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1 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:34:17 ID:cY7vEcrY0
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.,、
(i,)
|_|
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2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:41:05 ID:cY7vEcrY0
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そうだな。あれは俺がまだ餓鬼の頃の話だ。
俺は郷里じゃ結構な悪戯坊主でな、親や近所の大人たちを困らせては喜んでるって、
どうしようもない悪ガキだった。
でな、どれだけ言い聞かせても、折檻しても治らねえってんで、
8歳くらいの頃、山を二つ超えた所にある、小さい村のお屋敷に奉公に出された訳だ。
村の名前は何つったかな…。
もう忘れちまった…というよりは、一度も聞いたことがなかったと思う。
とにかく、奉公先のお屋敷は広くてさ、
こんな小さな村で、これだけの屋敷を持てるってのはどんな人だろうと思ったもんよ。
だから初めて村長を見た時は驚いた。ガキの目から見ても、美人だと思ったからな。
赤い風呂敷包みを抱えた、影のある美人でさ。でも、何かどこか違和感があったんだ。
視線は俺を見ているはずなのに、明らかに見ているのは俺じゃないというか…。
まぁ、不思議な雰囲気の人だったって言えば、大体あってると思う。
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3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:44:05 ID:cY7vEcrY0
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…話を戻そうか。
奉公先の屋敷についた俺は、悪戯をする暇もなく、色々な仕事を覚えさせられた。
食事の仕込みとかが主な仕事だったけど、どちらかと言えば――
( ´_ゝ`)
屋敷の主人である、村長の息子のお守りというか、お目付け役の方を任されることが多かったかな。
まぁお守りっつったって、俺とその息子はほぼ同じ歳だったんだけどさ。
でも村にはそいつと似た年齢の奴がいなくて、すぐに意気投合して、仲良くなったよ。
んで、それから兄者と…。あ、兄者ってのは村長の息子の名前な。
兄者と毎日遊んだりして、まぁ、あの頃は結構楽しかった。
あ、遊んでばかりいたわけじゃない。当然、仕事だってちゃんとしたぞ?
最初の頃は掃除ばかりやらされてたんだが、
俺に掃除の仕事を教えてくれた人が、言うんだよ。
「奥座敷には絶対に入るな」ってさ。
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4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:51:22 ID:cY7vEcrY0
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当然、理由が気になるだろ?
まぁ、お宝だとかそういった大切なものでも隠してあるのかと思って、
それとなく兄者に聞いてみたんだよ。どうして奥座敷へは入っちゃダメなのか。
そしたら、思ってたのとはちと違う答えが返ってきた。
「奥座敷には母様が一日中引きこもってて、他の人が入ると怒るんだ。近寄らない方がいい」。
村長が引きこもっている奥座敷へは、一部の人間しか入れない。
実の息子である兄者ですら、其処へは入ったことがないらしかった。
村長が表に出てくるのは、ほぼ年に一度だけ。
兄者の誕生日に催される祭りの日にだけ、奥方様は村人たちと少しだけ酒を交わしたり話をして、
早々に奥座敷へ戻っていってしまうらしい。
開かずの奥座敷の話、気にはなったけどさ、まぁ…毎日忙しかったからな。
兄者と遊んだり、色々してるうちに、すっかり忘れていったんだ。
……それから少し時間が飛んで、兄者が14歳の誕生日を迎えた日。
兄者の誕生日は毎年村中が大騒ぎでな、やれ歌えや飲めやで賑やかだ。
だけど、兄者は退屈そうにその喧騒を眺めてた。
…………。思えば、俺があの時余計な事を言わなければ、今もあの村は存在していたんだろうな。
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5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:55:13 ID:cY7vEcrY0
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…少ししんみりしてしまったな。話を戻そう。
兄者は、自分の誕生日だってのに退屈そうだった。
「何か面白い話をしてくれ」というんで、屋敷を訪ねた客から盗み聞きした噂話をしてやったんだ。
その噂話ってのが、『村の裏山の頂に、月の無い夜、廃寺が現れる』ってやつよ。
村の周辺の話は大体知ってる兄者が、その噂話に食いついた。
真夜中って、何時? どういう廃寺なんだ? ってな。
だから、聞いたままを話してやったよ。
月の無い夜、丑三つ時に裏山の山頂を訪れると、石燈籠が並んでる。
その燈籠の先には、半壊した大きな鳥居があって、長い階段を登るとそこには、
ぼろぼろに朽ち果てた寺が建っているんだ、と。
そしたら兄者の奴、目を輝かせてさ、言うんだよ。
「実際に行ってみて、噂が本当かどうか確かめてみよう」って。
そりゃあ俺は止めるさ。兄者はいずれこの村の村長になる人間なんだし、
夜の山は獣が出るから危ない。だから行くなら、昼にしよう。
だけど、兄者がどうしても行きたい。お前が行かないってんなら、俺一人ででも行ってやると言うもんだから、
仕方なく俺も着いて行った。
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6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 02:59:26 ID:cY7vEcrY0
