112 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:34:50 ID:CtMjQLN60

  .,、
 (i,)
  |_|



望まれずクリーチャーのようです

113 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:35:38 ID:CtMjQLN60


子宮の暗闇を漂っていた頃から、
私は記憶がある。

叩かれたお腹を守ってくれた母さんには
心から感謝しています。


『無事に産まれてほしいの ーー 』
その言葉を糧に、
たくさんたくさん栄養をもらいました。
貴方に喜んで貰いたい一心で。


忘れもしない。
分娩室で私が産まれた時の事。

私を守り続けた子宮の水が外に流れ出て、
いよいよ私が闇の裂け目から這い出したとき、
溢れる光に拒絶されながら
母さんの名前を呼んだんだよ。

手足を震わせて、
激しく呼んだんだよ。



ーー でも貴方には、
醜い素肌を隠しもせずに泣き叫ぶ
ただの化け物に見えたのかな…?


.

114 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:36:56 ID:CtMjQLN60

小学校、ホームルームの時間…


/ ,' 3 「来週からは冬休みじゃ。
さっき配った宿題をやりながら、
一週間と少し。
健康無事に過ごしとるようにな」

ζ(゚ー゚*ζ 「せんせー、
あたしのプリントがたりません〜」

/ ,' 3 「おお、そうか。
前の席の ーー くるうさん、
お主のところにはあるかの?」


川 ゚ 々゚) 「…あ"、あ"るます」

/ ,' 3 「じゃあそこで足りなくなったのか…
ここにもあるからデレさん取りに来ておくれ」


 _
ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっとー!
無くなったならちゃんとせんせーに言ってよ!」

川 ゚ 々゚) 「……」

('、`*川 「デレよしなよ。
その子に言ってもどうせわかんないよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「こいつ…いつもいつも、
うすきみわるーい」


('A`)「…」

( ^ω^)「さわっちゃだめだお!
ばっちいくるう菌がうつるお!」

ζ(゚ー゚*ζ 「あはは! それもそっかー」


/ ,' 3 「これ、止しなさい!
くるうさん、もし足りなくなったら
一言先生に言ってくれて良いからのぅ」

.

115 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:37:50 ID:CtMjQLN60

私は昔から身体が弱かったのです。

風邪をひいたことはありません。
皮膚が…空気に触れるだけで痛かった。
だから毎朝包帯を腕や脚に巻いて、
ちゃんと毎日学校に行ったよ。


冬休みの間も外に出ないで、
家のなかで宿題をやったんだよ。

数日で全部終わって、母さんに報告したね。
…誉めてはもらえなかったけど。
それでも私は良かったのです。


川 ゚ 々゚) 「かあ"さん、明日からまた
学校にいくよ"」


J( 'ー`)し


川 ゚ 々゚) 「あとで、お"ふとん"カバー替えるね」


かあさんは喋れません。
私が産まれた時からずっと。


川 ゚ 々゚) 「い"ってくる"ね」



J( 'ー`)し

.

116 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:39:11 ID:CtMjQLN60

/ ,' 3 「ミセリさんはケアレスミスが多いのう。
ブーンくんは…ああ、
落書きし過ぎじゃって…」


(-_-) 「おはようございます、荒巻先生。
いやあ寒い…
さっそく休みの宿題の採点ですか」

/ ,' 3 「ヒッキー先生、お久し振りです。
そうなんです、
早めにやればあの子達の課題も分かりますから」


(-_-) 「…くるうさん、って、
クラスにいらっしゃいますよね。
あの子は勉強の方はどんな感じなんですか?」

/ ,' 3 「? くるうさんが、なにか? 」

(-_-) 「あ、いえいえ…
大したことではありません。
以前、あなたの代わりに
授業した時から気になってまして」

/ ,' 3 「まあ少し変わったところもありますが、
概ね家での環境問題に ーー
あ、悪い意味でなく、
母親がご病気ですが頑張ってますよ」



/ ,' 3 「宿題も、テストも、
いつもすべて満点です。
あの子だけが唯一」

.

