ドクオの背骨

1 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/01(金) 21:53:32 ID:iWpo9g3E0
          〇  愛の存在――NOWHERE――


  己が信念を杖に、魂を賭けて立ち向かう。

  自分よりも二回りは大きな身体を持ち、自分よりも巧みに身体を操作する相手に、
ドクオは歯を食いしばって食らいついていた。右拳をかわし、左足をかわし、白刃をかわし、弾丸をかわす。
しかし、ふと気がついたその時にはもう、目の前に爆弾が迫っていた。そして、爆発。ドクオの両足が四散した。

('A`)「アバーッ!」

/#,' 3「これでどうだッ!? こんの、わからず屋がッ!」

  前のめりに倒れこんだドクオの頭部めがけて、
巨大な五指を――肉体の体積を集中させて変態させ、更に鋼鉄が如き硬度にまで高めて――を振り下ろした。
ドクオがとっさに横へ転がったため、手のひらこそ地面を叩きつけたが、スカルチノフの指には確かな感触が残っている。

('A`)

  頭部を損傷し、脳が一部飛び出していった。ドクオの記憶の一部が吹き飛ぶ。五感が消失する。
視界すべてが白に染まり、それから一瞬の後に、生存本能が脳と肉体の再生を開始する……。

2 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/01(金) 21:56:33 ID:iWpo9g3E0
  仰向けとなったドクオがはじめに認識したのは、青白い空だ。
雲ひとつない快晴に、二つの恒星が浮かんでいる。背中には、ざりざりとした石の感覚。
わけもわからぬまま周囲に目を走らせると、見渡す限りの緑色――刈り込まれた芝や、
多種多様の生物をかたどった樹木――を縫うように敷き詰められた白と茶の石畳。遠くには、銀色に輝く屋敷。

('A`)(ここはどこだ? おれは、今、なにをしてる? は? はああああ?)

  千切れ飛んだ断面が泡立ち、盛り上がる。同時にドクオの感覚と記憶が蘇っていく。
形が整い、散り散りになった部分にぴったりと埋まった。そして、現在の状況を完全に思い出した。

  スカルチノフはドクオに追い打ちをかけることはせず、怒鳴り声で問いかけた。

/#,' 3「おいドクオ! これでもまだ、出て行くと言うのか!?」

(#'A`)「当たり前だろ!」

  ドクオは全霊で叫んだ。今この瞬間こそ、自分がこれまでに生きてきた時間の中でなによりも大事な場面だと。
ずっと求めていた機会がようやく巡ってきたのだ。今回の好機をものに出来なかったら死んだほうがマシとさえ考えていた。

  家から出て行きたい息子と、引き止めたい父親。
二人の自宅――惑星<マンドクセ>で一番大きな宮殿だ――の庭で、彼らは対峙している。

  ここにいては、決して目にすることはできないものをドクオは求めていた。
このままでは、心を震わせる冒険も夢物語も、決して体験することができない。
そのことがドクオにはどうしても我慢ならなかった。

('A`)(<マンドクセ>には何もねえ。
    俺が好きなもの……俺が心を躍らせる、俺が主役となって活躍する物語の舞台には成り得ない場所だ)

  ドクオの全身に力が漲る。いつまでもいつまでも、自室で読み耽っていた書籍が勇気を与えてくれた。

3 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/01(金) 21:57:33 ID:iWpo9g3E0
('A`)(恒星を食らって宇宙を渡る鳥も、劇的な進化を促してくれるオベリスクも、惑星を覆う途方も無く巨大な水たまりも)

  特殊な鉱石をめぐって何百年も戦争を続けている惑星<アルフ・アー・ベット>も、
どこまでも可能性を広げ続け、何事も決して終わらせない宗教を持つ惑星<ヴァニ・ロー>も、
小惑星帯にコミュニティを築き、人の心の影を黒い翼として見ると言われている<クーデルカ21g>も。

  ドクオは大きく息を吸って、集中した。それらすべてを見に行くために、戦わなくては。

(´・ω・`)

  巧みな話術で宇宙の雄大さと文化の多様さを語り、ドクオの胸を踊らせた人間が見ていた。

( ^ω^)

  能力や特性を余すこと無く活かして生を謳歌する方法を提案してくれた半人半馬が見ていた。

(//‰ ゚)

  偽りの愛情の具現化。所得顔で世話を焼く、束縛の象徴であるヒューマノイドが見ていた。

/#,' 3「やはり、力づくでわからせるしかないようだな」

(#'A`)「やれるモンならやってみろ、クソ親父ィ!!」

  <マンドクセ>という小さな惑星に囚われたままの運命を打ち破るために、
自分が憧れた物語に登場する人物のように、空想を現実にするために……父親を打倒する決意をより強く固め、ドクオは駆け出した。




.

