('A`)便利屋ドクオの野暮用です

135 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:43:57 ID:/bf6AHok0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




               ('A`)便利屋ドクオの野暮用です

                     ――少年編――



                 ◆PizzaMan.c presents




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

136 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:44:33 ID:/bf6AHok0














.

137 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:45:06 ID:/bf6AHok0

「ハァ……ハァ……ッ!!」

    (;'A)
   ノ/-/o
    j._/|  ダッダッ
  ;.、ノイ、)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄







 俺はなんて、馬鹿なことを。







「ハァ…………うぐ……ッ!!」

       、 ,
       ;.、vr⌒ち(;'A)っ ドサッ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






.

138 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:45:49 ID:/bf6AHok0

 でもまだ、死ぬわけにはいかないんだ。







『待てやクソガキィ!!』






         「……クソッ!!」

            (;'A)
            /,-|、  スクッ
            j._/U
           .,」^、〉 .,
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄










.

139 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:46:36 ID:/bf6AHok0

 話は、前日に遡る。



J( 'ー`)し「ドクオ……こんな遅くまでどこへ行っていたの??」


 皺だらけの顔で鋭く俺を睨みつける女は不機嫌そうにため息をついて、シミの目立つ椅子に深く腰を降ろし、そう言った。


 彼女は、俺が暮らしているこの児童保護施設の先生だ。


('A`)「……ちょっと……買い物に行ってました」

J( 'ー`)し「買い物? こんな時間に何が欲しかったの?」

('A`)「……喉が渇いたんで……コーラを」


 大嘘だ。


 実際に行っていたのは、繁華街。
 この施設から逃げ出す金を集めるために、ギャングから預かったドラッグを売り捌いていたのだ。


J( 'ー`)し「あのねぇ…………。それが本当かどうかは置いといて、もしもあなたが警察に補導でもされたら、注意されるのは私なのよ!?」

('A`)「…………」

140 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:47:09 ID:/bf6AHok0

 いつもそうだ。
この人は、いつも自分の事しか考えていない。


J( 'ー`)し「お金が必要なんだから、問題は起こさないで欲しいわ。警察に目をつけられでもしたらどうしてくれるのよ」


 この児童保護施設は、児童保護施設とは名ばかりに、保護した少女を金で売りさばいていた。
養子縁組という、これまた名ばかりの方法を使って。

 手に入れた大金は、この女の意味もない化粧やエステに消費されているのだろう。

 つい吐き出しそうになった嫌味を、石を飲み込むように喉奥へと押し込んで、俯いた。


J( 'ー`)し「男は売れもしないから困ったもんだよ。さらに余計な面倒ごとまで引っ張り込んで……全く」

('A`)「…………」

J( 'ー`)し「もういいわ。部屋に戻りなさい」

('A`)「……はい」


 ゆっくりと、薄暗い部屋を後にする。
 後ろからブツブツと彼女が何かを言っているのが聞こえたが、俺は耳を傾ける事もせずに歩き続けた。

 電気のついていない廊下を通って、俺は自分の寝床へと戻った。

141 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:48:06 ID:/bf6AHok0

('A`)「チッ……クソババァが……」ドサッ


 空き部屋から持ち出してきた敷布団を重ねているおかげで、このベッドだけは居心地が良かった。

 枕元のランプをつけ、ショルダーバッグから取り出したメモ用紙を眺める。


('A`)「…………6万レスか……」


 ここ一ヶ月の間で、俺が売り捌いたドラッグの金額が30万レス。その内の2割の6万レスが、俺の手元に入ってくる。

 ギャングに今月の売上金を渡すのは、明日。
つまり、今俺の手元には30万レスもの大金があるという事だ。

('A`)「…………」


 俺はもう14歳だ。年齢を偽れば、ボロアパートを借りる事も不可能ではない。

 30万レスもあれば、ここから逃げ出しても一ヶ月はやっていける。

142 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:48:39 ID:/bf6AHok0

('A`)「…………、何考えてんだか。見つかって殺されるのがオチだ」


 どうせ逃げ出すなら、もうちょっと早く逃げ出した方が良かったんだ。
俺が明日金を持ってこなかったら、ギャング達はすぐに俺を捜し出して、この脳天に大きな穴を空けるだろう。


('A`)「……ま、コツコツ貯めるっきゃねぇな……」


 ドラッグの密売は、まだ始めたばかりだ。
数ヶ月も続けていれば、逃げ出すに十分な金額は貯まるだろう。



 俺は頭の中で何度も金額の計算をしながら、その日は眠りについた。





.