117 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:40:29 ID:CtMjQLN60

数年後。 大学、休み時間…



( ・∀・) 「ドクオ君、ちょっといいかな?」

('A`)「センパイ…? ええ」


( ・∀・) 「キミ、くるう君と同じ小中学校だったんだって?」

('A`)「ほとんど話したことはありませんが…
こうして美婦大学で医学専攻できたのも、
俺とアイツだけですね」

( ・∀・) 「今度さぁ
サークル別の合コンするんだけど、
個人的に興味あるからついでに
声かけておいてくれないかな?」

('A`)「そんなんアリなんですか?
喋ってくれるかなあ」



('A`)「という、わけなんだけど…」

川 ゚ 々゚) 「……い"かない"」

('A`)「……だよな」

川 ゚ 々゚) 「ごめん"ね」

('A`)「えっ ーー あ、いや!
こっちこそゴメン…センパイには…
俺から言っておくから」

川 ゚ 々゚) 「ドクオ君は楽しん"でおい"でよ」



('A`)「…アイツ、本当はまともなんじゃないかな」


('A`)「昔…冬休みの終わりに見たアイツは
きっと、もういないんだ」

.

118 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:41:41 ID:CtMjQLN60

合コンに誘われるなんて思ってなくて、
急だったからつい断ったよ。

これで私も、少しは認められたのかな?
周りの人と《同じ》になれたと、
思っていいのかな?


川 ゚ 々゚) 「ねえ、母さん"」


J( 'ー`)し


母さんの声、聴きたいよ。
笑った顔、見たいよ。


川 ゚ 々゚) 「大学が終わったら"
わたしお医者さんにな"るよ」


いまは無表情だけど、
私にはずっと愛しい母だから。

治してあげるからね。



ーー どうか、まだ狂わないで。

119 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:43:56 ID:CtMjQLN60


大学病院、病棟…



(´・ω・`) 「ねぇくるうさん。
その包帯は怪我でもしてるの?」


川 ゚ 々゚) 「……」

(´・ω・`) 「眼科医が眼鏡をするように、
内科医が咳をするように、
医者が怪我をしてるようだと患者さんが不安になるんだ」

(´・ω・`) 「…外さないの?」

川 ゚ 々゚) 「…外したら"、余計に恐がら"せてしまい"ますから」

(´・ω・`) 「……そっか。
いまのは立場上、
どうしても言わなくてはならなかったんだ。
許してもらおうとは思ってない」

(´・ω・`) 「ただ、パブリックイメージの
問題として覚えておいてください」

川 ゚ 々゚) 「すみま"せん"」




('A`)「アイツは優秀だけど、
昔から包帯してたから…
たぶん、先天的な病気なのかもしれません」

(´・ω・`) 「わかった、ありがとう。
経歴から君をわざわざ呼び出してすまなかった」



(´・ω・`) 「遺伝子に妙な興味を示してる事…
なにか関係があるのかな?」

.

120 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:45:09 ID:CtMjQLN60

病院に勤めはじめてから、
私ははじめて人とお付き合いしてる。


彼が望む愛情表現で、
彼は可笑しいほど笑顔になる。
私も満たされてる。

たまには喧嘩もしてみる。
彼は涙したりもする。
そんなに心を焦がしてまで、
こんな私に合わせてくれてゴメンね。


なにもかも予定されてるけど。



川 ゚ 々゚) 「母さん"、人は4つの"記号で出来てるん"だって」


J( 'ー`)し


川 ゚ 々゚) 「C.シトシン。
A.アデニン。
T.チミン。
G.グアニン。
私達は、その"記号の"並びで、
今の私達なん"だって」


川 ゚ 々゚) 「ねえ、もう少しだけ…」




.

121 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:46:23 ID:CtMjQLN60

街中、某所…


( ・∀・) 「よードクオ、久しぶり」

('A`)「センパ ーー …モララーさん、どうも。
いまなにやってるんですか?」

( ・∀・) 「探偵。
浮気調査ばっかだけど」

( ・∀・) 「同じ大学でも、
随分道を違えたなぁハハハッ」

('A`)「いえ、そんな…」


( ・∀・) 「くるうさんは? 元気?」

('A`)「元気というか…あの」

( ・∀・) 「……まさか付き合ってるのか?
マジかよ」


( ・∀・) 「最近話題になってる猟奇殺人、
このあたりだろ?
気を付けとけな」

('A`)「そうですね。
くるうも俺が送り迎えして ーー 」

( ・∀・) 「違う、
気を付けるのはそのくるうさんだよ」



('A`)「……」

.

