■ブーン系ゴールドラッシュ2013〜突発! タイトル祭り〜
└川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです
- 596 名前:川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:01:44 ID:xCXCgpMI0
( ´_ゝ`)
両親を殺して来たのだ、と彼は言った。
心持ち血走った眼をして、上半身で身悶えしながら。
まるで、子どもが狩猟か戦争かを喜ぶようであった。そんな無垢な残酷性に、通じるものがあった。
私は彼のこんな時の興奮に、無闇に嘴を挟んではいけないことをよく知っていた。
魔女狩りの拷問者のように、自分の残忍さに興奮している人間に干渉してはいけなかった。
かえってこちらが、巻き込まれてしまうだけだからだ。
事の様子を明朗に語る彼は、傍目からは、古代の兵士のように凛々しく気高く見える気がした。
かっこいいよ、きみ。と私は言った。彼はきょとんとして、何事も無かったかのように。また語り出した。
川 ゚ -゚)
似た者同士だったのだろう。だから、惹かれ合った。
兄弟のために親殺しをしたのだ、と彼は言う。一緒ですね、と私は言った。
私もこの慌ただしい青春時代を過ぎれば、姉妹たちのために、親を殺します、と。
今にして思えば、私はこの時すでに、彼に毒されてしまっていたのだ。
- 597 名前:川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:03:10 ID:xCXCgpMI0
冬の末の、夜だった。
その夜は死刑執行の日取りで、死刑囚はほかならぬ彼だった。
川 ゚ -゚)
私は次女に脚を悪くした、と嘘を吐いて。その晩の食料の調達は、次女に任せて。
町の刑場まで私は駆けた。降りしきって、顔にあたる粉雪は、まるで白い小鳥たちが戯れてくるようで。
兄弟のために、と彼は言った筈だったが。そこに遺族の弟の姿は見えなかった。
両手首に枷を嵌められて、目隠しをされたまま、断頭台のはしごを登らせられる彼は、
まるでサーカス団のみじめな道化師のようであった。
私は報われない彼に腹立たしささえ感じた。怒った顔つきで、彼を見上げていた気もする。
かん高い警笛が鳴った。群衆の暴力的な熱狂が、ひといきに静まり返った。
黒装束に顔を隠した首斬り役人の、暗い、どす黒い大鎌が、彼の首すじまでのびかかった。
( ´_ゝ`)
不思議と、彼は死なないように思われた。首をはねられても、彼は生きているような気がした。
- 598 名前:川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:04:12 ID:xCXCgpMI0
……。私は、昨夜のことを。彼と、冬の星空を仰いだ夜のことを、思い返していた。
いやに落ち着きを取り戻した彼の肩に、私は頭を乗せたり。頬と頬を寄せ合ったりした。
夜の匂いに身を浸すように、私たちは目を細めてしばらく黙した。死など、どうでも良かった。……。
彼はマッチを擦って、ランプの灯心に火を点けると、ポケットから数枚の真鍮の円盤をとりだした。
それは。宇宙の天球を平面的に表した、天体観測儀(アストロラーベ)。中央部に地球を置いている。
太陽と月が、地球の時間を刻んでいるのだ。彼はそう言って、天体観測儀をくるくるまわした。
植物や動物の退化。人間の老いや死を通して、世界の衰退が風景化されていく。
そうして、時間は計られていく。
毎秒ごとに時間という名前の貨幣が発行されている世の中はおかしい。彼は低声でそう言った。
川 ゚ -゚)「タイムイズマネー?」
( ´_ゝ`)「そう。ゼンマイ仕掛けの時間は、人間を凍らせる」
彼はまたこうも言った。この町はとても寒いけれど、宇宙はここよりもあたたかなところなのだ、と。
温度の限界。絶対零度まで、この町が冷え込んでいるのなら。宇宙はそれよりも3℃だけ、あたたかいと言う。
……彼は3℃と言うとき、いきなり私の体を抱きしめて、私の背中をそっとやさしく撫でてくれた。
それはまるで。私たちこそが、その3℃だけあたたかな宇宙なのだと伝えたいようで。……。
( ´_ゝ`)
彼の首がはねられた。断頭台から急転直下で転がり落ちる、彼の頭。
ああ、たしかに時間は計られているよ、と私は思った。あんな計時具があれば、と私は思った。
少女が花かごをかかえて恋人の家を訪ねるのは、朝の八時。
そして彼の首が斬り落とされるのは、夜の十一時。というふうに。
そんな古代的な計時具さえあれば。私は彼と同じ道を辿らずに済んだろうか?
- 599 名前:川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:05:25 ID:xCXCgpMI0
私たちは、目の前に見える仕事に、役割に。どう丹念に果たすかに関心があった。
これに反して。次女の関心はこれを越えて、世界のはたらき全体に目を光らせていたようだった。
ノパ听)
官吏になる、とある日次女は言った。いまから勉強して、成人するまでに試験に合格するのだと。
どんな穢れ仕事を押し付けられるか知れないが。私は役人になって、四姉妹の暮らし向きを楽にしたい、と。
私たち四姉妹はたしかに窮乏していたから。教材を揃えるには、盗みをはたらかなければならなかった。
三女と四女はその盗みが露見して、町の官憲に捕まってしまった。
おかげで一生、背中に矯正器具を埋め込んだまま生活しなければならないようになった。
……。そこまでして、私は次女を応援する気にはなれなかった。
それに。妹たちに一生モノの傷を負わせておきながら、机に向かう次女はまるで悪魔だった。
彼女たちは、ゼンマイ仕掛けの時間を生きているのだ。と私は思い込んだ。
人間の心が、凍り付いてしまっているのだ。だが、それは私も同じことだった。……。
薄暮が神秘めいた静けさをそえる町の、小さな灯りが。
彼のことを思えば思うほど、私の頬は赤く燃えてきて。灯りは滲んで見えるのだった。
私は彼に先立たれてしまった。たったそれだけのことで。死など、どうでも良いと、思っていた筈なのに。
私の目の前は暗く閉ざされてしまったのだ。まるで視界に薄氷が張られてしまったみたいに。
- 600 名前:川 ゚ -゚)273℃の孤独のようです[] 投稿日:2013/05/03(金) 07:06:35 ID:xCXCgpMI0
生。それ自体が計時具なのだと、私は気付けただろうか?
気付ける筈もない。私は目標を果たすために際限のない退化を続けていたのだから。
ノパ听)
……。ライフル銃を構える次女の姿が、おぼろげながら透けて見える。
ここは町の刑場。私は両手首に枷を嵌められて、目隠しをされて、磔にされている。
私の慌ただしかった青春時代は過ぎた。親殺しはよどみなく成功した。
そうして皮肉にも。無事、官吏になった次女に、私は処刑されていく。……。
川 ゚ -゚) ( ´_ゝ`)
私はわずか3℃の体温を失くしてしまったのだ。だからあとは、ただ凍っていくだけ。
流出と渦動からなる時間のながれさえ、そこでは凍ってしまう。
摂氏マイナス、273℃の孤独のなかで。私は失くした体温のことを思い返していた。
※『ノパ听)(´<_` )望みなき恋のようです』に続きます。
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