143 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:49:34 ID:/bf6AHok0

(うA`)「……ふぁぁ……ねむ……」


 カーテンの隙間から漏れ出す日差しの眩しさに、俺は目覚し時計を使わずとも目を覚ました。


 ホールへやってくると、すでに何人かがテーブルで食事を取っていた。

 俺もトレーを抱え、カウンターに置かれている器を次々と並べていく。

 器に入っているのは、どれも質素な食品ばかり。
わがままを言えば、俺は朝昼晩全てピザでもいいというのに。

 だが、何も食えないよりはマシだ。
自分にそう言い聞かせるしかない。


ミセ*゚ー゚)リ「おはようドクオー!」ドンッ

(;'A`)そ「おっと!」カチャッ


 トレーを抱えてぼーっと立っていると、不意に後ろから押された。
トレーの上でゆらゆらと揺れる食器を上手いことなだめて、俺は振り返った。

144 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:50:17 ID:/bf6AHok0

(;'A`)「……ミセリ……あのな……」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、ごめんごめん! ぼーっとしてたからそんなにいっぱい持ってるとは思わなくて!」


 彼女の名前は、ミセリ。
年齢は俺の一歳下で、13歳だ。

 彼女もまた、俺と同じくこの施設に保護された一人だ。
どうやら、両親から虐待を受けていたらしく、そのまま厄介払いのようにここに捨てられたとか。


ミセ*゚ー゚)リ「今日はやけに早起きだね。どしたの?」

('A`)「早起きってレベルか?」

ミセ*゚ー゚)リ「いつもより1時間も早いよ。ドクオがそんなに早起きするのは珍しいって」

('A`)「……腹が減ったんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ「……なにそれ。笑えるー」カチャカチャ


 彼女は笑顔のままトレーの上にいくつもの食器を並べていた。
俺はその間に空いてる席へと腰を下ろした。


ミセ*゚ー゚)リ「せっかくだから一緒に食べよ?」スッ

('A`)「……そうだな」

ミセ*゚ー゚)リ「もー。朝から浮かない顔してどうしたの? こっちにまでうつっちゃうよ」

('A`)「この顔は元からだっての」

145 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:51:18 ID:/bf6AHok0

 パサパサのパンを口に放り込み、咀嚼する。それを色の薄いスープで胃の奥に流し込んだ。

 お世辞にも美味しいとは言えない。
もしも俺が本当に浮かない顔をしているのだとしたら、それはきっとこの朝食が原因だろう。


ミセ*゚ー゚)リ「ごはん美味しいなぁ」モグモグ


 俺の感想とは真逆に、ミセリはそう言う。
彼女と食事を共にする機会はあまり無いが、どんな食事でも美味しそうに食べていたのは印象深い。


ミセ*゚ー゚)リ「今日は土曜日だねぇ」

('A`)「……ああ、そうだな」

ミセ*゚ー゚)リ「何か予定はあるの?」

('A`)「いや、特にねーけど」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあさ、ちょっと街に出かけない? 私見たいお店があるんだ」

('A`)「……店って……。買う金あんのか?」

ミセ*゚ー゚)リ「無いよ?」

('A`)「…………」

146 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:52:00 ID:/bf6AHok0

 それもそのはずだ。

 当然ながら、ここの子供たちにお小遣いが与えられるような事はない。
むしろ子供たちに裏庭で育てた野菜やら果物やらをを持たせて、それを売りに行かせるくらいだ。
もちろん報酬などない。


('A`)「金ねーのに行ったってしょうがないだろ?」

ミセ*゚ー゚)リ「いいの、見たいだけだから。散々お店を冷やかして冷やかして…………それでね、いつかそれを堂々と買ってやるの!」

(;'A`)「なんだそりゃ」

ミセ*゚ー゚)リ「って事で、行こ? 決定ね!」

(;'A`)「……はぁ。わかったよ」






.

