ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
(´・_ゝ・`)非常に残念ながら、主人公はデミタスだったようです



12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:34:10 ID:Doe0Nr5U0
(´・_ゝ・`)「この世界が小説だとしたらさ」

くるくる。低い机の前、胡座をかきながら、盛岡デミタスはボールペンを回している。

(´・_ゝ・`)「主人公は君みたいな奴が面白いと思うんだよ、僕は」

('、`*川「なんですかそれ」

くるくるくる。上手いものだ。
呆れと苛々の募る胸中とは対照的に、冷めた感想が浮かんだ。

('、`*川「新しい小説のモデルになれってことです?」

(´・_ゝ・`)「いいや。ただの思いつき」

ε=('、`*川 ハァ…

('、`*川「んなこと考えてる暇があったら、最新話の案でも纏めなさいな。
     ねぇ、速筆売れっ子作家モリオカセンセー」

皮肉っぽく言えば、モリオカセンセーはぴたりとペン回しを止め、露骨に顔を歪めた。
してやったり。
私は内心得意になった。

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:36:05 ID:Doe0Nr5U0

作家盛岡デミタスと言えば、速筆で良作を生み出すことで有名だった。
だから私たち編集部は、雑誌の連載も全く心配無しに頼むことができたのだった。

最初は確かに、すんなりと作品が渡されていた。期間にたっぷりと余裕をもって。
しかし少し前から、一話追うごとに僅かに、しかし確かにスピードが落ちていった。
気がついたら、引き返せないほどに、速筆売れっ子作家モリオカセンセーは遠ざかっていたのだ。

雑誌連載の〆切りは日曜日。今は土曜日。

この調子だとそのうち当日になってから書きはじめるだろう。冗談じゃない。
そりゃあ速筆売れっ子作家、なんていう肩書きを盲信していた私達だって悪いけれど。

(´・_ゝ・`)「酷いな。こういう雑談から作品のアイデアが出ることだってあるんだぜ」

そうは言っても、アイデア帳にボールペンのインクがつくことがないまま、
三時間待たされた末のペン回しからの雑談は無いだろう。
私編集者なんだぞ。嫌がらせか。
もう、〆切りはすぐそこに迫っているというのにこいつは何を言っているんだ。

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:38:22 ID:Doe0Nr5U0
 
確かに世間の土曜日は、明日も休みだからと忙しく遊ぶ生温い空気が漂っている。
盛岡もその空気に、すっかり呑まれているのだろうか。頭を抑える。
怒られるのは誰だと思ってるんだ。

しかしここで何か反抗的になったとしても、
時間をただ無為に消費するだけだということは、経験上私にもよくわかっていた。

ああそうですか、と、なんとか怒りを隠してぶっきらぼうに返す。

('、`*川「じゃー聞きますけど、なんで私が主人公なのがいいんです?
     私には隠された能力も暗い過去も無い、ただの編集者ですよ」

(´・_ゝ・`)「そりゃあ君、面白いからだよ」

('、`*川「何がです」

(´・_ゝ・`)「むろん、君が」

('、`*川「どこが」

(´・_ゝ・`)「よく解らないところが?」

('、`*川(何故に疑問形)

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:40:51 ID:Doe0Nr5U0

そう言うと、盛岡はまたペン回しを始めた。
私はペン回しをしている人を見るのが嫌いだ。

昔からそうだった。小中高校でも、授業中くるくる回す人がいると、無性に腹が立った。
カチャカチャ鳴る小さな音も、手元を見ない視線も、複雑な指の動きも、
なにもかもが腹立たしかった。

