('A`)大きな箱は何色のようです

1 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 21:19:35 ID:qHd6T/3s0
百物語参加作品


  .,、
 (i,)
  |_|

2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 21:23:05 ID:qHd6T/3s0








俺の家から近い場所、

  スーパーの向こう側に、

       白い大きな箱があった。





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3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 21:31:55 ID:qHd6T/3s0


(・A・)



それは、俺が小さい頃からあった。



(・A・)  とーちゃん、あれなあに?



白い大きな箱には、変な模様が描かれている。

とーちゃんはそれを見ると、いつも決まって渋い顔をする。

そして、俺に向き直ると、わざとらしくムッとして。



――あれは、大人を食べちゃう箱なんだよ。



という。


.

4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 21:42:36 ID:qHd6T/3s0



(;・A・)  あれはオバケなの?



俺が怯えてそういうと、

とーちゃんは笑って俺へ手を伸ばし、その手をフラフラさせながら言う。



――そうだぞー。あそこはあんな模様で大人を惹き寄せて、

    大人の心をバクリ!と食べちゃうんだ。



バクリ、と言ったそのときに俺の頭を鷲づかみにする。

突然のことに俺は驚いて、そこに見える大きな白い箱が怖くなって、

わんわんと大きな声で泣いてしまった。


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5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 21:56:22 ID:qHd6T/3s0


――わぁ、ゴメンよドクオ!怖くしすぎちゃったかな。



とーちゃんは鷲づかみにしたその手を変え、優しく頭をなでる。

その手の暖かさに少しだけ恐怖が薄れて、不安が薄くなった恐怖に混ざる。



(;A・)  とーちゃんは、食べられちゃったりしないよね?



とーちゃんは目を丸くして、そしてすぐにニカっと歯を見せて笑う。



――近づかなければ大丈夫。それに、とーちゃんは心がハガネだから。


(・A・)  ……ハガネ?


――そう、凄くすごーく、硬いってことだ。

     オバケも食べようとして、歯がボロボロになっちゃうくらい!



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6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 22:13:14 ID:qHd6T/3s0


とーちゃんはオバケのつもりか歯を何度かガチガチと噛み合わせて、

情けない顔を見せる。



(・A・)  あ!かーちゃんにオセッキョーを受けてる時の顔だ!


――そう、オバケもこんな顔に……お説教を……そうだな……。



とーちゃんがフリではなく本当に情けない顔をすると、

それが可笑しくてゲラゲラと笑ってしまう。



――ドクオは大きくなっても、あの箱には近づかないようにしろよ。


とーちゃんはまた歯を見せて笑いながら言う。

でも少しだけ、笑う前に真面目な顔をしていたのを覚えている。



(・A・)  うん



その顔が見えて、俺は笑って返事を返さなかった。

とーちゃんの目をまっすぐ見て、大きくうなづいた。


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7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 22:23:39 ID:qHd6T/3s0


それから数か月経ったある日。



(・A・)  あれ?



大きな箱は、緑色に変わっていた。



J( 'ー`)し  どうしたの、ドクオ?



かーちゃんとスーパーに寄った帰り道、俺はふと気が付いたのだ。

あの箱は前まで、白色だったはずなのに。



(・A・)  あのね、あのオバケバコは白い色だったのに、今は緑なの



俺はとーちゃんと話をしたあの日から、オバケバコと呼んでいた。

かーちゃんは俺がオバケバコに指をさすと、あぁ、と間の伸びた声を出す。


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9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/16(日) 22:47:26 ID:qHd6T/3s0



J( 'ー`)し  あれはね、離れちゃった大人の心を惹き寄せなおすために変わってるのよ



俺はかーちゃんの言うことがいまいち分からなくて、首を傾げる。

かーちゃんはまっすぐにオバケバコを見つめながら言葉を続ける。



J( 'ー`)し  大人って飽きっぽいのよ、特にあのオバケバコは飽きられやすい。

        だからあれは興味の出そうな色にコロコロ変わって、大人に入ってもらおうとするの


(・A・)  でも、入っちゃうと食べられちゃうよ?


J( 'ー`)し  ドクオはお腹が空いても空いたままでいられるかしら?