4 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:16:11 ID:LBDXupdA0
          一  ドクオ(種族:モディフィカ・スライム)


('A`)

  これは、八つ当たりだ。
ドクオはそう自覚していたが、自らに仕えるヒューマノイドを切り刻む手を止めることは出来なかった。

(//‰ ゚)

  刃を沈める。こめかみから、唇へと向かって緩やかな弧を描いた。
全身に貼り付けられた人工皮膚は驚くほど簡単に切り裂くことができた。

  彼の鬱憤が日々溜まるにつれて、切り裂く部位は上へと登ってきていた。
……脚部、腕部、胴体、首筋。そして、今日は、顔面。ヒューマノイドの顎先に切れ込みを入れ、指先でつまみ、めくり上げた。

  どこを切り開いても、同じ中身が詰まっていた。
絡み合う多色の配線――優れた人工知能による豊かな感情を誇示するような――と、
入り組む灰色の鋼鉄――所詮は機械とヒューマノイドの本質を象徴するような――が。

(//‰ ゚)

  ヒューマノイドは、いつものように微動だにしなかった。
体内から駆動音が鳴り続けているため、電源は切られていない。

  ドクオの荒い息遣いと、吐き出され続ける悪態。
そして、時折、ヒューマノイドがドクオへとアイカメラの焦点を合わせる音だけが、室内を満たしている。

5 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:19:05 ID:LBDXupdA0
  ……ドクオの乱れた呼吸が次第に整い、上下する肩が落ち着いていく。

  やがて、ドクオの動きが止まった。右腕の刃がだらりと落ちた。
その様子を見て、ヒューマノイドが口を開いた。
人工知能はドクオの思いを汲む――「わかるよ」と親しげに肩を叩く友人の――ような声色と口調だった。

(//‰ ゚)「満足しましたか?」

(#'A`)「するわけねえだろッ!」

  ドクオの激高と同時に右腕の刃が歪み、震えた。
その一瞬の揺れの後、刃がしまいこまれ代わりに巨大な握り拳が出現し、ヒューマノイドを殴りつけた。
鈍い金属音が大きく鳴り響いたが、ヒューマノイドはほんのわずかにバランスを崩しただけだった。

(//‰ ゚)

  続いて、首の関節が回る音。
明後日の方向を向いていたヒューマノイドが、ゆっくりと視線をドクオに戻した。
無表情で、彼をじいっと見つめるヒューマノイド……しかしそれから、何も起こらない。
口を開くことも、体を動かすこともなく、ただただ彼を見下ろしている……。

(#゚A゚)「ううううううウウワアアあああああああああああああああああァァァァアアアッッッッ!!」

  ドクオの感情が爆発した。抱えていたものを曝け出す、長く続く絶叫。
ヒューマノイド――自分に仕えているはずの機械風情――の反応が、
彼が毎日毎日こころに積み重ねた怒り、抑えに抑えた怨みに火をつけたのだ。

  “自分自身の世界に対する影響力が、ヒューマノイドの小さな反応として顕現し、存在の矮小さを改めて突きつけられた”。
能面のような反応を、そう捉えたのだ。本能的な解釈。
こころの奥底で長年気づかないように目を背けていた、忸怩たる理解が飛び込んできた……。

6 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:22:14 ID:LBDXupdA0
  血液がドクオの全身を駆け巡る。
体温が急上昇し、水色の身体がほのかに赤みを帯びた。細胞が形を変え、体中がより暴力的に隆起する。
その変態した体で、もう一度、ヒューマノイドを殴りつけた。ごおん、とくぐもった音が室内に反響した。もう一度。ごおん。

  二度、三度、四度、五度。ごんごんごんごんごんごん。
次第に殴る間隔が短くなり金属音が重なり始めると、二本の腕だけでは物足りないと言わんばかりに、
身体から新しい腕を生やして殴打する。伸ばし、反らし、しならせて、何度も何度も叩きつけた。ヒューマノイドはただ立っている。

(//‰ ゚)

  ……突如、鈍く響く殴打音に、細く甲高い音が混ざりこんだ。

(;'A`)