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ちょうどその日は月が出てなかったのもあるけど、ひどく暗い夜だった。
だから提灯と、あとそこらで拾った木の棒を武器にして、兄者と裏山を登ったんだ。
まぁ普段から俺達は裏山で遊んでたりしたからな。
迷うこともなく山頂に着いたんで、噂の廃寺を捜すことにした。
だけど、当然そんなもの在るわけない。
10分くらい探して、結局何もなくて、帰ることになった。
兄者は不満そうだったけど、現に何も無かったから仕方ない。
……でも、山を降りようと振り返ったその先にな、あったんだよ。
ぽつぽつと置かれた、石燈籠が。
苔とか生えてたし、最近置かれたものじゃないのは明らかだった。
燈籠の先には、半壊した鳥居もあって、本気でヤバイと思った。
でも、兄者はそうじゃなかったらしい。
石燈籠のその先、廃寺へ行くと言って聞かなかった。
何度止めても、行きたいの一点張り。
あいつ頑固だったからな。
結局何を言っても無駄だし、仕方なく俺も一緒に廃寺へ向かうことにした。
俺らが一歩ずつ歩を進める度に、傍らに置かれた石燈籠に火が灯るのが気味悪かった。
ちょうど6つ目の燈籠に火が点いた頃、兄者が言った。
「あれだけ聞こえていた、村の太鼓の音が聞こえない」
ああ。俺も気付いてた。太鼓の音どころか、虫や風の音すら聞こえなかったからな。
現世と黄泉の狭間にでもいたのかね。今でも、あの異様な場所が何だったのかは分からねえ。
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7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 03:01:17 ID:cY7vEcrY0
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長い階段を登り終わると、目の前にはそれなりに大きな寺があった。
屋根やら床なんかは抜けてて、ボロボロでな、灯りなんかは点いてない。
そんな寺をねぐらにするとしたら、魑魅魍魎の類か狐狸くらいだ。
どちらにせよ、碌なもんじゃないだろう。
中へ入りたいって言って聞かない兄者を止めるの、大変だったな……。
ほんとに変な所で頑固だし、好奇心の塊だからさ。
また今度来ようって言って、なんとかその日は村に戻るってことで話が決まった。
それで、階段を降り始めたんだけどな。
「あまり急ぐと転んじまうよ」
「転ばない程度に急げ。こんな所で転んだら、下まで真っ逆さまだ」
「そしたら笑ってやるよ」
そんな話をしてたらな、兄者が言うんだよ。
「ドクオ、俺、何も言ってないぞ」
何を言ってるんだ。今転んじまうって話をしてただろ?
でも、兄者は階段を降り始めてから一切何も喋ってないって言うんだよ。
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8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 03:04:01 ID:cY7vEcrY0
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俺と兄者、それ以外の奴がいる。
そう思って、慌てて護身用に持ってた木の枝を構えてさ、誰かいるのか聞いたんだ。
そしたら、寺の方から誰かが降りてくるのがぼんやりと見えた。
提灯の灯りで浮かんだ足元は小汚くて、着物はまるでボロ布を羽織ってるみたいだった。
だけど一番驚いたのは、そいつの顔さ。
(´<_` )
そいつは、兄者と瓜二つの顔をしていた。
顔どころか、身長も声も全く同じでな。
最初にそいつを見た時、兄者が真っ二つに割れたのかと思ったもんだ。
で、驚いてる俺らをよそに、そいつは大層楽しそうに笑いながら俺達の前に立った。
俺はもう未来の村長様を守らなきゃならないって一心で、木の棒をそいつに向けてたんだけどな、
兄者はまぁ元から人懐こい性格なもんだから、自分と顔のそっくりなそいつに夢中よ。
名前とか、どこから降りてきたのか、とか、色々と質問攻めにしててさ、
そいつは楽しそうに笑いながら、「色々と話もしたいし、寺に来いよ」って言う訳だ。
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9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 03:06:49 ID:cY7vEcrY0
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兄者はそりゃもう乗り気で、廃寺に上がり込むつもり満々だった。
だけど、俺は絶対に兄者を行かせる訳にはいかなかった。
だってそうだろ? 月のない真夜中に灯りも持たずに山をウロウロしている奴なんて、信用出来るわけない。
良くて狐狸、最悪は物盗りって相場は決まってる。
だから、必死に兄者を説得した。
夜にしか現れない寺に招き入れる奴が、まともな人間な訳がない。
そう言って、何度も何度も。
やっと説得が通じて、村に帰ることになって、兄者は改めてそいつに名前を聞いた。
だけど、そいつには名前が無かった。
それじゃあ呼ぶのに不便だってことで、兄者がそいつに名前を付けたんだ。
俺が兄者だから、お前は弟者だ。
これからお前は弟者と名乗れ。
そこで初めて名前を貰った弟者は、飛び上がって喜んでた。
俺は……とにかくその場から離れたくて、兄者の着物の袖を引っ張ってたな。
で、やっと弟者と別れて鳥居の外に出た途端に、
今までずっと聞こえてなかった太鼓の音やらが聞こえるようになったんだ。
振り返ってみても、そこには寺も鳥居もなかった。
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10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 03:08:57 ID:cY7vEcrY0
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屋敷へ帰る途中で、兄者と今までに起きたことを話してみたけど、
何一つ分かったことは無くてさ。
でも、何も分からないままなんて気持ちが悪いだろ?