        オバケバコもそれとおんなじ。お腹が空いたからどうにかしないと、って必死になるのよ

        生存本能みたいなものかしら。

        さ、帰りましょう。今日の晩御飯はコロッケよ



かーちゃんはたまに難しい事を言う。

俺は分かったような分からないような感じになり、うんうんと唸ってしまう。

かーちゃんは俺の方へ向き直り、手をつないで家へと一緒に向かう。

かーちゃんの言ったことは分からなかったが、かーちゃんと手を繋いで帰るのは嬉しかった。


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13 名前:qHd6T/3s0です再開します[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:02:46 ID:XBD8C0lI0


それから箱は、

俺が成長する度に色を変えた。



青色に変わった。

黄色に変わった。

白色に戻ったりもした。



('A`)



あの頃分からなかった変な模様の意味も、分かるようになった。

背が伸びて、少しだけ箱の前にいる大人たちの顔も見えるようになった。



('A`)



彼らはいつも、瞳が澱んでいた。

オバケバコに、心を食いつぶされたのだ。

14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:21:48 ID:XBD8C0lI0


――ドクオ、進路は決まったのか?


('A`)  ん……まだ考え中



いつものスーパーの帰り道、とーちゃんは心配そうな顔をして俺に聞いてくる。

俺も高校三年生、進学するか就職するか世間じゃ迫られる頃だ。



――お前なぁ、もう夏休み終わるぞ?

    早い人じゃもうこの夏休みを就職や進学期間に使うやつもいるのに……


('A`)  よそはよそ、うちはうち。

      そう言ったのはとーちゃんだろ


――うっ……確かに言ったがなぁ



もうかーちゃんの説教で見慣れてしまった、とーちゃんの情けない顔に笑みが零れる。

正直、これといった目標もなく生きてきたせいで、

就職でも進学でもどっちでもいいかな、と思っていた。


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15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:45:30 ID:XBD8C0lI0


――後悔するぞ、そんな生き方



買い物袋をぶら下げたとーちゃんが、やけに低い声で呟く。

俺も何も思わなければよかったのに、その時は気になって、とーちゃんを振り返った。



――就きたい職業もなくて、目指したい物がなくて、

     今が何とか出来ていれば、なんてそんな生き方


('A`)  ……分かってるよ


――いいや、ドクオは何も分かってない

     そんなのは後に何も残らないんだ、全部がどっちつかずになるから

     お前には夢はあるのか?特技を何かに繋げようと思わないのか?

     そういえばドクオは絵が得意だったな、絵を活かした仕事か学校にいかないのか?



とーちゃんが心配していたことは、俺でも痛いほど分かった

だけど、その時はとにかくうっとおしかった。

分かってる、分かってるんだよ、と心で塞ぎ込んで、憤り、とーちゃんを気遣わなかった。



('A`)  もう、そういうことは家で聞くから!帰るよとーちゃん!家まで競争!



とーちゃんから半ばひったくるようにして買い物袋を手に取ると、俺はそのまま家まで走った。

とーちゃんは呆気にとられていたみたいだが、何かを呟いた気がした。

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16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:47:54 ID:XBD8C0lI0





――俺のようには、なって欲しくないのになぁ





なんて、とーちゃんがそんなこと、言ってなかった。

言ってなかったんだ。





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17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:48:51 ID:XBD8C0lI0









その日、とーちゃんは死んだ。







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18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:58:16 ID:XBD8C0lI0


とーちゃんの不注意から来た、交通事故だった。

ぶつかったのは軽車両だったが、打ち所が悪かったらしい。



J( '-`)し


('A`)  かーちゃん


J( '-`)し  大丈夫、大丈夫だから


('A`)  ……ごめん


J( 'ー`)し  ドクオのせいじゃないわよ、勿論、運転してた人のせいでも


('A`)  ……かーちゃん


J( 'ー`)し


('A`)  俺、就職するよ……がんばってかーちゃん支えてあげるからさ


J( 'ー`)し  そう、ありがとう


('A`)  ……かーちゃん


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19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 02:59:17 ID:XBD8C0lI0





