-
315 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 20:57:14 ID:9wFU.DDA0
-
('A`)「あん? 怪談?」
(;^ω^)「だお、このクソみたいな暑さを何とかしてほしいんだお」
川 ゚ -゚)「路傍の石のようなお前なら何かネタを持ってそうと思ってな」
うだるような暑さの中、俺の住処に押しかけてきて何を言ってんだこいつら。
お前らの家にはクーラーがあるだろ。
わざわざクーラーのないところに来てそれはねえだろうが。
(;'A`)「それ影薄いって言ってんの? ねえ? はあ、怪談、怪談ねえ……」
色々言いたい気持ちを飲み込む。いつものことだ。
俺は記憶から次々へと引き出していくが、怪談らしいものはなかった。
そりゃそうだ。俺に霊感は皆無と言っていい。幽霊なんて見た事もないし、これぽっちも信じていねえ。
悪いな、と口にしようとしたところで、実に不可思議な経験をした事を思い出した。
('A`)「そういえば、奇妙な経験をしたんだが」
暑さでへばっていた二人がおっ、と言わんばかりに食いついてくる。現金だな。
('A`)「そうだな、あれは……そう、確か20年ぐらい前だったか」
-
316 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:01:03 ID:9wFU.DDA0
-
*
小さい頃、よく一緒に遊ぶ友達の家族と一緒に海へ行ったんだ。
家族ぐるみの付き合いってやつだな。
(*゚ー゚)「ねえ、ドクオくん! 泳ぎにいこうよ!」
(,,゚Д゚)「おーよーぎーにーいーくーぞー!」
('、`*川「ほら、行くよ」
んで、俺はその友達であるきょうだいたちに誘われて泳ぎに行った。
親はいなかったが、お目付け役として中学生の――何だっけ、名前は忘れちまった。
ええと……他のきょうだいたちの名前も忘れちまった、すまん。
まあ、そいつがいたから大丈夫だろう、ということでな。
ただその中に俺が知らない女の子がいたんだ。
('A`)「あれ、ねーちゃん誰?」
(*゚ー゚)「貞子ちゃんよ、私の友達!」
川д川「よろしくね……」
('A`)「ふうん、そうなんだ。僕はドクオ、よろしくね」
まだ5歳ぐらいだった俺は、そういうもんかと納得した。
そうして海へ泳ぎに行ったんだが、俺は大きな浮き輪を使っていてな。
まだ新品だったからパンパンで浮き具合もよかった。
俺たちは海の奥の方まで泳ぎ、人もまばらになっていった。
陸から大分離れてきたが、不思議と不安はなかった。
よく遊ぶ友達たちが傍にいるのもでかかったんだろうな。
(*゚ー゚)「もっと奥へ行ってみようよ!」
(,,゚Д゚)「いこーぜ!」
こんな奥まで行っても、沈む気配はない。
この浮き輪さえあれば何とかなる。
浮かれていた俺は二つ返事で頷き、さらに奥へ泳いでいった。
そこでちょっと不思議な事が起こってな、空は満天の晴れなのに海が荒れ始めた。
波は高くうねり、風がびゅうびゅうと吹いてくる。
-
317 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:04:41 ID:9wFU.DDA0
-
(;'A`)「ね、ねえ、戻らない?」
それはまるで、生きているのかように、俺たちを阻むかのように海が動いている――
そんな印象を抱き、怖がった俺は引き返そうとした。
('、`*川「ま、大丈夫でしょ」
川д川「うん、大丈夫……」
しかし、友達たちはそう言うと浮き輪を引っ張って進もうとする。
浮き輪のおかげで溺れる心配はないし、年上である友達たちが言うなら大丈夫かな、と思ってしまったんだ。
襲い掛かってくる波をなんとか乗り越えたと思ったら、さらに高くなった波が来る。
それをまた乗り越えたら、また大人より高い波が。
――気がつくと、いつの間にか大人の数倍はある高い波が来ていた。
それはまるでサーフィンで乗るような波だった。
多分5メートルはあったんじゃねえかな。いや、あり得ねえ事だとは分かるんだけどよ。
少しずつ高くなっていく波を乗り越えたからか、なぜかそういうもんなのかと納得してたんだ。
それに立ち向かって、というよりは友達たちに引かれてたから立ち向かったとは違うんだが……
その馬鹿でかい波を"垂直に"登って行ったんだ。
(;'A`)「あ、ちょ、これはやば」
ようやく俺は事の重大さに気付くが、もう手遅れだった。