147 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:52:50 ID:/bf6AHok0



_________|  |.     |.:ll.:.::.:ミ;;;;;;ミ           |___________
               \.!    !i!|l.:.::./:::/─────┐.  |// i!   .|     |  |  |__
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄从    !.i.ll:.:/.:;/jesty's Shoes | . |/  |    |i   !  |  ||=||=
.              ミ.:.:::.ミ  |..i!lll:::::/──────┘  .|    |    l     |!.  |   ||=||=
-、_,-、_,-、_,-、_,-、_,-、_,-、_,!ヽ.:.彡|i.:iiii|.:::|___ / ̄ ̄ヽ.  !     |    l     i!.  |  ||=||=
二二二二二二二二二|  |  \ヽ.:i!|:::::!  \\| |口i口i口|  |    |    |    li,  |  ||=||=
二二二二二二二二二|  |  l !i.::ii;;l;::!    \| ||C|osed||  |ヽ、_,--、_,--、_,--、,!  !l_,||=
二二二二二二二二二|  |  |_,|i.::|||!|::!___| |口i口i口|  | ̄l ̄ ̄l ̄ ̄l ̄ ̄l ̄ ̄l ̄l ||=
二二二二二二二二二|  |   |i.::iii!i;::|       |口i口i口|  | ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄l ̄ ̄l ||=
二二二二二二二二二|_l_.  !i::iii.i.:.:| ___|_i_i_|_| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _..  |i.:iii!i;:::| _ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i
.....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i  |i.::iii!i;::|_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i
i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i||===========||_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i
.....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .||   |i.::iii!i;::|  ||.....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i
i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i|li   ___________  ,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i_ _ .....,i
´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   // ̄ ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄ ̄\\  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                  //     \\|| \      \\          。
          ____//.          \|| \\     [^ヽヽ__    |       _
        /      /   l ̄二 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l| ̄二 ̄ ̄ ̄ ̄ヽイ      ̄ ̄`ヘ ─   ̄
  . ⌒::.:ヽ |] ̄ ̄ ̄ /⌒\            ||          | γ ⌒ヽ    {i!
 .:.:.(.:.::(.:.:::=!     イ i!O i! il ゝ_____,l!______/  i li O il!l二二ソ \
 (.:.:::..(.:.::   ̄ ̄ ´ ゝ___ソ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ´ゝ___,ソ ̄ ̄   \





.

148 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:53:24 ID:/bf6AHok0

 数時間後、俺たちは街まで来ていた。

 街と言っても、それほど栄えているわけではない。
ただ俺たちが住んでいる辺りよりは、小洒落た店が多く並んでいた。



「おい走るなよ」  「次はあのお店ね!」

   ( 'A)       ミセ*゚ー゚)リ
   |":-っ        ノ|h-.|o
   j_-|         /wv| タタタッ
  ,、しJ       ;、, て^ヽJ.;
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 街の散策を始めてから、すでに1時間が経過しただろうか。
俺は十分すぎるほど見物したと思ったが、この様子だと彼女はまだ足りないらしい。

 まあ、たまにはこういう日も悪くないのだが。


ミセ*゚ー゚)リ「ふわぁ〜〜! 見てこれ!」

('A`)「どれだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「これこれ! このペンダント!」

(;'A`)「たっかそうだな……って、1万!?」

(;'A`)「ペンダント一つにそんな大金を払う奴がいるのかよ……」

ミセ*゚ー゚)リ「かわいいなぁ〜。私だったら買うね! 絶対!」

('A`)「……まあ、デザインは悪くねーな」

ミセ*゚ー゚)リ「すみませーん! これ付けてみてもいいですかー!?」

(;'A`)「おいおい」

149 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:54:25 ID:/bf6AHok0

 俺たちがどんなにみすぼらしい服装をしていても、どんなに貧乏そうに見えても、店員は頷くしかない。
それを見てミセリは大喜びだ。すぐに自分の首へそのペンダントをかけた。