その日から、かーちゃんは、壊れてしまった。





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20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:07:32 ID:XBD8C0lI0



J( 'ー`)し  ドクオ?ちょっと良いかしら



俺が就職してから半年が経過した。

かーちゃんは最近、俺によく相談をしてくるようになった。



('A`)  なんだ?かーちゃん


J( 'ー`)し  実は私、ちょっとお金がなくてねぇ




お金の、相談だ。




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21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:15:14 ID:XBD8C0lI0


(:'A`)  ま、またかよ……


J( 'ー`)し  二万で良いから、貸してくれないかねぇ


(;'A`)  勘弁してくれよ……二万も貸しちまったら家の食費はどうするんだよ



このところ、かーちゃんはよく金を使うようになった。

旅行にでも行くようになったのかは、分からない。

とにかく、何かに憑かれたように金をせびるようになった。



J( 'ー`)し  お願いだよ、じゃないと私死んじゃいそうで……


(;'A`)  しょうがねぇな……来月返してくれよ



とはいえ、とーちゃんを亡くしたショックから立ち直れるなら、俺はなんでもする。

そんな風に思って、俺はかーちゃんのお願いに、出来るだけ叶えるようにしていた。


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22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:22:19 ID:XBD8C0lI0


そんなある日。



('A`)  ん



一通り買い物を済ませた俺は、

スーパーの向こう側にあるオバケバコへと目を合わせた。

オバケバコは、赤い色に変わっていた。



('A`)



そして、見てしまった。



J( - )し



そこから、かーちゃんが心を食いつぶされて出て来るのを。


.

23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:25:28 ID:XBD8C0lI0








その真夜中に、

俺はオバケバコを、

赤い色から黒い色へと塗りつぶした。






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24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:42:55 ID:XBD8C0lI0


数か月後。



('A`)  かーちゃん、今日はなんかやることある?


J( 'ー`)し  そうねぇ、じゃあ庭の手入れをお願いしようかしら



オバケバコが黒く染まった日から大分経った。

あれからかーちゃんがお金をせびることは無くなった。

精神もかなり安定して、オバケバコに食われた心は幾分戻ってきたようだ。

オバケバコがあった場所には、新しい施設が建つらしい。

なんでもアミューズメントパークだとか。施設が建ったら、かーちゃんと一緒に行こう。



('∀`)



庭の手入れをしながら、俺は天国のとーちゃんに向かって話しかけた。

とーちゃん。

近づかないように、という言いつけは守れなくてごめんなさい。

でも、俺はとーちゃんのハガネの心を引き継いで、かーちゃんをオバケバコから守ったんだ。

褒めてくれるよね、とーちゃん。



.

26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:47:48 ID:XBD8C0lI0


それから。



オバケバコがあった場所に、新しい施設が建ったというチラシが入った。

意気揚々と俺はそのチラシを広げる。

だけど。



('A`)  ……なんで



そこにあったのは、かつて黒く塗りつぶしたはずの。

最初に見た、白い大きなオバケバコだった。


.

27 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:50:11 ID:XBD8C0lI0


('A`)



('A`)  塗りつぶさなきゃ



かーちゃんが見る前に。

かーちゃんがまた心を食いつぶされる前に。

黒く、真っ黒く塗りつぶさないと。



('A`)  黒く、塗りつぶさなきゃ




.

28 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 03:52:19 ID:XBD8C0lI0
























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29 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/08/17(月) 04:12:03 ID:XBD8C0lI0


XX日午前5時40分ごろ、

神速都XX区創作1丁目にあるパーラーVにて放火事件が発生した。

警視庁によると、通りを歩いていた女性(34)が爆発に巻き込まれ重体、

25〜60歳の男女4人も頭や足にけがを負った。同庁は同日、付近にいた男を放火の疑いで現行犯逮捕した。



【写真】放火のあったパーラーVと爆発の様子……XX日神速都XX区午前6時00分、内藤氏撮影



 神速署によると、男は神速都○区創作2丁目、埋田ドクオ容疑者(20)。

 調べに対し、「こんな施設があるから狂ってしまう」などと話しているという。

 現場を目撃した女性は…………




  (
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('A`)大きな箱は何色のようです

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