何故だろう。
多分、悔しいのだ。

こんなに私は必死なのに、他人はペンを回すほど余裕がある。
それが悔しいのだ。

ある種、自己中心的な嫉妬。馬鹿みたいに子供っぽい感情。

分かりやすい奴。私は自分をそう評価した。
だからこそ盛岡の言っていることはますます解らなくなった。

ペン回しに対してか盛岡の発言に対してか、顔をしかめた私を見て、盛岡は付け加える。

(´・_ゝ・`)「君の気持ちがよく解らないから」

こいつの目は節穴か。

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:43:02 ID:Doe0Nr5U0

('、`*川「…気持ちなんて、誰のだって解るもんじゃあないでしょう」

少々考えてから、無難な答えを返した。
盛岡は心ここにあらずといった表情で、ペン回しを続けている。
目線は何も無いところを向いていた。

(´・_ゝ・`)「でも、見当くらいつくだろ。大体は笑ってれば嬉しいし泣いてれば悲しい。
        そりゃ例外はあるけどさ。…そう、例外、君は例外だらけな気がする」

('、`*川「そんなことないですよ。私だってたいてい笑ってれば嬉しいし、
     泣いてれば悲しい。人を異常者みたいに言わないで下さい」

(´・_ゝ・`)「…そうだろうか。すまない」

盛岡はぼんやりとした顔で、しかしペン回しだけは続けている。
土曜日の生温い空気は、確かに漂っている。盛岡なんか、顔に張り付いているようだ。
目を覚ませ、と、少年漫画のように一発殴れば、この空気は振り払えるのだろうか。

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:45:44 ID:Doe0Nr5U0

しかし私にそんなことが出来るはずもなく。
かわりに直接聞いてみる。

('、`*川「盛岡さん、なんか変ですよ」

(´・_ゝ・`)「んー……」

('、`*川「今日だけじゃない。少し前からずっと」

(´・_ゝ・`)「そうなんだろうなぁ」

('、`*川「そうですよ」

私が断言すると、盛岡はまた唸る。
さっきと違うのは、ペン回しの速度が落ちてきているところだった。

(´・_ゝ・`)「僕はどうしちゃったんだろうねぇ」

('、`*川「そこを聞いてるんですよ。解らないんですか」

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:47:34 ID:Doe0Nr5U0

(´・_ゝ・`)「んー……解らないわけじゃあ、ない」

('、`*川「はぁ」

(´・_ゝ・`)「解決法も多分解ってる」

('、`;川「えっ、ならさっさと解決して下さいよ」

(´・_ゝ・`)「…どうしようかなぁ」

('、`;川「ちょっとぉ…」

呆れ果てる私を尻目に、盛岡はついにペン回しを止めた。
それと共に苛立ちは少し止んだが、
そうなると今度は現実のほうによく目が向くようになるものだ。

明日が〆切りであること、怒られるのは私であること。
「大変申し訳ありませんが今回はお休みとさせていただきます」の文字、
そして編集部へ届く抗議や疑問の手紙、電話、そしてまた怒られる私。

そんな未来予測まで頭の中を駆け巡る。
何が問題かって、この予測はそう外れないだろうと予測出来てしまうことである。

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:49:18 ID:Doe0Nr5U0

「勘弁して下さいよー」と、弱々しく眉尻を下げる。盛岡が横目にこちらを見た。

なんだその目は。なんか、観察されてるみたいで落ち着かない。

(´・_ゝ・`)「……」

(´-_ゝ-`)、ハァ

盛岡は軽くため息を吐くと、おざなりにペンを置き、けだるく手招きした。
来い、ということらしい。
なんでだろう? 疑問符を頭に浮かべながら、膝を擦るようにして這い寄る。

胡座をかいていても盛岡の顔は、私より少し上のほうにあった。
覗き込んだその顔は、相変わらず冴えない表情。

でも、目の奥には確かに光るものがあって、
私は、『速筆売れっ子作家』の残滓をそこに見た気がした。

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:51:00 ID:Doe0Nr5U0



お返しとばかりに、残滓を見つめていると、盛岡がすい、と自身の右手を持ち上げた。

そして、そのまま。

ごくごく自然な動作で、私の頭にその手をそっと乗せたのだった。


.

