気付いたようだ。
なんだ、私をつけ狙ってたわけじゃないのか。それじゃ尚更どうしよう。
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56 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:47:08.668 ID:Ay5AiMcAa
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( ・∀・)「ミセリさん?」
ミセ*;゚ー゚)リ「いや全然、今ちょっと、米国トランプ政権の影響と顛末が頭でトランプルされてまして」
( ・∀・)「ん、ああ、確かにアレは一日で理解できる内容でもないからね……っと失礼」
lw´‐ _‐ノv「いえ、こちらこそ」
( ・∀・)「……まあ、彼も就任前にはかなり批判されていたらしいからね」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、うん、そうなんですね」
するっと通り抜けるシューさん。いったい何を考えているんだろう。
lw( ・∀・)「それじゃ、せめてお茶でも……」
ミセ*゚ー゚)リ「いや、本当に……ッ!?」
lw´‐( ・∀・)「?」
いや本当に、いったい何を考えているんだろう。
必死で平静を取り繕う私、不思議そうなモララーさん、無表情のシューさん、惑星直列の図である。
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57 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:47:57.359 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「あ、あの、復習とか、その、あるから」
lw´‐н( ・∀・)「うん? そっか」
ミセ*;゚ー゚)リ「……ええー……」
御断りしますと継ごうとした句が、驚きに飲まれて消えた。
背後霊シューさんは頬に手を当て……怒ったように? 口元を歪めよった。
無表情以外のシューさんなんて新鮮というか、どうせ演技だし無表情にカウントすべきですよね。
lw´‐н( ・∀・)「どうかしたの、さっきから」
ミセ*゚ー゚)リ「や、全然何もというか、その、急なお誘いで、嬉しくて、驚いちゃって」
lw´‐д(*・∀・)「そ、そう!」
lw´‐д‐ノvb(*・∀・)「復習したいところがあるなら付き合うよ、一人より二人さ」
ミセ*゚ー゚)リ「お、おう、ありがとう……ございます」
背後霊は去った。彼女にも彼女の都合があるのだ。なんだったんだろう。
ともかく私はモララーさんと喫茶店で……つまり、これはデートだろうか。
やたらと高いコーヒーを飲みつつ、私達は今日の復習に励むのであった。
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58 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:48:58.580 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚д゚)リ「ただいま! シューさんっ!」
lw´‐ _‐ノv「おや、おかえりなさい。帰って来たんですね。てっきり今晩は」
ミセ#゚д゚)リ「言うな! それ以上は言うな! ……なんだったのさ、あの顔芸は!」
lw´‐ _‐ノv「ダーとニェットの頭文字です」
ミセ*;゚д゚)リ「芸が細かすぎる! 伝わらねーよ!」
lw´‐ _‐ノv「何をぐずぐずと躊躇っていたんですか、この小娘?」
ミセ*;゚ー゚)リ「こ、こむす……ぐぬぬ、その、お金とか、服装とか」
すっげぇ露骨に溜息つかれた。
lw´‐ _‐ノv「いいですか小娘、人生とは機会です。機会とはいつだって簡単に失われてしまうものです」
ミセ*;゚ー゚)リ「二人称を小娘にするのお願いだからやめて! わかったから!」
lw´‐ _‐ノv「いいですか、次からは全部受けなさい。お残しはママが許しませんよ」
誰がママだ。
抗議する気にもなれず、私はとりあえず鞄を肩から下した。
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59 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:49:20.856 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「シューさんは今日、なんであんなところに?」
lw´‐ _‐ノv「内緒です……が、そうですね、簡単に言うと先生方にウチの娘は真面目に頑張ってるかーって聞こうと」
ミセ*;゚ー゚)リ「過保護! それ今思いついただろ!」
lw´‐ _‐ノv「で、『残念ながら』ってなったら祖国に強制送還する手続きを」
ミセ*;゚д゚)リ「スパルタだなおい!」
ふと見ると、シューさんは相変わらずの正座なんだけれど、その手元には分厚い紙の束があった。
覗きこむと、どうやら例の、何語かわからない文字を書いているらしく、なかなかの量になっている。
ミセ*゚ー゚)リ「日記? ずいぶん長いね」
シューさんは軽く頷き、ペンをくるりと回した。
私はシューさんの正面に座る。ふと黒い鞄が目につく。
ミセ*゚ー゚)リ「ねえシューさん。あれ、なに?」
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60 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:50:07.886 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「ああ、あれですか。もう一人の私です」
ミセ*゚ー゚)リ「なにさ、それー」
シューさんは口もとに手を当て、考え込む仕草。
何かロクでもないことをされそうな嫌な予感を私は全力で押し殺した。
lw´‐ _‐ノv「気になるなら、明日の朝にでもお見せしますよ。ちょうどお休みですし」
ミセ*゚ー゚)リ「えー……じゃ楽しみにしてるよ。私は明日も図書館に行くから、その前にね」
lw´‐ _‐ノv「あれ、それなら起こした方が良いですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「起こしてくれるの? じゃあ、7時ごろにお願い」
そう言って私は着替えと風呂と今日の復習を済ませ、日記を付ける。
ああ、出来る事ならば一日戻ってこの時の私を張っ倒したい。そう思ったのは翌日の朝。
早朝も早朝だと言うのに、美しく甲高く悲鳴っぽい音に叩き起こされた時だった。
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61 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:55:51.615 ID:Ay5AiMcAa
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共同生活五日目。日曜日。
ベッドから転げ落ちた私。
寝ぼけた頭が轟音を聞いて最初に思い出したのは、第二の故郷を襲った爆撃だったのだけれど。
ハソ;゚д゚)ソ「何、何事!? テロか! 空襲か!?」
lw´‐ _‐ノv=)n=ョ「いいえ、ミセリ。これは福音です」
_う~ ノ
ハソ゚д゚)ソ ……バイオリン?
