ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
(゚、゚トソンどうしようもなく広いこの世界、のようです



※『川 ゚ -゚)明日に追いつけないようです』も合わせてどうぞ。

880 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/04(土) 21:36:43 ID:BANirG.UO
スコープの中に映る世界、それが私の全てだった。

何時から、どうして、そのように生きるようになったのかは忘れてしまった。
物心がついた頃には既にライフルの分解と組み立てができるようになっていた気がする。

組織への帰属意識なんてものはなかったが、任務は淡々とこなした。
狙撃の瞬間に映る景色、それだけが私を現世に留まらせていた。

川 ゚ -゚)「相変わらず変わり者だな。まあ、私も人のことを言えた義理ではないが」

いや、もう一つ私を繋ぎ止めるものがあった。
年の頃が近いということもあったのか知らないが、昔から彼女だけは私に懇切と話し掛けてきた。

(゚、゚トソン「…………」

川 ゚ -゚)「無視か、もう少し愛想よくはできないのか」

(゚、゚トソン「……次の任務が終わったら、引退するそうですね」

川 ゚ -゚)「ん、ああ、金も十分貯まったしな。気楽に余生を楽しむとするよ」

(゚、゚トソン「…………」

川 ゚ -゚)「お前も一緒に引退するか? お前一人分ぐらいなら私が養ってやってもよいが」

(゚、゚トソン「いえ、私の居場所はこれの中だけです」

組み立て直したライフルを掲げたあの日、そこが私と彼女の分水嶺だったのだろう。

881 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/04(土) 21:38:28 ID:BANirG.UO
それから数日後、宣言通りに彼女はいなくなった。
引退したら旅をしたいなどと、以前口にしていたことを思い出す。

彼女曰く、何でもこの世界には美しい風景とやらがあるらしい。
彼女曰く、何でもこの世界には美味しい食べ物とやらがあるらしい。

しかし、私の世界にそんなものは存在しない。
ショット、クリア、ショット、クリア、ショット、クリア、悪人も、善人も、女も、子供も、ショット、クリア。
機械のようにただただそれを繰り返す。

(゚、゚トソン「……ショット」

今日もM24のスコープは私に人が倒れる姿を映し出す。

(゚、゚トソン「……クリア」

だがいつしかそれが、無味乾燥したものに変化したよう感じるのはなぜだろう。

彼女がお疲れと声を掛けてくれた頃はそんなことなかったのに。

882 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/04(土) 21:40:32 ID:BANirG.UO
彼女がいなくなって一年が経過するだろうかという時期に、私は新たな任務を授かった。

標的は日本に住む女子高校生。
私とさして歳は変わらないようだが、そんなことに何の感慨もなかった。
これまでも女、子供は幾人かクリアしている。

日本へ渡り下見を済ませてから数日が経つと、決行日当日がやってきた。
対象が通過するであろう道の、800m離れたマンションの屋上を私は狙撃ポイントとして選択した。

気温13、湿度57、風速2、北東の風。
風速や風向きの変化などに合わせてその都度レティクルを調整する。

チャンスは一度きりの高難度ミッションだが緊張はない。
結局これも私の世界では、日常のワンシーンにしか過ぎないのだから。

そんな私の思いとは裏腹に、想定外の事態が起きた。

川 ゚ -゚) ζ(^ー^*ζ

標的と談笑していると思われる彼女の姿、一年ぶりに目にする彼女の姿。

手に汗が滲む。
どういうことだ、まさか偶然ということはあり得ないだろう。
引退したのではなかったのか。

(゚、゚トソン「そうか、これが彼女の最終任務……」

私は保険というわけだ。
彼女がしくじった時の保険、別に悪い気はしない。
世話になったこともある、花道に彩りを添える程度の礼はしてもバチは当たらないだろう。

その反面保険など無意味だとも感じた。
それ程までに彼女の殺しは正確で、失敗などしようはずもない。

(゚、゚トソン「……?」

しかし、ここでもう一つ想定外に遭遇する。

883 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/04(土) 21:43:01 ID:BANirG.UO
彼女の位置取り、あれはまるで近隣の狙撃ポイントとなり得る場所全域から標的を庇っているように見える。
このままでは私といえども標的のみをクリアするのは難しい。

(゚、゚トソン「……なぜ?」

動悸が加速すると同時に、刻限が迫って来る。
だがそれでも彼女から殺意が見えない。

なぜ、どうして、時間がない、いけるか、しかし撃てば彼女が、しかし撃たなければ私の世界が壊れてしまう。
もう猶予はない、確実ではないが標的をクリアできる可能性はある、このトリガーを引けば私は――

(゚、゚;トソン「うああああああぁぁぁっ……!!」

スコープの中に映る世界は、今日も人が倒れる光景を私に見せた。

彼女が血を流して倒れている、庇われた標的が懸命に声を掛けているがあれではもう助からないだろう。

(゚、゚トソン「保険の保険か、やってくれる……」

結局、私は自分の世界を裏切った。
これではもう二度とスコープを覗くことなどできない。

任務を放棄した私を組織は処断するだろう。
だがわざわざ捕まってやる必要もない。

(゚、゚トソン「いつか彼女が夢見たように……旅にでも、出てみるか」

彼女曰く、何でもこの世界には美しい風景とやらがあるらしい。
彼女曰く、何でもこの世界には美味しい食べ物とやらがあるらしい。


彼女曰く、何でもこの現実という世界は私の世界と比べてどうしようもなく広いらしい。


fin


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