ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
鏡恐怖症のようです



77 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:32:17 ID:W/PuJesc0
がしゃあん。
大きな音を聞きつけた、白い服の男と女達が部屋に駆け込んでくる。
大丈夫ですか。
そんな風に声をかけられて、男に手を持ち上げられた。
いつの間にか点けられた電気の灯りで、自分の手からだらだらと流れる血が見えた。
鈍く痛む手を圧迫されて、吐き気がした。
 
 

 
 
('A`)「大丈夫かよ」

( ・∀・)「そう言うお前の目はちゃんと見えてんの?」

('A`)「あー……」

78 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:33:23 ID:W/PuJesc0
小さく声を漏らすドクオから視線を外して、俺はベッドに寝転がった。

俺の病室は変わっていると思う。
窓は全て閉じられている。
その上カーテンまで閉められているのだから、あまり部屋の雰囲気は明るく見えないし、空気も悪い。
換気するなら病室の扉を開けるしかないのだ。

視界の端でドクオが俺を見て、体を強張らせた。
ドクオが見遣った箇所に視線を向けて、納得する。
気付かれた、と言うようにドクオが横を向いた。

ドクオの視線は、俺の手に巻かれた包帯にあったようだった。

79 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:35:08 ID:W/PuJesc0
('A`)「……なあ、モララー」

( ・∀・)「何」

('A`)「お前、ここから出る気ある?」

( ・∀・)「……」

ぼそぼそと、視線を逸らしながら。
よくもまあそんな調子で俺より早く退院できたものだな、と感心する。

( ・∀・)「無いよ」

('A`)「……」

80 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:36:47 ID:W/PuJesc0
( ・∀・)「無い」

('A`)「そうか」

念を押すように繰り返すと、ドクオは大きく溜息を吐いた。
ドクオはそれだけ聞いて帰って行った。
一体何がしたかったのだろうか。

俺はドクオの去った後で、花瓶に活けられた花を一本、また一本と潰す作業に没頭した。
 
 
 
 
 
どうやら俺が手を怪我することになった原因は、新人の看護婦にあったらしい。

81 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:38:15 ID:W/PuJesc0
朝に日光で目が覚めて――窓もカーテンも閉めているから入る筈がない――瞼を開けると、知らない女がいた。
「おはようございます、いい天気ですよ」なんて言って、笑っている。
その手には全開にされたカーテンの端が。

後から見慣れた看護婦が入ってきて、俺がベッドから見上げることができる範囲の窓のカーテンを閉めた。
そしてその知らない女を連れて部屋から出て行った。
ぴしゃりと扉を閉めて、その後見慣れた看護婦の叱るような声と知らない女の謝る声が聞こえてくる。

俺はベッドから起き上がって床に足を着けた。

82 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:39:06 ID:W/PuJesc0
裸足の足に床はひんやりと冷たい。
寝起きの体を覚ますように勢いよく立ち上がって、まだ閉められていない、開けたままのカーテンの方へと歩く。

手を怪我してから、まだ会ってないと思ったからだ。

( ・∀・)「やあ」

川д川

あいつは変わらずそこにいた。
俺の肩の少し後ろで、前髪で隠した目元をじとりと覗かせている。
あいつは俺の手を見て、はっとしたように肩を揺らして小さく唇を噛んだ。

83 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:40:19 ID:W/PuJesc0
( ・∀・)「なんだよ」

川д川

あいつは何も言わない。言えない。
何かを言うように口をぱくぱくと動かすけれど、俺には何も聞こえてこない。

( ・∀・)「お前、ずっといるよなあ」

川д川

また何かを言っているようだった。
言っているようだったけど、そろそろ体に走る震えと、粉々に割って見えなくしてしまいたいという衝動が鬱陶しかったから。
俺は黙ってカーテンを閉めた。

84 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/05/05(日) 22:41:33 ID:W/PuJesc0
ぶるぶると震える、包帯だらけの拳をもう片方の手で押さえて、膝を折る。
窓がある壁に背を預けて、ずるずると座り込んだ。

鏡なんか嫌いだ。
だって、いつ見たって。
一緒に移るあいつがいるのだから。

窓硝子越しに、鳥の鳴き声が聞こえて、まだ朝だったということを思い出す。
それと同時に腹が鳴った。腹減ったな、そう呟いた声が1人の病室にこだまする。

退院の日は、きっとまだ来ない。
 
 
 
 
 
鏡恐怖症のようです



▼ 支援イラスト
( ・∀・)川д川  『( ^ω^)2013年 突発ゴールデンウィーク企画のようです』 スレ>>533より


※『あの子は笑わないようです』に続きます。

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