/
lw´‐ _‐ノv≠)n=ョ
_う~ ノ ス
ハソ#゚д゚)ソ「 や め ろ !」
きっと私の怒鳴り声は、シューさんの演奏よりずっと響いたと思う。
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62 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:56:54.683 ID:Ay5AiMcAa
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ハソ´д`)ソ「すみません、朝からとんだご迷惑を……」
( ^ω^)「いやいや、大丈夫だお。何事もなかったなら良かったお」
( ,,^Д^)「本当、この間の悲鳴の時もすごく心配したんだから」
ハソ´д`)ソ「本当に本当にすみません……」
(,,゚Д゚)「いやいや、構わんぞ。じゃあ俺達は帰るからな」
ハソ´д`)ソ「はい……また何かあったらよろしくお願いします……」
深々と頭を下げ、肺の息を吐き切る。
一気に疲れた気がする。おかしいな、日曜の朝なのに。
扉を閉め、崩れ落ちる私。の耳に、優しいバイオリンの音色。
ハソ´д`)ソ「……怒る気力もないー……」
気力のない私の耳に染みわたる四弦――ああ畜生、けっこう上手いのがムカつく。
私はのろのろとリビングに戻った。
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63 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:58:03.764 ID:Ay5AiMcAa
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ハソ゚д゚)ソ「……さて、言い分を聞こうか」
lw´‐ _‐ノv「ここは角部屋、隣室の荒巻さんは日課のジョギングで外出中。よほど叫ばなければ近所迷惑にはならない」
ハソ;゚д゚)ソ そ 「近隣の動向まで掌握してる!?」
lw´‐ _‐ノv「人生とは音楽です。それゆえ私は音楽への努力を欠かさないのです」
ハソ;゚д゚)ソ「だからって、その、そういうのは、ぐぬぬぬぬ……公園! 近所の公園でやれ!」
だめだ、まだ頭が起きてないみたい。
うまいこと切り返せず頭を抱える私、無表情のまま淡々と弓を片付けるシューさん。
床に散った、なにやら白っぽい粉みたいなものもふき取るのは流石の一声だけど。
ハソ゚д゚)ソ「その鞄は楽器ケースだったのね。さぞ大事なものでも入っているのかと思ったら……」
l w ´ ‐ _ ‐ ノ v 「ミセリ。人生とは、音楽です」
ハソ;゚д゚)ソ「わかった、私が悪かった! 大事だね! だから無表情のまま近付いてくるのやめて!」
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64 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:58:26.375 ID:Ay5AiMcAa
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……とはいえ、実はこの時まだ私は、シューさんの底力をあんまり分かってなかったんだよなぁ。
気付かされたのは、帝国大付属図書館に本を返し、少し勉強し、昼夕飯の買い出しをして家に帰る途中。
近所の公園が、やたらと騒がしい。
ので、行ってみると。
(*^ω^)「イヤッフゥウウウウウ!」lw´‐ _‐ノv「いええい!」 (*,,^Д^)「ふらぁぁぁ!」
ミセ*;゚ー゚)リ「な、何事……何語!?」
おい、お前ら一体どこからわいてきた。楽器なんて隠し持ってたのか。
私が見たのは、数十人からの住民が集結して、音楽に興じている姿だった。
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66 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 22:59:25.986 ID:Ay5AiMcAa
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(*^ω^)「おっ、ミセリちゃんだお! おぅい!」
ミセ*;゚ー゚)リ「げっ、見つかった」
(*,,゚Д゚)「つれなくするなよゴルァ! 今日のお勉強は終わりか?」
从#'ー'从「その話題はやめろぉ!」
( ^ω^)「ミセリちゃんはお前と違って優秀なんだお!」
ミセ*;゚ー゚)リ「優秀なのは真面目にやってるからです! いろいろ聞きたい事があるんですが!」
( ^ω^)「おっお! これはバウロンって楽器だお! ブーンの故郷の!」
ミセ*;゚ー゚)リ「そんなことは聞いてねーよ!」
(*,,^Д^)「今歌ってたのは僕の国の民謡だお! 順番に歌ってるんだお!」
从'ー'从「ちょ、口調口調!」
ミセ*;゚ー゚)リ「お、おう、そうか。なんで急に楽器なんて?」
lw´‐ _‐ノv「朝2回も言ったじゃん」
ミセ*゚ー゚)リ
人生は、音楽だ。
調子に乗った楽団・烏合の衆は数時間もぶっ続けで演奏し、私は聴衆に交じって手拍子を打つ。
こうして私達は、騒ぎを聞き付けた官憲がすっ飛んで来るまでの数時間、全力で人生を楽しんだ。
