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1 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:20:39 ID:bzFlRuG60
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終電を逃した。一人で住む部屋の最寄りから、いくつか離れた駅の前で、
俺はタクシーの運転手から目を逸らし、スマートフォンを眺めていた。
時間をある意味超越したロータリーの面々を見ていると、自分がかわいい女の子じゃなくて良かったと思う。
基本的にこの時間は静かなのに、たまに聞こえるやつらの声が通るわ通る。
近辺の交番に構いもせずに、散発的にお祭りを開催していて、つい目が行ってしまう。
「おい」
そんなことをしていたら、ガラの悪いやつらに目を付けられたらしい。
ああ、やってしまった、それともやってしまわれるのか。
……よく聞けば、突然だっただけで、あいつらの声とは全く似通っていない。
やけに高いし、張りも無い。というか聞き覚えがある。振り返ってみると、
行儀の良さそうな分け方の髪を、肩まで掛けている少女が立っていた。妹だった。
( ´_ゝ`)「はぁ? なんでお前がいるんだ」
(*゚ー゚)「幽体離脱?」
( ´_ゝ`)「母者の目を掻い潜って?」
(*゚ー゚)「お母さんならさっき死んだよ。殺した私は夜が明ければお尋ね者だね」
( ;´_ゝ`)「マジで言ってんの」
ガラの悪いやつらどころか、大犯罪者様に目を付けられたらしい。
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2 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:21:14 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「とにかくだな、ここは危ない」
(*゚ー゚)「私の方がよっぽど危ない」
( ´_ゝ`)「やかましいわ」
軽くしぃの額を小突いた。
( ´_ゝ`)「もっと言えば女子高生を引き連れてる俺も怪しい、身分証明とか使いたくない」
(;*゚ー゚)「怖がるところが違うんじゃ」
( ´_ゝ`)「下手すりゃこれが俺たちの最後の夜になってしまう」
(*゚ー゚)「いかがわしいなぁ」
( ´_ゝ`)「殺す」
(*゚ー゚)「仇討ち?」
( ´_ゝ`)「にくしみのれんさはよくない」
(*゚ー゚)「すんごい棒読み」
(*゚ー゚)「本当にいかがわしいところに来るとはね」
( ´_ゝ`)「制服でもないんだし適当に誤魔化してろ」
しぃは興味深そうに、ピンクが似合うホテルを見上げている。
あどけないと言えばあどけないが、多少濃くしている化粧が気休め程度にはなった。
(*゚ー゚)「そんな肝が据わってるなら、さっきの狼狽え振りはなんだったんだか」
( ´_ゝ`)「どうせ俺の傷は浅いからかな」
(*゚ー゚)「おー」
ホテルの内装に、しぃはいたく感激しているようだった。
無邪気さは微笑ましい反面、殺人犯の面影を微塵見せないことに不安を覚えさせる。
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3 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:21:47 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「……なんでお前殺したの?」
別にいかがわしいことはしないが、取りあえず二人でベッドに腰を下ろした。
(*゚ー゚)「ぼんやりとした不安」
( ´_ゝ`)「死ね」
その台詞をほざくには殺す対象を間違えている。
( ´_ゝ`)「そもそもさ、どっちを殺したんだ」
(*゚ー゚)「お義兄ちゃんの方」
( ´_ゝ`)「そっちか」
(*゚ー゚)「怒らないの?」
( ´_ゝ`)「そこは憎まないのとか言っとけ、冷蔵庫のプリンを食べたようなノリで言うな」
そんな長い付き合いでもないし、同居してた期間も短いから、
こいつとそういうやり取りをした記憶もないが。
( ´_ゝ`)「実感がわかない。大体あの母者が柔でにね」