だから、次の日の昼間にもう一度裏山へ行ってみようということになって、
その日はそれで、解散したんだ。
川 ゚ -゚)「結局、その弟者ってのは何だったんだ?」
('A`)「まぁ順を追って話すから、待てよ。……続きを話そうか」
('A`)「次の日、俺は早々に仕事を終わらせて兄者の所へ向かった―――」
どうやら、兄者も俺を待ってたらしい。
そわそわ落ち着きなく、あいつは自分の部屋を行ったり来たりしていたんで、
それがちょっとおもしろかった。
急かされるように裏山を登って、俺たちは昨日と同じように山頂に辿り着いた。
だけど、当然そこに寺なんて無いんだよ。
せめて何か手がかりがないかと思って、草の根掻き分けて色々と探してみたけど、
結局夕暮れになっても、石燈籠の一つすら見つからなかった。
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14 名前:遅くなったけど続き[] 投稿日:2015/08/17(月) 21:44:41 ID:cY7vEcrY0
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いつまでも屋敷を空けてると、兄者の世話役がうるさいからさ、
とりあえず一度、屋敷へ戻って、夜中にこっそり来てみようってことになったんだ。
俺は最後まで反対したけど、まぁ…押し切られる形で、結局またあの廃寺へ行くことになった。
んで、真夜中よ。
提灯持って、俺は兄者の部屋へ向かったんだ。
兄者は出かける準備万端で、昼間みたいに俺を待ってた。
灯りを点けると誰かに見つかって咎められるかもしれないからな。
提灯は外へ行ってからつけようってことで、俺と兄者はそっと屋敷を出て、
村の端にある古神社まで行った。
そしたらさ、なーんか、いい匂いがするんだよ。
美味そうな匂いが、すぐ其処から。
なんだろうな、なんて言いながら提灯の灯りを向けたら、神社の軒下に、お膳があったんだ。
村じゃ滅多に食えない焼き魚まで皿に乗ってた。
それだけじゃない、飯からはまだ、湯気が立ってたんだ。
まさに、作りたての飯を誰かがたった今置いたって感じだった。
んで、極めつけは、食事が乗ってる食器よ。
屋敷でお客人に出すような、漆塗りの食器だった。
こんな立派な食器を持ってるのは、村じゃ村長の屋敷しかない。
つまり、こいつを置いたのは屋敷の人間だってことだ。
気味悪いよな。こんな真夜中に、誰が神社の軒下に豪勢な飯を置くんだ?
