40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:19:29 ID:UJSWCE.cO
五十一本目


  .,、
 (i,)
  |_|


('A`)夢を見るようです

41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:20:28 ID:UJSWCE.cO

 夢を見る。

 夢の中で私は死刑囚として扱われる。


('A`)「ごめんなさい。ごめんなさい」

 何やら相当悪いことを仕出かしたらしく、看守らしき男から延々と罵られるのだ。
 罵倒の内容は、初め、上手く聞き取れない。
 しかし時が経つにつれ、男の声がはっきりしてくる。

 やれ料理をこぼしただの、やれ生意気な目付きをしただの、やれ頭が悪いだの──
 いざ聞いてみれば、随分と瑣末な理由で非難されているものだ。

 しかし男は合間合間に、

「──だッからお前は駄目なんだ、だからクズなんだ、生きてる価値のない──」

 という意味合いのことを繰り返すので、私の方も段々、
 アアそうなのだな、私が全て悪い、私が愚鈍で生意気だから迷惑をかけたのだな、
 という心持ちになってきて堪らなくなる。

42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:21:33 ID:UJSWCE.cO

('A`)「ごめんなさい。ごめんなさい」

 私が力なく謝ると、男は「喋るな」と言って頬を打つ。

 ひとしきり怒鳴り散らした男はそれで満足することもなく、
 寧ろますます腹を立てた様子で私の首根っこを掴むと檻から引きずり出し、
 とうとう「執行」の準備を始めるのである。

「死ね、死んじまえ、死ね、死ね」

 夢の中の死刑とは首吊りや電気椅子の類ではないらしい。
 具体的にどのような刑が行われているかはよく分からない。

 熱いとか、痛いとか、苦しいとか、そういう感覚だけは理解出来るのだが、
 どこをどうされているかという点がいまいち曖昧ではっきりしない。
 ただひたすらに熱くて痛くて苦しい。

('A`)「ごめんなさい。ごめんなさい」

 私はとにかく謝り続ける。

 しばらくしてようやく死んだのか、私の意識は落ちていく。



*****

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:22:32 ID:UJSWCE.cO

 夢を見る。

 夢の中で私は凍えている。


('A`)「アア、寒い、寒い」

 薄着で氷の地面に座り込み、体を丸め、がたがた震えるのだ。
 四方八方、無闇矢鱈に冷たくて、体の外から内からどんどん冷えていく。

 凍りついた地はどこまでも広がっており、私以外に誰もいない。

 いわゆる南極大陸というところか。
 もちろん本物の南極はこんなものでは済まないのだろうが、
 私の貧相な頭が「極寒」を分かりやすく風景として表現しようとすると、こういうことになるのかもしれない。

 薄暗く、ひどく寂しい。

 ペンギンかアザラシか、なにがしかの生き物でもいるのか、声が聞こえてくる。
 遠く、どこかくぐもった声なので判然としない。

44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:24:47 ID:UJSWCE.cO

 寒い。寒い。
 私はますます身を縮こまらせる。
 一向に楽にならない。

 じっとしているより、どこか移動した方がいいのではないか。
 そう思い至って立ち上がろうとするも、何かに邪魔されて動けない。
 狭苦しい箱の中に閉じ込められているかのよう。

 仕方なく私は一層小さくなる。
 息苦しさすら覚えるほどだ。

('A`)「アア──寒い」

 やがて私の体も頭も動かなくなっていく。
 死んでいるのか眠っているのか、その差は非常に曖昧である。



*****

45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:26:08 ID:UJSWCE.cO

 夢を見る。

 夢の中で私は喋れない。


(' `)

