( ・∀・)青い夏のようです

1 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:42:24 ID:4Lxc20KI0







いよいよもって春は過ぎた。








.

2 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:45:03 ID:4Lxc20KI0

桜の花はとっとと散った。

草木は茂り、木々の新緑が生える。

日差しは更に勢いを増して熱線を照り付ける。その暑さと比例するように、空の青さは更に深みを増す。

その色が濃くなればなるほど、俺たちのリミットは近づいてくるのだ。

時間を噛みしめるように、白と黒の的から矢を抜いては小脇に抱える。

そして早足で看的場(かんてきじょう)の中に戻り、適当に放り投げられている雑巾を拾い上げて矢尻(やじり)を念入りに拭く。




※看的場……的中を○×で表すスコアボード係がこもる場所。

3 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:46:06 ID:4Lxc20KI0

( ・∀・)「いよォ」

( ^Д^)「いよォ」

いつの間にかやってきたプギャーと軽く挨拶を交わして視線を矢尻に戻す。

最近買ったばかりの矢だから、拭く手にも力が入る。ギラリと擦れた金属が日を跳ね返して鈍く光った。

( ^Д^)「熱入ってんなァ」

( ・∀・)「へっ、そろそろだからよォ」

( ^Д^)「は?」

( ・∀・)「は?」

( ^Д^)「ちげーよちげーよ、気温の話だッ」

( ・∀・)「ああ」

( ^Д^)「蒸すなァ、流石になァ」

( ・∀・)「こんな時期になっちまったんだなァ」

4 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:48:36 ID:4Lxc20KI0

拭き上げた矢を差し込む日にかざし、拭き残しが無いかジッと見つめる。
うん、上出来だ。矢羽も綺麗に揃って気分がいい。

射場に戻るため看的場を抜け、矢取り道を歩く。そんな俺の後ろにプギャーが着いて歩く。

( ^Д^)「それにしてもビックリしたァ」

( ・∀・)「何が?」

( ^Д^)「休養日に射場空いてっからよォ、覗いたらモララー居ンだもん」

( ^Д^)「いつもやってンの?」

( ・∀・)「俺の一日の大半は射場だぜッ」

(;^Д^)「相変わらず尊敬だわァ」




※矢取り道……的に刺さった矢を取るために矢道(矢が飛ぶ場所)の脇に設けれている道

※射場……弓を引くところ。

5 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:49:26 ID:4Lxc20KI0

射場の戸を開ける。その瞬間、丁度射場へ風が吹き込んできた。
草の香りが身体を包み込み、なんだか爽やかな気分になる。

( ^Д^)「草の匂いって青春ぽくねッ?」

( ・∀・)「あー、何となく分かるヮ」

( ^Д^)「なんつーかさァ……堪らない匂いだよなァ」

( ・∀・)「やっぱ青春だから?」

( ^Д^)「は?」

( ・∀・)「『あおい』『はる』と書いて青春ジャン?」

( ・∀・)「青い葉の茂るような春の新鮮な気持ちなんだヨ、きっとサ」

( ^Д^)「モララーは時々詩人だなァ」

6 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:50:36 ID:4Lxc20KI0

ピン、ピン。

弦の張り具合を確かめる。最近新しいのに代えたばかりなのだが、つい癖でやってしまう。

フレミングの左手の法則で弦と弓の間隔もついでに見ておく。親指と人差し指の先を見て、よしオッケー。

フレミングは偉大だ。
法則だけでは無く弓のチェックもさせてくれる。

( ^Д^)「オレも引くかなァー」

( ・∀・)「おうッ、せっかく来たなら引いていけよ」

( ^Д^)「モララーもボッチじゃ寂しいよなァ」

( ・∀・)「もう慣れてるヨ」

そう言ってノソノソと自分のロッカーへ向かったプギャーの姿をチラと見てから、視線を正面へ向けた。

7 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:53:05 ID:4Lxc20KI0



28メートル先。


36センチの的。




見つめると、いつだって背筋がピンっと気持ち伸びる。

その気持ちのまま、スゥーっと伸ばしてピャッと放つ。そうすればいつだって矢は的に向かって飛んでいった。
なのにどうしても矢は的から逃げるようにして安土へと刺さっていく。

