土蔵 階下の蠢き のようです

618 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 00:54:17 ID:O85Atftc0


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土蔵 階下の蠢き のようです

619 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 00:55:47 ID:O85Atftc0

(;,゚Д゚)「……だりい」

 俺は、目の前の土蔵を見上げた。
 大きくはないが、かといって小さくもない。


   『──あんた、本当に留守番でいいの?
    せっかくの夏休みなんだから、家族旅行くらい……』

   (,,゚Д゚)『ンなことするガラじゃねえし。まず部活あるから』

   『そう……あ、じゃあさ。
    お母さん達が旅行に行ってる間に、蔵の整理してくれない? 部活が休みの日でいいから』


 申し訳なさそうに頼む母の目は、声音とは反対に、強制の色が大層強かった。

620 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 00:57:01 ID:O85Atftc0

 そうして、祖父母と両親が旅行へ出掛けてから3日目。
 日曜の本日、母上様のお望み通り、俺は無駄に広い庭の片隅にある土蔵の片付けをすることになった。

 せっかくの休日。一人きりの家を堪能したかったが、頼まれた以上は仕方ない。

 首に引っ掛けたタオルで汗を拭い、土蔵の扉に掛かる閂を外した。

621 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:01:37 ID:O85Atftc0

(*,゚Д゚)「……お、涼しい」

 土蔵の中は思ったより涼しかった。
 ひんやりとした空気に満ちている。

 これなら快適に作業が出来るかもしれない。

(*,゚Д゚)「よしよし」


 ──高さは2階建てほど。
 ただし2階部分の床は、蔵の半分程度の幅しかない。

 というか右側の壁から足場が張り出しているだけ、といった感じ。
 左側はがら空きで、構造としては吹き抜けのようなものだ。

 窓はといえば、高い位置に細いものがいくらかあるだけなので、
 1階部分まで届く光が少なく、薄暗い。

 庭にあった手頃なサイズの石をドアストッパーの代わりにして、扉を開けておく。
 それでも光の届かない場所がある。壁を探ってスイッチを押すと、天井の明かりがついた。

(,,゚Д゚)(ちゃっちゃとやるか)

 整理の仕方については、事前に指示されている。
 まずは一番近いところから手をつけた。



*****

622 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:03:04 ID:O85Atftc0


(,,゚Д゚)(お?)

 1階の作業が終わりに差し掛かった頃。

 隅っこに大量に積まれていた小物を持ち上げると、
 その下から妙なものが出てきた。

(,,゚Д゚)(何だこりゃ……人形か?)


 人形とは言ったが、作りは何というか、粗雑だった。

 頭、胴体、両手足。それぞれ、適当に綿を詰めた布といった風情で、細かい造形をしていない。
 それらのパーツをただ縫い合わせただけだから、ますます雑に見える。
 薄汚れていて、ずいぶん古そうに感じた。

 手足は左右で長さが違うし、胴体に対して頭がやけに大きいのでぐらぐらする。

 のっぺりした顔面に目鼻と口が直接描き込まれており、
 それもまた適当に描かれたように歪んでいた。

 全てがアンバランスで、不気味だ。
 やや小柄な人間ほどの大きさをしているので、余計に。

623 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:07:15 ID:O85Atftc0

(;,゚Д゚)「何だこれ、きもちわりい」

 後で祖父母に訊いてみようか。
 ただ、ここにあるほとんどの品は曾祖父の私物らしく、
 祖父母もこの土蔵に入ることは少ないから、訊いても分からないかもしれない。
 
 人形を元の場所に戻す。
 見なかったふりをして小物をしまう作業を再開させたが、

(,,゚Д゚)「……」

 人形に見られているような気分になって落ち着かず、
 溜め息をついてから、人形を壁と向かい合わせた。

 作業に戻る。
 手早く棚にしまい終えれば、1階の片付けはこれで終了。

(,,゚Д゚)(次は上か……)

 腰に手を当て、上を見遣る。

 ──そのとき、ことん、という音が背後で鳴った。

624 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:08:05 ID:O85Atftc0

 音のした方へ視線をやると、

(;,゚Д゚)(うわ)

 人形が倒れ、こちらに顔を向けていた。

 頭が重くてバランスがとれず、倒れてしまったのだろう。
 そうとは分かっていてもやはり気味が悪かったので、
 もう一度、前のめりで壁に凭れるような体勢にさせた。

 それから蔵の中央にある梯子を使って2階へ上がった。
 2階は1階の半分程度の面積しかないし、物も少ないから楽だ。

 近くなった窓を見る。まだまだ明るい。

(,,゚Д゚)(日が暮れる前には終わるか?)



