ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
真夜中の散歩のようです。



702 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:25:44 ID:BY4V92dU0



真夜中の散歩のようです。


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703 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:26:32 ID:BY4V92dU0

この街に、本当の闇など存在しない。

人の住む家から漏れる明かり。
道を照らす街灯。
どんな時間でも開いている店。

安全で便利なことはありがたいことだけど、人工的な光は私の心の肌を荒れさせてしまっている。

安らげない。
とでも言うのだろうか。

それでも私の日課となっている真夜中の散歩で歩くこの場所は、闇ではないけれど、どこか安らぎを覚えた。

大陸を分かつ大河。
それに沿って続く道。
国境を兼ねる河に沿うこの道には信号もないし、街灯もほとんどない。
『向こう側』を警戒する無粋な建物とライトは一定間隔で存在するけれど、深く広いこの河はそれすらも吸い込んで、水面のきらめきに変えてくれている。

いや、変えてくれて『いた』。

向こう側に出来た河沿いに広がる工場が、昼夜を問わずし光りを漏らしてから、冷たい光りが水面を反射していた。

漏らしているのは光だけじゃない。

煙、音、廃液。

不愉快なものが垂れ流しになり、そして空を、土を、水を汚していた。

それは勿論不愉快で悲しいことだけど、心の安らぎとなっていた場所を汚されたことに、一番怒りを覚える。

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705 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:27:28 ID:BY4V92dU0

「おや姉ちゃん、こんな時間にお散歩かい」

この街に来てから毎日のようにこの道を歩いたが、こんな輩が出始めたのは工場が出来てからのような気がする。

少なくとも、私は遭遇したことがなかった。

「なんだよ無視かよ〜。こんな所に女一人じゃ危ないよ。おいちゃんの部屋で、朝まで飲もうよ〜。おいちゃんのテクニックで寝かさないよ!」

アルコールの混じった臭い息を吐きながら、男が私に近付く。

「お?ねえちゃん珍しい髪の色をしてるねぇ。もしかして『向こう側』の出身かい?おいちゃん『向こう側』の女を抱くのは初めてだよ。うれしいねぇ。こっちの女とは締まり具合も違うのかな」

工場の明かりに照らされている脂ぎった顔。
薄い髪の下の頭皮が脂で照っていて、見ても聞いても嫌悪感しか生まれない。

「なんだい、なんだい、嬉しくて言葉が出ないのかい?今日は何回いかせてあげれるか…」

私に触れようとした瞬間に、最後まで喋ることも出来ず、地に倒れる下品な男。

「……殺したの?」

「いえ、気を失っているだけです」

「そう」

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706 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:28:39 ID:BY4V92dU0

襲ったのは、闇。
人のはずなのに、いつしか彼は闇になっていた。

小さかった頃、幼馴染として遊んだときには青空がよく似合う男の子だったのに。
空を飛びたいって言って両手を広げて走ったり、そのまま崖からジャンプして大怪我をしたりするような、男の子だったのに。
どんな時にも笑顔で、変な喋り方をして私を笑わせてくれて、癖になって普段でもそんな喋り方になってしまって二人で笑いあったりしたのに。
いつしか昼間でも彼の周りには太陽の光りが届かなくなっていた。

「姫」

幼馴染の男の子が、私を守るために育てられていたと知ったのは、いつだっただろう。

「お怪我はございませんか」

幼馴染の男の子が、私に敬語を使うようになったのは、いつからだろう。

「姫?」

幼馴染の男の子が、私の横に立ってくれなくなったのは、いつからだっただろう。

「大丈夫よ」

幼馴染の男の子が、私の目を見て会話をしてくれなくなったのは、いつからだろう。

「安心いたしました」

幼馴染の男の子が、半そで半ズボンを着なくなって、黒いスーツばかり着るようになったのはいつからだろう。

「ありがとう」

「いえ。それが私の使命ですので」

きっと、私が自分のことを『国を継ぐべき姫』なんだと知ったとき。

あの時から、きっと。

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707 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:29:29 ID:BY4V92dU0

「姫、準備が整いました。」

「そう。ご苦労様」

河向こうの工場を見る。

今から私が行うことが後世にどう伝わるのかわからない。

卑怯な手段で国を追われた姫が自分の国を取り戻したと賞賛されるか、暴虐の限りを尽くして追放された王女が最後の足掻きをしたが返り討ちにあったと嘲笑されるか。

でも、歴史を作るのが勝者だというのなら、私は勝者になってみせる。

父を殺して首を晒し、、母を犯し殺したあの男を許すことなんて出来ない。

絶対にあの男を殺し、国を取り戻して見せる。

たとえ、私自身が血に染まろうとも。

「姫」

「ええ」

急かすのではなく、無機質に私に声をかけるかつての幼馴染。

でも知っている。
この人は、いつまでもどんなときでも私のそばにいる。
私の影の中に居て、いざという時は外に出て私を守ってくれる。
私を覆って、安らぎを与えてくれる人。

わたしが合図をすれば、全てが始まる。
始まりへの始まりか。
終わりへの始まりか。

震える肩。
怯える心。

決めたことなのに、絶対にやらなきゃいけないことなのに。

「……ねぇ」

「なんでしょう。姫」

「ねえ、ブーン。これが終わったら、また二人で青空の下を歩けるよね」

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708 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:30:12 ID:BY4V92dU0






( ^ω^)「…あるけるお、ツン。二人で歩いて、走って、空を飛ぼうお」

ξ゚听)ξ「…うん、二人で飛ぼう。崖から落ちないように気をつけなきゃだね」





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709 名前: ◆dKWWLKB7io[] 投稿日:2013/05/03(金) 23:30:56 ID:BY4V92dU0

一瞬だけど、彼の目を見れた。
私を見つめる、にこやかな優しい目を。
ここが闇に包まれていないことを、初めて感謝した。

大好きな闇じゃないけど、大好きな青空に会うために、命をかけよう。

「……はじめなさい!!」

周囲の闇に紛れる仲間たちに聞こえるように大きな声で号令し、そして大きく上げた右手をまっすぐに下して河向こうの工場を指差すと、爆発が起きた。

爆発は連鎖して工場を炎で包む。

反撃の狼煙にしては大きすぎるし派手だけど、許してもらおう。

闇を取り戻して、青空を手にするためだから。



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