 喋りたくとも喋るための口がないのだ。
 唸ることは出来るのだが。それは喋ることが出来るということにはならない。

 唸りながら、何もない空間を歩く。歩き続ける。

ξ゚听)ξ

 しばし行くと、立ち尽くす女性を発見した。
 妙齢の女性だ。
 出席簿のようなものを持っているので、教師かもしれぬ。

 女性は私を見ると手を伸ばした。

ξ゚听)ξ「×××──」

 呼び止めるような声音だったが、聞き取れなかった。
 何やら、とても心配そうな顔をしている。

 答えようにも話せないので、私は彼女を無視して歩を進める。
 女性は数歩ほど追い掛けてきて、結局、諦めて立ち止まっていた。

46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:27:11 ID:UJSWCE.cO

 歩く。進む。
 振り返っても既に女性は見えない。
 私ひとりきり。


 ──かと思ったが、ふと横に目をやると、少年が私と並んで歩いていた。

 私が足を止めれば少年も足を止める。
 彼の方へ体ごと向き直れば、彼もまた私へ向き直った。

( ^^)

 少年も口がなかった。

 喋れない者同士が向かい合ったところで、どうしようもない。
 私も彼も、じっと互いを見つめるだけだ。

 ──学生時代にしょっちゅう遊んだ、山崎という男に似ている。
 だが私が彼と出会ったのは大学に入ってからなので、こんな、小学生ほどの彼など見たことがない。
 なぜ大学卒業以降、一度も会っていないような男の幼い姿を夢に見るのか。

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:29:30 ID:UJSWCE.cO

( ^^)

 少年は、山崎は笑っている。
 口こそ無いが、彼は、こいつは、いつも笑ったような目をしていた。

 それがやけに腹立たしい。
 学生の頃もそうだった。

 人を小馬鹿にした目。
 この目が嫌いだ。目が。
 目付きが生意気だ。

 頭は悪いし、視野が狭いのかよく失敗を仕出かす。
 そのくせ反省の色の見えない、にやついた目を隠そうともしない。

 何もかもが駄目な男だった。あんなものクズだ。生きる価値もないような。

 なのに。
 なのに。
 なのに何故、あいつばかり。いつも。いつも。就職先や。対人関係や。女に。恵まれて。あいつばかり。

48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:30:47 ID:UJSWCE.cO

 急に、彼を殴り付けたくなった。
 にやつく目を濁らせたくなった。

 手を伸ばす。
 彼も同時に手を伸ばした。

 こつん。私と彼の手が、寸分違わぬ位置でぶつかった。
 2人の間に、硬いガラスのようなものがある。
 私はもう片方の手を挙げた。彼も同じようにした。

 これは。アア。何だ。

 鏡だ。


 ぶわり、脳裏に様々な情景が浮かぶ。記憶が蘇る。

 彼は山崎ではない。
 彼は。


「ホライゾン」


 名前を呼ぶ。
 とはいっても相変わらず喋れなかったので、呼んだ気になっただけだが。



*****

49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:32:10 ID:UJSWCE.cO


 私は目を覚ます。

 現実の私は、敢えて言うなら、死刑囚に近い立場にいる。


('A`)「……」

 身を起こし、ぼんやりと視線を彷徨わせる。

( ^^)

 狭い部屋の隅に少年が座っていた。
 山崎。いや、山崎によく似た子供。
 ホライゾン。

 真っ青な顔をしたホライゾンは、虚ろに私を見つめている。

 にやついた目ではなく、濁りきった目。

 あの目で見つめられる限り、私はずっと、何日も、何年も、何十年も、毎日同じ夢を見るのだろう。

50 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:33:28 ID:UJSWCE.cO





 アア。でも。でもね。ホライゾン。お前も悪いんだよ。
 私だって、これまで普通に暮らしていたんだよ。
 平凡なりに、素敵な女性と結婚できて幸せだったんだよ。
 彼女のことも、彼女の連れ子であるお前も、ちゃんと幸せにしようと思っていたんだよ。
 それなのにどうして。よりによって。彼女もお前も。山崎の。
 お前も悪いんだよ。ホライゾン。ホライゾン。
 お前が悪いんだよ。
 殴ったことも煙草を押しつけたことも冷蔵庫に閉じ込めたこともみんなガッコのセンセに話してしまうから。
 そんなことするような口は取らなきゃいけないじゃないか。
 お前が死んだのは、お前にだって、悪いところがあったからだよ。
 ホライゾン。
 なあ。そうだろう。なあ。
 なあ。
 なあ。







51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/17(日) 23:34:01 ID:UJSWCE.cO

  (
   )
  i  フッ
  |_|


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