■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└肴は炙ったミセ*゚ー゚)リでいいようです
- 2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/06(月) 23:59:38 ID:OGrjQoB60
( ´ー`)「……つまみを買い忘れた」
安いビールを冷蔵庫から出して、ふと思い出した。
( ´ー`)「………」
もう深夜だ。
今日は帰りが遅くなったし、最寄りのコンビニに行く気力もない。
最寄りといっても、家より駅に近いため帰りに寄るつもりだった。
そういえば、今日はいつもの頭の軽そうなバイトの顔を見ていない。
あまり彼の顔は好きではなかったから、その点では良かったことにする。
( ´ー`)「………んー」
冷蔵庫の中はほぼ空っぽだ。
全く自炊ができない自分にとっては、こういうときに配偶者のいる同僚が羨ましくなる。
( ´ー`)「……結婚か」
結婚。
自分はまだ十分若いつもりだが、
それもいつまでもつだろうか。
帰りの買い物の予定を忘れる頭が若いのかどうか思案しそうになり、止めた。
- 3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:00:20 ID:AJ5H1XdQ0
( ´ー`)「………肴は無し、か」
半ば諦めかけ、開けっ放しの警告音が鳴る前に閉めようと思った矢先、
冷蔵庫の奥の方に白いものが見えた。
( ´ー`)「……豆腐か」
同僚に自炊能力の心配をされ、「味噌汁」ぐらいなら作れると豪語した日に、勢いで買った豆腐である。
味噌より豆腐を先に買った自分に、本当に味噌汁を作る気があったのかと問いたくなる。
だが、これでなんとかなりそうだ。
( ´ー`)「よっこらせ」
皿に豆腐を移し、一度冷蔵庫に戻しておいたビールを出して並べる。
豆腐には醤油をかけたので、既に冷奴である。
冷奴が、「これでいいのか」という表情で光を反射している。
缶を片手に、冷奴に箸を入れながら、最近行った花屋の彼女のことを考えていた。
- 4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:01:00 ID:AJ5H1XdQ0
数週間前。
階段で転けて腕を折った友人の見舞いに花を買いに行った。
しかし、見舞いに持っていく花にも何かタブー的なものがある、と耳に挟んだので、
そういうことに疎い自分は情けない表情のまま、花屋の前で突っ立っていた。
「いらっしゃいませ!」
声をかけられるまで、自分は永劫突っ立っていたに違いない。
( ´ー`)「あ……友人の見舞いに、花を、と思ったんだけど」
ミセ*゚ー゚)リ「お見舞いですか?」
( ´ー`)「僕みたいな安月給でも払えそうなもので、頼むよ」
自分の中で必死に思いついたジョークであった。
ミセ*゚ー゚)リ「……お任せを!」
それは笑顔で了解されてしまった。
しかし、そんなことはそのときの自分には全く関係がなかった。
元気よくぱたぱたと、店の中へ入っていく彼女から目が離せなかったのだ。
まさに言わずと知れた、一目惚れというものである。
- 5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:02:28 ID:AJ5H1XdQ0
( ´ー`)「……」
視線をもう一度冷奴に落とす。
先ほど箸を入れただけで一口も食べていない。
( ´ー`)「…………」
缶を覗くと、ビールは殆どなくなっていた。
どうやら、彼女が自分の今日の酒の肴になりそうだった。
( ´ー`)「………二本目、開けるか」
再び冷蔵庫に向かう。
( ´ー`)「………」
何もないときに限って色々欲しくなるものであり、先日スーパーで見た刺身を炙って食べたくなった。
豆腐でいいから炙ってやろうかとも考えたが、上手くいくはずもないので、
大人しく二本目のビールを片手にテーブルに戻ることにした。
そしてプルタブに指をかけながら、先程の続きを想うのであった。
- 6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:03:17 ID:AJ5H1XdQ0
その日から、自分はよく仕事の行きと帰りに花屋を覗くようになった。
覗くだけで、目があった時にお情け程度に挨拶を交わすぐらいである。
同僚らしき同年代の女性が彼女を呼ぶ声で、
彼女の名前がミセリ、であるらしいことが分かった。
彼女は、そそっかしい性格らしかった。
よく空の植木鉢を倒したり、注文書を外に撒き散らしているところを見かけた。
別にそれを手伝ったりはしなかった、彼女は照れ笑いをしながらも一人でなんとかしていたし、
助けることで自分の下心が露呈してしまうことが、ある意味何よりも怖かった。
