■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└( "ゞ)瞳の中の水晶体のようです
- 468 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:39:48 ID:ScYRpGfw0
( "ゞ)瞳の中の水晶体のようです
- 469 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:40:28 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ「ネ」
( "ゞ)「はい」
ハハ ロ -ロ)ハ「またネ、探して欲しいノデス」
( "ゞ)「水晶を」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ。薄くなッテきたノデ」
( "ゞ)「じゃ、いつも通りに」
ハハ ロ -ロ)ハ「いつも通り、前金デス」
( "ゞ)「はい」
ある病が流行り出したのは、数十年前のことだった。
目にある水晶体――レンズ、遠近を調整する機能が溶けてゆく、不治の病。
当然、視力は失われ、瞳は何を映すこともなくなった。
だが神経や他の器官に何ら影響はなく、治す方法も薬も分からず、ただ病気が蔓延していった。
- 470 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:41:10 ID:ScYRpGfw0
( "ゞ) カツン
対策が見つかったのは、病が大きくなって、一年後のこと。
特定の場――AAで採れる水晶を削り出し、瞳の中に埋め込む。
そうすることで、人々は視力を回復させた。
( "ゞ) カツン
更には、形を眼鏡にする方法も生まれ、現在ではこれが一般的になっている。
AA産以外の水晶も、特殊な加工を施すことで利用可能になったのも大きい。
( "ゞ) カツン
( "ゞ)「……ふむ。これくらいかな」
デルタの仕事は、AA産の水晶を、採掘すること。
特殊な加工をせずとも使える、その水晶を扱うこと。
- 471 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:42:16 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ「やっぱり、アナタの水晶はキレイ」
常連のハローはそう言う。
デルタにとっては、よく分からない。
どれも同じに感じるのに。
ハハ ロ -ロ)ハ「別ニ、分からなくてモいいデス」
水晶を光に透かしながら、ハローは上機嫌だった。
発音に癖のある彼女は、よりよい水晶を求め、わざわざ外国までやって来た。
そこでデルタと出会い、今ではすっかり馴染んでいる。
何年経っても、なかなか発音はよくならないが。
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ」
( "ゞ)「……? 何です、これ」
ハハ ロ -ロ)ハ「後金と、プレゼント」
( "ゞ)「ふぅん?」
ハハ ロ -ロ)ハ「聴いてみテ。気に入ってくれるト思いマスヨ」
からからと澄んだ音を立てて、ドアベルが鳴る。
ハローが出て行った。
- 472 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:43:01 ID:ScYRpGfw0
テーブルの上に手を伸ばす。
ほんの少し、ひんやりしている。
手の平程の、卵型のそれを、耳にそっと当てる。
――色が視えた。
ざあ、ざあ。
るる、りり、
沢山の、大量の情報量。
そのくせ、静かにも感じて。
りん。
- 473 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:43:54 ID:ScYRpGfw0
( "ゞ)
引き剥がすように手を引くと、それは治まった。
- 474 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:44:55 ID:ScYRpGfw0
( "ゞ)「……全く、あの人は」
何とも悪戯好きな人だと、苦笑する。
今、一般的に流通している眼鏡に使われる、水晶。
特殊な加工を施し、だが眼鏡型に削る前の、水晶体。
それをハローは置いて行ったのだ。
そのまま目に使えば普通の人は倒れるだろう。
流通が始まった頃、事故が起こった。
見えすぎて、その情報量にパンクを起こした人がどっと増えた。
その人たちは例外なく、眼鏡ではなく目に直接、水晶を埋め込んでいた。
( "ゞ)「もう少し、量を減らしましょうかね」
引き出しにしまい込んで、デルタは立ち上がった。
- 475 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:45:53 ID:ScYRpGfw0
眼鏡が普及して、それでも尚、問題は残った。
水晶に色があるように、眼鏡にも色がついた。
けれどもそれは、酷く綺麗なものだった。
最初は見たものを歪めると言われていたのに、今やそれが当たり前。
人は皆、違うものを見始めた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ハァイ」
( "ゞ)「お早い来店ですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「この前ノ感想、聞きたくテ。ドウ?」
( "ゞ)「オルゴール代わりにしようかと思いますよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「削るノはやーい」
ハローの持つ眼鏡は、デルタが採掘したものだ。
澄んでいるノ、とハローは言う。
何が違うのか、相変わらずデルタには分からない。
- 476 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:46:47 ID:ScYRpGfw0
( "ゞ) カツン
AAに出かけては水晶を掘る。
( "ゞ) カツン
それは手探りの作業。
( "ゞ) カツン
デルタには、水晶がぼんやりした光に感じる。
光など見たのは随分と前だから、本当に光と同じかは分からない。
( "ゞ)「……ふぅ」
デルタは、水晶体を失ってから、ずっとそのままだった。
- 477 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:47:39 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ『どうして、デス?』
以前、会って間もない頃、ハローにそう訊かれた。
( "ゞ)『さして理由もありませんよ』
視力は失った。
けれども、暫くすると、別なものが視えることに気付いた。
ぼんやりとした光。
そして、水晶から聞こえる音。
他の人は、気づかないのだろうか。
ハハ ロ -ロ)ハ『ワタシは、アナタが見せてくれる、そのセカイが愛おしいノデス』
逆にハローに尋ねると、そう答えが返ってきた。
お互い、答えにもならない答えを返し、それできっと分かりあえた。
- 478 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:48:23 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ「元気?」
( "ゞ)「ええ。あなたは」
ハハ ロ -ロ)ハ「元気デスヨ。アナタの水晶のおかげで」
( "ゞ)「そうですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「アナタがココに居たから、ワタシはココに来て、パートナーとも出会えたノデ」
( "ゞ)「のろけるのは珍しいですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「こんなモノ、のろけにもならないデスヨ。今度も二人分、注文しますネ」
( "ゞ)「ええ、ではいつも通り」
ハハ ロ -ロ)ハ「いつも通り」
からんからん。
- 479 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:49:08 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ「ネ」
( "ゞ)「なんです?」
ハハ ロ -ロ)ハ「自分のセカイ、観てみたくナイ?」
( "ゞ)「ちょっとは思いますが。水晶体を抉り出したくなるかもしれないので」
ハハ ロ -ロ)ハ「メガネはなし、デスカ」
( "ゞ)「溺れてしまいそうな気がするんです」
色に。
音に。
世界に。
たまに聴くくらいが、きっと丁度いいのだ。
- 480 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 00:49:48 ID:ScYRpGfw0
ハハ ロ -ロ)ハ「そうデスカ」
( "ゞ)「ええ」
ハハ ロ -ロ)ハ「それじゃ、マタ」
( "ゞ)「お気を付けて」
からりからり。
今度こそ、ハローが出て行った。
ゆっくりと肘をついて、見えない目を閉じる。
小さな囁きのような音と、柔らかな光。
それだけで十分なのだと、ただそれだけのことだった。
了
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