ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
なにかがズレた世界のようです('A`)



685 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:06:02 ID:bUHlIcZ60
ある日、俺は夢を見た
それは妙な現実感を伴う夢で、もしかしたら夢ではなかったのかもしれないが、まあどうでもいい
どちらにせよ、今となってはもう知る由もないことだ

(  ゚¥゚) ようこそ基準世界へ。私は基準人間

目の前の男はそう名乗り、頭を下げる
男の肌は鮮やかな紫色で、真っ白な髪の毛は焦茶色の太陽光を反射し七色に輝いていた
基準世界の色彩は、俺の住んでいる世界のそれとは全くの別物だった

(  ゚¥゚) しかし、これが基準なのですよ?

男は困ったようにそう言って、緑色の息を吐き出した
俺は全身に痒みを感じて掌を擦り合わせる
擦り合わせた掌に緑色の息を吹きかけてやると、一瞬痒みが和らいだような気がした

(  ゚¥゚) おやおや、寒そうですね。立ち話もなんですし私の家に来ませんか?

寒そう? 何を言っているんだこいつは?
まあ、所詮は夢の世界。俺はそう考えて、男の家に行くことにした

687 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:08:37 ID:bUHlIcZ60
(  ゚¥゚) ここが私の家です。靴は脱がなくて結構ですよ

男の家に入ると、全ての家具が黄緑色で統一されていた
「私は青が好きなのです」という意味の分からない言葉を聞き流し、居間に進む
全身の痒みはいつの間にか治まっていた

(  ゚¥゚) いま温かい物出しますから、掛けててください

言われるままに椅子に掛けて待っていると、色取り取りの食器を載せたトレイを持って男は戻ってきた
緑色の湯気が立ち上る食器をテーブルに並べながら男は言う

(  ゚¥゚) 食欲の沸かない彩りかも知れませんが、基準ですので

赤黒い人参、ピンクのしいたけ、藍色の米
正しく食欲の沸かない彩りの料理から、甘ったるい香りが鼻に届く
一口食べる。苦い。辛い。しかしなぜか俺はそれを美味いと感じた

(  ゚¥゚) お気に召していただけましたか。それは良かった

(  ゚¥゚) ……では、いい加減この世界のことを説明しましょうか

男は小豆色の葉巻を咥え、灰色の炎で火をつけて、真っ青な煙を吐き出した
紫色の唇から語られたその話は、なんとも奇妙で、しかし不思議な説得力を持っていた

688 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:09:32 ID:bUHlIcZ60
(  ゚¥゚) 哲学の世界では議論しつくされた、言わば手垢の付いた命題なのですがね

(  ゚¥゚) 私と貴方が同じ「赤」という色を見た場合、二人の目には全く同じ赤色が映っているのか

(  ゚¥゚) 私と貴方が熱湯に手を突っ込んだ場合、二人が感じる「熱い」という感覚は同質の物であるのか

(  ゚¥゚) ……貴方はそんな疑問を持ったこと、ありませんか?

男の質問に、俺は黙って頷く
その疑問はきっと多くの人間が一度は通る道で、俺だって例外ではない

(  ゚¥゚) 結論を言ってしまうと、物の見え方、熱の感じ方は「人によって違う」のです

(  ゚¥゚) ただみんな、植物の葉の色を緑色と呼び、光量の多い状態の視界を明るいと言う

(  ゚¥゚) そして高温のものに触れた時の感覚を熱いと、そう呼んでいるだけなのです

(  ゚¥゚) この基準世界では全ての人間が、基準人間である私と同じように世界を感じることが出来る

(  ゚¥゚) 例えば私の皮膚の色。貴方には何色に見えますか?