( ´ー`)「………」
( ´ー`)「……ストーカーだな、俺」
ただ何となく過ごしていた通勤時間に、何か一つ目的ができたことに嬉しさもあったが、
同時に何と言うべきだろうか、自分の行動にあまり潔さを感じない悲しさもあった。
- 7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:04:00 ID:AJ5H1XdQ0
( ´ー`)「………」
視界に豆腐が映る。
この時点で既に酔っていた自分は、何故か豆腐に彼女を投影しだしていた。
白い肌(多少醤油がかかってはいるが)、整った顔立ち(箸の痕がついてはいるが)。
自分が干渉することであの笑顔を壊してしまいそうで怖い。
もしもこの場に誰かがいたら、自分の状況をどう判断しただろうか。
( ´ー`)「…………はぁ」
二本目のビールの残りが半分を切る頃、
自分はテーブルの上の彼女(?)に想いを静かにぶちまけていた。
何とも愉快で迷惑のかからないぶちまけ方ときたものである。
- 8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:04:43 ID:AJ5H1XdQ0
そして、昨日。
仕事で少しばかりのミスをして、気分が落ち込んでいた自分は、
気分を紛らわそうと、帰りにその花屋で花を買った。
「いらっしゃいませ!」
( ´ー`)「……部屋に飾れそうな、落ち着く花はあるかな」
自分はあのときと同じ口調で話したつもりだった。
しかし彼女は、自分の顔をじっと見つめてから、
ミセ*゚ー゚)リ「……何か、あったんですか?」
と、言い放った。
彼女の可愛らしい笑顔が、気遣うような優しい微笑みに変わって向けられていた。
そのときの自分は、嬉しいやら情けないやら申し訳ないやらで、混乱していただろう。
(;´ー`)「あ、ああ……なんでもないよ、ありがとう」
ミセ*゚−゚)リ「……そうですか」
その場をあたふたと取り繕ったのだが、
彼女の表情が少し明るさを落としたことに気づき、そこからは会計を済ませ逃げるように帰ってきてしまった。
- 9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:05:29 ID:AJ5H1XdQ0
( ´ー`)「……最低だな、俺」
あの目は、自分の悩みを聞いてくれようとしていた。
自分は彼女が差し伸べた手をプライドで振り払ったのだ。
( ´ー`)「…………」
目の前の豆腐の向こうにはあの時に買った花が佇んでいる。
( ´ー`)「…………」
彼女に謝らなければ。
彼女はもう自分のことなど忘れてしまっているかもしれない。
だが、伝えたいと思った。
自分は酒の勢いで、少々興奮していた。
( ´ー`)「…………伝えなければ」
少しだけ赤らんだ顔で、考える。
伝える手段と、自分の気持ちがまとまる頃には、
机の上の皿は空っぽになっていた。
- 10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:06:27 ID:AJ5H1XdQ0
――――――――
その日。
いつもよりお客さんが少なくて、暇になった夕暮れどき、あの人がお店に来ました。
「今日は、お元気そうですね!」
「ええ、お陰さまで」
たくさん悩んで、植木鉢だけを買ったあの人は、お代と一緒に、
綺麗に四つ折りにされた白い紙を私に渡しました。
「これ、読んでくれないか」
「へ?」
「………酒の肴にでも、ね」
「???」
真面目な顔を一瞬見せたあの人は、訳の分かっていない私に軽く挨拶をして、足早に帰って行きました。
- 15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:17:59 ID:AJ5H1XdQ0
紙を広げてみると、何も書かれていない白紙でした。
紙を覗き込んできた友人が言うには、こういうものは炙ったりするものだ、とのこと。
興味津々の彼女をなんとか説得して、一人、家で試してみました。
ミセリさん
君に伝えたいことが二つある。
一つは、先日の態度を謝りたい。もう一つは僕の気持ちだ。
今度、僕と話をしてくれないだろうか。
焦がれてるのは、この紙だけでは無いんだ。
読み終わった私は、その晩ずっと笑顔でした。
私も、その時に伝えるつもりです。
- 11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/05/07(火) 00:07:35 ID:AJ5H1XdQ0
そそっかしい私を毎朝、少し遠目で、手を貸そうかと迷いながら。
優しい目で見てくれた、私の焦がれるあの人のことを。
その人を、私もずっと見ていたことを。
コイゴコロ
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