80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:54:36 ID:x/Rc6RhY0
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五十六本目 夏があついのは、かぜのせいのようです

81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:56:02 ID:x/Rc6RhY0

ほんのり火照る全身が心地いい。
当てもなくフラフラ歩く深夜は、どこか夢の中にいるように不確かだった。

ぐわんぐわん揺れながら進むシューちゃんが言う。

夏が暑いのは、風邪をひいているからなんだよ。

ζ(゚ー゚*ζ「えっ?」

lw´‐ _‐ノv「薬屋さん大儲かり」

ζ(゚ー゚*ζ「えっと、地球が風邪をひいてるんだ」

lw´‐ _‐ノv「ううん、私たちだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうして?」

lw´‐ _‐ノv「体温も気持ちも、自分だけにしか分からない」

lw´‐ _‐ノv「から」

それもそうだ、と彼女の妙な論理に納得する。
既に私は、少し飲みすぎたことを自覚していた。

82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:56:43 ID:x/Rc6RhY0

ああ、薬剤師になりたいなぁ、とシューちゃんは呟いている。
私は夏と風邪の関係性を考えながら、彼女の隣を歩く。

再開発の進むこの辺りは、どこか冷たく寂しい感じだ。
建設中の建物ばかりで、人の気配がないからかもしれない。

lw´‐ _‐ノv「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

工事中の看板や、赤く点灯するカラーコーン。歩道はあちこち立ち入り禁止だ。
私たちはカラーコーンの誘導に従って、車道や舗装前の砂利道を進む。

lw´‐ _‐ノv「もしかすると」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

lw´‐ _‐ノv「もうだめかもしれない」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、ちょっと休もっか」

lw´‐ _‐ノv「……うん」

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:57:38 ID:x/Rc6RhY0

私たちは、知らないマンションの敷地の端に座った。
時折吹き抜ける生温い風が心地よい。

仕事帰りらしき通行人が時々、不審そうにこちらを眺めながら通り過ぎてゆく。
負けじと私も眺め返していると、そのことに気付いたシューちゃんが笑った。

lw´‐ _‐ノv「なにしてるの」

ζ(゚ー゚*ζ「別にー」

lw´‐ _‐ノv「ふうん」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん」

lw´‐ _‐ノv「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

lw´‐ _‐ノv「ところで見てください」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

lw´‐ _‐ノv「胸が透け始めた」

ζ(゚ー゚*ζ「……もう、帰るんだ」

lw´‐ _‐ノv「帰宅不可避……」

84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:58:31 ID:x/Rc6RhY0

久々にシューちゃんから連絡があったとき、彼女は何一つ隠し事をしなかった。
シューちゃんは、もう死んでいた。

もちろん私も、にわかにはそれを信じなかった。
けれど事故の事や詳細なあの世体験を聞いているうちに、私は青ざめる。

そもそも彼女は私の住所を知らないはずなのに、突然玄関に現れたのだ。
先ほどまでいた居酒屋でそのことを思い出し、私はますます青ざめた。

lw´‐ _‐ノv「そろそろお別れみたい、ありがとね」

ζ(゚ー゚*ζ「それは私のせりふだよ」

lw´‐ _‐ノv「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「シューちゃんが最後に会いに来たのが私で嬉しかった」

lw´‐ _‐ノv「いろいろあったから」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

lw´‐ _‐ノv「……」

85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 03:59:33 ID:x/Rc6RhY0

私が彼女と連絡を取らなくなったのは、別に理由があったわけではなかった。
ただ何もかも面倒になり、誰とも話したくない時期があっただけだった。

けれど彼女は勘違いをしているのだろう。

最後に連絡を取ったとき、私たちはお互いにある事実を知った。
当時私が好きだった人と、シューちゃんは付き合っていた。

私は別に、そうならそうで構わなかった。
そのことを説明できないまま、私は人と連絡を絶った。

lw´‐ _‐ノv「じゃあ、また」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

lw´‐ _‐ノv「いつでも会いにきてね」

ζ(゚ー゚*ζ「ばーか」

lw´‐ _‐ノv「へへ」

ぐわんぐわん頭を揺らし、シューちゃんは消えてゆく。
頭の揺れに負けないくらい、何度も手を振っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「シューちゃん、私はね……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 04:00:33 ID:x/Rc6RhY0

マンションの敷地に一人残され、しばらく私は泣いていた。
吹き抜ける風を求め、建物の外階段を上がる。

言いたいことがたくさんあった。
そう気づいたときにはもう間に合わなくて、私たちはわんわん泣きながら生きている。

ζ(゚ー゚*ζ「あーあ」

ζ(゚ー゚*ζ「……風が気持ちいいなあ」

何階か上がった階段の途中で、町を見下ろす。
ポツポツと赤や白の光点が、静かな暗闇に掴まっている。

ここから少し体を乗り出せば、私は彼女とずっと一緒にいられる。
けれど私には出来なかった。

ζ(゚ー゚*ζ「……ごめんね」

ζ(゚ー゚*ζ「私からはまだ、会いには行けないよ……」

夏の私たちは皆、風邪をひいている。
私たちは病気だ。


終わり

87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/18(月) 04:01:16 ID:x/Rc6RhY0

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