そう言って男は腕を突き出し、掌をこちらに向けた
鮮やかな紫色の皮膚に、黄色い血管が浮かんでいる

(  ゚¥゚) この皮膚の色は私にとっては肌色で、うっすらと浮かんでいる血管は青白い色をしている

(  ゚¥゚) この世界で貴方は、自身の感覚が基準からどの程度「ずれているのか」を知ることができるでしょう

689 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:10:33 ID:bUHlIcZ60
ふざけるな、と俺はテーブルを叩いた
どしんと鈍い音がして、浮き上がった食器がかちゃかちゃと高い音を立てた

(  ゚¥゚) ふむ、聴覚に関しては貴方は基準的な人間なようですね

男の冷静な口ぶりは、さらに俺を怒らせた
何が基準人間だ。何が基準世界だ。馬鹿馬鹿しい。他人のことを「ずれている」だなんて失礼にも程がある
じゃあその基準とやらは誰が、いつ、どうやって決めたんだ
俺は言ってやったよ。そうしたら男はまたもや冷静な口調でこう言ったんだ

(  ゚¥゚) さあ、私は知りませんね

(  ゚¥゚) まあ少なくともそれを決めた者が、基準である私よりも「上」の存在であることは間違いないかと

(  ゚¥゚) こうやって他人を基準世界に引き込む力も、その「上」の存在から貰った物です

とうとう俺は怒鳴った
適当なことを言うな。こんなもん夢か何かに決まってる。ってな

(  ゚¥゚) 夢ですか。そう思うならそれでもいいでしょう。似たようなものですし

(  ゚¥゚) でも、それなら怒る必要もないでしょう? 所詮夢、「そういうこともあるんだなあ」くらいに思えば

690 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:11:18 ID:bUHlIcZ60
それから俺は三日ほど男の家に泊まった
三日といっても太陽が三回昇って下りてを繰り返したというだけで、体感ではもっと短い時間だったような気がする
おおよそ一日半、長くとも丸二日といったところだ
基準人間の体感時間は俺のそれよりも随分と短いものであるらしい

(  ゚¥゚) 体感時間が長いということは、貴方は基準よりも長く人生を楽しむことができるということです

(  ゚¥゚) 基準的な一日が半日程度に感じたのであれば、本来の貴方の体感時間は基準のニ倍

(  ゚¥゚) 八十年生きるとしたら貴方は百六十年分の時間を体感することになる

二日目の朝、基準的な朝食――臙脂色のトースト二枚と橙の牛乳一杯――を摂りながら、男はそう言っていた
正直な話、何を言っているのかよくわからなかった

(  ゚¥゚) 基準的な説明力ではこの程度の説明しか出来ません

(  ゚¥゚) 詳しく知りたければ帰った後、基準より上の説明力をもつ人に聞いてみてください

(  ゚¥゚) まあ、貴方の理解力が基準程度あったらそんなことをする必要はなかったのですがね

だとさ
お前らは男が言っていた話の意味、わかるかい?

691 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:12:00 ID:bUHlIcZ60
さて、男の家で三日間も何をしていたかというと、ただぼうっと生活をしていただけだ
朝、眠気でネバネバする目を擦りながら朝食を摂り、落とした食器が足にあたって凍りつくほどの冷たさで目が覚める
マンガやテレビを見ながら酸っぱいクッキーを食べ、辛いコーヒーを飲んで、それに飽きたら散歩
水色の道路、レモン色の木々や真っ黒い家々を眺めながら当てもなく歩き回り、疲労で足がシパシパしてきた頃に家に戻る

そうするとキッチンの方から石油の匂いが漂ってきて、昼飯時だ
昼飯の後は音楽でも聞きながら昼寝。幸運なことに聴覚は元々「基準的」らしいからな、数少ない違和感なく過ごせる時間だったよ
そんで起きたらまたテレビなりマンガなり、散歩したりゲーセン行ったりで夕飯まで時間を潰す
深緑色の湯船に浸かって貸し与えられた部屋でオナニーして寝る。これで一日終わり

ああ、オナニーな、紫色の男女が絡み合ってるAVは中々刺激的だったし出た精子は血みたいな赤色してたし大変だったぞ
ティッシュ捨てたゴミ箱からは醤油を焦がしたような匂い。やばいね、二度と焼き飯食えねえよ
ちなみに基準的な性的嗜好は「出会って五秒で即合体」らしい

