病魔 のようです

423 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:17:55 ID:bm.wsASw0

  .,、
 (i,)
  |_|

424 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:19:00 ID:bm.wsASw0


カシャッ カシャッ


【◎】(´<_` ) カシャッ カシャッ

( ´_ゝ`)「……」

【◎】(´<_` ) カシャッ

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)「弟者」

【◎】(´<_` )

(´<_` )「うん?」

( ´_ゝ`)「弟者はどうしてそんなに沢山、俺の写真を撮るんだ?」

(´<_` )「……どうしてって」

( ´_ゝ`)「俺がいなくなっても寂しくないようにか?」

(´<_` )「いや……うん。それもあるけど」

(´<_` )「ただ、残しておきたいから。兄者の写真」

425 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:20:22 ID:bm.wsASw0
( ´_ゝ`)

(  ´_ゝ)「俺が死んだら、その写真は全部燃やしてくれよ」

(´<_` )「な。そんな。そんなことできるわけない」

(  ´_ゝ)「写真の中だけで生き続けるなんて嫌だ」

(´<_` )「……」

カシャッ
   _,
(  ´_ゝ)「おいなんで今撮った」

(´<_` )「いや、その顔良いなあと思ったから……」
   _,
(  -_ゝ)「……今、撮る時じゃない。馬鹿」

(´<_` )「ごめん兄者、つい」

426 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:21:08 ID:bm.wsASw0
   _,
(  -_ゝ)「……」

(´<_` )(あ、この顔も良い)

(´<_` )(でも流石に怒られるかな)

(´<_` )「……撮っていいか?兄者」
   _,
(  -_ゝ)「……」
   _,
(  -_ゝ)「好きにしたら」

カシャッ カシャッ

お言葉に甘えて連写させてもらう。
兄者は優しいから、俺の頼みは大抵許してくれる。

427 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:22:06 ID:bm.wsASw0

(  -_ゝ)「……」

(´<_` )「……」

(´<_` )(寝たのか?)

(´<_` )(寝顔良いな、寝顔良い)

(´<_` )(痩せたな、兄者)

(´<_` )(先月より頬がこけた)

(´<_` )(もっと撮りたい、もっと)

(´<_` )(もう時間が無い。もっと、もっと、もっと撮りたい)

428 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:22:47 ID:bm.wsASw0


兄者は、カメラ狂いの弟に対し呆れたような顔はするものの
弟者に向かって、「撮るな」とは一言も言わなかった。


会話をするように、息をするように、弟者はひたすら病室で兄者を撮る。


気がすすまない様子で、味気無い病院食をもそもそと食している時も
遠くから見舞いに来てくれた親友と会話に花咲かせ、心から嬉しそうにしている時も
咳が止まらなくなり遂には血を吐いて、ベッドの上で身を折り苦しんでいる時も

ナースコールで駆けつけた看護婦にきつく咎められ注意を受けても、弟者は兄者を撮り続けた。

429 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:23:30 ID:bm.wsASw0
ひとつき経ち、ふたつき経ち、季節が変わって、弟者のカメラには
兄者が目を瞑り、静かに横たわっているだけの写真が増えていった。

何かに憑りつかれたかのように、何十枚何百枚と兄の写真を撮り続ける彼の姿は
兄弟愛やカメラ好きといったものを疾うに通り越して、周囲からは次第に異様な目で見られ

身体に障るからと、医者に注意されても、家族に止められても、弟者は愛用の一眼レフを持ち歩き
毎日欠かさず病室を訪れてはベッドの傍に腰かけて、夢中でシャッターを切り続ける。


そうして現像した写真を大事に鞄に仕舞い、持ち歩いて
丹念に一枚一枚眺めては、良い出来だと1人頷くのだった。

430 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:24:35 ID:bm.wsASw0
病床に伏せ、すっかり痩せ細った兄者は次第にうわ言を呟くようになった。

(  _ゝ)「おとじゃ、おとじゃ」

哀れを請うように弱々しく、傍に控える弟の名を呼ぶ兄の声。
弟者はチラとレンズから視線を外して、先程眠りについた筈の兄者の顔を見た。

(  _ゝ)「しゃしんやかないでくれよ。やかないでくれよ」

(´<_` )「わかってるよ。兄者」

いつも夢現に魘されながら、自分にそう懇願する兄に対し
こんなに良い写真を、焼いて捨てられるわけが無いと
つくづくそう思って弟者は頷いた。

431 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:25:21 ID:bm.wsASw0
なのに兄者は、意識がかろうじてはっきりしている時には
決まって、自分が死んだらその写真は一枚も残さず焼けと言う。

家族にも、他の誰にも見せるな。全部焼いて、お前もちゃんと見てもらうんだぞと強く言う。

(; _ゝ)「焼くんだぞ。約束だ。お願いだから。な?弟者……」

昔からこの兄は良心的で、どちらかと言えば実直な人間だと思っていたのだが
存外天邪鬼だったのだろうか。

病気で弱って、夜毎ベッドで本音を吐露してしまっていることは黙っておいた。

(´<_` )「わかってるよ兄者」

苦しそうに顔を歪め、痛切に自分に訴えかけてくる病み煩いの兄を見て
弟者はその言葉にも うんうんと、至極まっとうに素直な弟の顔をして頷くのだが
どうしても、自分にそんな勿体無い真似ができるとは思えなかった。思わなかったのだ。