  ドクオの動きが、ぴたりと止まった。

  その正体は、ただ単にヒューマノイドがアイカメラのフォーカスを合わせた際に生じる音であり、
ドクオもこれまでに幾度と無く聞いたことのある、か細い音であったが今この瞬間、どんな音よりも鮮烈に彼の耳に届いた。

  ゆっくりと、ドクオはヒューマノイドを見上げた。相変わらずの――あるいは急激に吹き出した怒りに対しての特効薬は、
下手に構わずそのまま放っておくことだとプログラミングされているのか――無表情。瞳の奥底を覗きこまれ、じろりと睨まれている感覚。

(//‰ ゚)

:: (;゚A゚) ::

  恐怖心がドクオを鷲掴みにする。瞬く間に、燃え盛っていた憤怒の炎がいとも簡単に消え去ってしまった。
全身が凍りつく。広がり、乱舞していたすべての触腕が一斉に動きを止めていた。ただただ、ひたすらに怖かった。

  ドクオの胸中に去来した憂慮……何かの間違いで――いくら強固に厳守するよう設定されているとはいえ、
いにしえから伝えられている法則は変わらない。この宇宙に、絶対なんてものは存在しないのだ――ロボット三原則が適応されなくなった場合、
瞬時に自分は殺されてしまう。機械惑星<ドライブ・アーバン・ウォー>のヒューマノイドは優秀だ。故に、彼の恐怖は加速していく。

  従事するヒューマノイドに対してどれほど怒りをぶつけても、活動の維持に必須な部位の破壊――神経回路の切断や、
外部装甲を引き剥がして内部を分解するなど――を一度も行わなかった理由。
本当に自身の“命”が脅かされたその時、ヒューマノイドが抵抗しないだなんて、これが杞憂だなんて、誰が言い切れる?

  ドクオはようやく、身体の動かし方を思い出した。

(#'A`)「畜生ッ!」

  吐き捨てて、未だかすかに尾を引く金属音に背を向けて、ドクオは部屋を飛び出した。

7 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:34:26 ID:LBDXupdA0
          二  ショボン(種族:ホモ・サピエンス)とブーン(種族:ホライゾン)


(´・ω・`)

( ^ω^)

  ショボンとブーンがこの小さな惑星<マンドクセ>に訪れてから、
もうすぐ三十標準日――宇宙標準時間で三十日間――になる。

  彼らがなけなしの金とコネクションを使ってこんな銀河の辺境にまで――なにしろ、
銀河標準地図に記載されていない――、宇宙船を飛ばしたのは、交易のネタを求めてであった。
宇宙中から秘匿されている惑星ならば、個人商人である自分たちでも、
物珍しさを売りにしてなにか大きな取引にありつけるかもしれない、と。

(´・ω・`)「遠慮など不要でございます。是非、お手にとってご覧ください。
        如何でしょうか? しなやかで、手触りの良い蔓でございましょう?」

(;’e’)「いやあ〜あのねえ〜」

(´・ω・`)「いやはや。さすがにお客様はお目が高い。これは植物惑星<ジュカイ=T=ケット>産のものでして、
        強度・靭性・耐火・耐水性すべてに優れているという、とても優秀な素材でございます」

(;’e’)「だから〜その〜ね〜」

(´・ω・`)「丁寧に蔓を編んで頂きますと――もちろん、お代を頂戴できるなら我々が提供いたします――籠や鞄、
        お皿等々が作れまして、これらをお店で提供することによって……」

(;’e’)「間に合ってるから〜必要ないなぁ〜」

(´・ω・`)「ふむ、そうでしたか。これは失礼致しました。
        すでに調度が完全に整えられたこのお店には不要な商品を紹介してしまいましたな」

(´・ω・`)「それでは次の商品はどうでしょうか?
        音楽惑星<KLRY>から極上のミュージックデータが……」

(;’e’)「うわぁ〜〜〜〜〜〜」

  情けない声とともに、店主は手のひらを見せ、嘴をカチカチと打ち鳴らす。
ショボンの交渉に対しての答えだ。拒否の意。彼は移住民で、<マンドクセ>人ではない。

8 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:43:46 ID:LBDXupdA0
  _,,_
( ・ω・ )「困りましたね。ここの店主殿の反応もよろしくありません」

  ショボンは完璧なまでに整った顔を顰めて、腕を組んだ。

( ´ω`)「困ったお。こんなの付けられたのにぃ〜」

  ブーンはあからさまに表情を崩し、自分の背中を見ようと首を回した。
背中に特殊な拘束具を取り付けられたが、疎ましくて仕方がなかった。
未だに異物感に慣れないブーンは、毎日不満そうに背を揺らしたり尻尾を左右に振ったりしている。