( ^Д^)「相変わらず的に嫌われてんなァ」

( ・∀・)「俺の矢は面食いなんだヨ」

( ^Д^)「持ち主に似るんだな」

( ・∀・)「ウルセー」



※安土……斜めに盛られている土。そこに刺すようにして的を立てる。

8 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:54:06 ID:4Lxc20KI0

弓掛けをつけ終え、弓と矢を携えたプギャーが本座に立つ。

( ^Д^)「そういえばお前ツンちゃんとどーなの」

( ・∀・)「黙って引け」

弓は弦を外側に向けた状態で、末弭(弓の上部)を下へ向け、本弭(弓の下部)が上に向くようにする。
そして矢と弓を持った両拳を腰骨の位置に。

これが執弓(とりゆみ)の姿勢、基本の『キ』だ。

2人とも1年の最初の頃はこの姿勢がキマらなくて、顧問にダメ出しされまくったもんで延々と練習した。
だって分かんねえもん、トリユミなんてさ。

ふぅと息を吐き出してからプギャーが左足を一歩擦りだす。

起立。

右足をそれと揃える。

始め。


.

9 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:55:19 ID:4Lxc20KI0

左、右、左の順ですり足を進め、3歩目の左足で射位を跨ぎ、身体より半歩ほど前に出す。
その左足を軸に、正面を向けている身体を右向け右。

身体の中心、つまり射位の位置に残している右足を左と同程度開く。要するに肩幅程度に両足を開いた状態である。

一発で決まればカッコいい事この上ないのだが、いつも何だか上手く揃わないからちょこちょこっと直してしまう。

これでよく怒られた。みっともないって。
みっともないけど、心地が悪いんだから仕方ねえじゃん。

と、2人で愚痴りながら的を張っていたのを思い出す。

その態勢を維持したまま、上半身を曲げて手に持った矢の4本のうち2本を床に置く。

姿勢を戻す。

10 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:56:51 ID:4Lxc20KI0

一息ふうと吐く。

弓を返して弦を内側に向けて持ち上げる。

そして弓掛をつけて矢を持っている右手の甲を矢摺籐の位置につけ、矢筈からスーッと真っ直ぐ矢尻までを確認する。

矢が曲がってないかとか。
弦に引っかける矢筈が壊れてないかとか。

まぁ事前チェックが動作の中に入ってるのだ。

問題なしなので、手を返し、弓を握る側の人差し指と中指に1本を挟む。
もう1本は右手の小指で握ったままである。慣れるまでは意外とキツくて、小指の筋肉が変に傷んだ事を思い出す。

弓側に挟んだ矢の真ん中を持って少し送り、矢筈を持って全て送り、2回に分けて掛ける事の出来る位置まで送るのだ。
そして弦の矢筈を中仕掛という、麻を巻いて少し太くなっている部分に掛ける。

これが取懸け。

そこまで終えたら本弭を左ひざの上に引っかけて置くような感じで弓を下げる。右手の拳を腰骨の位置に戻して、的の方を見る。

11 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:58:02 ID:4Lxc20KI0

物見。

顔を戻す。

弓掛の親指部分を弦にかけ、人差し指と親指の付け根の間に矢筈が来るように構える。
そして弦枕(弓掛の親指付け根部分にある、弦を引っかける凹み)にかかる様に気持ち手前に捻る。