ミセ*゚ー゚)リ「どう? どう?」

('A`)「……おお、似合ってるな」


 ミセリの首につるされた、天使を象った銀色のペンダント。

 服装だけがいまいちだが、彼女の髪型や髪色にはとても似合って見えた。
素直に、感心してしまった。


ミセ*゚ー゚)リ「えへへ、ほんと?」

('A`)「ああ。こりゃ買うべきだ」

ミセ*゚ー゚)リ「でもお金がないからお預けー」スッ

(;'A`)「ほんっと冷やかしだな」

150 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:55:08 ID:/bf6AHok0

 ミセリはペンダントをゆっくりと外すと、また元の場所へと戻した。

 1万レス。
俺が肌身離さず持っている現金の、わずか30分の1の金額だ。

 当然ながらそんな事を知るはずもない彼女は、少しだけ残念そうな顔でペンダントを見つめていた。


ミセ*゚ー゚)リ「……ささっ、次行こ!」タタッ

(;'A`)「だから走るなっての……」


 カランカラン、とドアのチャイムを鳴らして、彼女はすぐに店内から去っていく。
窓ガラスから見えていた彼女の横顔も、すぐに見えなくなった。


('A`)「…………」



 俺は馬鹿だ。

 ああ、間違いなく大馬鹿だ。




.

151 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:56:01 ID:/bf6AHok0


  |i l::| |VNヾ` ´/                   |::; l:}l:::::::::::/   } :::::::::::::;
.    ゝ ',! |:::::::|   ',   r                      ,:/ j' |::::::::/)  } !::::::::::: ,'
.       ヽVト、|    ヽ                    /    !::: / _/ j:::::::::: ,'
           { l                          ;::::/Y´  /:::::::::: ,′
.           ヽ ',    ___,. -ニ=- _                ,'/ __,/:::::::::::::::/ー- _
.             ',   {ゝ-’:::::::;: ---ゝ                  ,:7::::::::::::;:>≦     }
              ‘,   )-=¬                   /:{  <         ,'
               ’,    ,.::=¬               ,. -=ニ二           _,. {
                 ’,                 /            ,. -=    l
.                ’,                /                         |
                    ’,            /                _,.  --|
                ’,             /            ,. =≦≧=- _  j


            「…………すいません」






 ただ、馬鹿になるのも悪くない気分だ。





     .、
     | '.
      '. '.  _ ,.、
      :,.;^' ^ ".
     r'|      ',
     'h'     j
      “';,    ,;
        |    ';

   「これ、ください」







.

152 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:56:36 ID:/bf6AHok0

ミセ*゚ー゚)リ「ふぅー、楽しかったね!」

('A`)「ああ」


 街から施設への帰り道。
もう少し歩けば、施設に到着するだろう。


ミセ*゚ー゚)リ「また行きたいな〜」


 バッグの中に隠した、銀色のペンダント。
俺はそれをミセリにいつ渡そうか、ひたすら悩んでいた。


(;'A`)「…………」



 駄目だ。


 いざ渡すと思うと、なぜだか緊張してしまう。

 別に俺は、ミセリに特別な感情を抱いているわけでもないのに。


(;'A`)「…………」

153 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:57:23 ID:/bf6AHok0

 何故だろうか。

 とても恥ずかしい。


 やっぱりやめておくべきだったのではないか。


(;'A`)「…………」

ミセ*゚ー゚)リ「どうかした?」

(;'A`)そ「へっ!? い、いやいや!!」

ミセ*゚ー゚)リ「ついたよ?」

(;'A`)「えっ? あ、ああ…………」


 気づけば、自分たちは施設の玄関前まで来ていた。


ミセ*゚ー゚)リ「ただいまー」ガチャッ

('A`)「…………」スタスタ


 仕方がない。
何も今日でなくとも、渡す機会ならいくらでもある。
勇気が湧いてきた頃に、ちゃんとした形で渡そう。
そう心に誓った。

154 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:58:14 ID:/bf6AHok0

J( 'ー`)し「あら、やっと帰ってきたの?」


 玄関の扉を開けてすぐの場所に、先生が立っていた。
彼女は、いつもはあまり見せない笑顔を浮かべて、こちらに歩み寄ってくる。


ミセ*゚ー゚)リ「ただいま、先生」

J( 'ー`)し「ミセリ、今日は大事な話があるの。ちょっと来てくれる?」

ミセ*゚ー゚)リ「へ? うん、わかりました」

('A`)「……?」


 大事な話?