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15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 21:46:49 ID:cY7vEcrY0
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兄者も、誰がお膳を置いたのかは見当も付かないようだった。
薄気味悪そうにお膳を見てたっけな。
でも、其処に留まってても仕方ない。
不気味なもんを感じながら、俺たちは裏山を登っていった。
……すると、昨晩と同じだ。
石燈籠が続いてて、その先に鳥居。鳥居の下には、弟者がいた。
弟者は、俺たちが来るのを待ってたみたいだった。
廃寺へ上がらせて、白湯を出して、目を輝かせながら色んな話をせがんだ。
何を話してたっけなぁ……。
俺、弟者に対して警戒しまくってたから、あまり話聞いてなかったよ。
確か俺たちの村の話とか、山の話とか、そんな当り障りのない話だったと思うんだ。
弟者は、兄者が語る話を本当に楽しそうに聞いてた。
黙って見ていると、まるでちゃんとした人間みたいに思えたけどな。
やっぱり、弟者は人間とは少しズレてたんだよ。
一息ついた頃、兄者が弟者にいくつか質問したんだ。
「ここに住んでるのか?」
「親とか、他の人はいないのか?」
その会話は、俺も興味があったからよく覚えてる。
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16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 21:52:08 ID:cY7vEcrY0
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「俺はこの廃寺に住んでて、親どころか他の人間を見たのはドクオと兄者が初めてだ」と。
「寺の外へ出ようとしたけど、鳥居より外側へは何故かどうしても出られない」と。
それを聞いて、やっぱりこいつは人間ではないと確信が持てた。
俺が弟者に対して過剰なまでに警戒してたのは、間違いじゃなかった。
さすがの兄者も、何か思うところがあったんだろうな。
いつもお喋りな兄者が、黙りこくっちまった。
兄者は多分、弟者に対してかなり感情移入というか…同情していたんだろうな。
これから昼に屋敷を抜けて遊びに行くときは、この廃寺に来ると言い出した。
だけどさ、昼間は廃寺に行きつけないんだ。
兄者だって、身を持って知ってるはずだろ? だって、昼間に山頂へ来たじゃないか。
そう言ったら、弟者が言ったんだ。
「昼間に此処へ来たのなら、寄ってくれれば良かったのに」
そりゃあ、寄れるもんなら寄るさ。
だけど、どうしたって行きつけなかったんだから仕方ないだろ。
昼にこの寺を探しに来た話をしてやったらさ、弟者の奴、目を丸くしてたよ。
「俺はずっとこの寺に居て、一歩だって動いちゃいない。
捜し方が悪かったんじゃあないのか?」 ってな。
まぁ、それならそれでいい。
それなら、俺らの頭がおかしくなったんじゃないかって思わずにいられるからな。
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17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 21:55:28 ID:cY7vEcrY0
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でも、俺らが探してたのはこの廃寺だ。
小石を捜すのとはわけが違う。
昼間には辿り着けなくて、夜にしか現れないこの廃寺。
その廃寺に住んでる弟者を、幽霊だとかそういったモノだと疑うのは当然だと思うんだよ。
その通りを言ってやったらさ、弟者は困ったように兄者を見た。
困った顔が本当に兄者と瓜二つでさ、本当に鏡写しみたいで……。
……まぁ、そんな話をしてたら、やっぱり空気も重くなっちまってな。
夜も深くなったし、そろそろ今日は帰るってことで、引き上げることにした。
んで、帰り際に余計な事を言うのが兄者だ。
さすがに毎日は来られないけど、週に一度くらいは遊びに来るって弟者に約束しちまった。
だけど、弟者は首を振った。
「兄者はいずれ偉い人になるんだろう。だったら、夜に山をウロウロしない方がいい。
俺は兄者に名前をもらったし、俺以外の人間とこうして話も出来たから、もう満足だ」
少し後味悪い感じもしたけどさ、やっぱこんな変なことに首を突っ込むべきじゃない。
兄者はブツブツ何か言ってたけど、俺らは寺を後にした。
川 ゚ -゚)「それから、お前と兄者さんは廃寺には行かなかったのか?」
(;'A`)「お前も結構話を急かす方だよな」
('A`)「……それでお終い。めでたしめでたし……で終われば一番良かったんだけどな。
残念ながら、もう少し続きがある」
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18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 22:02:29 ID:cY7vEcrY0
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屋敷へ帰る途中、本当に他愛もない話をしたんだ。
今日は月がくっきり見えていい天気だな、とか、多分そんな感じの話を。
……え? 廃寺は月のない夜にしか現れないんじゃなかったのかって?
そうなんだよな。俺もそう聞いたんだけどさ、まぁ唯の噂だからな。
正確な話ってわけでもないんだろう。
…話を戻そう。俺が色々と話しかけても、兄者はぼんやりと呆けた返事しか寄越さなかった。
屋敷へ帰って、それぞれの部屋へ戻る頃になっても、兄者は上の空だ。
ちょっと心配だったけど、弟者からも来るなと言われたんだし、妙な真似はしないだろうと思った。
もう夜も遅い時間だったし、俺らは短い挨拶をしてから寝所へ戻ったんだ。
その日から、兄者はすっかり人が変わった。
世話役を振りきって屋敷中を走り回ったり、遊びに行こうぜと誘いに来てた兄者が、
勉強に打ち込むようになった。
……後に、村の爺さん婆さんと話す機会があってな。