(  ゚¥゚) 私にだって基準的な性欲はあるのです

基準世界は――基準的な感覚になってしまうことを除けば――俺の元いた世界と何ら変わりのない世界だった

692 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:12:41 ID:bUHlIcZ60
三日目の夕食、基準世界での生活にようやく慣れ始めた頃、俺は男に尋ねた
そもそもどうして俺はこの世界に連れて来られたのか、とな
当然の質問。むしろ聞くのが遅すぎたくらいだが、きっと異常なことばかりでそれどころではなかったのだろう

(  ゚¥゚) さあ、なんででしょうかね? 私は「上」からもらった力をなんとなく使っているだけですので

(  ゚¥゚) 力を与えるということは、それを使えということなのだろうと、そういうふうに考えました

男の回答に俺はずっこけた
なんとなくで他人をこんなとんでもない世界に引きずり込みやがったのか、とな
そしたら男は少し間をおいて、こんなことを言ったんだ

(  ゚¥゚) まあ、正しいという保証はありませんが私なりの考えはあります

(  ゚¥゚) それでよければ、お話ししましょうか?

俺は青灰色の赤ワインを飲み干して、おう話せ話せと煽り立てた
基準世界のワインは蜜のように甘く、ミルクのような柔らかい香りがした

693 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:13:23 ID:bUHlIcZ60
(  ゚¥゚) まず確認です。私が基準人間であることに、最早疑いはありませんね?

まあな、と相槌を打つ。今更それを疑ったってしょうがないことだ
男はよろしいと頷いて言葉を続ける

(  ゚¥゚) ではどうして基準人間というものが存在するのでしょうか?

(  ゚¥゚) 「上」の存在は何のために私を基準人間に選んだのでしょうか?

(  ゚¥゚) ……きっと、比べるためでしょう

はあ、と間の抜けた声を上げてやると、男は「基準よりも丁寧に説明してあげましょう」と笑った
ぶん殴ってやろうかとも思ったが、話の続きが気になるのでやめた

(  ゚¥゚) 基準とはそもそも異なる複数の物を比較するための指標

(  ゚¥゚) 私を基準に選んだということは、私と、私以外の誰かを比べるつもりなのでしょう

(  ゚¥゚) そして与えられた「他者を基準世界に引き込む力」

(  ゚¥゚) 私はひとつの推測に辿り着きました

(  ゚¥゚) 「上」は、私達人間の個体差を「観測」している

(  ゚¥゚) 私という基準を元に、人間の感覚にはどの程度のずれがあるのかを調べているのです

694 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:14:08 ID:bUHlIcZ60
男はワインを一口飲んで、「ここまで理解していただけましたか?」と尋ねてきた
俺が黙って頷くと、男は満足気に微笑んでもう一度ワインを口に運んだ
さっきとは違う、嫌味のない笑顔だった

(  ゚¥゚) どうです、面白い考えだと思いませんか?

(  ゚¥゚) 私としてはそれなりに正解に近い考えではないかと思っています

(  ゚¥゚) ……まあ、確証なんてどこにもありませんがね

その後のことはあまり良く覚えていない
いつになく饒舌になった基準人間と夜遅くまで酒盛りをして、ぐるんぐるん周る頭を抱えて床に就いたと思う
そうそう、酔った時の感覚も元々「基準的」だったようで、楽しく飲むことができたよ

(  ゚¥゚) 明日は貴方を元の世界へ返しましょう

男は確か、そんなことを言っていた気がする

695 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:14:59 ID:bUHlIcZ60

翌朝、いや、昼と言っても過言ではない時間帯に起床
軽い食事を摂ったあと、男に連れられて家を出た

(  ゚¥゚) 車で二時間ほどですかね。運転は私がしましょう

男に促され助手席に座ると、車が発進した
紫色の歩行者を横目に男はどんどん速度を上げていく
少なく見積もっても時速八十キロ、こんな市街地で出して良い速度ではない

(  ゚¥゚) 法定速度は守っていますよ。速度計見てください、五十キロって書いてあるでしょ?