 出かけていた事と何か関係があるのだろうか。


ミセ*゚ー゚)リ「付き合ってくれてありがとね、ドクオ! またお昼ご飯の時に!」

('A`)「あ、ああ……」


 まあ、後で聞けばいい話だ。
俺はペンダントを渡す練習でもしていよう。

 そんな事を考えながら、俺は軋む床を歩きながらゆっくりと部屋へ戻った。





.

155 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:58:54 ID:/bf6AHok0


 ――それから長い時間が過ぎても、その日のうちに、再び彼女と会うことはなかった。



 昼食時、俺は食事が終わってもホールで待っていたが、一向に現れず。

 夕食時、彼女の分の食事まで用意して待っていても、現れず。


('A`)「…………」


 やがて他の子供たち全員が食事を終えてから数時間が経った頃、俺はようやく諦めて、トレーを元の場所へと戻したのだった。


('A`)「あいつが飯も食わないなんてな……」


 余程、深刻な話だったのだろうか。
先生の表情からは、そうは思えなかったのだが。


('A`)「……まあいいや」


 仕方なしに、扉を開けて廊下へ出る。

 相変わらず暗い廊下だ。
金に困っていないのなら、もう少し設備を整えてほしいものだ。そう思った。

156 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 15:59:34 ID:/bf6AHok0

 不意に、横の扉が開く音がする。
この部屋は、先生の寝室だ。
中から出てきたのは、案の定気味の悪い笑顔を浮かべた女だった。


J( 'ー`)し「……あら」


 目が合う。
俺は視線を逸らさずに彼女の瞳をまっすぐ見つめて、こう聞いた。


('A`)「……ミセリはどうしたんですか」


 ミセリ、という名前を聞いて、彼女は顔をそらして口角を引きつらせていた。


J( 'ー`)し「……ああ、あの子なら引き取られたわよ」

(;'A`)「――ッ!?」


 彼女の言葉を聞いて、思わず足がすくみそうになった。



 引き取られた。

 それはつまり、大金で売り飛ばされたという事だ。

157 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:00:19 ID:/bf6AHok0

(;'A`)「なっ……」

J( 'ー`)し「今日ね、いい方が来てくれたのよ。ミセリくらいの歳の娘なら、男手一人でも世話ができるって……」

(;'A`)「…………」


 世話ができる?

 冗談じゃない。
世話をさせられるのはミセリの方だ。
だからあえてその年齢の子供を選んだんだ。

 この女もそれをわかっている。
わかっていて、それでも大金に換える。

 もう何回――、あと何回この女はそれを繰り返すのだろうか。


(;'A`)「……じゃあ、もう連れてかれたんですか……」

J( 'ー`)し「ええ。今頃あの方のお家で、温かいお風呂にでも浸かってゆっくりしているでしょうね」

(;'A`)「ッ…………」



 この女は、救いようがない屑だ。

 ただ、俺は腹を立てるよりも、悲しみに心をまるごと押し潰されてしまった。

158 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:01:03 ID:/bf6AHok0

( A )「…………」

J( 'ー`)し「……おやすみなさい、ドクオ」


 俺が口を閉ざしていると、彼女はそう言ってホールの方へと歩みを進めた。

 やがて扉が閉まる音が、この薄暗い廊下に響き渡った。


('A`)「…………」


 どうする事もできない。

 何を言ったって、あの女はミセリの居所を教えるはずもない。
手紙だって出させてくれるはずがない。

 ――もっとも、ミセリが手紙を受け取れるような状況に置かれるかどうかもわからない。


('A`)「…………」


 今までも、この施設から引き取られていった子供たちとは、二度と会うことがなかった。

 もう、忘れるしかないのか。


 悔しさを圧し殺して、ゆっくりと歩きだした。



.

159 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:01:38 ID:/bf6AHok0


 暗い廊下を抜けて、自分の部屋へと到着する。
同時に、ある事を思い出した。

 今日は、ギャング達に金を渡さなければならないのだった。


('A`)「……行かねーと殺されちまうな」


 部屋へ入り、ベルトで挟んでおいた封筒が確かにある事を確認した。
そしてベッドの下に隠しておいたドラッグを取り出して、ショルダーバッグへ詰め込んだ。

 部屋の窓をゆっくりと開けて、周囲を確認する。

 外には誰もいない。俺はゆっくりと足を地面に下ろした。


('A`)「……行くか……」


 枯れ葉を踏み越えながら、ゆっくりと庭を抜け出した。






.