兄者は、村の歴史について色々と聞いて回っていたらしい。だから、多分それで……。
…………。今までの不真面目な態度から一変したもんだから、兄者の世話役のおばさんもびっくりしててな。
俺も、気にはなってたけど、その頃は色んな仕事を任されるようになってたから、
兄者をそっとしておいたんだ。
……そんな毎日が過ぎて、大体一ヶ月くらい後だったかね。
兄者が、屋敷から姿を消したんだ。
ある朝に目を覚ましたら、屋敷中を奉公人たちがバタバタ走り回っててさ。
こりゃあタダ事じゃない。何かがあったんだ。と思って、
それなりに仲のよかった奉公人を捕まえて、何事なのかを聞いたんだ。
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19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 22:09:19 ID:cY7vEcrY0
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そしたら、「兄者が寝所にいない。屋敷の中にもいないので、皆で探してる」ときた。
昨晩、兄者が寝所にいたのは、他の使用人が見てる。
だから、夜中の間に兄者は布団を抜けだして、どこかへ姿をくらましたってことになる。
兄者が夜中に行きそうな所なんて、一つしかなかった。
きっと、弟者の所へ行ったんだ。俺に言うと反対するから、一人で。
昼間は廃寺に行き着けないのは知ってたけど、それでも慌てて裏山に走って、
兄者を夕暮れまでずっと探してさ。それでも、見つからなくて。
提灯を持ってなかったから屋敷へ戻ったら、やっぱり奉公人たちが兄者を探し回ってて。
そこで、ふと気づいた。
これだけ屋敷中が大騒ぎしてるのに、奥座敷にいるであろう村長が全く何も反応しない。
きっと、兄者が姿を消したことは村長の耳にも入ってるだろう。
それなのに…村長は、奥方様は、一切表に顔を出すことすらしなかった。
やっぱりさ、奥方様もどこかおかしかったんだ。
後々になって理由が明らかになったんだけど、まぁ……。
……夜になって、その日の捜索は一度取りやめになった。
当然だ。夜闇の深い山の中じゃ、探せるものも探せないからな。
でも俺は、諦めなかった。
真夜中過ぎにそっと寝所を抜けだして、裏山の廃寺へ行こうと準備して。
屋敷の玄関へ向かった時、外から足音がするのに気づいた。
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20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 22:16:54 ID:cY7vEcrY0
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よく考えたら、隠れる必要なんてどこにもないんだけどな。
真夜中にふらふらしていると大人に叱られると思って、思わず其処らの物陰に隠れたんだ。
厠だとか、適当に言い繕えたはずなんだけど、其処まで頭が回らなかったんだな。
で、少し身を隠してたら、そっと玄関の戸が開いて誰かが入ってきた。
こんな時間に誰が起きてるんだろうと思ってさ、止せばいいのに、そーっと玄関を覗き見てみたんだ。
誰が居たかって? 兄者? いや、違う。
lw´‐ _‐ノv
奥方様だ。
いつも奥座敷に引きこもって、兄者が消えても表に出てこなかった奥方様が、
屋敷の外から帰ってきた。
どこに出掛けていたのかは分からない。
奥方様は、いつもの無表情のまま座敷へ戻ろうと歩き出したんだが、
ふと足を止めて、此方を見て、
「隠れていないで、出てきたら如何ですか。ドクオ」
……そう言ったんだ。
俺、隠れてたのに。どうして俺が隠れてるって分かったんだろうな。
名指しされちゃあ、無視するわけにもいかないだろ?
大人しく、奥方様の前に出ましたさ。
別に後ろめたいことも何もしてないし、謝る必要もないんだけど、すみませんって繰り返してた。
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21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 22:28:33 ID:cY7vEcrY0
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奥方様は、別に怒ってはいなかった。
夜に出歩くのは止めた方がいい、みたいな事は言われたっけ。
でも、その言い方がさ、何ていうのかな…。
俺を心配しているとかそういうんじゃなくて、書かれた文章をただ読んでる、みたいな調子でさ。
…ん? あ、そうだな。棒読みなんだよ。
あの人の喋り方は、いつもいつも棒読みだった。
で、奥方様は兄者の事を聞いてきた。
やっぱりこの人も母親なんだ。表情には一切出ないけど、兄者の事は心配なんだな。
「すみません。まだ兄者は捜索中で…。明朝、奉公人たちでまた――」
「兄者は、恐らく戻らないでしょうね」
……奥方様の言った言葉が理解出来なくて、間抜け面で聞き返したよ。
兄者は戻らない、だなんて、母親が言うもんじゃない。
最後まで希望を持つのが親なんじゃないのかって、思った。
でも、奥方様は言うんだよ。兄者は戻らないだろう。
あの子は、裏山にいるのでしょう? って。
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22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 22:46:40 ID:cY7vEcrY0
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……奥方様は、裏山の話を知っているようだった。
どういうことなのか分からなくてさ、混乱してたら、
奥方様が俺の手を引いて、奥座敷へ連れて行ったんだ。
長くなりそうだから、座って話しをしましょうと。
初めて入った奥座敷は、かなり広かった印象がある。
座敷の真ん中には、行灯と一組の座布団があって…。
逆に言ってしまえば、それ以外は何一つ置かれていなかった。
殺風景で、薄ら寒い気持ちになったのをまだ覚えてるよ。
…俺の話、飽きてきたか? 大丈夫か? 続きを話すぞ?