それを終えると次は弓の方を握る『手の内』を整える。
力任せに握り込むだけでは弓は回らないので矢は真っ直ぐ飛ばない。手の中で支点を作る感じだ。

弓を持つ手の内を作り、矢と弓と両腕で円を作るような状態に。

顔を的の方に向ける。

この一瞬見える横顔は、誰だってカッコいい。

例えば、クラスで冴えない顔した男だって、地味な顔した女子だって、袴を着て真剣な顔して見据える姿は皆、イケてる。

12 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:59:01 ID:4Lxc20KI0


そしてスーッと両腕を持ち上げる。打ち起こし。


打ち起こしは動作もそうだが、何かを捧げるようなそんな慎重さが必要だと思う。
ここで敬意を欠くと言うか、投げてしまうと、一瞬で崩れる気がしている。

正面打ち起こしから弓を3分の1だけ引く『大三』。そこで静止して一息吐き出してから、全てを引分ける。

そして頬の位置まで引き下ろし、そこから的に向かって狙いと力の均衡を図る『会』を5秒ほど保ってから『離れ』。

( ^Д^)「あっ」

( ・∀・)「あーあ」

プギャーはその的に当てるために最も重要な動作である『会』が保てない、『早気』だ。

( -∀・)「相変わらずの早漏具合だ」

(;^Д^)「ウルセー」

13 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 20:59:42 ID:4Lxc20KI0

( ・∀・)「ペニサス先輩もガッカリするゾ」

( ^Д^)「……うん、そうナ」

(;・∀・)「……え?」

( ^Д^)「だよなーそうだよナー」

(;・∀・)「え、ちょい待ち、告ったん? 告っちゃってヤッちゃったン?」

( ^Д^)「黙って引け」

(;・∀・)「うわーすっげー、エッロ」

俺たちは、2人ともずっと、ず〜っと調子が悪い。

俺は的から逃げられる。彼は会から逃げられる。

14 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:00:31 ID:4Lxc20KI0





当然、的中は落ちている。

もうそろそろ夏の総体は迫っている。

ちくしょう、過ぎる時間が憎いゼ。






.

15 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:01:32 ID:4Lxc20KI0

………
……


( ^Д^)「おっ?」

( ・∀・)「あっ?」

今思い返せば、俺たちの出会いは必然だったのかもしれないと思える。

なんだかキモイな。
言い直す。

俺たちは2人ともビックリするほど半端モンで、似た者同士で仲良く傷を舐めあって過ごしてきた。

( -∀・)

俺は小・中とサッカーをやってきたけど、中学の時にクラブチーム上りの奴との技量差に絶望感を感じて辞めた。

今思うと、これも言い訳の一つだったと思う。

なんでもそこそこ上手く出来てきて、その中でも自信を持てそうだったサッカーで上には上がいるというモノを見せつけられた。
俺は、逃げるという選択しか取れなかった。そういう事だったんだ。

16 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:03:15 ID:4Lxc20KI0

( ^Д^)

プギャーは特にやってきたことは無かったけど、俺と一緒でそこそこ出来てしまうヤツで、本気を出す意味が分からなかったらしい。

彼の場合は努力という必死さから逃げてきた人間だった。

そんな才能の壁から逃げた俺と努力から逃げた彼が、何故か知らないがこの弓道部で出会った。
(決めた理由も何か文化部っぽいし、運動部っぽいしで、中途半端感があったからというまぁつまらない理由だった)



( ´∀`)「モナモナ」



俺たちはモナー先輩(なんかいっつもモナモナ言っていた。本名が思い出せない)に技術を教えこまれた。

後に聞いた話だと勧誘の時に山ほどいる新入生たちに目もくれず、俺たち2人をピンポイントで引っ張ってきたらしい。

先輩の人の良さと、熱心さもあって俺たちは先輩に懐いた。
そしてその先輩に引っ張られるように俺たちは練習に真面目に取り組むようになった。

17 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:04:23 ID:4Lxc20KI0

( ´∀`)「モナモナ」

モナー先輩はとにかく練習熱心な人だった。

誰よりも朝早く朝の練習に来て、昼休みも練習して、夜も一番遅くまで残って練習していた。

最初、俺たちはそんなモナー先輩を理解できなかった。

( -∀・)「そんなに練習したって限界なんて決まってる」

( ^Д^)「そんなにマジになっても得られるものなんて無い」

こんな、今思えばとんでもない事を当時、入部したての俺たちはモナー先輩に言っていた。

普通の先輩相手だったらボッコボコにされるか、呆れられるか、怒って口も聞いてくれなくなるだろう。

少なくとも俺ならそうしていた。
こんな事をいう俺を、ためらわずにぶん殴っていたと思う。

しかしモナー先輩は相変わらずの微笑みを崩さず、モナモナ言いつつこう答えてくれた。


( ´∀`)「限界なんて目に見えないモノを信頼するより、自分でも分かる練習の数をこなした方が信頼できるンだよね」

( ´∀`)「真剣にやってみれば成功した時の味わいはより大きくなるヨ」

18 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:06:12 ID:4Lxc20KI0

俺たちがふぅーん……と分かったような、分からないような相槌を打ったのをモナー先輩は見て、やっぱり

( ´∀`)「モナモナ」

と微笑みながら俺たちの事を見てくれた。
そんな先輩と練習をこなしていくうちに言っている意味が理解できるようになってきた俺たち2人は、先輩を尊敬するようになっていった。