160 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:02:24 ID:/bf6AHok0

 しばらく歩くと、人通りの多い場所へ出た。
時計を確認すると、時刻はまだ22時を10分過ぎたばかりだ。この時間帯なら、バーやパブへ出入りする人達が多い。

 俺はその人混みに紛れるようにして、決して走らず、ゆっくりと歩みを進めた。

 客寄せの声。クラブから漏れ出す音楽。酔っぱらいの叫び声。道端の吸い殻。割れたビール瓶。
全てがこの街を小汚く彩っていた。



              シュボッ                    /ィヘ/
                       ,'              / .)/
.  _______               (:'         /イ)/
./∨========.∧         ',  ))       ィヾヽ/
マ:::::∨.\/\/\∧        }  /(         弋,イ
.マ:::::∨/\/\/ ∧      ,' ノし': :ヽ
..マ::::::∨__/\/\ ∧    ((,イ: :  :: :V)           /¨⌒`ヽ
 マ::::::∨ \/\/\∧    、ゝ: :   : :(ノ}       Y′    |
. マ:::::::∨/\/\/ ∧    ヽ: :: :  : :: :/        /      /
.  マ:::::::∨__/.\/\ .∧    ゝ;:; :;从;ノ      ./       /
.  マ:::::::∨ .\/\/ヽ∧  ┌───────i/ヽ_      ./
   .マ:::::::∨./\/====∧.二二ニニニニニニニニニニニ|   ー-─ /
.   マ:::::::∨==ヽ:::::::::::| |\/\/\/\/|三|      /
    ` ̄ ̄    )::::::::::| |/\/\/\/\|三|.     /
    ソ´⌒ ̄ ̄ ̄へ──'ニt‐‐ ./\/\/|三|     .|
    /       〃     l ̄ヽ ヽ/\/\ ̄リ     .|
    |         ゝ    .|  |  ) /\/\|     |



 バッグから取り出したタバコに火をつけ、煙を一気に吸い込む。
肺に溜まった酸素とともに吐き出した煙は、まるで俺の気持ちのようにゆらゆらと揺れながら、やがてネオンの光の中に薄く溶けていった。

161 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:03:38 ID:/bf6AHok0

 明るい看板が並ぶ通りを逸れて、月明かりのみが照らす薄暗い路地へと入る。
ゴミ袋や空き瓶を避けながら歩みを進めると、やがてポカンと小さく開けた空き地へと出た。

 そこに佇む、5人の男たち。
彼らが、この辺りでドラッグを捌くギャングたちだ。


('A`)「……どうも」


 軽く頭を下げて、そう挨拶する。
すると一人の男が手に持っていたタバコの火を消して、こちらへゆっくりと歩み寄ってきた。


(,,゚Д゚)「時間通りだな」

('A`)「…………」


 このギャングのリーダであるギコという名の男は、左手にした時計を見てそう言った。


 確認せずとも、恐らく22時半頃だろう。
 俺はいつもこの位の時間に、この場所にやってきていた。

162 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:04:43 ID:/bf6AHok0

(,,゚Д゚)「飯は食ったか?」

('A`)「……ああ、はい。食べました」

(,,゚Д゚)「そうか。そりゃいいな。飯を食うことは大切だ。俺たちはまだ何も食ってないんだ」

('A`)「……なにか買ってきましょうか?」

(,,゚Д゚)「いや、その必要はない。お前は施設で出された飯を食っただけのこと。俺たちは自分で飯を食うための金を稼がなきゃなんねぇ。それだけの違いだ」

('A`)「…………」


 嫌味な言い方だ。
ただ別に、それで腹を立てるようなことは無い。この言い方は、彼の性格によるものなのだ。
いちいち彼の発言に腹を立ててストレスを貯めるような事をしても、無意味だとわかっていた。