奥方様は、俺の知りたいことをぽつぽつと話してくれた。
「時折、全く同じ顔形の子供が一人の母親から同時に生まれることがある。
それを『双子』と呼び、どういうわけだか、この村では『双子』がよく生まれた」
「お前も察しているように、兄者も『双子』の片割れとして14年前に生まれた」
「近年は作物を蓄えるだけの余裕が出てきたが、昔は食うに困る日々が何年も、何十年も続いた。
何も食べられずに餓死する者も、少なくはなかった」
「赤子一人も育てられるか分からないのに、『双子』を育てられる訳がない」
「だから、昔の村長は『双子の片割れは、此処の土地神様が間違えて一人の母に与えてしまったもの。
先に生まれた子は神さまにお返しして、後から生まれた子を大事に育てろ』という決まりを作った」
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23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 23:03:20 ID:cY7vEcrY0
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「『双子』を産んだ私も当然、その決まりを守って、先に生まれた子を神さまにお返しした」
「でも、片割れを手放さなければならなかった母親の悲しみは深かった。
その悲しみを癒やすため、土地神様の元へ還って行った子の鎮魂のため、
昔の村長は双つで一つの寺社を作った」
「一つは、村の端にある神社。そしてもう一つは、お前も知っている、裏山に作られたお寺」
「名前すら与えられなかった片割れの子供と同じく、寺の方には名前が付けられていない」
「寺が残っていない理由はよく分かっていないが、
『一夜にして、寺は跡形もなく掻き消えた』という記録が残っている」
こんな話、あるはずがないと思った。
でも、奥方様の目はどこまでも真剣で、茶化せるような雰囲気ではなかった。
だから、少し話を変えたんだ。
奥方様はさっき、どこに出掛けてたんですか?
返ってきた答えで、ちょっとした謎が解けたよ。
奥方様は、神社の軒下にお膳を持って行ってたんだと。
片割れが腹を空かせてはならないから、毎日、毎日、ずっと。
兄者は優しい子だった。だから、哀れな片割れの元に行って、一緒に居てあげているんだ。
悲しいけど、母として兄者を誇りに思っている。
そんな話を、どこまでも真面目に語るんだ。
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24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 23:21:29 ID:cY7vEcrY0
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兄者を助けようとは思わないのか? あいつはまだ、生きてるんだ。
「双子をまた引き剥がすなんてこと、私には出来ない。
兄者はいずれ、私の後を継いで村長になるはずだったが、それももう叶わないだろう。
だから、ドクオ。お前が、兄者の代わりになりなさい。
私が今からあなたの母。私を母と呼び、お前だけは何処へも行かないでおくれ」
……そんな顔するなって。俺だって、そんなことを言われてドン引きしたさ。
奥方様は、頭の螺子が全部吹っ飛んじまってたんだ。
それに、まだドン引きする話が残ってる。
…自分を母と呼べ、そう言いながら、奥方様が俺に抱きついてきたんだ。
見てくれは本当に美人だったんで、イカれたことさえ言わなければ多分嬉しかったけど、
さすがに俺も、頭のおかしい人はちょっと勘弁だ。
だから、思いっきり突き飛ばしちゃってな。
ぽーんと畳の上に転がった奥方様の懐から、赤い風呂敷包みが飛び出たんだよ。
そういえば、奥方様はいつもその風呂敷包みを持ってたっけ。
今までさして気には留めなかったけど、何が入ってるんだろう。
そう思って、風呂敷を拾おうとしたら、奥方様が物凄い形相で風呂敷を抱え込んだ。
それまで全くの無表情だった奥方様が、目を剥いてる様はそりゃもう恐ろしかった。
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25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 23:32:14 ID:cY7vEcrY0
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さすがに、そんなおっそろしい形相の奥方様から風呂敷を取り上げるのも憚られて、
奥方様が落ち着いた頃、風呂敷の中身が何なのかを聞いてみたんだ。
そしたらさ、奥方様、風呂敷包みをゆっくり俺に差し出したんだよ。
私の息子となるお前にも、紹介しなければならない――だとか何とか言ってたけど、
正直、話なんて一切聞いちゃいない。
差し出された風呂敷を見て、何だか猛烈に嫌な予感がしたんだ。
でも、中身が気になっていたのも事実。だから、風呂敷を受け取った。
重さはな、とても軽かった。
大きさは、俺の握りこぶしより少し大きいくらいだったかな。
この風呂敷の中身は、見ちゃいけない。
そう直感したんだけどさ、やっぱり俺も、兄者の事を言えないな。
好奇心ってやつが、俺の手を動かすんだよ。
風呂敷をめくる手がどうしようもなく震えて、心臓の音がうるさいくらいに響いて。
そんな俺を、奥方様は静かに微笑みながら見てた。
で、肝心の中身だ。
奥方様が四六時中、肌身離さずに抱えていた其れ。
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26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 23:50:16 ID:cY7vEcrY0
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まぁ、お前にも大体想像はつくだろ? ああ、そうだ。
風呂敷の中身は、赤ん坊の頭蓋骨だった。
俺も想像してたとはいえ、さすがに衝撃的すぎてさ、その頭蓋骨を跳ね除けたんだ。
ごろりと転がった其れを、奥方様は優しく抱きかかえてよ。
本当に優しい声で、骨に語りかけてた。