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67 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:00:36.936 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「ファック! クソムカつくぜ、国家の犬どもめ! 次に有ったらギコのギターをケツの穴に突っ込んでやる!」
ミセ*;゚ー゚)リ「女の子がそんなこと言っちゃいけません! あとそんなことしたらギコ君もキレるよ!」
lw´‐ _‐ノv「ハッハーン! キレるのはギブソンで掘られる官憲のア○ルの方さ!」
ミセ*;゚ー゚)リ「やめなさい! なんで急にロックなのさ! バイオリンなんて弾いてたくせに!」
とはいえ、文句を言いたい気持ちは分からんでもない。分かる。文句言いたい。
国家権力様の言い分としては、移民の私達が談合する様子が認められないのだということです。
私達は当然、みんなで音楽を持ち寄って楽しんでいただけなんだから、ガタガタ言われる筋合いはないと緩ーく反発します。
結局なんだかんだ揉めた上で、結局は公園での音楽は許容という一見は温情な措置に落ち着いたんですが。
「要は正式に移民の集会を禁止できるまで泳がせとこうかって腹だお」というのはブーン君の言。
「都政は相変わらず国と違って極短な排外主義だから」というのはタカラさんの言。
「ケツにギコのサンをギブしてやるぜ!」というのはシューさんの言。
「お願いですからやめて下さい」というのはギコ君の言。
lw´‐ _‐ノv「ふう……落ち着きました。ご飯にしましょう」
ミセ*゚ー゚)リ「変わり身はええなおい」
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68 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:01:05.500 ID:Ay5AiMcAa
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lw´‐ _‐ノv「いつまでも嘆いてもいられませんよ。人生には悲劇がつきものです」
ミセ*゚ー゚)リ「シューさんの人生シリーズだね」
lw´‐ _‐ノv「とはいえ、少し不思議ではあります」
ミセ*゚ー゚)リ「ん?」
ミセリはなぜ、あのような露骨な嫌がらせを受けてなお、平然としていられるんですか?
私は答えに窮した。
ギコ君もブーン君も、タカラさんも、シューさんでさえ、不快感を見せているのに――そう、私は。
ミセ*゚ー゚)リ「……気にもならないよ。気にしていられるほど余裕が無いから、かなぁ」
lw´‐ _‐ノv「……」
ミセ*゚ー゚)リ「いやまあ、でも、シューさんほどじゃないけど、私も少しはムカついたよ?」
lw´‐ _‐ノv「なぜですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「え? そりゃあ……私だって、日本人として大学教育を受けるために頑張ってるんだから」
なんの為に。私は、自分のなかに浮かんだ問いに答えられなかった。
シューさんは何も言わず、ただいつもの無表情で私を見つめるだけだった。
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69 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:01:43.874 ID:Ay5AiMcAa
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ミセ*゚ー゚)リ「……ごめん、ちょっとわかんない」
lw´‐ _‐ノv「いいんですよ。謝ることなどありません。急いで答えを見つける必要もありません」
ミセ*゚ー゚)リ「……うん」
シューさんは黒いノートを開き、さらさらと落書きを残してゆく。
私の中に、かすかな印が残っているのを感じた。
ミセ*゚ー゚)リ「私は」
シューさんは何も言わずに、ペンを走らせるだけだ。
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70 名前: ◆TDGxVFEpa. [sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:02:29.090 ID:Ay5AiMcAa
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『6月 末日
今月は不思議な事がたくさんありました。
お役所からの急な命令、引っ越してきたシューさん。
無表情で、この暑いのに毎日長袖で、食事と音楽をこよなく愛する変な人です。
最初はすごく困ったんだけど、(私も毒されてきたのか)今は慣れたものです。
毎日新鮮なことばかりで、なんとかこのバカみたいに暑い夏も乗り切れそう。
さて、いよいよ来月末には志望学部別のクラス再編があります。
トソンちゃんは経済系、ブーン君やギコ君は工学系。私はというと、どうするべきか決めかねています。
興味があるのは政治系だけれど、私の頭ではどうにも、社会科系の科目が理解できないのです。
得意の数字を生かした方がきっと成功しやすいんだろうな、なんて、トソンちゃんに言ったら渋い顔をされたけど。
世貝先輩とはなかなか上手くいっています。
お忙しいでしょう時間を裂いて勉強に付き合ってくれる彼には、ただただ感謝でいっぱいです。
今は頂いてばかりだから、いつかは恩返ししたいです。
私が外省人だということは、早めに打ち明けなければならないと思っています。
いつか勇気を出せる時が来たら、必ず、と。
こんな私を、明日からも応援していてください。
』