■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└人形魔導師は詠うようです
- 483 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:14:41 ID:mTtuDvlc0
彼は、詠う。
人形魔導師は詠うようです
- 484 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:15:21 ID:mTtuDvlc0
本に埋もれた部屋。大きな木の机の上にも本が所せましと置かれている。
軽く机の上を払ってカップを置く。相変わらず弟はコーヒーを淹れるのが上手い。
どさ、と本が床に落ちる音がしたが無視だ。あとで片付ければいい。
カラン、と小さく鐘の音が聞こえた。
どうやら店に誰か来たようだ。軽く溜息を吐いて立ち上がる。
前触れもなく扉が開いて弟が顔をのぞかせた。
(´<_` )「兄者、来客だ」
( ´_ゝ`)「聞こえているさ」
本で足の踏み場もない床をかき分けながら歩く俺に弟は眉をしかめる。
すこしは片付けたらどうだ、後でやるさ、
幾度となく繰り返した会話をして、店に向かう。
大体あと三日程すればこらえきれなくなった弟が部屋を片付けるだろう。
片付けてまた文句を言うことを見越して肩をすくめた。
- 485 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:16:03 ID:mTtuDvlc0
店に来たのは若い女だった。
近頃、娘の人形がしゃべるのだと言う。
( ´_ゝ`)「では、実際に聞いたわけではないのですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、娘が話しているのは聞こえるのですが…
私達の前ではしゃべらないのです」
ふぅむ、と腕を組む。
聞けば娘は5歳。そのくらいの歳なら、架空の人物と遊んでいてもおかしくない。
ただ、見過ごすわけにはいかない。彼等である可能性は捨てきれないのだ。
( ´_ゝ`)「わかりました、一度その人形を連れてきてもらえますか?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、明日にでも」
そう言って若い女は出て行った。
軽くコーヒーを飲んで、また溜息を吐く。
(´<_` )「どうだ、奴らか?」
( ´_ゝ`)「今ではなんとも言えないな。
まず、その人形をみてからだ」
部屋に戻る、と一声かけて階段を上がる。
片付けておけよ、という言葉は無視だ。
- 486 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:16:49 ID:mTtuDvlc0
ζ(゚ー゚*ζ「すいません、どうしてもこの子が離さなくて…」
ξ゚听)ξ「…………」
翌日、女は娘を連れてやってきた。
金の巻き毛を二つに結わえた少女は片手で母親の手を握り、もう片手に人形を抱えている。
( ´_ゝ`)「えーっと……」
ξ゚听)ξ「……ツン」
( ´_ゝ`)「そう、ツンちゃん。俺は兄者。
人形を調べているんだ。ちょっと貸してもらえるかな?」
ξ゚听)ξ「イヤ」
ζ(゚ー゚*ζ「こら、ツン!」
( ´_ゝ`)「どうして?」
ξ゚听)ξ「ブーンはわたしのともだちだもの。
かしたりできない」
- 487 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:17:30 ID:mTtuDvlc0
( ´_ゝ`)「そうか。じゃあ、俺もブーンと友達になりたいな」
ξ゚听)ξ「…………」
ツンは母親の手を離し後ろを向く。
ブーン、という人形と話しているようだ。確かに俺にそのブーンの声は聞こえない。
くるりとツンがこちらを見る。にこりと笑っている。
ξ゚ー゚)ξ「ブーンがね、ともだちになるならいいよって」
( ´_ゝ`)「そうか、ありがとう」
ツンが両手で人形を渡してくるのを丁寧に受け取る。
白い顔の、人形というよりはぬいぐるみに近い。にこやかな目が印象的だ。
( ´_ゝ`)「はじめまして、ブーン。
俺は兄者、君のともだちになりたい」
突如、頭の中に声が響く。
確定だ、これは、やつらの。
( ´_ゝ`)「おや、ブーン、怪我をしているね」
ξ;゚听)ξ「え!?」
ツンが慌ててブーンに触れる。
右肩にぱっくりと傷がついていた。
ξ;゚听)ξ「ど、どうしよう、ブーンがしんじゃう」
- 488 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:18:13 ID:mTtuDvlc0
( ´_ゝ`)「大丈夫さ、俺は人形を直せるんだ」
ξ;゚听)ξ「ほんとう!?ならはやくブーンをたすけて」
( ´_ゝ`)「だけど、ブーンの傷はひどいね。
これは今すぐには直せない、一日ブーンを預けてもらえるかな?」
ξ゚听)ξ「え…………」