(*゚ー゚)「正面から打ち合う必要なんてないんだよ」
( ´_ゝ`)「毒とか?」
(*゚ー゚)「まあそんなん」
( ´_ゝ`)「有耶無耶だな」
(*゚ー゚)「手段なんてどうでもいいの。結果としてあの人は家で野垂れ死んでるんだから」
野垂れ死ぬ。あの母者がね。
十年前なら想像もつかなかったが、今なら少しは光景が浮かんだ。
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4 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:22:21 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「さてどうしましょうか」
( ´_ゝ`)「お前をさっきの交番に突きだせばいいのかな」
(*゚ー゚)「ありっちゃありだけど時間を考えようよ。お巡りさんだって夜は静かに過ごしたいはずだよ」
( ´_ゝ`)「その思いやりをどうして母者に向けられなかったんだろうな」
(*゚ー゚)「血のつながりかなー」
( ´_ゝ`)「お巡りさんとつながっているともうしたか」
(*゚ー゚)「私のお母さんは警察官だよ」
( ;´_ゝ`)「マジかよ」
(*゚ー゚)「どうせならお母さんに捕まりたいなあ」
( ;´_ゝ`)「最悪の親不孝だな」
(*゚ー゚)「でもさ!」
突然しぃが大声を上げて、ベッドから立ち上がるものだから、俺は少しビクついてしまった。
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5 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:23:03 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「凄く、ドラマチックじゃない? きっと、こんなシーン、普通は人生で体験出来ないよ。
えっと、確か交番勤務だったから、そこで逝きたいな、たしか……」
しぃは海辺がどうだのとぶつぶつ呟いた後、その地名を言った。しかし。
( ;´_ゝ`)「五回県境を越えないといけないぞ」
(*゚ー゚)「じゃ、そこまで最後の旅をしましょう」
( ´_ゝ`)「は?」
(*゚ー゚)「二人で哀の逃避行だよ」
( ´_ゝ`)「上手いこと言ったつもりか」
(*^ー^)「あっ、気づいた?」
平日のラッシュは避けて、俺たちはホームで、昼間の鈍行列車を待っていた。
( ´_ゝ`)「今更なんだけど」
(*゚ー゚)「ん?」
( ´_ゝ`)「お前はなんで俺の場所が分かったんだ?」
(*゚ー゚)「GPS」
( ´_ゝ`)「は?」
(*゚ー゚)「今持ってるスマホにあるでしょ」
( ´_ゝ`)「あるでしょってね」
いついじったんだか。一週間ぐらい前に家に来た時か?
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6 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:24:31 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「そういえばさ、なんでスマートフォンはコインロッカーにいれたの? 痕跡残すよ?」
( ´_ゝ`)「電源切っちゃう方が逆に怪しい」
(*゚ー゚)「なるほど」
( ´_ゝ`)「そういえば、お前は今なにを持ってるんだ?」
(*゚ー゚)「受信機以外はウィッグとか化粧用品とか、あと帽子」
( ;´_ゝ`)「あとは用意した着替えぐらいか……」
右手に持つ、かさんだ紙袋が重量以上に感じる。
(;*゚ー゚)「なんでそんな暗いの」
( ;´_ゝ`)「俺が買わないといけなかったんだぞ、あー最悪」
彼女さんへのプレゼントですかじゃねーよ。あの店員め。
(*゚ー゚)「そんな恥ずかしい?」
( ´_ゝ`)「恥ずかしいのもあるが、なにが最悪かって……、まあ後で話すわ」
( ´_ゝ`)「逃亡資金が有り余ってることだよ」
新幹線のグリーン車の中、俺はテーブルに、厚い封筒を置いた。
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7 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:25:05 ID:bzFlRuG60