( ・∀・)「やべえよなァ」

( ^Д^)「すげえよなァ」

先輩はその練習量と比例するように、ぐんぐん的中を伸ばしていた。
2年の夏、県の弓道会が主催する大会では当然のように12本全中で決勝へ。

決勝ではインターハイ出場経験のある大学生と20本にも及ぶ射詰
(同中の際、各競技者が一本ずつ矢を放ち、外したものから抜けていく方式)

を制し、見事優勝を勝ち取った。

秋の新人戦でも個人で入賞を果たし、冬の地方合同練成会でも優秀な成績を残していた。


地元の弓道会では総体のみならず、国体での好成績を期待されるような、偉大な先輩がモナー先輩だった。

19 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:06:51 ID:4Lxc20KI0

また風が強く吹く。
青々とした草の香りがフワッと吹き込む。

( ・∀・)「なぁ、何でなんだろーな」

( ^Д^)「何だよいきなり」

( ・∀・)「ん、いやァさ、モナー先輩の事思い出してサ」

( ^Д^)「あぁ」

的の周りに刺さった矢をプギャーとそれぞれ抜き取っていく。
2人とも的に刺さった本数を数えた方が早いくらいだ。

( ^Д^)「そういやこの時期だったよなァ」

( ・∀・)「うん」

20 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:08:25 ID:4Lxc20KI0

1年前。

矢道の脇に植えられた桜の木に緑の葉が茂る頃。
丁度今みたいな風が吹く頃。

モナー先輩は亡くなった。

今の俺たちと同じような時期。

冬の頃にスランプに陥った先輩は、普段の狂ったような練習量をさらに増やして必死にもがいていた。

顧問やコーチに止められても引いては外し、引いては外しを繰り返す先輩。
日に日に疲弊していくのが俺たちにも分かるほどに、先輩は自分を追い詰めていた。

そんな先輩を止めようと俺が心に決めた次の日、自宅のベランダから先輩は落ちて死んだ。

事故死という事だったらしい。

かけられていた期待や自分自身に対するストレスで自ら命を絶ったのか、本当に疲労でふらりといったのか。
何が彼を追い詰めていたのか、もう知る由も無い。

ズッと、安土に刺さった最後の矢を抜いた。

土日の練習を終えた後、神経質に安土を整えていた先輩の姿をちょっとだけ思い出した。

21 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:09:14 ID:4Lxc20KI0

………
……



( ・∀・)「ちゃんと弦外したン?」

( ^Д^)「もちろん、弓掛けもしまったゼ」

( ・∀・)「次出しっぱなだとマジでブチョーに叱られる」

ガチャリと、鍵が閉まる。
あの後何となく引く気になれなかった俺たちは、後片付けをサッサと済ませて帰路に着くことにした。

( ^Д^)「あのさーいよいよ明日ジャン」

( ・∀・)「うん、明日だネ」

22 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:10:13 ID:4Lxc20KI0



明日、俺たちにとって最後の総体のメンバーを選抜する選考会が開かれる。
西部のガンマンに明日は無かったように、俺たちにも的中は、無い。




( ^Д^)「なんかさー俺たちに春って無いよな」

( ・∀・)「何がヨ」

( ^Д^)「春ってもっと、幸せなもんだろ」

( ・∀・)「それは偏見だと思うけどナァ」

( ^Д^)「そんな事ねーって……1年の夏、覚えてる?」

( ・∀・)「あたりめー」

23 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:10:57 ID:4Lxc20KI0

1年の夏。あの時俺たちは間違いなくブレイクしていた。

引き始めた他の奴らと比べて俺たちはよく中り、先輩たちに紛れても見劣りしない的中を叩きだし、一躍新星現るといった具合だった。

( ^Д^)「あんときゃ凄かったゼ」

( -∀・)「お前と最後まで戦った合宿最後の対抗戦はベストバウトだった」

毎年夏休みに、近所のデカい弓道場で合宿をするのがウチの恒例行事で、最終日には部員全員でのトーナメントを行う。
大体の場合、1年生はこの時期位に引き始めるから、大体はさっさと消えていく。