  結論から言うと、ショボンとブーンの目論見は完全に失敗していた。
惑星中の誰も彼もが、二人の商いに対して取り付く島もない態度を示していた。

  <マンドクセ>は秘匿された小さな惑星であったが、二人が予想していたよりも惑星の規模や居住者――在来種だけでなく、
異種族も多数住んでいた――の数が多く、ショボンとブーンは手を打ち合わせて喜んだのも束の間、
<マンドクセ>の住民達が持つ暗黙の了解――あるいは当然の防衛――の前に頭を抱えていた。

  在来種モディフィカ・スライムを誘拐や暴力から保護する目的から、
当然<マンドクセ>の宇宙港への本来入港審査は厳しいものであったが、
この人間と半人半馬の商人は現在武器類を積んでいないため、
武力に優れるホライゾン種を警戒した警備員がブーンに拘束具の着用を義務付けただけで、入港自体はそう難しくなかったのだが……。

  ショボンは目をしぱたたいて、心の中で舌打ちをひとつ。

(´・ω・`)(嫌な予感が的中してしまいましたね)

  宇宙船【天翔ける生の証】号から見た時に抱いた不安――惑星の規模に似つかない宇宙港は、
すでにそれなりの数と取引を行っている証明で、自分たちが入り込む余地はないのではないか?――が、
目の前に形を成して邪魔をしている。

  実際、宇宙港には他の宇宙船も停泊しており、
港の職員――すべてがフッサール人であった――が書類を交わす隣で、
別の職員が食料や鉱石の詰まったコンテナを重機で運び込んでいたのだ。

(´・ω・`)(人づての情報の上に、自分達に都合の良い仮定を重ねて重ねて、
        いざ現地にやってきたら手痛い現実……無様と言わざるを得ませんね)

  決まった相手から、決まった品物を、決まった質量だけ取引する信条の惑星相手に、
信用も何もない招かれざる客である個人商人が、見知らぬ怪しげな惑星産の品物を買うはずがなかった。

9 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:47:22 ID:LBDXupdA0
(´・ω・`)(このままでは、今回の航海が大赤字に終わってしまう)

(´・ω・`)(なんとしても計画を成功させたいものですが、やはり出港時の警備が厳しすぎますね。さてさて……)

(;’e’)「あのお〜もうよろしいですか?」

(´・ω・`)「これはどうも申し訳ありません。
        お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございました」

  小心者の店主に挨拶を告げて、ショボンは寂れた喫茶店を出た。
ブーンもその後に――大きな胴体をぶつけないよう注意して、狭い玄関をくぐり抜けた――続く。

  ショボンとブーンは裕福な商人ではない。収入がない状態に彼らは逼迫していた。
この街に降り立ち目星をつけた店舗は先程の喫茶店で最後であった。また、新しく手を考えなければならない。

( ^ω^)「ショボン、これからどうするんだお?」

(´・ω・`)「ふうむ……」

  ブーンの質問に、ショボン唸る。商品を詰めてある鞄を肩に担ぎ直した。
彼らはお互いを信用しあっていたが、行動の方針を決定する権利はショボンにあった。
商用宇宙船【天翔ける生の証】号の船長であるのは確かであったが、ブーンがそれに納得している理由がある。

  ショボンは優秀な知的生物が住む星と名高い<地球>出身の在来種、ホモ・サピエンスだ。
更に彼はジーン・リッチ――受精卵の段階で遺伝子操作を行なうことによって、
親が望む外見や体力、知力等を持たせた子供の総称だ――であった。数少ない、<地球>の叡智の結晶。

  期待通り、ショボンは均整の取れた顔立ちに、高い知能指数と身体能力を持って生まれた。

  そんな彼の出身惑星<地球>では、現在、ジーン・リッチ――遺伝改良種――と、
ナチュラル――自然生殖種――との長い激しい戦争が続いているが……けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう。

10 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:53:49 ID:LBDXupdA0
( ^ω^)「<マンドクセ>はもう諦めて、どこかまた別の星へ行くかお? それとも、首都から離れてみる?」

  ブーンは目線をショボンに落とし、歩きながら問いかけた。かつかつと蹄の音が鳴る。

  ホライゾンは宇宙でも有数の優秀な身体能力を持った、半人半獣の種族だ。
<地球>のギリシア神話に登場するケンタウロスそのままといっていい姿形をしていた。
四足が生えた馬の胴体から二本の腕を持つ人間の上半身が伸びている。