*****

625 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:09:08 ID:O85Atftc0



(,,゚Д-)「……」

 瞼を持ち上げた。

 ぼうっとする。
 何だっけ。どこだっけ。何してたんだっけ。
 ええと。

(;,゚Д゚)(……あ、しまった、寝てた)

 そうだ。古雑誌の整理をしていて、ちょっと興味が湧いたのでぱらぱら斜め読みしていたら
 うとうとしてきて、そのまま──

626 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:10:10 ID:O85Atftc0

(,,゚Д゚)(こんな埃っぽい場所で寝ちまうとはなあ)

 身を起こし、頭を掻いた。
 部活の疲れが溜まっていたせいだろう。まだ少し眠い。

 ふあ、と欠伸を一つ。
 残った分をさっさと終わらせて、自室のベッドでゆっくり寝よう。


 幸いにも大した時間は経っていなかったようで、窓の外は相変わらず明るい。
 だが、何だか土蔵の中がやけに暗く感じる。

 首を捻り、上を見上げ、天井の明かりが消えているのに気付いた。

627 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:11:03 ID:O85Atftc0

(,,゚Д゚)(球が切れたか?)

 1階を片付けていたときに、未使用の電球を見たのを思い出した。
 転落防止の柵越しに、1階を見下ろす。

(,,゚Д゚)(……あ?)

 ──入口の扉が閉まっていた。
 おかげで、2階よりも暗い。

 どうして閉まっているんだ? 石を置いて、閉まらないようにした筈。

 不審に思い、ひとまず下りてみようと梯子に近付き──


 蠢くものを見た。


(;,゚Д゚)「……?」

 身を乗り出してもう一度1階を覗き込む。

 暗い階下で、何か白っぽいものが動いている。
 目を凝らし、


 あの人形であるのに気付いて、息を呑んだ。

628 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:12:07 ID:O85Atftc0

 思わず出そうになった声を必死に飲み込む。
 人形は頭をぐらつかせ、不揃いの足を引きずるように蔵の中を移動している。

 俺の頭の中は疑問符でいっぱいだった。
 実はまだ寝ていて、夢の中にいるんじゃないかと思っても、
 どくどく跳ねる心臓や、ひやりとした空気の感触がどうしても生々しくて、俺の考えを否定する。

 何で動いている。
 ──何をしている。


 人形はごそごそと箱の中を漁ったり、戸棚を開けて顔を突っ込んだりしている。
 全ての動きがぎこちない。

 時おり、物に引っ掛かって手足が妙な方向に捩じ曲がるので、
 中に人が入っているわけではなさそうだ。

(;,゚Д゚)(何か探してる……?)

 首に引っ掛けていたタオルを口に当てる。
 緊張で乱れた呼吸が、奴に届いてしまうのではないかと思ったのだ。

629 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:13:21 ID:O85Atftc0

 人形は、2階の足場の真下へ入った。
 2階にいる俺からは姿が見えなくなる。

 ずるずる、ごそごそ、かたかた。
 動作の音が聞こえるだけ。
 あの白い固まりの蠢く姿が脳裏に浮かび、慌てて頭を振った。


 ──突然、金属が擦れ合うような音がした。
 そしてしばらく、人形の動く音が消える。

(;,゚Д゚)「?」

 どうしたのだろう?