そうしてる間だけは、いつもの棒読みじゃなくてな。
どこまでも優しい母親の姿だったよ。抱えてるものが骨じゃなければ、だけど。
「今日からあなたのお兄さんになる、ドクオですよ。
あなたは少し人見知りするところがありますが、きっとドクオなら大丈夫。
よいお兄さんとなってくれます」
「さぁ、ドクオ。あなたもこの子を抱っこしてあげてください」
そうしてまた、奥方様は頭蓋骨を抱えたまま、俺に抱きついてきた。
髑髏が目の前に迫って来てさ、情けない悲鳴上げて、またも奥方様を思い切り突き飛ばしたんだ。
でも、今回は運が悪かった。
奥方様が吹っ飛んだ先には、油がたっぷり差された行灯があって……。
……ああ。奥方様は、行灯の上に倒れたんだ。
畳や障子に火が散って、当然ながら奥方様にも火が燃え移った。
とんでもない事をやらかしちまったと、腰が抜けた俺の前で、
火を気にもせずに奥方様は髑髏を手探りで探し回って、そして炭になっていった。
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27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:02:57 ID:BCK.28560
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奥方様が最期まで探し回ってた髑髏は、座敷の端に転がってた。
何でそうしたのか、自分でも分からないんだけどな。
俺、その髑髏を抱えて、裸足のまま裏山の廃寺へ向かったんだ。
提灯すら持って行かなかったから、いろんなものに躓いて何度も転んだ。
兄者を助けなきゃと、そう思ったんだ。だから、必死だった。
そうして、やっとの思いで山頂にたどり着いた。
目の前に、ぼんやりと明かりのついた石燈籠があった。
数は7つ。歩く度に明かりが灯るその石燈籠の先に、半壊した鳥居があって……
( ´_ゝ`)(´<_` )
その下には、兄者と弟者がいた。
泣いても笑っても、これが最後だと思った。何でかは知らねぇ。そんなもんだ。
だから、軽く挨拶から始めた。
いい夜だな。兄者、奥方様が心配してたよ。
だから、一緒に帰ろう。
でも、兄者はゆっくり首を振った。
まぁそうだろうなとは思ったんで、さして驚きはしなかったけど。
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29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:13:00 ID:BCK.28560
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弟者を置いては帰れない。俺は、こいつの兄ちゃんだ。
生まれる前からずっと一緒にいた、兄弟なんだ。
最もな話だ。生まれる場所さえ違ければ、今も兄弟は一緒にいて、
一緒に飯を食って、一緒に寝て、喧嘩をしたり遊んだりしていただろう。
だけど、そうはならなかった。
弟者はもう既に死んでいて、お前の隣にいるのはやっぱり幽霊なんだ。
「兄者、これが、お前の横にいる奴の頭の骨だ。
奥方様がずっとずっと風呂敷に包んで肌身離さず抱えてたのは、弟者の骨だった」
そう言って、髑髏を兄者に渡したら、兄者は目を丸くして弟者を見た。
弟者は……自分の骨を、無表情で見てたっけな。
でも、ふと笑って、言ったんだ。
「やっぱりな」
「おかしいとは思ってた。俺とお前らじゃ、全然生きている世界が違うから。
やっぱり俺は死んでいて、この廃寺は死者だけが住める場所なんだ」
……そう、弟者が悟ったように言った途端だ。
廃寺の方から、火の手が上がった。
村の端の神社とこの廃寺は双つで一つだと、奥方様が言ってたからな。
多分、屋敷の火が神社にも移ったんだろう。
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30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:28:29 ID:BCK.28560
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廃寺を燃やす炎を見て、弟者が兄者の背を押した。
兄者はめちゃくちゃに抵抗してたんで、抑えるのに苦労したよ。
……別れの言葉を口にして、弟者は振り返らずにゆっくりと廃寺の方へと階段を登っていった。
必死すぎて気付かなかったけど、炎はもうすぐ其処にまで近づいてたんだ。
焼けた木が、ベキベキと音を立てて倒れる音がして、弟者の頭上に迫ってた。
それを見た兄者が、俺の手を振りほどいて―――
…………。死んでいると知っても、弟者を助けたかったんだろうな。
兄者は優しかったけど、死ぬほど馬鹿だった。
倒れた木に阻まれて、兄者は此方へ戻っては来れなかった。
「お前だけ逃げてくれ。俺は此れでいいんだ。此れが、いいんだ」
そう笑って、兄者は手を振った……。
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31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:32:52 ID:BCK.28560
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その途端に、ぐらりと地面が震えた。
体を支えるのも大変なぐらいの大きな揺れで、そのせいで、半壊していた鳥居が崩れていった。
鳥居が崩れ落ちて、その瓦礫が二人を隠す寸前―――
('A`)
……嗚呼、あの瞬間は今でも夢に見る。
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32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:33:55 ID:BCK.28560
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( <_, )
_
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33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:36:18 ID:BCK.28560