122 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:47:30 ID:CtMjQLN60


剥がれ落ちた理性という脱け殻は、
いま、ここに、置いていきます。


J( 'ー`)し


川 ゚ 々゚) 「い"ってきま"す」


もうすぐ寒くなるけど、
私は風邪をひきません。



街を歩けば声をかけてくる人が居ます。
みんなと《同じ》になった私に。


( ^ω^)「あれっ? ひょっとしてくるうかお?」

川 ゚ 々゚) 「…」

( ^ω^)「ブーンだお!
久しぶりだおね、いまなにしてんの?」


いまは思い出せないから、
せめて心に聞かせてほしい。

さらけ出して。 母さんに。




( ゜ω゜)「やめるお! やめるんだお!
昔のことなら謝るお! だから ーー 」


川 ゚ 々゚) 「ごめん"ね」


(;゜ω゜)「ングッ ーー 」


4つのアルファベットが、
ほら、組み替わるだけ。

123 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:49:27 ID:CtMjQLN60

某所、祭場…



ζ(゚ー゚*ζ 「同窓会が、級友のお葬式だなんて…」

('、`*川 「いい奴だったのに、
あんな事件に巻き込まれるなんて…」

('A`)「…」



( ・∀・) 『なんで俺が彼女に
興味があったのか、今なら分かるよ。
普通じゃないんだ、きっと』



ζ(゚ー゚*ζ 「でも、クラスメイトも全員来れたし、
ブーン君も喜んでくれるかな?」

('、`*川 「そうね、きっとそうよ」


('A`)「…くるうの事は、
居なかったことになってるのかよ……」




( ・∀・) 『彼女はずっと、
異常だったんじゃないか?
得体が知れないから、掴みきれない。
…それを世間では "人外" とか、
きっと "怪物" って呼んで、
近寄らないようにするんだ』


('A`)『じゃあ、くるうと恋人の俺も、
"怪物" とでもいうんですか?』

( ・∀・) 『たぶん。
怖いもの見たさ以上に、
当時彼女に近付こうとした俺もな』

.

124 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:51:22 ID:CtMjQLN60


私のやったことは事件になるんだって。
どうして?
母さんの声が聴きたい事が?



*( )*(  ω )从 ー 从 (  _ )


ねえ、観て!
誰もが同じ笑顔で、
私に手を振ってくれる。

ここはもう、あれほど願った
不公平のないユートピア。


包帯を取ってもなにも言われない。
いくら声を出してもなにも言われない。



川 ゚ 々゚) 「わたし、くるう!
あなた達の名前は?」


.

125 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:53:31 ID:CtMjQLN60


(´・ω・`) 「彼女は異常だよ」

('A`)「…貴方まで、そんなこと言うのですか?」

(´・ω・`) 「どこの世界にあの歳で
あれほどの知識を得る人間がいるんだい?
医学、遺伝子学、心理学、数学、
…他にもあげれば数えきれない。
経歴を知れば知るほど、
くるうさんの発達に汗が止まらなくなる」


(´・ω・`) 「なぜ誰も、なにも言わなかった?
なにも思わなかった?
僕もだ、この際まで知ろうとしなかった」

('A`)「…」

(´・ω・`) 「そして、
それを知っていたはずの君もだ。
昔からずっと一緒で、
誰よりも一番近くにいたのに」

('A`)「…」

(´・ω・`) 「……警察に届けよう。
もし証拠すらなければいいんだ、
僕は君にも謝るし、彼女にも謝る」



ああ…




川 ゚ 々゚) 「これ"って…」

('A`)「もう、しょぼん先生だった物でしかないよ」

.