 気になったが、動くわけにもいかず、そのまま待った。

 一分も経たずして、ずる、という足音が再開した。
 間もなく人形が俺の視界に収まる位置へ戻ってくる。
 中央で立ち止まり、左右を見渡す人形。

 その右手に、ごつい剪定バサミを持っている。

630 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:14:32 ID:O85Atftc0

 不吉なものを感じて、身震いした。

 人形の手には指など無く、持ち手をむりやり握り込むような持ち方をしている。
 あれでは正しい使い方など出来ない。
 ──なら、何のためにあんなものを。

 人形はハサミを握ったまま、また何かを探すような動きをし始めた。

 積み上げた箱の陰を覗いたり、机の下に潜ったり。
 そうして目当てのものが見付からないと、苛立ったようにハサミの先で壁や床を引っ掻くのだ。


 ──見付かったら駄目だ。
 何か、良くないことが起こる。

 直感めいたものが俺に危険信号を送る。
 物音を立ててはならないと思うと、指先すら動かせなくなった。
 叫びだしたいのを、タオルを噛むことで耐える。

 どうしたらいいだろう、外へ逃げるには1階へ下りなければならない。
 窓の外は足場になるようなものがないから、窓から逃げるのは不可能。

631 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:15:16 ID:O85Atftc0

(;,゚Д゚)(……電話)

 友人に電話をかけて、来てもらえば。
 どうにかなるかは分からないが、少なくとも心強くはある。

 俺は急いで辺りを見渡した。
 片付けの途中、時間を確認するためにポケットから携帯電話を出して、その辺に置いた筈。

(;,゚Д゚)(あった!)

 携帯電話は真横にあった。
 だが、微妙な距離だ。腕を伸ばして届くか否か。

 確実に届かせるために体を動かしたら、その音が階下のあいつに聞こえてしまうのでは──

 人形の様子を窺う。
 あいつは何故か動き回るのをやめ、中央に立ち尽くしていた。

 それが、気配を探ろうとしているように見えて。
 ほんの僅かな物音を立てることすら躊躇させる。

632 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:15:58 ID:O85Atftc0

 タオルを一層強く噛む。
 横目に携帯電話を睨む。

 慎重に、慎重に手を伸ばした。
 指先が触れる。
 しかし力の加減が上手く行かず、軽く押すような動きになってしまった。
 携帯電話が少し離れる。

(;,゚Д゚)(……くそっ!)

 指の先の先までをぴんと伸ばすようにしながら、肩を僅かに傾ける。
 携帯電話に掠りはするが、掴むまでには至らない。

 人形は未だ立ち尽くしている。
 先のようにずるずると足音を立ててくれれば、それに紛れて体勢を変えることが出来るのに。

633 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:19:14 ID:O85Atftc0

 一か八か、動いてしまおうか。
 だが、もし気付かれたら。

 じとり、背中に汗が滲む。
 声を堪えてひくつく喉が、ひどく渇く。

 こつん。
 爪が携帯電話にぶつかり、硬い音が鳴った。

 びくりと肩が跳ねる。息を殺して人形を睨んだ。
 どうやら気付かれなかったらしく、人形は動かない。

 しかし安堵は出来ず、そのまま様子を窺った。
 俺も人形も、微動だにしない。
 大丈夫だ。大丈夫。やはり聞かれていない。

634 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:20:27 ID:O85Atftc0

 ──そのとき、人形が足を前方へ動かした。
 ずるり。足音。

(;,゚Д゚)「……!!」

 今だ。
 体を思いきり捻り、携帯電話へ腕を伸ばす。
 手のひらが携帯電話に触れ、


(;,゚Д゚)「──あっ!!」


 ぐいと押し出す形となって、柵の隙間から落ちていってしまった。

 声が出る。口元からタオルが虚しく落ちる。

 かしゃん、携帯電話が階下で悲鳴をあげた。

635 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:21:45 ID:O85Atftc0

 俺は呆然と固まった。
 頭が真っ白になる。

 今。声を。

 恐る恐る、階下へ目を向ける。



 人形が、こちらを見上げていた。



 直接描き込まれた不気味な顔は、表情など変わる筈がないのに、実際変わっていないのに、
 笑っているように見えた。

636 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:22:26 ID:O85Atftc0

 ずる、ずる。
 人形が近付いてくる。
 右手でハサミを強く握り込んだまま。



 そうして人形の左手が、梯子を掴んだ。



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637 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/17(月) 01:23:09 ID:O85Atftc0

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使ったお題
・土倉の中の人形

支援イラスト

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