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:52:33 ID:Doe0Nr5U0

あまりに自然な流れで、気づいたのは、その手が私の髪の毛を撫ではじめた頃だった。

わけがわからない。

頭の中の疑問符が凄い勢いで増えていくのを感じながら、
何故だかそこから逃げ出す気にもならず、身を固くする。

いっそのこと、ぐちゃぐちゃに掻き回してくれたらよかったのだ。
盛岡の撫で方はあくまで緩やかだった。

生え際から流れに沿って、ゆっくり撫でていく。
触り方が優し過ぎてなんかもう気持ち悪い。

しかも撫でている間、終始彼は妙に真剣だった。
何か珍しい得体の知れないものを確かめるような、そんな小学生のような表情だった。

土曜日の生温い空気が、彼にしみつく間抜けな空気が、掌から伝わって、流れていく。


そんな馬鹿げた感覚が、体に伝わっている、ような。

.

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:54:00 ID:Doe0Nr5U0

しばらくして掌が離れた。
そこでようやく、私は口を開く。

('、`*川「…なんですか、今の」

(´・_ゝ・`)「何って、頭を撫でたんだけど」

('、`*川「それがどういう意味なのか聞いてるんです。
     いきなり女性の頭撫でるなんて、セクハラで訴えられますよ」

(´・_ゝ・`)「君の髪の毛を誰がセクハラ目的で触るもんか」

('、`*川「じゃあ何目的なんですか」

顔をしっかりと覗き込んで、私は詰め寄った。

それで、気がついた。

目の奥の残滓が、少しだけ大きく、強くなっていることに。
あれ、と思ったときには、既に盛岡は次の句を告げていた。

(´・_ゝ・`)「いや、撫でられても嫌ではないのだな、と確認しただけ」

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:56:05 ID:Doe0Nr5U0

('、`;川「…はぁ?」

(´・_ゝ・`)「意味がわからないならそれでいいよ」

盛岡はペンを握り直し、アイデア帳にまた向かう。
自己完結したらしい。自分だけすっきりしやがって腹立つ。

経験上、こいつからこれ以上何も聞けないと予想した私は、諦めてこう呟いた。

('、`*川「私より盛岡さんのほうが、わけわかんないです」

(´・_ゝ・`)「どこが」

('、`*川「全部です全部。何から何まで。
     …最初に言ってた、あれ、主人公、盛岡さんのが面白いと思います」

(´・_ゝ・`)「えー…うーん…そうかなぁ」

('、`*川「そうですよ」

私が断言すると、盛岡はまた唸る。
それでいい。そうやって一生唸っていればいいのだ。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 11:58:10 ID:Doe0Nr5U0

そんな思いとは逆に、盛岡は「残念だけど、君が言うからにはそうなんだろうなぁ」なんて、
いつも通りの余裕ぶった表情で言った。

('、`*川「っていうか、盛岡さんにとっての世界なら、
      主人公は間違いなく盛岡さんでしょう」

(´・_ゝ・`)「うーん、君のほうがいいのになぁ。そうしたら、……」

('、`*川「そうしたら、なんですか」

(´・_ゝ・`)「…何て言うのか忘れた」

('、`*川「なんですかそれ」

盛岡は、それきり黙ってしまった。
本当に忘れたのか、何か言おうとしたが止めたのかは定かではない。

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/05(日) 12:01:38 ID:Doe0Nr5U0

盛岡がペンを握り直し、アイデア帳に向かう。
小気味よい音が聞こえてきたのは間もなくだった。

その姿を見て、私はなんとなく、本当になんとなく、もう盛岡はペン回しをしないのではないかと思った。


窓の外では星がちらちらと、不安定だけれど強く、遥か彼方から光を送っている。
髪の先を、少しだけ指先で弄る。

土曜日の空気は、もうどこにも漂ってはいなかった。



▼ 支援イラスト
(´・_ゝ・`)('、`*川  『( ^ω^)2013年 突発ゴールデンウィーク企画のようです』 スレ>>529より

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