それに、本当は焼いてほしくなんて無い癖に。弟者は心の内で一人密かに笑った。

432 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:26:07 ID:bm.wsASw0

(  _ゝ)「おとじゃぁ、おとじゃあぁ」

痩せ細った青白い手をゆらゆら動かして、今日も寝たきりの兄が手招きをする。

(  _ゝ)「しゃしん、やかないでくれよ。やいたりなんて、しないよな?
      な?なぁ?おとじゃ。おとじゃあぁ」

(´<_` )「もちろんだよ兄者」

そう返事すると、兄は嬉しそうにニタニタと笑うのだった。


笑っている、その顔も、良いな。その顔も、良い。
弟者はシャッターを切り続けた。



カシャッ 
        カシャッ カシャッ 
                カシャッ 

                     カ
                      シャッ


                カ
                  シャ
                    ッ……


.

433 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:27:00 ID:bm.wsASw0




仄暗い霊安室に粛然と寝かされた兄者の顔には、白い布が被せられていた。


彼の両親や、姉や、幼い妹達が
冷たくなった遺体に縋り、手を握って涙を流す。

l从;Д;ノ!リ人「おっきい兄者……っおっきい兄者ぁっ」

∬;_ゝ;)「……っ」


死に逝くにはあまりに若すぎた。儚すぎた。
もっと沢山、したいことも叶えたい夢もあったろうに。

誰もが皆、辛い闘病の末若くして亡くなった長男のことを想って泣いた。

もう動かない彼を囲い、深い悲しみが部屋を覆う。

434 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:28:00 ID:bm.wsASw0



                     カ
                       シャッ



悲嘆に暮れる皆の後ろから、この場にそぐわない、やけに大きく聞こえる機械音が響いた。

カメラのシャッター音だ。

両親は、姉妹は、涙で濡らした顔で自分達の背後を振り向く。

弟者が愛用の一眼レフを、横たわる兄の遺体に向けて構えていた。
呆然とする家族の視線も意に介さず、いつものように平然とシャッターを切る。

カシャッ。また一枚。もう一枚。

無言で、あまりのことに言葉を無くす姉と妹の間を、押しのけるようにして通り抜け
カメラをぐいと近づけて、白い布で覆われた兄者の顔をより近距離で撮り始めた。

(´<_` )「良いな。その顔も良いな。その顔も……」


    カシャッ 
        カシャッ カシャッ 
                   カ
                     シャッ

435 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:29:26 ID:bm.wsASw0

幼い妹がわっと泣き出した。

姉も手で顔を覆い、声をあげて泣き崩れる。

立ち尽くす母親の隣で、普段温厚な父親がついに声を荒らげた。

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「いい加減にしろ!やめないか!!」

怒鳴られても、まるでそれが聞こえていないかのように
独りブツブツと呟きながら、弟者はカメラを構え撮影し続ける。

カッとなった父親はカメラを取り上げようとして
とり憑かれたように、夢中で亡き兄を撮り続ける息子に掴みかかった。

揉み合いになっても、弟者はどうしてもカメラを手放そうとしない。

他の家族が固唾を飲んでその悶着を見守る中
弟者が肩にかけていた鞄がドサリと床に放り投げ出された。

留め具が外れ、ざぁっと溢れ出る大量の何か。
彼が今までそのカメラで撮った、何十枚もの写真だった。


鞄から零れ出る、写真、写真、写真。

それを見て家族は悲鳴をあげた。

436 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:30:18 ID:bm.wsASw0




            そこに写っていたのは兄者ではなかった。




―――否、どの写真も、どれも兄者を写している。


それは分かるのだが………顔、が。


写真の中の彼の顔は、どれも
首から上の部分だけが奇妙に歪み、赤黒く変色していた。

顔一面に纏いつくノイズのような、靄のようなものが
優しかった彼の面影をぼかし、完全に塗り潰してしまっている。


兄者じゃない。

なんだこれは。

父は唖然として言葉を失った。

不明瞭で、不愉快で、まるでグロテスクに潰れたトマトのようにも見える。
今までずっと、弟者は“これ”を一心不乱に撮り続けていたというのか?

437 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:31:29 ID:bm.wsASw0

得体の知れない気味悪いそれは、だが確かに”顔”であった。

ボツボツと、まるで無数の黒虫かなにかが密集しているようにも見える黒い部分が
丁度、頭蓋の落ち窪んだ穴のように、そのおぞましい塊に辛うじて目鼻口を形作っていて
嫌でもそれがナニカの”顔”なのだと認識させられてしまう。

それが、歪に笑っているかのような、または泣いているかのような
ゾッとする表情を浮かべて、不格好な面のように兄の顔を覆っている。

それはまるで、彼の体を日に日に蝕み食らおうとする悪鬼の形相のようにも思えた。


鬼か。悪霊か。


―――なんにせよまともなモノでは無い。


思わず目を背けたくなる おぞましい写真。

唖然とし、目を覆い、泣き叫ぶ家族の後方から小さな声がした。

438 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:33:22 ID:bm.wsASw0





            「 しゃしん やかないでくれよ ォ 」





嗄れた老人か、小さな子供が低く唸るかのような
女とも男ともつかないその耳障りな声は


寝台の上、兄の顔を覆う布の その下から聞こえたようだった。

439 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/15(土) 22:35:11 ID:bm.wsASw0

病魔 のようです


 (
   )
  i  フッ
  |_|

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