■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└鏡恐怖症のようです
- 303 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:50:43 ID:SD9i4iGsO
- 僕は鏡が怖い。
自分しかいない部屋の中に鏡があると、誰かに見られているんじゃないか、と不安になった。
顔を洗うとき鏡があると、自分が自分でないような気がした。
だから、僕の家の鏡は小さな手鏡1つだけ。
それも滅多に使うことは無く、机の引き出しの中で埃を被っていた。
- 305 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:52:14 ID:SD9i4iGsO
- 両親が3年前に他界し、兄弟がいない僕は孤独だった。
学生時代は友人がいたものの、今は疎遠になっていた。
その為、滅多に人と会話することは無い。
会社で事務的な会話すらしない僕が、唯一話す場所が近くのコンビニだった。
僕がこのコンビニに通う理由は近いことと、もうひとつ。
(-_-)(今日もあの子は……いた)
从 ゚∀从
彼女はバイト。
名前は知らない。年も何も知らない。
それでも良かった。
从 ゚∀从「624円のお買い上げになります、商品はこちらになります」
(-_-)「ありがとう」
店員と客の他愛もないやりとり。
でも僕は、この声が聞けるなら何も知らなくていい。
彼女がいるから、生きている。
そう言っても過言ではなく、彼女は白黒な僕の生活の、唯一の色だった。
- 306 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:53:05 ID:SD9i4iGsO
- ある日、いつものように会社帰りにコンビニに寄って夕飯を選んでいた時だった。
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、今日もいる」
ζ(゚ー゚*ζ「ハイン、頼んだよ」
从 ゚∀从「はいはい」
ζ(゚ー゚*ζ「私、本当にあの陰険鮭のレジしたくない」
僕は手に取ったおにぎりを見ると
いつもの鮭があった。
- 307 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:54:31 ID:SD9i4iGsO
- 从 ゚∀从「624円のお買い上げになります、商品はこちらになります」
(-_-)「……ありがとう」
彼女が言っていたわけではない。
彼女はいつも通りの言葉をくれた。
それはわかってる。
だけど僕にはいつもと違う言葉に聞こえた。
それから、そのコンビニには寄らなかった。
頭は、耳は、気持ちは寄りたかったが、体が拒否した。
- 308 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:56:02 ID:SD9i4iGsO
- 僕の生活に色が消えてから数日後、とてつもない孤独感が僕を襲った。
どうやら僕は彼女に完全に依存していたらしい。
孤独感をなんとかするため、なんとか昔の友人に連絡を取ってみた。
しかし
( ^ω^)「お、ヒッキーかお久しぶり」
( ^ω^)「あー、今の時期忙しいからまたそのうち連絡するお」
そうやって軽く流され、孤独感は強くなるだけだった。
友人は彼らの新しい輪の中で生活していた。
過去に縛られ、憧れていたのは僕だけだった。
- 309 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:57:07 ID:SD9i4iGsO
- (-_-)
僕はどうして学生を卒業する前に死ななかったのだろうか。
生きる意味があるうちに死んだ方が幸せだった。
今死んでも誰も泣くことは無いだろう。
死んだら泣いてくれる人がいるうちに、死にたかった。
- 310 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:59:00 ID:SD9i4iGsO
- 取り敢えず準備だけ、とロープを探しているときに、見つけた。
(-_-)(鏡……)
昔は一人になれないから嫌いだった鏡。
今は一人だけの状況。
鏡を見つけてから、僕の日課は始まった。
- 311 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 21:59:52 ID:SD9i4iGsO
- (-_-)「本当にさ、電車のあのおじさん、回りを見ろよな」
(-_-)「あの兄ちゃんのイヤホン、音漏れしてんだっての」
僕は鏡の中の自分に、愚痴を言った。
僕が悲しい時は悲しそうな顔。
僕が辛い時は辛そうな顔。
僕を完全に理解してくれる唯一の人が鏡の中にいた。
僕は自分の中の孤独を消すために、鏡の中の僕へ喋り続けた。
- 312 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:00:48 ID:SD9i4iGsO
- 鏡を見つけてから数ヶ月、僕は延々と鏡の僕に話しかけた。
すると
(-_-)「煙草を吸うなら部屋を――?」
見間違いだろうか。
僕は最近笑うことなんか無かった。
この時も笑うような話題ではなかった。
けど、鏡の僕は笑っていた。
- 314 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:01:43 ID:SD9i4iGsO
- 普通なら恐怖を感じるのだろうか。
わからない。
この時の僕には恐怖なんて無かった。
ただ、鏡の僕が意思を持ったようで、嬉しかった。
それからはさらに話しかける量を増やした。
言葉のわからない赤子に話し方を教えるように。
次第に鏡の僕は表情を増やし、自分の意見さえ言うようになった。
……あれ? 僕が勝手にそう思ってるだけだっけ?
まぁ、どうでもいいか。
この孤独さえ無くなれば。
- 315 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:03:06 ID:SD9i4iGsO
- 僕が家に籠って2週間。
そろそろ食料が尽きてきた。
(-_-)「あー、買いに行かないとな」
(-_-)『なるべく早く帰ってきてくれよ、一人は暇だから』
(-_-)「はいはい、んじゃ行ってくる」
(-_-)『いってらっしゃい』
(-_-)「なんだ、今は夕方なのか」
(-_-)「えーと……道はこっちであってたかな」
道行く人が僕の方を不審そうに見ていたが、どうでもいい。
僕はもう一人じゃないから。
- 316 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:04:05 ID:SD9i4iGsO
- 交差点に出て信号待ちをしていると、カーブミラーの中に僕がいた。
ちょっと距離があったので、話しかけはしなかった。
(-_-)(これだけ遠いと、話しかけても聞こえないだろうな)
少しして後ろから女の子が来た。
鏡を見ると、僕と女の子が一緒に信号待ちをしている。
(-_-)(鏡の僕には彼女がいるのか……)
さすが鏡の中の僕。あとで色々聞いてみよう。
- 318 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:06:14 ID:SD9i4iGsO
- 鏡を見ながら質問を考えていると、車が僕らを目掛けて走ってくるのがわかった。
鏡の彼女はヘッドホンをしていて気付いていない。
運転手も気づいている様子はない。
このままでは、引かれる。
(-_-)(彼女が引かれたら……)
悲しむだろうな。
鏡の中の僕は僕の友達。
彼が悲しむと僕も悲しい。
ならばすることは決まっている。
僕が彼女を突き飛ばした瞬間、衝撃が僕を襲った。
- 319 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/06(月) 22:07:21 ID:SD9i4iGsO
- 目を開けると、鏡が目に入った。
そこでは、横になる僕のそばに寄り添う彼女がいた。
眠る僕の手を握っている彼女。
从 ;д从
ああ、あの子は彼の彼女だったのか。
なら良かった。
欲を言うならば、僕は今の彼のような状況で息を引き取りたかったが、それは叶うまい。
大切な友人の彼女を守れた僕にも生きる意味があったんだ。
そう思うと、僕は眠気を感じ、眠りについた。
鏡恐怖症のようです 終
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