ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです



※『川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです』の続きです。

602 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:08:28 ID:xCXCgpMI0

 (´<_` )

 玄関の扉をあけて、男はまばゆい朝の光りを一身に浴びた。
 朝霧をつんざいて昇る太陽が、森の黒ずんだ緑をつややかに照らし出している。

 男は寝起きの目で、夢の続きを見るように。
 花かごを小脇にかかえて、玄関のアーチをくぐって来る少女の姿をぼんやりと眺めていた。

 その少女は町の刑務官だった。
 男性の家にあがるには口実が要るので、少女は新鮮な花かごを持って来るのだった。

 ノパ听)

 編んだ赤色の髪を胸のほうに垂らして。
 静かな力を帯びた黒いまばゆい瞳で。少女は男を見上げている。

603 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:09:27 ID:xCXCgpMI0

 (´<_` )

 少女を家に上げると、何かを思い出したように男の顔はかがやきだした。
 そうだ。朝八時きっかりに訪れるこの少女に、男は一杯のアールグレイをご馳走する習慣があった。

 ノパ听)

 しかし、刑務官の少女は。歌を口ずさみ紅茶を淹れる男に、ほんとうはこう告げたいのだった。
 今まで他人の名を使って、他人の服を着て、あなたを騙してきたこと。あなたにほんとうの身分を偽ってきたこと。
 あなたの愛情の陰に隠れてきたことを。白状する気で、少女は今朝、やって来たのだった。

 花かごを提げて。気詰まりすることなく、少女は語り出した。
 昨夜は、とある囚人を銃殺刑に処しました、と。

604 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:10:29 ID:xCXCgpMI0

ノパ听)「私の名前は素直ヒート。処刑人の、素直ヒートです。

     ご存じでしょうが。死刑執行人は、死刑囚に次ぐ穢れ。……いいえ。死刑執行人は、町の穢れの収斂点。
     私は神様でもない、ただの人間。人間の始まりと終わりを結び付けるのは、ほかならぬ神様の仕事です。
     ですから、自然。死刑執行人は忌避の対象となる」

ノパ听)「……。十一年前、私が七歳のときです。冬の末でした。
     父母は私たちを捨てて、汽船で町を発ったばかりでした。町外れの貧民窟に、私たち四姉妹はいました。

     長女は、脚を悪くしていたようだった。次女の私は、三人の姉妹の空腹を癒すために、その晩町に出ました。
     その晩はとある囚人の死刑執行の日取りで、暗い緊張した町では人は、めくらのようにぐずぐずとするので
     窃盗をはたらくにはまたとない好機でした。……」

605 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:11:34 ID:xCXCgpMI0

ノパ听)「町の往来は、一面雪景色でした。まだ降りしきる粉雪のなか、
     私にはその黒い人かげが幻としか思われなかった。
     血ぬれた大鎌に手をかけて、黙ってパイプを吹かすその姿は。まぎれもなく首斬り役人のそれでしたから」

ノパ听)「黒装束、大鎌から立ち昇る血液の蒸気、刑場からこだまする警笛の音。……」

ノパ听)「……。不思議でした。そこで私は、恐怖を微塵とも感じなかった。
     むしろ私は、処刑されたり、斬首されたり、自分が殺されるところばかりを思い描いていた。
     私の目は、首斬り役人を遠巻きにして行き過ぎる人々など見ていませんでした。
     たったひとりで、断頭台に立つところを。あの大鎌に、首を刈り取られるところを。私は思い描いていた。……」

ノパ听)「何故あそこに首斬り役人がいたのか、分からないけれど。私はあるひとつのことを思ったのです。
     これこそ。神様のお導きだと。ここで私は、あの人に殺される運命にあるのだと。

     私は報われたかったのです。蔑まれ、盗みを繰り返すなかで。
     そんな毎日を生き抜くことに、私は知らず知らずのうちに疲れてしまっていたのでしょう。
     あの時。死んでいさえすれば、たしかに私は夢と理想で一杯のまま死ねたことでしょう」

ノパ听)「けれど私は、貧民窟で待っている姉妹たちのことを思い返してしまった。
     ……。いきなり現実に呼び戻されました。私はとたんに死を恐れて、とうとうその場をたち去った。
     以来、私の心は凍り付いてしまったようだ。死ぬべきところで、満足に死ねなかったから。……」

606 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:12:55 ID:xCXCgpMI0

 (´<_` )

 少女が語るのを、男は椅子に凭れて腕組みしながら、静かな神秘めいた様子できいていた。
 静寂のなか、紅茶から立ち昇る湯気が、少女の顔を白っぽくぼかしてみせている。

 次第に途切れがちに、低声になっていく少女の言葉をきいて。
 男の目には安らぎとよろこびの色が宿り、それは呼吸するように暗くなったり明るくなったりして瞬き出した。
 すんすん、と鼻を鳴らしている少女に、男はこう語り出した。

(´<_` )「そうです。まさにその晩のことです。僕は今のきみと同年齢の、十八歳の少年だった。
     ご存知でしょうか? その首斬り役人というのは、ほかならぬ僕のことだということに」

(´<_` )「……。冬の末のことでしたね。その晩の死刑囚というのは、なんと。僕の兄だった。
     兄は親殺しの罪を問われて、昨日の今日で町に死刑判決を言い渡されたのでした。
     しかし。ちょっと待ってくれ、弟に兄を殺させる気なのか? と僕は問い詰めました。
     これでは。僕に親殺しさせるのと、ほとんど変わらないではないですか。……」

(´<_` )「公開処刑ですから。これには見せしめの意味合いがあったわけですね。
     町は親殺しの罰を見せつけるには飽き足らず、家族の崩壊する様まで見せようとしていた」

(´<_` )「結局、僕は兄の首を斬り落とした。以来、僕の心も凍り付いてしまったようだ」

607 名前:ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:14:23 ID:xCXCgpMI0

 時間の洗練を受けた、男の述懐にはどこかさっぱりとしたものがあった。
 男は節くれだった手で、茫然と男を見つめている少女の、小さな体をだきよせた。

(´<_` )「あなた、昨夜はとある囚人を銃殺刑に処した、と言いましたね。
     それはもしかすると、あなたの実の姉ではありませんでしたか?」

 男はいとおしそうに、少女の悲痛にゆがんだ顔を眺めた。

ノハ )「私は妹たちに一生の傷を……。そして、姉を……」 

(´<_` )「お眠りなさい。昨夜は寝付けなかったでしょう」

 耳もとでささやくと、男は体の強張った少女をやさしく抱きかかえ、ベッドルームまで運んでやった。
 ゼンマイ仕掛けの時間のなかを生き抜き、凍っていった彼らの恋は、燃え上がることもない。
 男は枕もとに寄り添って、呪詛のようにうわ言を垂れる少女が寝付けるまで、頭を撫でてやった。
 そんなことでさえ、ゼンマイ仕掛けの時間が成せる、空々しい愛情のようであった。

 ……。男はすっかり冷めた紅茶を、飲み干してしまって、少女の買って来た花かごを見やった。
 スミレの小さな花かごに、少女が野で摘んだのだろう、一輪の彼岸花がひょい、と顔を出していた。
 男はそれを摘み取ると、兄の遺影の前の花瓶に、念入りに挿した。……。



※『( ´_ゝ`)ミライソウゾウアニジャのようです』に続きます。

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