(,,゚Д゚)「お前から金を受け取らないと、俺たちは今日の晩飯にありつけないんだ」


 彼はそう言うが、決してそんなはずはない。あくまでそういう言い回しをしているだけだ。

 俺はバッグの中から残りのドラッグと封筒を取り出して、彼に渡した。


(,,゚Д゚)「どれ……」
  っロ゛

163 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:05:32 ID:/bf6AHok0

 ギコはドラッグの数を数え、次に封筒の中の金を取り出して、舐めるようにその枚数を数えた。


(,,゚Д゚)「……29万しかないぞ」

('A`)「――あっ……」


 ミセリがいなくなった事ばかり考えていたせいで、忘れていた。
彼女へのプレゼントを買ったために、1万レス少ないのだ。


('A`)「……すいません、どうしても使わなくてはならなくて……1万だけ借りました」

(,,゚Д゚)「……ほぉ」

('A`)「その分は……俺の分の2割から引いてもらえればいいので……」

(,,゚Д゚)「……あのな」


 ギコは一歩踏み出して、俺の肩に手を置いた。


(,,゚Д゚)「お前は、俺たちが貸したドラッグの売上から金を使った。つまり、俺たちの金に手を付けたってことだ。わかるか?」

('A`)「……はい」

(,,゚Д゚)「人の金を盗むのは良くないよな」

('A`)「…………はい」

164 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:06:38 ID:/bf6AHok0

 わかっていた。
してはいけない事だと。

 ただ、俺の取り分から引けばいいものだと勝手に考えていた。


(,,゚Д゚)「……わかっているならいいんだ。今回は許してやろう」

('A`)「……えっ」


 ギコはそう言って、まだ金を数え始めた。


(,,゚Д゚)「……これがお前の取り分だ」
   っロ スッ

('A`)「…………」
  っロ


 ギコから受け取った金をじっと見つめる。


 俺の取り分は6万。そこから1万だけ引いた5万が渡されるのだと思っていた。



 ――だが俺の手元にあるのは、たったの2枚きりだった。

165 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:07:16 ID:/bf6AHok0

(;'A`)「…………」

(,,゚Д゚)「罰として、今回の取り分は1割だ」


 彼はそう言った。

 俺は、何も言うことができない。


 彼の言う事はもっともだ。罰を与えられて当然で、2万くれるだけでもありがたい事なのだ。



 ただ、俺は気になった。

 ギコを取り囲む周りの4人が、ニヤけた顔で俺を見つめているのが。


(;'A`)「…………」


 もともと彼らは、1割しか渡さないつもりだったのではないか。


(,,゚Д゚)「まあ来月からは2割にしてやる。……さて、続けるか? 売上次第では3割にしてやってもいい」

('A`)「…………」

166 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:08:16 ID:/bf6AHok0

 冗談じゃない。
どう頑張ったって、30万レス程度しか売ることができないんだ。

 もしそのうちの1割しか貰えなかったら、俺はあと何ヶ月こんな事を続けたらいいのだ。

 いつまで経っても、あの施設を出ることができない。
金をためて逃げ出す前に、法的に働ける年齢になってしまう。


 俺は一刻も早く、あそこから逃げ出したいのだ。


('A`)「…………」


 ギコの持つ、27万。
それがあれば、一ヶ月は一人でもやっていける。


('A`)「続けます」


 俺がそう言うと、ギコは喜んでバッグの中を漁り始めた。

 周りの男たちもそう聞いて安心したのか、俺から興味をなくしたように下がっていって、タバコを吸い始めた。

167 名前: ◆PizzaMan.c[] 投稿日:2016/05/02(月) 16:08:54 ID:/bf6AHok0


 俺はその隙を見逃さなかった。





   (;'A) バシッ
  /":-っ゛
  j_-/
 ,し^、ゞ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 すかさずギコの上着のポケットから封筒を掴み取り、そのまま全力で逃げ出したのだ。



(;,゚Д゚)「あっ、おいテメェ!!」



 後ろを振り返る暇はない。

 ただ、複数の男たちが俺を追いかけて来ていることは、大きな足音と叫び声でわかった。



(;'A`)「ハァッ……ハァッ……!」ダダッ



 人混みの中を縫うようにして、走り続ける。

 時折ぶつかった人が驚いて声を上げる。
それでも構わず走り続ける。

inserted by FC2 system