  凄まじい膂力に機敏な反応。加えて、地平線まで見通す視力をその身に宿している。
そのため、ブーンは<マンドクセ>の宇宙港で危険と判断され、胴体に拘束具を巻かれていた。

(´・ω・`)「とりあえず、反応がまだマシだった店舗に、もう一度訪問してみましょう。
        次はもう少し趣向の変わった商品や、食材等の即物的な商品を用意してみようかと」

( ^ω^)「了解だお! じゃあ一旦宇宙船に戻るってことだおね?」

(´・ω・`)「その通り。我等が【天翔ける生の証】号へ戦略的退却をして、再び作戦を練るとしましょう」

( ^ω^)「それじゃあ、荷物を背中に載せてもいいお。重いでしょ?」

(´・ω・`)「これはどうも。……ブーン、ついでと言ってはなんですが、私が乗ってもよろしいですか?」

( `ω´)「それはダメダメお〜」

(´・ω・`)「しょんぼりですな」

  煌めく星空がどこまでも広がる暗黒の下、
つややかな白毛に覆われた半人半馬と、絶妙に整った容姿を持つ人間が歩調を合わせ、笑いながら歩いて行く……。

11 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:57:19 ID:LBDXupdA0
          三  ヨコホリ(種族:<ドライブ・アーバン・ウォー>産ヒューマノイド)


(//‰ ゚)

  機械惑星<アーバン・ドライブ・ウォー>にて製造され、
個体識別番号VERRUGA-TAROを与えられたヒューマノイドは、ヨコホリと呼ばれていた。
ドクオの父親であるスカルチノフを絶対的な主人として認識するように設定されている。

  『私が居ない間、宮殿とドクオの面倒を見ろ。』。

  スカルチノフからヨコホリに与えられた使命は、ただ、それひとつだけであった。

  まだドクオが幼い時分から常に付き従い、一般常識や惑星の歴史、算術、
科学、遊戯などを教え続けてもう十四年――惑星<マンドクセ>の基準で――にもなる。
ヨコホリに搭載された人工知能が、ドクオに対して愛情を持っていないといえば嘘になる。
しかし、いくら彼を理解しようと務めていても最良の対応を尽くせたことはなかった。……ここ最近は、特に。

(//‰ ゚)(今日もまた、どこかへ行ってしまいましたね……)

  ドクオの世話役だけを命令されていた場合であれば、自室から飛び出していった彼を追いかけ、
再び勉学や読書、稽古事に打ち込ませなければならないが、ヨコホリは宮殿の雑用も命じられている。
炊事、洗濯、掃除、買物、警備……。巨大な邸宅であったが、ヒューマノイドはヨコホリしか存在していない。

12 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 19:58:51 ID:LBDXupdA0
(//‰ ゚)(とりあえずは、ドクオ様のお部屋から掃除を開始しましょうか)

  ヨコホリは掃除用具を取りに倉庫に向かって歩き出した。

  一歩、一歩と進むたびに、ドクオの手で切り裂かれた人工皮膚の隙間をくぐり抜けて風が入り込む。
新たに切り刻まれた顔面の皮膚が揺れて視界の隅でちらついた。動作に異常はないが、推奨される状況でもない。

  自らに異変があれば主人へと報告する防衛本能がヨコホリには備わっており、
ドクオの蛮行が始まってから幾度と無くスカルチノフへ報告し、傷の修繕を頼んでいたが、願いが叶えられたことはない。
それどころか、スカルチノフから返事が返ってきたこともなく、目を通しているのかすら不明であった。

  ヨコホリが歩き続けて数分。
膨大な数の空き部屋――これらの空き部屋は制御室の操作にて完全な真空状態を維持しているため、
積もる埃や腐敗の心配がないので立ち入る必要はない――の前を通り過ぎ、倉庫にたどり着いた。

(//‰ ゚)(……)

  優れた人工知能による豊かな感情を誇示するような多色の配線と、
所詮は機械とヒューマノイドの本質を象徴するような入り組む灰色の鋼鉄が、倉庫の闇に紛れ込む。

  近頃、ヨコホリは気分――便宜的にこう表現したが、正確かどうかはわからない――が優れなかった。
常日頃、とにかく不快感を覚えていた。

  優秀なヒューマノイドは原因を理解していた。感情だ。
愛情、親近、友情、尊重……スカルチノフからもドクオからも、あたたかな感情をもう長い間向けられていない。
しかし内心がどうあろうと決め事を破ることはない。ヨコホリは稼働している。雑務の遂行には決して支障はないのだ……。