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弟者の口の端が、確かに吊り上がってた。
あいつ、笑っていやがったんだ。
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34 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:40:54 ID:BCK.28560
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―――それからの事は、あんまり覚えてないんだよな。
気がついたら朝が来てて、廃寺も兄者も弟者も、全てが消えてた。
周りには火事の跡も無かったんで、夢かと思ったくらいだ。
山を降りて、村へ戻ったら、屋敷も周りの家も、神社も、全てが燃え尽きてた。
幸いなことに死者は村長だけで済んだらしいけど、
もう俺にとって、そんなことはどうでも良かった。
奉公先の主人も居なくなって、復興は望めないと見切りを付けた奴らは、
早々に村を立ち去ったらしい。
俺も、他の奉公人たちと一緒に、故郷の村へと帰って行った。
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35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:44:13 ID:BCK.28560
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川 ゚ -゚)「……壮絶な話だったんだな。軽い気持ちで聞いてしまって済まない。
気を悪くしたか?」
('A`)「いいや。もう昔の話だ。俺は多分、出来ることはやったと思う。
だから、もうあまり気にしてないさ」
ξ*゚听)ξ「とーちゃん! これ! あげる!」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしも!」
('A`)「お、つんにでれ。綺麗な花だな。ありがとう」
ξ ゚听)ξ「あのね! おじちゃんたちがくれたの!」
ζ(゚ー゚*ζ「おじちゃん!」
('A`)「おじちゃんかぁ、この村の人か? 誰だろな?」
川 ゚ -゚)「つん、でれ。夕飯の準備は出来てるぞ。手を洗って来なさい」
ξ ゚听)ξ「わーい!」
ζ(゚ー゚*ζ「わーい!」
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36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:49:51 ID:BCK.28560
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('A`)「白い…なんだろう? スズランか?」
川 ゚ -゚)「いや、雪待草だな。珍しいな、ここら辺じゃあまり見ない花だ」
('A`)「どこで貰ったんだろうな」
川 ゚ -゚)「確か雪待草の花言葉は希望、だったかな。
……あと何かあった気がするけど、何だったか…」
ξ ゚听)ξ「あのね、そのお花、おんなじ顔のおじちゃんたちがくれたんだよ!」
ζ(゚ー゚*ζ「くれたの!」
('A`)「同じ顔の…?」
ξ ゚听)ξ「とーちゃんと同じくらいの歳の人! 細目の! ひょろって背が高いの!
とーちゃんに世話になったから、とーちゃんに渡してくれって!」
('A`)「……!」
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37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:52:20 ID:BCK.28560
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('∀`)「そうか…。はは、そうか! 良かった…。本当に、良かった」
川 ゚ -゚)「まさか?」
('∀`)「ああ、多分、きっとそうだ。あの村の辺りには、こんな花が咲いてた気がする。
あいつらもきっと、気にするなと言ってくれてるんだな」
川 ゚ -゚)「良かったな。いい友だちで」
('∀`)「そうだな。……今度、つんとでれを連れて墓参りにでも行くか」
ξ ゚听)ξ「墓参り?」
ζ(゚ー゚*ζ「墓参り?」
('A`)「そうだぞー。父ちゃんの友達の、墓参りだ」
幸せな家族が、夕餉を囲む。
その家の灯りを遠目に、兄と顔がそっくりな弟は言った。
「俺達からの贈り物、喜んでくれたみたいだな」
それを受け、弟と顔がそっくりな兄が答えた。
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38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:53:21 ID:BCK.28560
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( ´_ゝ`)「俺達、友達だもんな。ドクオ」
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39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:54:32 ID:BCK.28560
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兄弟の手には、白い雪割草が凛と揺れていた。
お終い
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40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/18(火) 00:55:34 ID:BCK.28560
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(
)
i フッ
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