■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└たったひとつの物語のようです
- 335 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:37:39 ID:vizZ4Uac0
( ФωФ)
彼は崖に立っていた。真っ赤なバラの花束を手にして。
たったひとつの物語のようです
- 336 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:38:23 ID:vizZ4Uac0
ここは、彼女が好きだった場所だ。
水平線に夕陽が消えていく瞬間が一番好きだった。
いつもは青いここが、夕暮れで彼女の好きな紅に染まるのが好きだった。
彼は無表情だ。何を想っているのかはわからない。
ただ、水平線を見つめている。彼女が好きだった夕陽を見つめている。
私が彼を呼ぶ。
彼は視線をちらとこちらに向けて、また夕陽を見つめる。
夕陽は、彼女の髪色によく似ていた。
- 337 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:39:16 ID:vizZ4Uac0
最期、彼女は彼に会おうとしなかった。
彼には元気だった私だけを覚えていてほしいのだと、彼女は泣いた。
気丈な彼女の涙を見たのは初めてだった。
色の抜けきった髪が、骨と皮だけになった身体が、私の中に残っている。
彼の中にはきっと快活に笑う彼女が残っているのだろう。
それが、彼女の救いになればと思う。
とうとう夕陽は沈みきって、夜の帳がおりた。
私は、彼をもう一度呼ぶ。
あぁ、と。わかっている、と返事をして彼は花束を優しく海に投げた。
彼が海に背を向ける。
彼は泣いていなかった。唇を噛みしめて、耐えているようだった。
帰ろう。もう暗くなったよ。
あぁ。あぁ。彼は返事こそすれ動くことはなかった。
私は彼が好きだ。
彼が、彼女を忘れられないことは知っている。
きっと、一生この想いは届きはしないだろう。
でも、それでいい。これは私だけの秘密で、私だけの物語なのだから。
- 338 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:39:58 ID:vizZ4Uac0
ごう、強い風がふいた。
思わず髪をおさえると、彼女の笑い声がした。
ありがとう、さよならと、笑っている声がした。
彼と視線が合う。彼も聞こえたらしい。
顔を歪めて、彼は泣いた。彼女の名を叫んで、泣いた。
私も、泣いた。おそらく私の顔はぐしゃぐしゃだ。
お姉ちゃん、お姉ちゃん。子供が姉を探すように、泣いた。
彼が私を抱きしめて、二人で泣いた。
どれほどたったかわからない。未だしゃくりあげる私の頭を、彼が撫でる。
帰ろう。暗くなってしまった。
うん。うん。彼が私の手を引いて、車へ向かう。
波の音に混じって、幸せになれ、と彼女の声が聞こえた気がした。
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