  ヒューマノイドはまだ、倉庫の闇に埋もれている。

  新しい知識を伝えると目を輝かせ、料理を次から次へと笑顔で頬張り、
気分が高揚すると勢い良く飛びついてくる、幼いころのドクオの姿が、ヨコホリのメモリには記録されている。

13 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:07:56 ID:LBDXupdA0
          四  商談


(´・ω・`)「こちら、近年では最高傑作のひとつと名高い魚でしてね。どうぞおひとつ、食していただけますか?」

(´・_ゝ・`)「ふむ……先に言っておくがね、私の出身惑星は美食惑星<プラス・ランキング>だ。食べ物にはうるさいよ」

(´・ω・`)「それは望むところですな。私共は商品に絶対の自信を持っておりますので」

(´・_ゝ・`)「おやこれは楽しみだ。ではひとつ、頂こう」

( ;^ω^)(……)

  机を挟み、二人は商談を進めていた。
ショボンの後ろにはブーンが立っている。彼が座れる椅子はここにはない。

  惑星<マンドクセ>の宇宙港の近くで飲食店を営む男の前に、魚の絵が印刷された缶詰が置かれた。
ショボンはゆっくりとその缶詰の封を切り、同じく持ってきた皿の上に盛りつけた。
小さく切り分けられた白身の切り身が粘り気のある液体に包まれていて、それがとろりと流れ落ちていく。

(´・_ゝ・`)「白身魚か。白身の魚はね、<マンドクセ>では高級食品なんだよ」

(´・_ゝ・`)「なんだい? このヌメヌメは?」

(´・ω・`)「調味液でございます」

(´・_ゝ・`)「ほう?」

(´・ω・`)「これのおかげで、この魚が本来持つやわらかでジューシーな食感が保たれ、深みのある味わいとなるのでございます」

(´・_ゝ・`)「なるほど……」

( ;^ω^) ゴクリ

14 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:14:47 ID:LBDXupdA0
  頷いた店主がフォークを手に取り、切り身を口に運んだ。
弾力のある触感をゆっくりと楽しんだ後、ごくりと飲み込む。

(´・_ゝ・`)「……うん、悪くはない。個人的には好きな味だ」

(´・_ゝ・`)「だが少し、味が淡白すぎるか」

(´・ω・`)「ご安心くださ。この魚、温めて頂きますと味がぎゅうっと凝縮されますので……」

(´・_ゝ・`)「好みで調整できるというわけか」

(´・ω・`)「その通りでございます」

(´・_ゝ・`)「缶詰しかないのかね?」

(´・ω・`)「五匹ほどですが、冷凍保存したものがございます」

(´・_ゝ・`)「冷凍保存か……産地の<プラス・ランキング>とはどれくらい離れてる?」

(´・ω・`)「SSD――スター・スウィープ・ドライブ――をフルで稼働させれば三標準日ですが……」

(´・_ゝ・`)「ほう! 素晴らしい速度だ!」

(´・ω・`)「いえ、実際には小惑星帯を横切るのでデブリ群の具合や、同惑星系での商いの都合、
        更に言えばそんなにもSSDを稼働させられるほど、燃料に余裕はありませんし、
        現実的に言うとなると……十から、二十標準日ですかね」

(´・_ゝ・`)「充分じゃないか」

(´・ω・`)「この辺りは小さな惑星系ですから。
        私、お客様の満足のためにより良い品をより早く提供するのを信条としております」

(´・_ゝ・`)「一度にどれくらい積んでこれる?」

(´・ω・`)「中型コンテナひとつ分が限度ですかな……そんなにもこの魚を気に入られましたか?」

(´・_ゝ・`)「味は悪くはないと思うが、それだけ捌けるものでもないだろうな。いやすまない。今の質問は不要だった」

(´・ω・`)「ご贔屓にしていただけるならば、私の裁量でいくらでも融通を効かせるつもりでございますが」

15 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:16:48 ID:LBDXupdA0
(´・_ゝ・`)「缶詰の方はいくつ残ってる?」

(´・ω・`)「二十八缶までお売りすることが可能です」

(´・_ゝ・`)「うーん……どうしようかな……白身の魚が物珍しいのは間違いないが。
        さっきも言ったとおりこの星では白身魚は高級品なんだ。それ故、期待もされるだろう。そこが弱みだな」