でも、俺たちは勝った。そして残った。



あれ以上の時期なんてあったかなという位、俺たちの放つ矢は的に吸い込まれるように中る。
張り詰められた的紙が矢によって突き破られるあの瞬間の、パンと小気味良い音が的から途絶える事が無かった。

始めたばかりの俺にとってはあの音があまりに堪らなくて、ニヤニヤが止まらなかった。

24 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:11:48 ID:4Lxc20KI0

プギャーも同じ気分だったようで、2人そろってニヤニヤしていたらモナー先輩に

( ´∀`)「モナモナ」

と言われながらローキックを喰らった。
非常に重いそのキックが足先から脳天まで響いたのが未だに忘れられない。

結局最後まで残ったのは俺で、決勝戦でモナー先輩にボッコボコにされて負けた。

そこから俺たちの的中は右肩下がりで下がり続けて、去年の春位にはどん底まで落ちた。

そして今に至る。

( ・∀・)「……今思うとサ」

( ^Д^)「おう」

( ・∀・)「全力で生きる事って辛い事なんだって思うんだよネ」

( ^Д^)「そりゃあ、『全』ての『力』を出して生きる訳だから」

25 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:12:43 ID:4Lxc20KI0

( -∀・)「でもフツーの人って少なからず半端にする事もあるはずジャン」

( ^Д^)「うん」

( -∀・)「モナー先輩は多分それを知らなかったんだろーナって」

( ^Д^)「それが先輩の生き方だったんだヨ」

( ・∀・)「うん、だからやっぱすげーと思うワケ」

( ・∀・)「でも俺たちはちょっとだけ得してるよナ」

( ^Д^)「何が? 生きてる事?」

( ・∀・)「『半端』に生きれる事」

( ^Д^)「あぁ」

26 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:13:33 ID:4Lxc20KI0

( -∀・)「モナー先輩は半端にする事が出来なかったんだヨ」

( -∀-)「先輩にとって『半端』である事は罪だったんだ」

( ^Д^)「……そんな先輩から見た俺たちって何だったんだろうな」

( ・∀・)「さあね」

( ・∀・)「でも、少なくとも俺にとっては間違いなく『偉大な人』だったよ」

( -∀-)「『半端モノ』から見たら、眩しくて眩しくて、とんでもなかったよ」

( ^Д^)「……そうな」

27 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:14:17 ID:4Lxc20KI0

( ^Д^)「……なぁ、やっぱ俺たちにとってさ、春って無いんだよ」

( ・∀・)「はァ?」

( ^Д^)「俺たちもモナー先輩みたいに冬を耐え忍んで咲こうと思って」

( ^Д^)「そんで朝から晩まで頑張った訳ジャン」

( -∀・)「プギャーは時々詩人だなァ」

(;^Д^)「イヤイヤ、まじめーな話」

( -∀・)「ハイハイ」

( ^Д^)「俺たちは他の要素を捨て去って、花を咲かせたくて頑張った」

28 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:14:56 ID:4Lxc20KI0

( ^Д^)「でも現実はドーヨ、ドクオにも負けて、ジョルジュにも、そしてしまいには一番トロかったブーンにまで負けたんだゼ」

( ^Д^)「俺たちは半端に生きる事で楽チンな気持ちでいられたけど、結局花は咲かなかったんだ」

足元にあった石を蹴飛ばすプギャーの横顔にスッと影が落ちてるように見える。
すぐにそれは差し込む夕焼けの日差しの陰だって気が付いたが、なんだか普段感じる事の無い哀愁が彼から見えた気がして。