波はそのまま俺たちを飲み込み、俺の意識ごと暗闇の底に沈んでいった。
*
(;^ω^)「ちょおま、じゃあドクオは幽霊ってことになるのかお!?!?!?!?」
川 ゚ -゚)「幽霊であることを自白したな。前から怪しいとは思っていたが」
(:'A`)「おい、最後まで話を聞けよ! あと俺のことを怪しいと思ってたのかよ!?」
-
318 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:06:39 ID:9wFU.DDA0
-
*
身体に冷たい水が同じ間隔で当たる感覚を感じ、目が覚めると俺は海岸で倒れこんでいた。
正直、目を疑ったよ。いつの間にか戻ったのか、ってな。
とりあえず目が覚めた俺は、親の所に戻ることにした。
場所は覚えている。海の家の近くだ。
難なく両親たちの所に辿り着く。
('A`)「あ」
_
(#゚∀゚)「おい、どこに行ってたんだ! 危ないだろ!」
(;'A`)「ひえっ、ごめんなさい」
軽く叱られたところで、さっきまで一緒に泳いでいた友達たちがいたことに気付いた。
('A`)「あれ、大丈夫だったの?」
(*゚ー゚)「え、何が?」
怪訝そうな顔で返された。なにやら様子がおかしい。
(;'A`)「あれ、兄ちゃんと姉ちゃんも一緒に泳いだんじゃ」
(,,゚Д゚)「え? 一緒に行こうと思ったんだけどさ、ドクオいなくなったんじゃんかよー」
('、`*川「――と――はさっきまで砂遊び。私はこれからドクオを探そうとしたんだけど……どこに行ってたのよ?」
辻褄が合わない。俺は色々聞いてみると、俺だけが突然いなくなってしまったらしい。
とはいえ、数十分しか経ってないそうだったが。
そこで一番下の妹の友達である貞子という存在を思い出した。あの人なら分かるかもしれない。
(;'A`)「さ、貞子ちゃんは?」
_
( ゚∀゚)「あん? 誰だそいつ? お前現地で彼女でも作ったのか?」
ノハ;゚听)「彼女ッ!? お、お母さんは許さないぞおおおおおおおお!!」
(;'A`)「――ちゃんの友達の貞子ちゃんなんだけど……」
(;゚ー゚)「えっ、知らないよその人」
訳が分からない。まだ幼かった俺は頭が沸騰しそうで、考えるのをやめた。
夢だったのかな、と思いながらとーちゃんからもらった焼きそばを食って、海を堪能して終わったよ。
-
319 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:08:06 ID:9wFU.DDA0
-
……今思えば、俺が目覚めた時、周りにいた人たちが心配するような気配はなかった。
子供が海岸で倒れこんでいたら普通声をかけるだろう。
まるで俺を認識していなかったかのように、通り過ぎていたんだ。
それに、あの"貞子"は誰だったのか。
20年経った今でも未だに鮮明に思い出すあの大きな波は、単なる夢だったのか。
*
('A`)「と、こんな摩訶不思議な経験をしちまったんだが、たまに思うんだよ」
――あの友人たちだった"何か"は死神で、海は波を起こすことで俺を護ろうとしていたのかもしれねえってな。
('A`)「ま、こうして俺はぴんぴんして生きているし、別に気にするようなことでもねえかもしれねえがよ」
( ^ω^)川 ゚ -゚)「「…………」」
語り終えると、二人は神妙な顔をしてチラチラと目を合わせていた。
俺が怪訝そうな顔をしていると、二人とも音を立てず同時に立った。
(;'A`)「なんだよ、つまんなかったのか?」
見下ろしてくる二人に声をかけるが、反応がない。
表情に変化はない。瞬きすらなく、まるで仮面が張り付いているようだった。
そういえば、話している最中は二人ともこの暑さで汗をかいていたはずなのに、その汗が一滴もない。
言い様のない不気味さに、生唾を飲み込むと二人が両手を俺の方に伸ばし、口を開く。
( ゚ω゚)川 ゚ -゚)「「 み つ け た 」」
(;゚A゚)「ギャアアアアアアアアアアア!!! こっちくんなアアアアアアア!」
叫びながら後ずさる。背中が壁に当たる。出口はあの二人の向こう側だ。
二人の手が俺に迫ってくる。もうダメだ――そう悟った俺は目をつぶり、顔を腕で覆い隠した。
-
320 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:11:04 ID:9wFU.DDA0
-
しばらくしても、何も起こらない事に不審に思い、腕の間から覗き込むように目を開ける。