(´・ω・`)「船にある冷凍保存のものはもっと新鮮味が保たれておりますので、また評価が変わってくるかと思われます」

(´・_ゝ・`)「そちらは試食させてくれないのかね?」

(´・ω・`)「それは出来かねます……お買い上げという形になってしまうでしょうな」

(´・_ゝ・`)「まあ当然か。……それに、冷凍保存したところで味が大して変わるとも思えんしな」

(´・ω・`)「これは手厳しい。費用さえいただけるのであれば、生きているものに時間凍結を施してお持ちいたしますが」

(´・_ゝ・`)「おいおいおいおい、時間凍結なんてしたら桁がひとつ変わってくるだろう」

(´・ω・`)「仰るとおりで」

  しばしの間、笑い声が重なりあう。

(´・_ゝ・`)「となると、やはり冷凍保存したものが打倒かな。その他は追々考えてみるよ」

( ;^ω^)(や、やったッ!! さすがショボン! これは売れるぞ!)

(´・ω・`)「そうでしたら……」

  商談がまとまろうかというその瞬間、突如、とてつもなく大きな音が店中に響いた。
店主が怯えた声を上げ、ショボンは冷静そのもので、ブーンの肉体が戦闘に備えて隆起する。

(;´・_ゝ・`)「ヒッ」

(´・ω・`)

( #`ω´) グルルルル

  飲食店の扉をこれでもかと言うほど乱暴に蹴り開けたのだ。
三者三様の反射行動と視線を受けた音の出処は、悪びれる様子ひとつ見せず、嬉しそうに口を開いた。

(*'A`)「ようやく見つけたぞ! ショボンにブーン! こんな貧相な店でなにをしているんだ!?」

16 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:18:05 ID:LBDXupdA0
(´・ω・`)「……」

(*'A`)「まったく、くたびれたな! 宇宙港にまでわざわざ行ったんだぞ? ごねる警備員どもを押しのけてさあ」

( ^ω^)「……」

(*'A`)「どこに行ったか聞いても誰も知らないから、街の監視カメラを全部チェックさせてしまったじゃないか!」

(´・_ゝ・`)「……」

(*'A`)「ところで何を話してたんだい? どうせ大したことじゃないんだろ? なあ、僕の話を聞いてくれよ!」

(´・ω・`) ''

( ^ω^) ''

  ショボンはブーンに視線をやり、ドクオを追い出せと顎で指図した。
すぐにブーンは意図を汲み取りドクオに近づいていく。彼は相変わらず自分勝手に話し続けていた。

(´・ω・`)「店主さん。話を続けましょう」

  ショボンが店主に向き直り、指でテーブルを叩いた。

(;´・_ゝ・`)「ううう……」

  店主は口をぽかんと開けたままドクオを眺めている。
ショボンには彼の内心が透けて見えた。ドクオの乱入に驚いているというよりは、迷惑を感じている。
面倒から逃れるため商談がご破産になる可能性が高い。ドクオの存在を一刻も早く遠ざけるべきだった。

('A`)「おい! なんだよブーン! ちょっと待ってくれよ!」

( ^ω^)「はいはーい。今は大事なおはなし中だから、外でブーンと遊ぼうおね〜」

(#'A`)「なんだって……?」

17 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:22:26 ID:LBDXupdA0
  ブーンの、あからさまにあしらう態度が、ドクオの爆弾に火をつけた。
ヒューマノイドに逆なでされた神経は未だに鎮まってはいなかった。……いいや、この問題が解決するまで、鎮まることはないのだ。

  おどけた口調が普段の乱暴な調子に戻り、怒鳴り声を撒き散らす。

(#'A`)「てめえらもか! てめえらも、俺を疎ましく思っているんだな!?」

( ;^ω^)「えっ」

(#'A`)「おい店主! わかってるんだろうな!?
      俺をこんな風に扱ったら、どうなるのかちょっとは考えたらどうだ!? ああ!?」

(;´^_ゝ^`)「いえいえ! もちろんわかっておりますとも! ええ!」

(´・ω・`)「店主殿。気にすることは御座いません。すぐに……」

(;´^_ゝ^`)「申し訳ありませんが、今日はここまでと言うことで」

  ショボンの言葉を打ち切って、店主が立ち上がった。
顔にはぎこちない笑いが張り付いていた。驚異や迷惑を通りすぎて、恐怖を感じている。

  ドクオの父親スカルチノフは、惑星<マンドクセ>において巨大な権力を有している。
ましてや、住民の誰もがドクオの評判――素行が悪く、怠け者で遊んでばかりいる――を知っていた。
一介の飲食店の主が、面倒な事態になる前に素早く収めようと考えたのは当然だった。