なんだか自分まで悲しくなった。

( ・∀・)「ウツ入ってるとこ申し訳ないけど、1つだけ言っていい?」

(;^Д^)「うっせ、ウツなんて入ってねーワ」

( ・∀・)「春ってどんな季節?」

( ^Д^)「は?」

29 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:15:49 ID:4Lxc20KI0

( ・∀・)「いいから、答えてくれヨ」

プギャーが眉間に皺寄せながらこちらの顔を見つめる。
そういう時の彼はとても困惑している時だ。よく分かる。

(;^Д^)「あったかくて、丁度良くて、一番キャピキャピした季節」

( -∀・)「君がそう言うならそう言う季節なんだろ」

(;^Д^)「ええ……」

( ・∀・)「でもさ、春が来る前に何があると思う?」

( ^Д^)「知るかヨ」

( -∀・)「冬が来るんだよ、その前には秋がある。知らなかった?」

( ^Д^)「おー、そいつは知らなかった、初耳だ」

30 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:16:28 ID:4Lxc20KI0

( -∀-)「怒んなよ、真面目な話だ」

( ^Д^)「ああそうだな、春の前に秋だって冬だってくるなんて事は偉大な発見だ」

( -∀・)「季節は周るけどな、『俺たち』の春は過ぎたんだ」

( ^Д^)「それは知ってる」

( ・∀・)「的中も見事に散った」

( ^Д^)「悲しい話だ」

( ・∀・)「しかし、しかしだ。春が来なきゃ夏も来ねえ」

( ^Д^)「あぁ」

( ・∀・)「だから俺たちは今『夏』を生きてんだ」

( ^Д^)「……はぁ」

31 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:17:14 ID:4Lxc20KI0

( ・∀・)「俺たちの最初は『半端』だった」

( -∀・)「酷く冷めきるわけでも無く、かと言って熱くなれた訳でも無い、一番つまんねー『秋』だったんだ」

( ^Д^)「『秋』ってのは心地いいもんだ」

( ・∀・)「そこで止まっていた俺たちの心を動かしてくれたのは紛れもなく『モナー先輩』だったわけだ」

( ^Д^)「うん、そうだな、それは間違いねえや」

しきりに頷いては、自分の心に確かめるように、しっかりと相槌を打つプギャー。
その姿を見て俺は話を続ける。

( ・∀・)「そこから俺たちは一瞬、確かに一瞬ではあったが『春』を迎えた訳だ」

( ^Д^)「『春』、かァ……」

32 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:18:05 ID:4Lxc20KI0

( -∀-)「そんで、俺たちを動かしてくれるモンは無くなった」

( ^Д^)「……」

( ・∀・)「でも少なくともさ、あの頃よりは確かに熱いモンが流れてる気がすんだよ」

( ・∀・)「半端でいた頃よりずっとさ、心は熱くなったと思うワケ」

( ^Д^)「うん、それは間違いナイ。間違いナイよ絶対」

( ・∀・)「俺たちにとって春が過ぎて熱い心が残ったワケ」

( ^Д^)「……ウン、だな、そうだな」

( ・∀・)「春が終われば次は何が来る」

( ^Д^)「夏、だな」

( ・∀・)「うん、そう、夏」

33 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:18:44 ID:4Lxc20KI0

( ・∀・)「だからさ、俺たちは今、『青い夏』を生きてるんだよ」

( ^Д^)「『青い夏』」

( -∀・)「そ」

( ・∀・)「そんでもって夏だから結構きつい」

( ^Д^)「夏だからな」

( -∀・)「夏だからね」

( ・∀・)「俺たちは他の奴より辛いけど、その分ずっと爽やかなんだよ」

( ^Д^)「爽やか?」

( ・∀・)「もう春みたいに散る事は無いんだ。青い葉が茂って、時々吹く涼しい風で身体を冷やすんだ」

34 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:19:17 ID:4Lxc20KI0

( ^Д^)「よく分かんねえな」

( ・∀・)「俺たちは他の奴らより、ずっと『熱い中』を過ごしてるんだ」

( ^Д^)「……モララーはやっぱり詩人だなァ」

( ・∀・)「ウルセー」

一瞬、吹いてきた風が俺とプギャーの間をすり抜けていった。

笑っちゃうくらいにそれは熱気を帯びていて、まったくもって『夏』だった。

35 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:20:05 ID:4Lxc20KI0


多分、明日の選考会、俺たちは良い結果は得られない。

それでも俺たちは『青い夏』を生きていくんだろう。



いよいよもって春は過ぎる。



桜の花はとっとと散って、新緑の葉が風に揺れては香りを運ぶ。

日差しは更に勢いを増して熱線を照り付ける。その暑さと比例するように、空の青さは更に深みを増す。

36 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:21:44 ID:4Lxc20KI0






いよいよもって、夏である。






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37 名前: ◆oV3cL.9Fhw[] 投稿日:2016/03/27(日) 21:22:35 ID:4Lxc20KI0






( ・∀・)『青い夏のようです』  終






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