ツンがブーンと俺を交互に見る。悩んで、泣きそうにブーンを俺に差し出した。
ξ゚听)ξ「…絶対、ブーンを元気にしてね」
( ´_ゝ`)「あぁ、もちろんさ。
じゃあ、また明日」
ツンは母親に手を引かれ名残惜しそうに帰っていった。
どうやら、袖に隠したナイフには気づかれなかったらしい。
(´<_` )「奴らか?」
( ´_ゝ`)「あぁ、頼む」
その一言で弟はすぐに準備に取り掛かる。まったく、優秀な弟だ。
コーヒーを飲み干し、二階へ上がる。
どうやら今日は眠れないらしい。
- 489 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:18:55 ID:mTtuDvlc0
儀式の時は黒いローブ、と決めたのは誰だったか。
顔も隠してしまうほどのフードをかぶりながらぼんやり考える。
両腕のブレスレットが、シャリンと鳴った。
弟が、人形を持ってくる。
机の上に置かれたそれに手をかざす。
『たすけて』
『たすけて』
『だれか、たすけて』
伝わってくる声に眉をしかめる。
兄者、と呼ばれた。弟に目をやると泣きそうに顔を歪めている。
この声は伝わっていないのに、何故か弟はいつも泣きそうだ。
安心させるために軽く微笑んで、人形に意識を集中する。
( ´_ゝ`)「助けよう、お前を」
( ´_ゝ`)「ブーン、お前の名前は」
『たすけてくれお』
『くるしいお』
『だれか、だれか、』
- 490 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:19:42 ID:mTtuDvlc0
ゆっくり、人形の中に意識を落とす。
特徴的な話し方をする男、泣きながら懇願する声。
十字架に磔になった、その姿。
( ;ω;)『だれか、だれか、たすけてくれお』
( ´_ゝ`)『名を言え』
( ;ω;)『ぼくはぶーん、ぶーん』
( ´_ゝ`)『違う、お前の真名を言え』
( ;ω;)『ぼく、ぼくは』
『ほらいぞん』
( ´_ゝ`)『ホライゾン、助けよう、救おう、お前を』
息を吸う。旋律を、奏でる。
これは、慈愛の歌。彼を救う、俺の懺悔。
ホライゾンの背にあった十字架が消えていく。
ぱたり、と気を失った彼を抱えて意識を浮上させる。
弟と視線が合う。安堵の色が見える緑の瞳を見つめて、軽く溜息を吐いた。
外から光が差し込み始めている。やはり、朝がきてしまったようだ。
- 491 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:20:26 ID:mTtuDvlc0
ξ゚听)ξ「ブーン!」
巻き毛を揺らしながらツンはブーンを抱える。
右肩を確認して、傷跡も残っていないことに目を丸くし、笑う。
ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう!」
( ´_ゝ`)「いえいえ、どーいたしまして」
よかったね、ブーンとはしゃぐ少女を横目に俺は女に向き直る。
( ´_ゝ`)「あの人形はどこで手に入れましたか」
ζ(゚ー゚*ζ「え?えーっと…主人がもらってきたものです。
それ以上詳しくは…」
( ´_ゝ`)「…そう、ですか。ありがとうございます」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、こちらこそ直していただいて…
これ、お代です」
ちゃり、と硬貨を置いて女と少女は去っていった。
少女に人形の声が届いていなかったことに安堵する。
本来ならトラウマになってもおかしくない。
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)「悪い、ちょっと寝るわ」
二階に上がる俺を弟は止めない。
おやすみ、とつぶやかれた声に軽く手をあげて返す。
寝室のベッドに倒れこむ。自然と目が閉じた。
- 492 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/07(火) 01:21:15 ID:mTtuDvlc0
笑う女。
燃える家。
光る、陣。
詠う声。
あぁ、人形が、泣いている。
(´<_` )「兄者!」
( ´_ゝ`)「…………なんだ」
(´<_` )「なんだではない、うなされていたぞ」
( ´_ゝ`)「……そうか」
怠い身体で起き上がる。ひどく汗をかいていたようだ。
喉もカラカラで、出る声はしわがれていた。
弟が差し出した水を飲んで、一息。
(´<_` )「……また、あの夢か」
( ´_ゝ`)「…………お前が心配することじゃないさ。
悪いがもう一眠りさせてくれ。まだ眠い」
弟の視線から逃れるように布団に潜り込む。
何か言いたげな素振りをみせたが、おやすみ、とつぶやいて弟は去っていく。
この苦しみを背負うのは俺だけでいい。
お前は、知らなくていい。
再び目を閉じたが、おそらく俺は眠れないだろう。
窓からのぞく月が、笑った。
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