(  ゚¥゚) これが基準的な時速五十キロの体感速度です

(  ゚¥゚) 普段より速く見えるということは、本来貴方は基準以上の動体視力を持っているということです

なるほど、と納得し外の景色に目を向ける
相変わらず奇妙な色彩の街並みで、群青と白の牛丼屋の看板が赤黒く輝いていた
この世界の牛丼は、一体どんな色をしているのだろうか

(  ゚¥゚) そりゃあ茶色ですよ。私にとっての、ですがね

(  ゚¥゚) 椎茸のかさのような色です。椎茸は食べましたよね?

椎茸のかさ、ね
この世界にきて最初に出された料理に入っていたが、確かあれは鮮やかなピンクだった
生煮えじゃねぇかとひとりごちて、それから暫く会話は無かった

696 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:16:00 ID:bUHlIcZ60
「それ」に気付いたのは出発してから体感で一時間、基準世界的には一時間半ほど経った頃だ
水色の道路、紫色の歩行者、真っ黒い家々。違和感だらけのこの街並みを、俺は「知っている」のだ
そこの角を曲がった先には古い喫茶店があって、店先には小さなショーケースが置かれている
次の交差点を右に曲がると公園があって、その道をさらに真っすぐ進んだら……

(  ゚¥゚) 私が思うに社会というものは、多くの世界が重なり合った存在なのです

俺の動揺を察知してか男は語り出した
子供を宥め諭すような、柔らかい声だった

(  ゚¥゚) この世界に来て分かったと思いますが、感覚というものは人によって全く異なるのです

(  ゚¥゚) 同じ物を見ていても、それぞれの瞳に映る景色は同一ではない

(  ゚¥゚) 匂いも、音も、時間感覚や痛みだって例外ではありません

(  ゚¥゚) それは言うなれば、同じ空間に存在しながら異なる世界を生きているようなものなのです

(  ゚¥゚) それぞれの人間がそれぞれの世界を生きている。百人居れば百の世界が存在する

(  ゚¥゚) 千人居れば千の、一万人居れば一万の世界

(  ゚¥゚) その世界が奇跡的な確率で、奇跡的なバランスで、かろうじて体裁を保ちながら共存しているのが、社会

(  ゚¥゚) 我々の生きる社会なのです

697 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:16:46 ID:bUHlIcZ60
車は徐々に速度を落とし、公園の前を通り過ぎた
俺の考えが正しければ、この道の先にある物は……

(  ゚¥゚) 今回貴方は社会の本質を知り、他者の世界を体感することが出来た

(  ゚¥゚) 元の世界へ戻っても、どうか覚えていて欲しい

(  ゚¥゚) その理解と経験は、必ずや貴方にとって掛け替えの無い宝となることでしょう

(  ゚¥゚) ……さて、着きましたよ。ここがどこだか分かりますね?

シートベルトを解除して車から降りる

道の先にあったのは、俺の家だった

(  ゚¥゚) さあ、扉を開けなさい。そうすれば貴方は帰ることができる

(  ゚¥゚) 基準からほんの少しずれた、貴方の元居た世界へ

俺はドアノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開いた
蛍光灯の白い光が、扉の隙間から漏れ出した





J( 'ー`)し おかえりなさい。今ご飯用意するからね

扉の向こうでは、肌色の母が俺を出迎えた

698 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/03(金) 23:17:50 ID:bUHlIcZ60
気が付くと、俺は自室のベッドで横になっていた
ふかふかの毛布。芳香剤の甘い香り。窓の外では白い太陽が煌々と燃えている
そう、俺は元の世界に帰ってきたのだ

J( 'ー`)し おはよう。今ご飯用意するからね

台所に隠れた母を尻目に、携帯電話のカレンダーで日付を確認する
基準世界で過ごした時間はまるで無かったかのように、液晶は地続きな時間を映し出した

色取り取りの食器を載せたトレイを持って、母は戻ってきた
真っ白な湯気が立ち上る食器をテーブルに並べながら母は笑う

J( 'ー`)し 今日は早起きね。感心感心

オレンジの人参、茶色いしいたけ、真っ白な米
焼いた塩鮭の芳ばしい香りを思いきり吸い込んで、俺は朝食をかき込んだ





さて、俺の見た夢の話はこれで終わりだ
ところであんたの世界では、俺は何色をしてるんだろうね?


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