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(;*゚ー゚)「その封筒どうしたの?」
( ´_ゝ`)「万馬券」
(*゚ー゚)「競馬場行ってたの?」
( ´_ゝ`)「まあな。でもこんな大穴で、なおかつそこそこデカいレースだったから、
みんなが白けきってるんだよ。それ尻目に騒ぐわけじゃん」
(*゚ー゚)「うんうん」
( ´_ゝ`)「でも騒ぐと目立つじゃん」
(*゚ー゚)「うんうん!」
( ´_ゝ`)「けどやっぱり抑えきれないとわー! ってなるの」
(*^ー^)「わー! っとね!」
( ´_ゝ`)「だけどそうすると目を付けられるじゃん」
(*゚ー゚)「ですよねー」
( ´_ゝ`)「だから必死に抑えて、場内がからんとしてから換金して、大事に隠してから持って帰った」
(*゚ー゚)「小心者め」
( ´_ゝ`)「そりゃ母殺しにはかないませんよ」
(*^ー^)「これは痛い所をつかれましたなー」
( ´_ゝ`)「ははは」
(*^ー^)「ははは」
( ´_ゝ`)「ねぇ俺母親殺されてるんだけど」
(*゚ー゚)「じゃあなんで笑ってるの」
( ´_ゝ`)「分からん。神経いかれちゃったかも」
(*゚ー゚)「お揃いだね、これでやっと本当の兄妹だよ」
( ´_ゝ`)「あーあ、あわよくば狙ってたのになぁ」
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8 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:25:39 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「私を?」
( ´_ゝ`)「まあな、表面上は良い兄を演じて、一発出来ればいいかなーって」
(*゚ー゚)「屑め」
( ´_ゝ`)「母殺しにはかないませんよ」
(*゚ー゚)「ははは」
( ´_ゝ`)「ははは、……もうこれいい?」
(*゚ー゚)「天丼は胃にもたれるもんね。というかさー、だったらホテルで手出しとけば良かったじゃん」
( ´_ゝ`)「面白かったかもな、どうせ殺人犯を犯してもお咎めなしでしょ」
(*゚ー゚)「屑だなー」
( ´_ゝ`)「屑がド屑をどうしようが勝手だろ」
(*゚ー゚)「んー、どうなんだろう」
(*゚ー゚)「なんでしなかったの?」
( ´_ゝ`)「ゴム無かったから」
(*゚ー゚)「ラブホだよ」
( ´_ゝ`)「めんどくせー」
(*゚ー゚)「男のツンデレとか見るに耐えない」
( ´_ゝ`)「女は大好物なんじゃないの」
(*゚ー゚)「まあね」
( ´_ゝ`)「まあ実際はそこまで気が回らなかっただけだな」
流石に殺人娘が押しかけてきたら、ラブホテルだろうが、
いかがわしい方向へ思考がスムーズに進んで行かない。
(*゚ー゚)「さてと」
しぃはテーブルに置いていたビニール袋から駅弁を取り出し、昼食を摂り始めた。
こういう時には食欲なんて無くなってそうなものだが、彼女の箸の動きは実にスムーズなもので、
比例して一つ目の弁当の中身は早々に空になった。
一つ目と言うからには二つ目も存在して、しぃは再び違う種類の駅弁を開封して、
多少、頬に米がつくのもお構いなしに、これまたノンストップで食べ続けた。
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9 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:26:28 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「お前はおいしそうに食べるよな」
(*゚ー゚)「まあね」
( ´_ゝ`)「楽しそうに生きてる」
(*^ー^)「もう終わる間近ですから、華々しく散りましょう」
殺人犯の癖に、ごちそうさまと手を合わせて丁寧にお辞儀した後、
顔を上げたしぃは、こちらを向いてから、満面の笑みを浮かべた。
( ´_ゝ`)「俺を巻き込まないでもらいたい」
(*゚ー゚)「突きだせばいいのに」
( ´_ゝ`)「うーん、そうしてもいいはずなんだが」
ごもっともだった。別に抵抗しそうにも見えないし、さっさと警察に行ってしぃはおしまい。
