■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└あの子は笑わないようです
- ※『鏡恐怖症のようです』の続きです。
- 86 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:47:03 ID:W/PuJesc0
- どんなに呼んでも、あの子は気付かない。
外面だけ笑顔を貼り付けたあの子は。
あの子は、気付かない。
―
いつからこうしているのかは、私にも分からない。
どうしてあの子から離れられないのかは、私にも分からない。
- 87 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:48:42 ID:W/PuJesc0
- 私は死んでいるようで。
あの子が生きているのは確かなことだった。
それでも、どうしてなのか分からないけれど。
まだ高校生かそこらの彼が、少年から青年へ、男へと成長した姿を知っている。
そして、私がその彼と手を繋いだことも。
私に向かって笑いかけてくれた、その笑顔を。
知っているのだ。
―
川д川「……」
- 88 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:50:02 ID:W/PuJesc0
- あの子がこの白くて狭い部屋で生活するようになったのは、いつからだっただろう。
元は隣の部屋にいたドクオという少年は、もう退院したらしい。
それでも週に1度くらいは、着られているように見える黒い学ランを纏ってこの部屋にやって来る。
私はいつも、彼の近くに居る。
それは隣だったり、背後だったり。
自分の意思とは関係なく、私の体は勝手に彼の近くに行くようになっている。
彼がベッドに寝転がっている今、私は彼のベッドの隣に立っていた。
喋ることも無いので無言で立っている。
ベッドの側に置かれた丸椅子に座る少年は、私のことに気付いてなどいない。
あの子も、私に気付かない。
川д川「あ、」
- 89 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:51:13 ID:W/PuJesc0
- まただ、と思った。
私が彼の近くに居る間、彼の心からの笑顔を見たことがない。
最初は思い違いかとも思った。けれど、私の考えは正しかった。
彼が浮かべているのはいつも、愛想笑い。
それも、板に付いてしまって営業用スマイルにでもなっているような。
川д川「……やめなよ、それ」
そう呟いてみても、彼には届かない。
少年がふと、彼の手を見て固まった。
その理由を考えなくても理解した私は、同じように視線を向ける。
- 90 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:52:47 ID:W/PuJesc0
- 深夜のことだった。
彼が寝ている間に部屋の換気をしに来た新人の看護婦が、ふと部屋を見回して。
ゴミ箱に入った潰された花に顔を歪ませた、まではまだ分かる。
けれど、首を傾げたかと思うと何かを思いついたように駆けて行って。
あろうことか、彼の部屋に鏡を置いて行ったのだ。
彼のカルテには確かに鏡恐怖症だと書いてあった筈なのだが、一体どこを見ていたのだろう。
どうにかしたくても私は触ることができなくて、そうしているうちに彼が起きてしまったのだ。
起き抜けに鏡を見つけて、映った自分と私を見た彼は。
ほぼ反射的に、鏡を拳で叩き割った。
窓を閉め忘れていたことを思い出した新人の看護婦が帰って来たのはその時だ。
散らばった鏡の破片と、暗がりに血を流す彼を見つけて小さく悲鳴を上げて。
そして医師と他の看護婦を呼んできた。
- 91 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:54:38 ID:W/PuJesc0
- ('A`)「なあ、モララー」
( ・∀・)「何」
少年が彼に話しかける。
('A`)「お前、ここから出る気ある?」
そう言った少年の目には、微かな期待が見て取れた。
少年にとって世界は、随分と新鮮なものだったらしい。
週に1度やって来る少年は、時たま学校で起きたこと、新しくできた友達のことを彼に話す。
それを語る時の少年の目には、隠しきれない輝きがあった。
少年が着ている学ランは彼と同じものだから、きっと退院すれば同じ学校なのだろう。
- 92 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:57:06 ID:W/PuJesc0
- ( ・∀・)「無いよ」
けれど、彼はそんな少年の想いなど知らない。
ずっと一緒にいるから分かるけれど、彼は人の気持ちを汲み取ることができないのだ。
( ・∀・)「無い」
少年の沈黙を無理やりに破って、彼は再度主張する。
少年の瞳から期待が消えていくのを、私はもどかしく思いながら見ていた。
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( ・∀・)「やあ」
彼が話しかけてきてくれて、私はどう答えればいいのか分からなかった。
声が届かないのだから、答えようも無いのだけれど。
- 93 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:58:48 ID:W/PuJesc0
- どうして彼が話しかけてきたのか、そう考えて、見せしめではないかと思い至った。
包帯が巻かれた手で、後ろ頭を掻く彼は、私をちらりと見て口を開いた。
( ・∀・)「なんだよ」
川д川「……ごめん、ね」
ぽつりと、謝罪が零れた。
川д川「ごめんね。でも、私もどうして君の側にいるのか分からないの」
( ・∀・)「お前、ずっといるよなあ」
声は全く届かない。
彼は会話が噛み合っていないことなど露知らず、そう言うと口元に弧を描いた。
- 94 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 23:00:13 ID:W/PuJesc0
- ああ、だから、それは。
川д川「その顔、やめなよ」
また、彼は笑っていない。
川д川「君のその表情、見たくない」
私が言っている途中で彼はシャッと音を立ててカーテンを閉めた。
彼の視界から、きっと私は消え失せたのだろう。
ずるずると座り込んだ彼の隣に、私も座り込んで。
感じることはないだろうと、そう思いながら、彼の肩に自分の頭を寄りかからせて。
瞼の裏の、成長した彼の笑顔に想いを馳せた。
あの子は笑わないようです
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