126 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:55:50 ID:CtMjQLN60


いつからか、
予想外の展開を待っていたんだ。
何もかも、与えるから。

君は俺の、
理想をそのまま実現する。

艶かしく、麗しく。



('A`)



だから、心焦がす涙も必要だった。

何もかも予定されてるけど。

128 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:58:26 ID:CtMjQLN60


母さん、ねえ、母さん。
どうして金切り声をあげたの?

どうして、そのまま死んでしまうの?
お願い!
目を覚まして!



川 ゚ 々゚) 「かあ"さん"!
かあ"さん"!!」



J( Д )し



川 ゚ 々゚) 「かあ"さーん"!
おかあ"さーーん"!!」




こうして、
悲しすぎるほど
痛みのない終わりがきたのです。


.

130 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 18:59:59 ID:CtMjQLN60


…何が俺をこうさせるのだろう?
地獄へまた近付いていく。


川 ゚ 々゚) 「…」

('A`)「…そうか」


君を見つけた季節は
真っ白な雪に包まれてた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

川 ゚ 々゚) (∪ 。ωφ ) ('A` )

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


呆然としたくるうに寄り添って、
かじかんだ身体を暖めあった。


でもそれは、
いつか来る、別れの影で。

.

131 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:01:42 ID:CtMjQLN60

ねえ!
雪っていうんだって。

憶えてるよ、
はじめて彼と話した日。


はじめて、彼に見られた日。



川 ゚ 々゚)

ねえ、もっと降り積もって。
この眼を潰して
身動きもとれないくらいに。


母さんのあの顔が思い出せなくなるまで。



川 "∩々゚) グリグリ


('A`)「くるう…」




川 "∩々∩) ガリガリ

.

132 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:03:17 ID:CtMjQLN60

くるうの身体を拘束していた包帯は解かれ
その剥き出しの素肌は氷結に身を焦がす。


彼女に増えた傷跡を眺めながら…
堕ちた自分に、
酔いしれてるだけかもしれない。


('A`)



(; A`)



(うA`) グシッ



お互いの孤独を慰めあってきたよな…?

上辺だけかもしれないけど。


恋人になって、でも、

   ーー 永遠は諦めてたとしても。



('A`)「…くるう」


.

133 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:05:04 ID:CtMjQLN60

ドクオはくるうの首に手をかけた。



『まだ暖かい。』





くるうもドクオの首に手をかけた。



『ほん"とだ。』




まだ…暖かい。

134 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:06:08 ID:CtMjQLN60

もっと、降り積もって。

もっと、憎みきって。



この存在をせめて、
君の中で生きていさせて。



川 々 ) 「 ーー 」

( A )「 ーー 」



血の通わない怪物は
ここでただ、叫び続けるだけ。

135 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:07:29 ID:CtMjQLN60


     抉りとられた想い出は、


いつか、

粉雪のように消えていく ーー 。


.

136 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:08:15 ID:CtMjQLN60



.

137 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:11:45 ID:CtMjQLN60

数年後。 都内、某所…



(゚、゚トソン 「ドクオ先生、
回診のお時間です」

('A`)「…ああ」

(゚、゚トソン 「順番はいつものルートで、
…あ、昨夜運ばれた患者さんが
いらっしゃるみたいです」


(゚、゚トソン 「えーと…305号室、4番、
モララーさんという方が入りました」


聞きながら回診の準備をする。


(゚、゚トソン 「あっあの!」

('A`)「?」


(゚、゚トソン 「今日のお仕事終わったら、
少しだけ付き合って頂きたいんです」

(゚、゚トソン 「ほんとに、少しでいいので!」


('A`)「…」



首に巻いた包帯は

ジクジクと、

あの頃の君を思い出させる。


.

138 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:13:01 ID:CtMjQLN60


…くるう。

地獄へ堕ちていくしかない、
俺の姿をどうか見つめていて。




ナースに小さく、俺は頷いた。




「い"ってくる"よ」


.

139 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/08/08(金) 19:13:46 ID:CtMjQLN60

望まれずクリーチャーのようです

   (了)



  (
   )
  i  フッ
  |_|



参考 引用文献:
村田信也【-CREATURES-】より
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