俺はこの金で適当に豪遊して、幾日かは楽しい時間を過ごす。もしくは貯金でもする。
それでいい、なんの不満もないはずだった。なのに。
( ´_ゝ`)「割と楽しい、なんでだろうな」
(*゚ー゚)「エネルギーだね」
( ´_ゝ`)「なんの」
(*^ー^)「私の」
( ´_ゝ`)「そうかもな」
殺人娘が、遊園地で平日の昼間にマスコットと戯れてるとか、一種のアトラクションとして成立しないかな。
その辺の売店で買ったコーヒーを飲みながら、その辺のベンチに俺は座り、着ぐるみに絡むしぃを見ていると、
そんな考えが浮かんだ。どちらにせよ珍しいから、写真でも撮っておこう。
道中で買ったデジカメを取り出し、パシャリとシャッター音を鳴らした。
(*゚ー゚)「そういえばなんでカメラ買ったの」
やっとマスコットを解放したしぃが、こちらに寄って来た。
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10 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:27:27 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「旅の記録かな。お前の最期も撮ってやるよ」
(*゚ー゚)「殺人犯の娘と婦警の母の最期の再会を?」
( ´_ゝ`)「そうだな、雑誌にでも投稿しようかな」
(*゚ー゚)「高く売れそうだなー」
相場は知らないがそうかもしれない。また意味も無く懐が潤うな。
(*゚ー゚)「私の塀の中での楽しみが増えたよ。どう脚色されるのか楽しみにしてるね」
前向きなのかやけなのか分からないことをしぃが言う。
(*゚ー゚)「さて」
( ´_ゝ`)「またジェットコースター? 嫌いじゃなかったっけ、死を感じるとか言って」
(*^ー^)「今は凄く生を感じるよ。上がったり下がったり、心臓もうるさくて、前のめりになってる私にぴったりだし」
( ´_ゝ`)「一人でやれば」
(*゚ー゚)「寂しいこと言わないでよ」
( ´_ゝ`)「ま、いいけどさ」
滅多にない機会だ、一生分乗ってやろう。
(;*゚ー゚)「あー、疲れた」
( ´_ゝ`)「ボーリングとかカラオケとか普段でも出来るのにな」
ビジネスホテルの個室にたどり着いた途端、しぃはベッドに身を投げた。
(*゚ー゚)「もう日常は無くなるから、最後にね」
( ´_ゝ`)「しっかし良くばれないもんだ」
散々ジェットコースターに乗り尽くしただけで遊園地からは去り、
夕方前にはポピュラーなアミューズメント施設に移動して、今度は学生の等身大の遊びをやり尽くした。
しぃのはしゃぎようは、全く影が無くて見事ではあったが、良くもまあこんな状況で、
喧騒に溶け込めるものだと感心した。俺はといえば適当に重いボールを転がして程々に腕を痛める程度だったというのに。
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11 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:28:42 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「お父さん化粧には厳しかったから、何歳だと思ってんだか。まあ今となっては感謝しようかな」
化粧だけの問題では無いと思うが、まあそれもあるのか。
(*゚ー゚)「そういえばゴム買ったけどやる? 塀の中で花を萎ませるのもねー」
( ´_ゝ`)「やるわ」
(;*゚ー゚)「躊躇ないね」
( ´_ゝ`)「ゴムがあるならな」
(*゚ー゚)「どうせ私なんて獄中で果てるだけなのに、なんでそんなゴムに拘るんだか」
( ´_ゝ`)「死ねやしないさ」
(*゚ー゚)「守ってもらえるお年頃ですからね」
(;*゚ー゚)「あー股が痛くてしょうがない。普通ね、女の子にはもっと優しくするべきだよ」
シャワーから戻って来たしぃが、渋い顔で苦言を呈する。
( ´_ゝ`)「お前が普通じゃないからな」
すでに汚れを洗い流し、ベッドに寝そべりながらテレビを見ていた俺は、
しぃの方には目もくれず、緊迫感の欠片すらない下劣さに没頭していた。
(*゚ー゚)「まあいいけどね。……そういえばさ」
俺の真横にある、もう一つのベッドにしぃは腰を下ろした。