,_
:;(( ^ω^)):: ::川*゚ -゚)::
そこには憎たらしい笑顔をしたブーンと、必死に笑いをこらえて顔が真っ赤になっているクーがいた。
小刻みに震える二人と目が合うと、堪えきれなかったのか二人が同時に吹き出す。
(*^ω^)「なーんて冗談だおwwwwwwwwwwwwいい歳してビビりすぎだおwwwwwwwwww」
川*゚ -゚)「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
(;'A`)「は……!?」
ブーンは大口を空けて大笑いし、クーに至っては腹を抱えながら声にならない笑い声を上げている。
数秒間固まったところで、すっかり騙された事に気付く。
(#'A`)「てめえらぶっ殺す!! 出てけ!!!」
(*^ω^)「ギャアアアアアアアアアアアwwwwwwwwwこっちくんなアアアアアアアwwwwwwwwwwww」
川*゚ -゚)「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwゴホッゴホッwwwwwwwwwww」
(;'A`)「くっそ、お前らトマトみてえに顔真っ赤だぞ……」
涙を流しながら笑う二人。そんなに俺の醜態が面白かったのかよ、畜生。
(*^ω^)「おっおっwwwwでも十分に怖かったお」
川*゚ -゚)「くっくっ……もしかしたら、異常に影が薄いのはそのせいかもしれないな」
(;'A`)「そりゃどうも。あれが原因だったら嫌だなあ……」
やれやれ、と溜息をつく。それでもこの二人は嫌いになれない。
異常に影が薄く、俺のことを気付く奴なんてこの二人を含めて両手で数えるほどしかいない。
そんな中で20年ぐらい前から定期的に俺の住処に来ては、馬鹿騒ぎをしてくれるのがとても楽しくてたまらない。
('A`)「お、帰るのか?」
( ^ω^)「だお、もうそろそろいい時間だお。暑いから気をつけるんだお〜」
川 ゚ -゚)「うむ、また来た時に熱中症で死んでました……なんてやめてくれよ」
(;'A`)「不吉な事を言うなよ、熱中症対策はしとくさ。……またな」
未だに涙を流している二人は頷きながら、出口から出ていった。
……何か、俺はとても大切なことを忘れている気がする。
いつものことだ。まあいいや、と俺は二人からもらったアイスを開ける。
-
321 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:14:55 ID:9wFU.DDA0
-
*
外に出た瞬間、襲い掛かってくるむわっとした不愉快な暑気に、二人は顔をしかめる。
だが、顔をしかめたのはその暑気のせいだけではない。その表情は暗かった。
しばらくの無言。駐車しておいた車が見えたとき、ブーンが口を開く。
( ^ω^)「次はまた来年かお」
川 ゚ -゚)「ああ」
( ;ω;)「……なんで、僕は目を離しちゃったんだお」
その言葉には後悔の念が込められていた。
ブーンが目頭を押さえる。その巨体は小刻みに震えていた。
その震えを治めるように、クーは大きな背中にそっと手を添える。
顔に当てた大きな手の隙間から、嗚咽が漏れる。
川 ゚ -゚)「よせ、それを言うなら私がもっとしっかりしていればよかったんだ」
首を振りながら、子供を落ち着かせるように優しく背中をさする。
( ;ω;)「……ごめんお」
川 ゚ -゚)「いいさ。これも毎年のことだから……しぃも一緒に、と言いたいところだが無理だろうな」
( ;ω;)「絶対……無理だお。悲しい感情を悟らせてはいけない、って……しぃには無理だお」
川 - )「ああ……」
目が潤み、涙が流れ落ちそうになる。それをぐっとこらえて、空を見上げる。
その空は雲一つない、清清しい晴天だった。
あの日と全く同じの、まぶしい日差しが痛々しく突き刺さる。
――私たちに出来るのは、"友人"として訪れることしかできない。
いつか、ドクオが気付くその日が来るまでは。それが正しいかどうかはわからない。
……来年も、あの話を聞くのだろうか。
-
322 名前:('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです[sage] 投稿日:2015/08/14(金) 21:17:02 ID:9wFU.DDA0
-
('A`)奇妙な経験をしたんだが、のようです
(
)
i フッ
|_|