(´・ω・`)「そうですな。店主殿のご不興を買ってもつまりません、それでは今回はこの辺にさせていただきます」

( ;^ω^)「ちょっ、ショボン! マジかお?」

(´・ω・`)「とにかく、表に出ましょう。話は私達の船でも出来る。そうですね?」

(*'A`)「ああそうだ! 俺の話を聞いてくれよ! そして、今日もまた“外”の話を聞かせてくれ!」

( ^ω^)「せっかく、初めて、商品が売れそうだったのに……」

( ^ω^)

。゚(゚ ´ω`゚)゚。ピー

  いつの時代であっても、どこの惑星であっても、心身ともに子供から大人へと成長していく時期の生物は厄介なものだ。
  これは、全宇宙共通の法則である。

18 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:28:05 ID:LBDXupdA0
          五  【天翔ける生の証】号

  【天翔ける生の証】号は<オールド・ヴィップ>製の年季の入った恒星間宇宙船だ。
デブリを弾く斥力の出力が弱まっているせいで、黒と灰色で組み上げられた外装甲は傷だらけになっていた。

  【天翔ける生の証】号の客室で三人が会話をしていた。
ショボンはソファーに、ドクオは椅子に座り、ブーンは立っている。ホライゾン種が座れる椅子は積んでいなかった。

(´・ω・`)「それで? 何故、私達の商いの邪魔をなさったのです?」

('A`)「この間、俺のクソバカヒューマノイドの話をしただろ? あれを買い取ってくれねえか?」

( ^ω^)「いやいや、ドクオくんのものじゃないし。あれはスカルチノフ卿のものだお」

('A`)「俺のモンだろ。親父が世話役とか言って俺に押し付けたんだ。
    何の役にも立たねえし、俺を苛立たせるばっかりだから、今日もサンドバッグとして活躍してもらったな」

( ^ω^)「もったいないなあ」

(´・ω・`)「<ドライブ・アーバン・ウォー>製のヒューマノイドと記憶していますが。お値段、ご存じですか?」

('A`)「知るかよ、バカか?」

(#'A`)「あああクソッ! そういう話はしなくて良いんだよ! もっと楽しい話をしようぜ!」

(´・ω・`)「叫ばないで頂きたいものですな。酸素が無駄に減りますので」

('A`)「じゃあこのボロ船から出ようじゃねえか。なんでわざわざ宇宙港まで歩いて船に乗り込まなきゃいけねえんだよ」

(´・ω・`)「少しは考えてみてください」

(´・ω・`)「恒星間商人とお金持ちの息子さんの組み合わせは、市民に良からぬ誤解しか与えません。
        私は生来、平穏を望む性分でして」

( ^ω^)「今も【天翔ける生の証】号の周りを警備員にがっちり包囲されてるんだお」

( ;^ω^)「フッサール人は勤勉で正義感が強いから、正直怖くて仕方がないお」

('A`)「俺の都合じゃねえだろ。てめえらの都合じゃねえか」

(´・ω・`)「ドクオ殿はもっと自分の価値について知る必要がありそうですね」

  ドクオは顔を顰めた。自分の価値。彼の怒りに触れるワードであった。

('A`)「うるさいな」

  惑星の誰からも父親の付属品としか見てもらえず、何をしても誰もが怯えて咎めることがない。
ヒューマノイドは訳知り顔で素っ頓狂な反応をして、肝心の父親とはもう数年も顔を会わせていない。

19 名前: ◆hmIR/WZ3dM 投稿日:2016/04/03(日) 20:29:03 ID:LBDXupdA0
('A`)「なあ、早く俺を宇宙へと連れて行ってくれよ」

(´・ω・`)「それはできかねます」

('A`)「……んだよ」

  ドクオと二人が出会ってから、何度もした問答だった。
元々持っていた非日常への憧れがより一層輝きを増したが、同時に海千山千の恒星間商人が、
何の得もなしに二つ返事をくれるはずがないと理解していた。
反対に、それが嬉しかったのだ。変な付加価値のない“本来の自分”を見てもらえていると感じていた。

('A`)「それじゃあ、今日も話をしてくれよ。他の惑星の文化や宗教とか……種族の特性とか!」

(´・ω・`)「それでは僭越ながら、私の好きな惑星や異種族の紹介をば」

( ^ω^)「やんややんや」

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