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12 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:29:15 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「うん?」
(*゚ー゚)「ほんとはなにしてたの、昨日。競馬なんて嘘でしょ、発信機付けてたから分かるよ」
( ´_ゝ`)「ばれたか」
(*゚ー゚)「あっ、ほんとに競馬じゃなかったんだ」
( ´_ゝ`)「は?」
(*゚ー゚)「いや私競馬場の場所なんて良く分からなかったし」
( ;´_ゝ`)「かまかけやがって」
身体を起こして、しぃと向き合う形で座り直した。
(*゚ー゚)「そのお金は?」
( ´_ゝ`)「父者から盗って来た、強盗みたいなもんかな」
(*゚ー゚)「殺したの?」
( ´_ゝ`)「まあ死んだ方がいいんじゃない、それで母者と天国でやり直せば」
天国だとか、やり直すだとか、痛烈な皮肉を織り交ぜながらも、そっけなく返した。
(*゚ー゚)「ということはお尋ねもの二人じゃないですか」
( ´_ゝ`)「いや、俺は多分違う。刃物で脅しただけだからな。
どうせ通報も出来ないだろうよ、中途半端な情とやらで」
俺に謝り続けるあいつの姿を思い出す。
もはや腹が立ちもしないが、それでもいい気分にはならないものだ。
(;*゚ー゚)「どうしようもないなー」
その通りだ。こいつもどうしようもないが、俺もどうしようもないのだ。
だから、淡々と繰り返される行為以上の意味は無しに、明かりを消して、二人は眠りについた。
二日後の朝、俺たちは目的地についていた。
浜辺があって、交番がある町だ。
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13 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:29:47 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「うーん、気持ちいい朝だね」
波打ち際の近くでしゃがむしぃが、うーんと伸びをする。
海開きなどとっくに過ぎ、盛りもすぎた九月の海は、静かではあったが、
圧力をかけてくるような獰猛さも感じる。サーファーはこういうところに燃えるのかもしれない。
当てずっぽうな憶測をしながら、俺はしぃの二歩後ろから水平線を追っていた。
(*゚ー゚)「このまま入水でもする?」
しぃは首だけを動かし、冗談にはとれない目をこちらに向けて来る。
( ´_ゝ`)「やだね。お前が親不孝するところを見ないと死ねない」
(*゚ー゚)「見たら?」
( ´_ゝ`)「死ぬかも」
(*゚ー゚)「なるほどねー、だからあんな肝が据わったように見えたのか」
( ´_ゝ`)「どうでもいいんだよ、自分が」
(*゚ー゚)「弟者さんが悲しむよ」
( ´_ゝ`)「そうかもな、あいつを残すのは嫌かな。いや、もうそんな年でもないからいいか。悲しむだろうけど」
(*゚ー゚)「……そういえばさ、昨日のゴムがどうこうの理由分かった気がする。子供が出来るのが嫌なんでしょ?」
( ´_ゝ`)「そりゃそのための道具だからな」
(*゚ー゚)「でもそれって世間体とか、自分や相手が後々困るからとか、
普通はそういう理由じゃない。けどどっちでもないでしょ? 私は塀の中な上に、
獄中出産だろうが知ったこっちゃないんだよ、お兄ちゃんは屑だから。なのに異様に気にする」
( ´_ゝ`)「子供に罪はないからな、擦り付けるのはいつだって親だよ」
(*゚ー゚)「狭い視野」
( ´_ゝ`)「見せてもらえなかったからな、あいつらに」
弱腰の父に、肝っ玉かーちゃんと呼べば聞こえの良い独裁者の母。
まあ、今となっては大分母者も落ち着いたものだが。いや違うか、もう大分どころでは無いな。
それはともかく、家庭環境での救いは弟者ぐらいだった。残念ながらか弱すぎるが、唯一の味方だったし、
俺は守ってやりたいと思った。が、実際は責務を果たせていたのかは怪しいものだった。
しかし、自己満足でも俺は救われていたし、心理的な面では俺が弟の支えになれたのは否めないところだろう。
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14 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:30:27 ID:bzFlRuG60
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(*゚ー゚)「いやー、でもさ、楽しかったよ、ここの数日は」
( ´_ゝ`)「家じゃ父親が強権を振るってるからってか」
ざまぁないな、母者も。あいつが再婚するころには俺たち兄弟は、
それなりに全うな体格を持っていたし、しぃの父親にはそれほど悪印象は植え付けられなかった。
植え付けさせなかったと言い換えてもいいが。
(*゚ー゚)「まあね」
( ´_ゝ`)「そういえばなんで母者だったんだ」
(*゚ー゚)「かわいそうだったから」
( ´_ゝ`)「お前から見るとそうか。だが父親を殺さない理由もないだろう」
(*゚ー゚)「いや殺したよ」
( ´_ゝ`)「は?」
(*゚ー゚)「ああ言ってなかったっけ?」
( ´_ゝ`)「年齢が守ってくれんのかよそんなんで」
(*゚ー゚)「どうでもいいよ。さーてと、行きますか、そろそろ」
しぃが腰を上げ、終わりに向かって歩いてゆく。
( ´_ゝ`)「あのさ」
その場から動かなかった俺に、しぃは振り向き、軽く頬を緩めた。
(*゚ー゚)「なに? 引き留めてくれるの?」
( ´_ゝ`)「まさか」
(*゚ー゚)「だよね」
( ´_ゝ`)「俺もさ、ここ数日楽しかったよ。神経が壊れているせいかもしれないけど、まあ楽しかった。お前ともやれたしな」
(*゚ー゚)「下手くそだったけど」
( ´_ゝ`)「うるせーな」
(*゚ー゚)「けど、そんなに悪くなかったよ。……あーあ、別の形で会っていれば、
割りと楽しかったかもね。こんなリミッター外した幸せじゃなくてさ、もっと……例えばあんな風に」
カモメの求愛行為を眺める朝も悪くはないな。
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15 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:31:29 ID:bzFlRuG60
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( ´_ゝ`)「そうかもな。俺さ、お前のことは屑だとは思うけど、嫌いだとは思ってないし」
(*゚ー゚)「あはは、お互い様で」
しぃが見せたのは自然な笑みだった。彼女が言ったリミッターを外した幸せに喜ぶ笑みではなく、
もっとポピュラーな、街を歩けば高い確率で遭遇できるような、希少性のまったくない笑み。
群集の中にいたら、あっという間に飲まれそうな笑み。朝の海に二人でいれば、向けられる側が温かくなる笑み。
初めて見る表情だった。同時に、二度と見ることはない表情だ。
(*゚ー゚)「じゃあもういいかな、行くよ。どうせなら、綺麗に撮ってね」
( ´_ゝ`)「ああ」
交番に、しぃの母親はいた。運が良いと評すればいいのか、悪いと評すればいいのか。
一つ言えるのは、殺人犯の娘を持ちながら、通常勤務をこなす彼女には頭が下がるということだ。
(*゚ー゚)「元気にしてた、お母さん?」
年相応とは思えない老け方をしたしぃの母親は、娘を見ると、目を伏せた。
ああ、やっぱりな。
「ごめんね……」
(*゚ー゚)「うん?」
「ごめんね……」
(*゚ー゚)「謝られてもなー」
クスクス、クスクスと、しぃの口から静かに擬音が零れる。
そうか、こいつ親不孝を楽しんでいるのか。俺が父者に抱いていたのと同じような感情で。
自分を客観視しているようで不思議ではあったが、大きく揺さぶられることはなく、
俺は躊躇もせず、淡々とカメラを取り出し、目の前の光景にシャッターを合わせた。
撮った写真の中では、笑っているしぃが、泣きつく母を慰めていた。
感動的だな。俺の頬に、涙が一筋伝った。
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16 名前: ◆llb99zZmZU[] 投稿日:2016/03/27(日) 00:32:17 ID:bzFlRuG60
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それは今日では無いけれど
おわり